第91話 最高最善の道
「今俺達には確実にミクさんを助ける方法があります。それは、彼女の魔力の核を破壊することです。魔力が無くなればサクリムは発動が不可能となって、乗っ取り自体も阻止できる可能性があります」
「っ──!? そうきたか……!」
「そんなことできるの?」
「確かにレクスは私達にしようとしていたからな。できるだろう」
「成程、その話なら私も知っています。命を奪う必要も無くなり、被害も発生しないというのなら異論はありません」
「それなら! 時間の心配も無くなって刻印自体も消せるよ! やったねレイン、これで10年前の真実に近づけるよ!」
「ああ! これで父の無念も晴らせる!」
希望に溢れ喜々とした表情。安堵し、肩の力が抜けて纏っていた覇気も薄らいでいく。
この情報はあまりにも都合がいいのだから。誰の命も失わず、城も壊れることがなく、この先ミクリアが乗っ取られることも無く、十年前の真実に一気に近づく。
「なら早速その方法を──」
鉄雄は言葉の続きを遮るように手を伸ばし、自分の言葉を繋げた。
「話を聞いて一つ思いついたことがあります。刻印だけを消すことができればミクさんは魔力を失わず全てのしがらみから解放されるってことですよね?」
(お主はいきなり何を言いだすのじゃ……?)
「まあ、それはそうだよね。中の人がそれをさせてくれないから無理なだけで……え?」
「できるのか? いや、今思いついたと言ったな? できるなら最初に言うはずだ! まさか君は?」
「この方法が最高最善のはずです。レクスもできると言ってません。でも、人を殺さずに魔力の核だけを破壊することができるなら、同じように魔術刻印だけを破壊することだってできるはずです。だから俺はこの方法を選びます」
核を破壊し、ミクリアの可能性を奪ってしまうが、確実に得られる彼女以外の全てがハッピーエンドの道。
たった今思いついた、成功の可能性すら分からない彼女を蝕む刻印を破壊し、全員がハッピーエンドの道。
「ははは! 実に面白い事を言う! 確かに解術士と呼ばれる刻印を剥がす者はいる。けれど、殆どが名ばかりの詐欺集団! 一部の天才が手間と時間と設備を揃えたとしても低級呪術しか剥がせない! ミクリアに施したのはそんな粗雑なものではない! 」
この言葉に嘘は無い。レインもソレイユもルビニアも既知としている。ソレイユが刻印を消すとしても一日二日の話ではない、下手すれば年単位の作業になる。けれども解けることには変わりないだろう。
「そんな真似はよすんだ! 奴に同意するのは癪だが事実だ! それに今、この場で、試すべきことでは無いはずだ! 確実に成功する道を選ぶことは間違いじゃない!」
「どんな大義名分があっても正義を盾にしても、誰かの将来を犠牲にしていい訳がない。自分達の都合が見え隠れする人助けほどカッコ悪いものはないですよ。本気で目の前の人を助けるなら最善を目指して何が悪いんですか?」
静かな怒り。鉄雄は彼女達の行動に苛立ちを覚えていた。
誰もミクリア自身の心配をしていない。自分達の都合の良い展開だけを求めている。その中にミクリアの無事は考慮されていない。どんなに崇高な目的があったとしても、この扱いは看過できなかった。目の前にいる彼女を見て、競売場で孤独に立っていた自分自身と重なった。
「カミノテツオ。やめておくんだ、限界が近いのだろう? 魔力吸収の霧を出しているだけでも負担が掛かっているのではないか? 十全と癒えぬ身体で無茶すれば折角手にした勝機を零しかねないぞ?」
「お前がそれ言うのか……」
だが図星。不確定な道か確実な道。二つに一つ、「できませんでしたから核を破壊します」と切り替えるだけの肉体的精神的余裕は無い。
「加えてここはあなたの腕を披露する場ではありませんよ? 王の居住する聖域で実験紛いの行為、無礼も甚だしいと思わないのですか?」
「おっしゃる通りで……けれど、その程度で命と将来を見捨てられる程俺はかしこくないので」
ミクリアの前で斧を片手に仁王立ち。言葉も態度も心が全てが真っ直ぐ彼女の魔術刻印を破壊することに向けられた。
「テツがやりたいって言ったことなら。本当にやりたいことなんだよね? だったらわたしはそれをできるようにサポートするだけだから! 全力全開でやっちゃって!」
「アンナちゃん!? 君は止める立場だろう!」
「テツがこれ以上ボロボロにならないか心配だけど。全部綺麗に解決できる方法があるなら、わたしも同じ方法を選ぶから。だったら止めるよりも押した方が絶対に上手くいく!」
鉄雄の身体を誰よりも心配しているのはアンナ。けれども、女性を見捨てて逃げることはできない。ましてや亡き者とするのは許されない。そして、鉄雄に魔力は「可能性」と教えたのはアンナ本人。未来を潰すような行為は選択できるわけなかった。
「流石は俺のご主人様だ。アンナが近くにいる時点で失敗する未来は見えないな」
「まっ! とーぜんだよね! わたしがいるんだから成功しかありえないって!」
主として隣に立ち並ぶ。失敗すれば主従共々自爆の餌食。
だが、そんな未来は二人の頭にはまったく描かれていなかった。
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