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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第89話 真実か平和 過去と未来

「さて、これからどうしようか? このままでは我は自爆魔術を使えないこの身を消すことができないではないか」

「ミクさんから出て行け! それはお前の我儘を叶える為の身体じゃない!」

「惨劇の斧の霊魂と入れ替わっている君がよく言えたものだ。君も本当は分かっているだろう? この入れ替わりは一方的な願いで叶えられる程簡単ではないと」

「それは……」


 まさに「どの口が言う」である。

 レクスの力を借りてアメノミカミと戦った。一日完全交換という対価を払い、レクスに戦ってもらった。この戦い以前より何度も力を借りた。この中で一番否定できる立場では無い。


(完全に論破されたのぉ……だが、こ奴の言う事は正しい。わらわとお主も互いの利益が合致して成せている。つまり──)


 だが、一番ミクリアに起きたであろう状況が理解できてしまう。


「ミクさんはお前に何かしら助けられた? 明確なメリットを対価にして……契約。そうか契約を結んだ! 離れていても確実に乗っ取れる強固な繋がりを結んだんだ!」

「っ──! 素晴らしい! 大正解だよ、我とミクリアは契約書を交わした。彼女に家族を養えるだけの知恵を与え、我はこの身体を何時でも乗っ取れる! ただし、彼女の家族には絶対に手が出せないがな」


 目を見開いて喜々とした感情が乗った声で正解を称える拍手と共に一つ答えた。


「ご高説感謝します──」


 頭上に一瞬の影が差す。声も呼び水となり視線が上へと向けられる。直後──

 ミクリアを囲うように鉄串が床に突き刺さり、全身にワイヤーが絡みつき糸が張る。そのワイヤーは鉄串と繋がっており縫い付けられた状況となる。


「えっ!? 何が起きた──?」


 ほんの一瞬、目を離した瞬間にミクリアは身動き一つ取れない捕らわれの身。

 その背後に音もなく忍び寄り半身を翻し、左手に握った鉄串を喉に突き刺そうとするメイド服の女性。流麗な動作で繰り出される一撃は誰の目にも明らかに命を砕くと理解させられた。


「っ!? やめろ──!!」


 ただ、それも彼女の手によって防がれ鉄串は宙を舞い階下の床に突き刺さった。


「……レイン・ローズ様、この妨害は看過できません。心苦しいですが今ここで彼女の命を摘まなければ王に被害が及びかねません」


 抜かれたレイピア、時を止めて武器を弾き飛ばした。そう、ミクリアを守ったという形になる。


「──ルビニアさん。あなたの意見もごもっともですが、ここで彼女の命を奪ってしまえば全てが奴の手の平の上。前王に凶刃を振るった真の敵に近づけなくなります」

(この人……そうだ! 王様の近くにいた人! 側近、いや専属の使用人ってところか?)


 騒ぎを聞きつけてやってきたのは、クラウド王専属使用人『ルビニア・ピアニ・ブリミアンス』。王の世話を完璧に行うだけでなく、身を守ることを最重要として動くクラウディア城最高の駒。

 単純な勝負では騎士団総隊長に及ばないが、護衛任務において右に並ぶ者はいない。

 そして今、状況を全て理解した彼女は城と王を守る為にミクリアに鉄串を放った。

 階段の踊り場にはミクリアを挟んでレインとルビニアが立っている。


「ふははは! 本当に素晴らしい。大陸最強の騎士が我の味方とはな! 親子揃って我に降るとは! ここまでは想像できなかった!」


 挑発とも取れる現状報告。騎士団隊長が、ライトニア最強の騎士が、討つべき悪人を守護する現状。その絵は多くの人間の心をざわつかせた。

 

「二人共! 戦う相手を間違えないでください! 俺が黒霧で包んでる間はこいつは何もできない。動きが止まってる今! 冷静に状況を考えましょう!」

「先の事を考えればこの方の命を摘むのが一番安全で確実です」

「過去の闇を晴らすには彼女を命を奪うことは許されない」


 もはや一色即発、鉄雄の言葉など耳に届いていない。武器を交わしかねない冷めていく空気。平和か真実か。


「──ここにはお前達がいるんじゃないだろうが!! 今、本当にやるべきことが分かっているのに見て見ぬ振りをするのは止めろ! 騎士と使用人がそんなので示しが付くと思ってるのかよ!! 周りを見ろよっ!!」


 三人の世界を剥ぎ取るような腹の底から叫ぶ怒り。

 視線は鉄雄に向けられ、叫んだ男の目の色は失望で彩られていた。

 階下には大勢の国民、家に帰れず避難生活を強要された者達。混乱、恐怖、焦り、戸惑い、どう動けばいいか分からずその場に伏している。

 騎士が守るべき人はだれか? 使用人は誰の顔に泥を塗らないためか?

 二人の武器は自然と下げられていった。


「……ミクさんは被害者なんです。見捨てるような真似はしないでください」

「わかりました。従いましょう」

「すまない……」


 今一番しなければならないこと、ただそれを愚直に続けていた。術の妨害を続けている間は誰も死なない。だが、逆にこれ以外の事をする余裕が無いとも言える。


「みんな! ここは危険だから学校の方と正面玄関から逃げて! テツがいるからだいじょうぶ! 焦らないでゆっくりでいいから! 動けない人は言って! あたしが運ぶから!」


 主のアンナは既に動いていた。会話をしている間に腰を抜かした人を始めに錬金学校マテリアの方に運んでいた。


「王のお付きと調査部隊隊長の戦いが見られると思ったが残念残念……」


 全身が拘束され、魔術も封じられた。それでも余裕は崩れない。揺るがぬ勝利を信じきっている笑みは変わらない。


本作を読んでいただきありがとうございます!

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