第87話 最後の演目へ
6月12日 月の日 8時25分 ???
まさかこんなに早く暴かれるとは思ってもみなかった……
コアが奪われた時点でいつかは来るだろうと予想はしていたがあまりにも早い、コアに痕跡は残っていない。私のは無論、ミクリアにも無かったはずだ。
なのに見つかったということは、相当高性能な探査道具を生み出したということ。
流石はソレイユだ、十年前とはまるで違う。成長とはこういう事を言うのだろう。偶然で太陽を生み出したのとは違う、予め用意していた。だからこれほど速い。
「げほっ……げほっ……!」
この程度で済んでよかった。
時止め対策として仕込んでおいた刺激薬。停止した時間の中で動けば誰よりも被害を被る、想像通りだった。加えてこの身体が巻き込まれることも想定済み、弱めておいて正解だった。あのまま動けなくなるところだった。
それに脱出通路も用意しておいて正解だった。『ダンジョン・メイカー』を応用して壁の中に通路を作っていなければ脱出できなかった。
レイン・ローズ対策は万全にして損は無かった、別の人間が来ても応用が利く。
二人はミクリアがアメノミカミと操っていたと考えているだろう。
もうこの国に安全な場所はない。連鎖爆発のようにミクリアが犯人だと広まる。
「き、緊急放送!! 騎士団本部地下にて毒ガスが発生しました。犯人はミクリア・タシアーとのこと! 地下から脱出し、行方は不明! 各自散開し探索を始めるように! また、国民の皆様は騎士団本部に近づかないようにお願いします!」
そうか、その道を選択してしまったか。どんな結果が訪れようと実に残酷な未来が待っているな。
仮初であったがこの国を見守る日々は悪くなかった、いつまでも救世主を待ち続けているかのような後退し衰退していく国力。
それを安全な場所で見るのは実に面白かった。
さて、最後の舞台に上がるとしよう。ずっと世話になったこの身体に華々しい最後を飾る為に──
同日 8時25分 騎士団王城間通路
雨を避け騎士団本部と王城を繋ぐ通路を歩く鉄雄とアンナ。喧騒を背中に浴びながらゆっくりと負担がかからない速度で寮に向かって進む。
「ここを通れば濡れずに学校の門までいけるんだよね」
「…………」
ただやはり仕事場で起きたであろう事件が気になり、時折後ろを振り向きアンナに引きずられる形となって進んでしまう。
「やっぱり気になる?」
「そりゃ流石にな……レクスが言った事を合わせると、アメノミカミを操ってた犯人が何かしでかしたんじゃないかと思って気が気でないな」
「でもダメだって、わたし達にできるのはすぐにここを離れることだって。今のテツじゃ足引っ張るだけだって! 他の人にも活躍させないと!」
「そりゃ分かってるけどなぁ~」
焦るアンナ。一刻も早く安全な場所へと連れて行きたいと態度に現れ始める。
戦いの始末が終わっていない王都、危険の種はどこにでも埋まっており、背後で芽が出てしまった。今の鉄雄が何かに巻き込まれたら次は本当にいなくなってしまう。そんな予感が胸の中で疼いていた。早く寮へ、早くベッドへ。とにかく離れたかった。
鉄雄が死ぬ姿、それが明確にイメージできてしまっている。
──頭上の拡声器より響き渡るミクリアが犯人だと告げる放送が耳に入る。
「何、今の放送!?」
「ミクさん……!? 何であの人が!?」
鉄雄にとっては知っている人物、背中を押してくれた人物の一人。肌に寒気が走る。完全に足が止まって振り返る。レクスの言葉と連鎖する。ただの毒ガス事件ではないと。二人が追っていたのはアメノミカミを操縦していた人物。狙いすましたタイミングで起きた毒ガス事件。ミクリアが起こしたと放送。
先程自分が言っていたことの答え合わせができてしまった。
「いや、ありえないだろ……ありえちゃいけないだろ……あの時の言葉が嘘とかありえないだろ……」
「テツ……?」
(ミクさんがアメノミカミの操縦者とか妄想も甚だしいだろ……)
「──早く寮に戻るよテツ! 無理矢理でも連れてくから!」
青白い顔で最悪を想像する鉄雄。背中を押してくれた人間が自分を殺そうとした人間。その可能性。
そんな背景なぞ知らないアンナでも鉄雄の精神に異常が起きていることは分かっている。というより主従関係により使い魔の状況が分かってしまう。大きな不安なら尚更。
故に運ぶような勢いで歩を強め、王城への扉を開く。
同日 月の日 8時25分 ???
ああもう! 油断した! レインと一緒にいられてちょっと浮かれてた!
ダンジョンじゃこんな不意打ち沢山あったのに! 異常系無効の技能付与しておけばよかった。レインの顔に痕ができたらあたしがあたしを許せない。
とにかくミクリアの位置を探し……下、東、お城の方? それとも地下街を通ってる? 2ヶ所で線を結べたら確実なのに!
(レイン! 今矢印は東で下の方を向いてる! お城か地下街だと思う!)
(なら私は王城に向かう。騎士の皆には地下街の出口を塞ぐように伝えておく!)
(分かった! あたしもすぐにお城に向かうから!)
ウジウジしてる場合じゃない。あたしが錬金術を磨いてきたのはこの時のため! ここで逃がしてしまったら何の為に錬金術士をやってきたのか分からなくなる!
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