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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第85話 リバーシ

 仮面を被っているのなら余りにも頑強。犯人だという手ごたえが余りにもない。

 ドアを開ける前の執念染みた断定も薄らぎ本当にミクリアが犯人かと疑問を持ち始めた頃、念話(テレパシー)により冷静な意見が届く。


(そもそもここに来ることもおかしい気がするよ? 騎士のみんなが出入りする1番危険な場所なのに? この様子だと戦いの事後処理が終わった後もここで普通にお仕事してそうだよ?)

(確かにそんな空気を出しているが……1度戻って確認しよう)

(でもちょっと待って、どうやって測ってるか調べたい。それに、ちょっと突けばボロがでるんじゃない?)

(分かった。私はミクリアの観察に集中する)


 犯人捜しも大事。けれど、国の未来を担う道具を管理するシステムも大事。そして、やるべきことは分かっている。


「ねえ、ここからソルの操作ってできるの?」

「いやぁ、あくまで監視用ですから。1日の光量や熱量をグラフ化して記録しとるんです。うちがおらん時のデータも紙で印刷できるんが優れものなんですよ」

「自動なの? すごいね! 数字データを読み込んで紙に印刷する……うん、これなら異常も見つけやすいね」


 印刷された紙には日付に6時間分の室温、光量がグラフで記されており、日の入り時刻になるまでほぼ一直線で、陽が沈めば光量は0に温度は緩やかに下がり外の気温変化を反映しているようだった。


「6月に入った辺りに急に変化が目立ち初めましてね、うちも頭が真っ白になりましたわ。何とか解決できたみたいでようやく生きた心地ができましたよぉ」

「それがここに貼ってある紙か……随分と多いな、ボードが何時落ちてもおかしくないんじゃないか?」

「お恥ずかしいとこを見せてえろうすいません」

「古いデータも多そうだね。……4月のもある!? ソルも新しいのに変えるつもりだし、一度そこにあるの捨ててもいいんじゃない?」


 殺戮現場のように何本ものピンで留められたボード。下の紙も巻き込んで突き刺し層を重ねていき、ピンの長さに余裕が無いのか上層の紙には力づくで押し込んだ凹みも見られる。


「せっかく何で整理するのも……いや、止めときましょ。大事な情報ですからな」

「ソレイユもいてアメノミカミも退けられた、しばらくは平和なんだ。情報は整理してこそ意味がある。足元にも零れてるし1度整理して──」


 レインがボードに手を伸ばし取り外──


「──さわるなっ!!」


 怒声が響き渡る。紛れも無くミクリア・タシアーから。ボートに近づこうとしたレインも一瞬理解ができなかった。


「っ!?」

「どうしたの!?」


 談笑に近い会話だったのが一変して部屋の空気が固まった。レインとソレイユが驚くのは無理もないが、1番驚いた表情を見せたのは声を出したミクリア本人だった。


「えっ、いや、何やろ? それに触ったらいかんって……あれ? 何でや? 何で──」


 狼狽し自分の口元を抑え視線が揺れ動く。

 そのまま足元がふらつき両膝から崩れ落ち四つん這いの体勢となってしまう。


「大丈夫か?」


 明らかな異常事態にレインは思わず手を伸ばし近づこうとする。ソレイユも椅子から腰を離して対応しようとする。


「ええ、大丈夫ですよ──」


 落ち着いた声、ミクリアの指が床にある取手に触れ、「カタン」と音が響いた瞬間。

 噴出音が周囲から溢れ出し、一瞬で部屋は白い煙に包まれる。


(時間停止──!)


 反射的に停止させ状況を確認、煙で姿が曖昧でもすぐ近くにミクリアがいることは判明している。

 いくら姿を隠そうとも狭く、足の踏み場の少ない部屋。三人もいればまともに動けない、時間停止をした瞬間終わりである。


(無駄なあがっ──っ!? 目が!? 鼻も!? ソレイユッ!)


 ほんの少し移動しただけでレインを襲う強烈な刺激に涙が溢れる。普段なら気にすることはまずない、思慮から抜け落ちていた要素を突かれてしまった。

 止まった時でも物質は存在する、液体に触れれば皮膚に付くか服に吸収される呼吸もできる。もしもその物質に毒性が含まれていたとしたら?

 そう、大量の刺激物に満たされたこの空間において、最もダメージを受けるのはレイン・ローズである。

 術を扱う集中力も奪われるだけじゃない。命の危機も迫る。


(外に出なければっ──!?)


 扉を蹴り飛ばし、白い煙から抜け出し──


「げほっごほっ! はぁ……はぁ……」


 時間停止を解いた。


「きゃあっ!? 何──」

(目を閉じて吸うな! 外に出るんだ!)

(わ、わかった!)


 当然ソレイユも巻き込まれるが、状況を知っているレインは念話で伝えられ被害を最小限に転がるようにドアから脱出する。


「レイン大丈夫!? 目が真っ赤!? 今洗い流すから!」


 『どこでも倉庫』を利用し虚空より水の入った瓶を取り出してレインの顔にぶっかける。また取り出してぶっかける。そうして何とか洗い流した。


(もういい。それよりもミクリアは!?)

「出てきてないよ。もっと距離とらないと!」

(彼女が犯人なのは確定だ。しかし、いきなり何が起きたんだ? 急に別人になったような……)

「多分それが答えなんだと思う。でも一旦ここを封鎖するよ! フェアリー!」


 フェアリーを8個呼び出し、4個ずつに別れ通路の四角に配置し。


「シールド!」


 魔力の壁を作り白い煙が漏れる量を激減させた。


「でも正直甘く見過ぎてた! 時間停止の対策もできてたなんて!」

(恐らく別の脱出口があの部屋にある可能性が高い! そうじゃないと地下から逃げ出す事なんてできるはずが無い!)


 レインの肩を抱いて地下を駆け上がり、騎士の姿が目立ち始める一階になんとか戻って来れた二人。下から煙がまだ昇って来ていないことに安堵し、受付の騎士に叫ぶように話す。


「すいません! ソルの管理室で有毒ガスが発生しました! 対処をお願いします」

「な、なんですって!? レ、レイン隊長!? とにかく報告に行かねば!?」

「あと、ミクリア・タシアーを探すように指示を出してくれ──げほっ! 彼女が引き起こした」

「わ、分かりました!」


 唯一の救いは人が滅多に通らない場所であり、大きな被害を受けたのはレイン・ローズ唯一人。落ち着いて対処すれば国民に被害が及ぶことはない。


(位置を確認に戻るぞ! どこに逃げているか確認しなければ……!)

(分かってる! でも、レインの顔をちゃんと洗い流すのが先! 障害が残るようなのはやだから! とにかく洗面所まで行くから! その間にあたしが確認するから!)


 だが、抜け出したと予想されるミクリア・タシアーが何をしでかすかは誰にも分からない。ただ逃げ出すとは想像が付かない。明確に国の敵だと判明したのだから。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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