第78話 切り札の対価
「ぼくとして1番気になるのは、どうして君がここにいるかだよアリス君? そんなに彼と仲が良かったかい?」
「バカなこと言わないで。こいつの最後に見た顔が死に顔になるのが嫌だったからよ。あれがずっと頭に残るぐらいならお見舞いに行って上書きした方がマシだったから。それだけ」
そんなに酷い顔をしていたのか……人間自分の死に顔は見ることは無いと言うけれど人にトラウマを植え付けるような事になるのか……できる限りベッドの上で安らかに終われるように心掛けるべきだな。
「お詫びの対価としてこの満面の笑みを──」
「気色悪いわ」
最近の若い子は冗談に対しての切り替えしが鋭すぎていけない……。
「それはさておき、君にはちゃんと言っておきたいことがあった」
「何かしら? 変なことなら聞かないわよ」
「嫌な役を押し付ける形になってすまなかった」
「……本当にそうね。あのままアンナに恨まれでもしたら貴族として生き辛いったらないわ」
あの時の言葉に後悔は無いし、最善だったと自信を持って言える。彼女ならアンナを助けてくれるだろうという確信がどこかにあった。けれど、その後のことをまるで想像していなかった。アンナがアリスィートに逆恨みをする可能性もあった。
彼女の親切心に甘えていたのも事実。
俺達の会話にアンナは最初疑問符を浮かべていたが「あぁ~」という声が届き、理解してくれた。
「何かは分からないけど、無事でよかったじゃあないか。後そうだ、アンナ君宛にマルコフ先生から手紙を頼まれていたんだった」
「手紙? 何だろな? え~と……え?」
「どうしたアンナ? 目を点にして?」
「なにがなんだかわからない……」
疑問符が頭に大量に浮かんだような顔で手紙が俺に手渡される。え~と何々……少し読むのが大変だが……。
──
通知書
アンナ・クリスティナへ
調合室の無断使用及び、素材保管庫の素材を無許可で使用した罰として
反省文10枚、1週間の謹慎処分とする。
尚、アメノミカミ討伐に尽力した評価を加えた上での罰則である。
謹慎開始日は学校再開日とする。
謹慎終了後に反省文を提出すること。
──
「1週間の謹慎……つまりは寮から出る事を禁止。そして、反省文。文字通り悪かったことについて書く文だな。しかしどうしてこんな……」
「???」
「大義の為なら規則を破って何をやってもいい。ていう思想を抑える為の罰だと思うわね。予想はできていたけど」
まあ、その考えは理解できる。しかし、アンナだけ──
「ちなみにぼくも同じ内容だったさ。帰った彼も同じだね。反省文自体は捕らわれた日に書かされたけれどね……」
「私も同じ内容ね。らだ、反省文は5枚だったけど」
「私に至ってはそれらに加えてミュージアムでの破損物修復および一ケ月の奉仕活動となっていますわ! 人道に背く行いをしたのにこの温情とは懐の深さに感服致しましたわ」
「そういえばあの時に展示用のソルも壊れたわね。それについてはどうするのよ?」
「実はソレイユ様が修理してくださるということで、首の皮一枚つながったのです! 私が作ったソルが置かれる事態にならなくてよかったと思いますわ」
じゃなかった!? 俺が切り札を頼んだことで五人に迷惑を掛けてしまったか……しかも謹慎なんて卒業に響くんじゃないか? それにナーシャは何をした!? 王都を守る為に一体何をしでかしたんだ!?
「なんというか……ありがとうな」
謝罪じゃない感謝の言葉が零れる。アンナに力を貸してくれた頼りになる友達がこんなにいるなんて感動と同時に安心した。
「別にぼくは君の為に頭を貸したわけじゃあない。誰かさんが退屈させたから暇つぶししたに過ぎないのさ」
「アンナさんが困っていれば友であるこのナーシャ・アロマリエ・フラワージュが力を貸すのは当然のことですわ!」
「貴族として当然のことね。礼が欲しくてやった訳じゃない。まだまだ未熟だと理解できたのはよかったわ、授業料は高く付いたけどね」
誰も素直に受け取らないか。
「……そうだ! テツの力で消滅させればいいんだ! そうすればこんな注意なんて消えてなくなるっ!」
「そんな妙案閃いた顔しても、残念だが手元にレクスが無いんだ……」
こっちはこっちですごい引き摺ってるし……。
レクスがあっても消したりはしないけれどな。
「あああぁぁあああ!! あんなにがんばったのにぃ~!」
本作を読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら
ブックマークの追加や【★★★★★】の評価
感想等をお送り頂けると非常に喜びます!




