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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第77話 明るい未来

「思った以上に普通の人だったなぁ」


 異世界人のカミノテツオ。この戦いの間違いなく英雄。惨劇の斧を使いこなしアメノミカミの強化体を発動前に破壊。防衛ラインを一人で押し留めた。

 戦えなかったレインの代わりに戦ってくれた人。

 もっと覇気を纏っていて修羅の国で生き抜いたような表情をしているかと思ったのに、瞳に殺気はまるでないし、声も怒声が染みついたような濁った声じゃなかった。

 平和で穏やかな生活をしている人特有の優しい声。

 野生動物というより植物で例えた方が似合ってる感じだった。


「でも、あの二人の関係を見てると色々と納得しちゃうなぁ」


 アンナ・クリスティナ。聞けばまだブロンズランクの1期生。

 あの子はあたしに対して嫉妬のような言葉をぶつけてきた、あの時は申し訳ないと思ったけど戦いの全貌を理解したらそんな気持ちはどこかに行ってしまった。

 あの子の作った「ゼロ・ゾーン」と呼ばれる道具でアメノミカミを機能停止にさせて、「破魔斧レクス」と呼ばれる元惨劇の斧を刺して完全無力化に成功。


「こっちが嫉妬しちゃいそうだよ」


 十年前、あたしが戦った時は3期生でゴールドランクだった。「人工太陽ソル」も日数をかけて作り上げて偶然戦いに利用出来た。

 たった二時間程度で特効道具を作り上げ、コアの鹵獲にも成功した。あたしにはできなかったことをあの子はできてしまった。 

 間違いなく偉業だと思う。でも、あの子もあの人もきっと英雄になろうとして戦ったんじゃない、ただ使い魔として主の為に戦っただけ。ただ戦う使い魔を助ける為に全力を尽くした。

 だからきっとあの時涙を流した、アメノミカミに間違いなく詰ませたのはあの子の力。でも、そんなことはどうでもよくて彼の為にがんばった。だから彼の為に何もできない自分が許せなかった。


「そして未来は明るいなぁ~」


 師匠は錬金術の未来は黒いと言っていたけど、そんなことは無いとあたしは思う。貴族の子がアメノミカミの前に立つことも、あたしができなかったことをやった。

 想像も付かなかったことが起きている。この現実を師匠にも見てもらいたかったなぁ。



 俺の目が覚めたことは方々に広まったのか、お見舞いに来てくれる人がどんどんとやってきた。


「目が覚めて良かった。見てる私も生きた心地が全然しなかったからね」

「アンナを悲しませる結果にしなくて良かったと言っておくわ」

「いやぁ~そんな状況になってるとは思ってもみなかったっす!」

「終わるまで休んでいたとは何とも不甲斐なかった! すまない!」

「俺も俺で事後処理は何にもできなくて申し訳ないです」


 調査部隊の皆。

 色々と謝られたり、お褒めの言葉も頂いた。今もみんな守護の為に国を動き回っているらしく、短い時間でも空いた時間を俺の為に使ってくれたことに感謝したくなる。

 ただやはりレインさんは大事な仕事に就いており見舞いに行く暇もないらしい。

 多分鹵獲したコアの防衛と管理だろう。絶対に失ってはいけない真犯人との繋がりのようなモノ。無念を晴らしてもらいたいものだ。

 正直、見舞いに来てくれるのは仕事の付き合いがある人達だけだと思っていた。けど──


「ぼくが来てくれてあげたとも、感謝するといいさ」

「無事でなによりね」

「本当に安心致しましたわ!」

「アメノミカミを倒してくれてありがとうございます」

「君達も来てくれたのか!」


 マテリア寮に住まう錬金科の生徒達。アンナの友達まで来てくれるとは思ってもみなかった。

 それに──


「君も来てくれてありがとう、確かラミィちゃんだったかな?」

「あっ! はい! ラミィ、です!」


 あの時の少女も来てくれた。アメノミカミを倒した後も外は雨が続いている。その中を兄妹揃って来てくれた。何も言うまい、言葉にするのも野暮だろう。

 ただ、後ろ手に落ち着かない様子なのはちょっと気になる所でもある。そんなにおかしな雰囲気は醸し出してないと思うんだが……今は痛みが顔に来るほどでもないし。


「あのっ! その! ありがとう──!」

「えっ?」


 この子の背中に隠されていたのは花束。

 それを笑顔で渡そうと伸びる腕。頭が真っ白になりつつ俺はそれを手にした。頭の中が「?」で埋め尽くされる。

 これは有り得ないこと。卒業証書を受け取った時でさえここまで緊張したことない。ちゃんと受け取れたのかどうかもわからない。入院中に花束を受け取る作法なんて学んだ事ないぞ? こんな想いが籠ったモノ、正しく受け取る作法があるはずだ絶対に。


「あなたのおかげで僕は雨の日でも外に出られるようになりました。まだ、ちょっと怖い所はありますけど」

「今日も雨ふってるけどお兄ちゃんここまで行けたの!」


 45度の角度で花が上になるように、子供抱くように収める。買ったものなのか摘んできたものなのか分からないけど綺麗に包装された花束。あまりにも、あまりにも重い。俺に渡す為に用意された花束。


「どうしたのテツ? 照れてるの?」

「……まあ、そんなところだな。こういうのを貰うのは生まれて初めてだから」


 からかい気味なアンナの声も右から左。ヤバイ、本気で目頭が熱くなってきた。そこまで年老いて無いはずなのに生死の狭間で老けたのか。

 ってダメだダメだ。こんな空気を出したら。この子も花渡したのに困った顔し始めてる。


「セクリ、大事に飾って置いてくれ」

「はい、分かりました。今ご用意します」


 仕事モードに切り替わったか。俺も俺でちゃんと切り替えないとな。


「……俺がいなくても君ならいずれ克服できたはずだ。俺が触媒にはなったのかも知れないけどな」

「うまく言ったつもりなのかしら?」


 そんなツッコミは要らないぞ。


「ラミィも僕も感謝しています。この御恩は必ず──」

「そんなことを気にしなくていい。ラミィちゃんの姿を見て俺も火が付いた。この子の勇気があったから今があるんだ。むしろこっちが感謝するぐらいだ」

「えへへへへ」


 照れてるのか屈託なく笑うラミィちゃん。うん、それでいい。子供は笑顔が一番似合ってる。


「それに恩を返したいって言うならそれは俺にじゃなくていい。未来の誰かだ」

「未来の誰か……?」

「これから君達はどんどん成長して錬金術士として人として立派になるだろう。そうして手に入れた力をあの時の君と同じように困っている誰かがいたら手を伸ばしてくれればいい」

「──はい! 必ず立派な錬金術士になって、期待に応えてみせます! では、失礼します!」

「じゃあね!」


 手を振る少女に軽く手を振って応える。これでいい、あの花束で恩は十分に返してもらったから。


「今のテツって本当にテツなの……? こんな立派なこと言わない……別の誰かに入れ替わってるんじゃ……!?」

「ありえるわね。あの状況で別の魂が代わりに入った可能性があるわ」

「君ら中々酷い事言うね……」


 冗談か本気か分からない顔するのはやめて欲しいぞアンナ。何時の間に仲が良い感じなったのは気のせいかアリスィート?

本作を読んでいただきありがとうございます!

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