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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第68話 1秒

 起爆するほんの少し前、サリアンは壁上にて気配を消しながら託された道具を握りタイミングをずっと計っていた。


「その道具の名前なんですけど思いついたので言います! それは「ゼロ・ゾーン」です!」

(ゼロ・ゾーン……ね。分かりやすくていいじゃない)


 この戦いを終わらせるために作られた魔力吸収爆弾。敬愛する隊長、競い合う同僚、愛着の湧き始めた弟子。仲間を囮に最後のトリを飾る。


(本気で投げれば大体1秒近くであいつに届く。問題は安全装置をどのタイミングで外すか……それに起爆まで5秒、長いわね……)


 安全装置の紐を引き抜き5秒後に炸裂。直撃させても発動しなければ投石と変わりない。早すぎれば地に激突し破損の恐れ、遅すぎれば範囲外での爆発。

 加えて隙を突かねば迎撃の恐れ。ただ投げるだけでも求められることがあまりにも多い。

 そのことを理解しているのか全身に大きな震えが走った。


(近接戦闘でも無いのに武者震いなんて柄じゃないのよ! とにかく戦いの流れを見極めることに集中しないと! 気を引く技が放たれた後が狙い目!)


 ラスト・リゾート。アブソリュート・ゼロ。上からでも目立つその二つが放たれた。

 緊張と同時に紐に手をかける。


(これが決まれば余裕を持って投げられるけど──)


 甘い希望。期待。弟子の前では何でも無い態度を取っていても双肩に掛かる重圧は本人が思っている以上に圧し掛かる。

 そして、非情な現実を突き付けるかのように四本の矢全てが手折られる光景。瞬間、心臓が握られるような緊張感に襲われ迷わず安全装置の紐を引き抜き起動した。


(──4)


 噴き上がった飛沫が霧散する。


(3)


 全員の動きが停止する。


(2)


 二名が同じ言葉が紡ぎ。サリアンは投擲体勢を構える。


(1)


 コントロール抜群の剛速球がアメノミカミ目掛けて一直線に飛んで行く。 

 

「――0秒」


 理想的な位置で発動した。

 透明な膜が広がると同時に周囲の魔力が無慈悲なまでに容赦なく吸い尽くされる。完全にアメノミカミを覆い尽くすと水の巨人を形作っていた魔力は失われ表面から滑り落ちるように水が流れ小さな山状になった後、水溜まりの中に青い球体のコアだけが残る。

 だが、一つ大きな誤算があった。優秀な者達が執念を込めて錬金術で作り上げた道具。想定以上の効果を発揮し、アンナやレイン達も巻き込んだ。


(バカな!? 操作を受け付けない!? 視覚聴覚も消えた? いや届かなくなったのか!? 再接続──! 魔力が無い!? 魔力の転送をしてコアを守らなければ!)

「なっ!? 力が抜けていく……!?」

「うっ……魔力が……!?」

(──やっぱりこうなった!)


 製作者だからこそ想定できた最悪。万が一に備えてアンナは予め虚の状態で待機していた。無下にしないために。

 人工太陽ソルという絶対に見逃せない脅威を、全てを喰らい尽くす黒龍を、迫り来る氷結を、加えてアンナという可能性も全てを囮にして。思考の全てを満たして、抗えない達成感も隙として。二度とこんな好機は作れない。

 全てはこの一投を確実に成功させるための布石。全ての手を出し尽くしたと思わせる為に最高の四本の矢を捨て駒とし、王手を掛けた。

 だが、まだ終わっていない。これは最後の一手を届かせる為の露払いに過ぎないのだから。



「テツ!! 動いてっ!!」


 耳に届く最愛の主の命令。

 剥き出しとなったアメノミカミのコア、誰よりも早く駆け出すアンナ。

 それが意味することは正しく理解できる。アンナが望むことも分かっている。

 なのに、頭ではすべきことが全て理解できているのに──


(嘘だろっ……!? ここが……ここが、限界なのか!?)


 生死の意味で限界。レクスの警告。視界も朧気、まるで足が動かない。ここまで動けたことがまるで奇跡──そんなの関係ない! そんな言葉は止まる理由にならない!

 子供とした約束を守れない大人にはなれないだろ!

 信じたみんなが来てくれただろ! これが最後なんだ!

 俺を信じて、奴を仕留めるための道具を作って来てくれただろ! これで最後なんだ!

 ここで動けなきゃ本当に後悔する。一生後悔する。死んでも消えない後悔が残る!

 本気の! 本気の! 本気の本気で! ここで動かなきゃ! ここで動けなきゃ! 明日が欲しい! 期待に応えたい! 願いに応えたい! 大人に成りたい!

 あの子の涙を、あの人の悔しさを、全部どうにかしたい!

 骨が折れても! 筋肉がズタズタに引きちぎれても! やんなきゃいけないだろ!!

 「役立たず」「寄生虫」「不採用」「無能」何度も聞いた聞かされた。前の世界じゃ何も心に響かなかった言葉。今、この世界じゃ絶対に聞きたくない言葉。

 恨みでも怨念でも怒りでも、何でもいい。何でもいいから!! 動かせるなら何でもいい! 命も燃やせ! 何が何でも動け!

 息ができる、斧が握れてるなら筋肉は生きてる。生きてるなら動かせる。体じゃなくて心の問題だろうが!!


「アンナアアアアアアァァ!!! 受け取れええええええええぇぇ!!!!」


 もうこれしか無い! 歩けない走れない! 破術の強化も全てこの一投に賭ける! 力が僅かでも入るならいくらでも()えてやる! この後の事なんて知らない。息する時間も勿体無い、吐き出せ、全部。間に合え、間に合わせる! だから、だから──!!

 受け取ってくれ!! だから──俺に、見せてくれ。絆を、本当に。

 欲しかった──夢を──! 



「──まかせてっ!!」


 勢いづいた白い山なりの曲線がアメノミカミのコアに向けて描かれる。誰の目にも、届かず当たらないことは理解していた。

 だが、迷わず追いかけるアンナ。本気の男の想いを受け止めるために。

 破魔斧レクスの刃は直撃すれば命は無い、回転する刃、掴み所を間違えれば腕が斬り落ち、怖気てためらえば破魔斧に間に合わぬ。


(ここっ!)


 跳び出し、腕を伸ばし、白い曲線と褐色の腕が交差する位置に届く。

 アンナにとって怖気など粗末事。信頼した人間から託された想いを願いを、皆の希望を取りこぼすことなど彼女の心情に存在しない。

 破魔斧の持ち手を完璧にアンナは握り絞めた。


(再起動──! よしっ、まだ壊れてない! 周囲の水だけでも集め──っ!? アンナ・クリスティナ!)


 周囲に水は消えていない、脅威の種は未だ健在。

 再び魔力が巡れば潦は盾となり槍と姿を変え、最後を潰し希望を貫く。


「いっけぇえええええええ!!」


 落ちる先は、振り下ろす切っ先はコア。直撃まで──

 コアに繋がる魔力、水面に広がる波紋。迎撃まで──


(間に合って!!)

(間に合わせる!!) 


 1秒。


本作を読んでいただきありがとうございます!

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