第67話 四本の矢
(何がどうなってるの!? アンナがどうして上から降って来るの!?)
完全に状況に置いてきぼりとなるアリスィート。近くにいながら攻撃に巻き込まれず警戒から完全に外れ、
それを見逃さない二つの眼。
「アリス、受け取って使って!!」
「えっ!? ──いたっ!!? 何を──!? ソルッ!?」
この状況「使え」という言葉、聡明なアリスィートはすぐに理解しヴァンロワを走り出させ起動させる。
(人工太陽ソル!? 直せたのか? いや、ありえない! 彼女しかソルの修復は不可能。この国の有象無象の錬金術士では直す事叶わない! 偽物に違いない! いや──まさか!? 新たに作り上げたのか? 落ち着け、それも不可能。レシピは全て処分した。辿る道など残っていない! ――だが、想定外が何度も起きている! 万が一に…っ!?)
掲げられ輝き出す渾天儀。この国に住む者以上にその姿形を忘れる訳が無い。アメノミカミ越しからでも全身から寒気がよだつ程の恐怖。完全敗北が確定する忌むべき存在。
ソルを打ち落とす砲撃に移行する最中、アンナが袋から道具を取り出す姿を認識。
(──囮かっ!!)
瞬時に狙いを理解し、触手を伸ばそうとするが──
「こっちを……見ろおっ!!」
(あの男──!? 逃げたんじゃ──!?)
だが、脅威は一つじゃない。キャミルを支えにして立つ鉄雄の形相は鬼気迫っていた。
悍ましく喉元に牙が迫る幻覚を想起させる剥き出しの殺意。もう戦う力すらない男が疲労を無視し死に物狂いの表情で歯が割れそうなぐらい食いしばり。破魔斧を振りかぶる。
「ラストォオオオオ──! リゾートッ!!!」
腹の底からひねり出したような叫びと共に放たれる黒龍の大顎と暴牙。切り札を破壊された記憶は余りにも新しい。
(あの黒龍! サイズは小さいがまだ打てたのか!? 全身疲労困憊で放つのは不可能のはず……いやあの娘がこの場に来ている!! 奴なら確実にこの体を喰らい尽くす一撃を放つ! この場で我を倒さねば危害が及ぶ事を理解している!)
加えてこの好機をただ静観する者が王国最強の名を称えられる訳が無い。ほんの数秒でも完全自由にすることは自殺行為、呼吸も精神も整え終わりレイピアを地に突き立て。
「アブソリュート・ゼロ!!」
氷結が地を走り、氷河の荒肌を波立ように迫り来る。
(ぐっ──!? 時間停止は使わなかったか! レインの技は疑いようの無い本物! だが、防ぐことはたや──)
西より迫り来るレインの最上級氷結呪文。南より襲い掛かる黒龍。北東より光が強くなり始める人工太陽。そして東より──
「せええええのおっ!!」
オールプランターの剛速球が放たれる。
(黒龍を処理損なえばコアも食い殺される! アブソリュート・ゼロは必殺にならないが次の一手を確実に許す! ソルの集束光線に当たれば蒸発しかねない! あの植物もコア近くで起動すれば機能停止に陥る! 術の処理を間違えるな! 全てを完璧に防ぐことは不可能! だが、挑戦させてもらう!)
目まぐるしく移り変わる光景全てに対応するために全てがスローモーションになる程の高速思考に陥る。そして、備えておいた術に手を伸ばした。
「術式10・5。天昇瀑布・天泣、開放。ダブルイグニッション」
アメノミカミの水量が内側から爆発的に増大すると、瞬時に押しつぶされ地表が力の逃げ場となり、黒龍と氷結に向かって巨大な水壁が噴き上がるように出現し、ソルとオールプランターに向かって水の弾丸が放たれる。
黒龍は噴水に直撃し消滅させることもなく無残に霧散し消え去る。
絶対零度の氷結の波も同様に水流に押し留められ氷結の道は途絶え破裂し粉氷へと散ってしまう。
放たれる激流の鉄砲水がオールプランターと光線が放たれる前に人工太陽を貫き砕く。
四つの脅威を押し流し、水の巨人は健在した。力の余波に巻き込まれ誰もが地に膝を付く状況。
「勝った!!」
「勝った……」
不可能と考えていた完全防御に成功する。
勝者と敗者が決められた凄惨な光景。だが、二名が同じ言葉を紡いだ。
この戦場でただ一人、アンナ・クリスティナだけが。笑みを浮かべていた──
「――0秒」
アメノミカミの目の前に落ちてきた一つの透明の球体。認識外に突如として出現したそれを何かと分析する間も無く。爆ぜた。
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