第62話 ラストミッションミーティング! 03
(分身体はセクリが倒すわ!)
(何がなんだかわかんないけど任せて!)
「大丈夫なの……」
「美味い食事を作れる相棒なんで問題ありませんよ」
思わず「何が?」と口に出しそうになったが、その顔は自信と安心で彩られ横槍を挟むのも野暮と感じ噤んだ。
(作戦完遂の為なんだけど、アンナは壁の上から下に飛び降りられるか? 下からツルの隙間から出て来るよりも上から舞い降りて来る方が派手で強者感がでるからな)
(…………へっ?)
魔力の無いただの人間なら超高確率で死亡する。
しかし、魔力を纏いしこの世界の人間は違う。魔術で空間に干渉し落下速度を落としたり肉体強度を高める等で落下者は比較的安全に着地できる。無論下に人がいないことをしっかり確認する必要がある。そもそも、壁上から飛び降りるのは原則禁止であることを忘れてはいけない。
(流石に厳しいか……?)
(──やってやろうじゃないのよ! 山育ちを甘く見ないでよね!)
売り言葉に買い言葉。期待を裏切れないのはアンナも一緒。
(流石は我が主と言ったところだな。威風堂々と近づけば奴も戸惑いを隠せず撤退を選択するはずだ。そこで、逃げ場を刈り取る!)
(誰がその役をやるの?)
(それは勿論我等が隊長レインさんだ!)
(はぇ~……あれ? レインさんってそこにはいないよね? どうやってつたえるの? アメノミカミに知られたら失敗するんじゃないの?)
(それについては問題無い。通信具で伝えるから)
「国の最高戦力の切り所ね。ケイン、あなたは馬車に向かって通信の準備をして。最初にあの連絡、次は光の矢が空に掛かった瞬間に、さっき言った通りにするのよ」
「了解っす!」
徐々に仕込みが始まる。気付かれないように囲い込み始める。レインとアリスィートが支える戦線は思った以上に頑強。得意属性が比較的影響の小さい氷と風だからか、竜馬の戦闘能力か、流水の速度で風を捕らえること叶わずか。
(逃げ場を確実に塞いだあとは横から俺達がゆさぶる──!)
(わたしは正面からオールプランターを投げる!)
(加えてソルを使えば奴の思考を埋め尽くすことができるはずだ! そして、最後の仕上げ消去法になってしまうけど──)
(サリアンさん)(師匠!)
二人の考えることは同じ。最後の大トリを務める者はサリアン・ラビィと決まっていた。
(あの人の肩なら届くだろう。アンナを抱えてそっちにいってくれて本当に助かった……)
(こっちでもすごく助けてもらったよ)
信頼、絆、共に過ごした時間が作る関係。この人なら大丈夫という直感的な根拠、理屈が通っていても始まりは感情なのは変わりない。
(……じゃあ、国を守る作戦を開始するとしようか!)
(ええ!)
(おぉー?)
念話が切断され、各々は自分の役目を遂行するために動き始めた。再び顔を揃えて笑い合うために。
「というわけでこの子を師匠に託します」
「何が、というわけでなのか知らないけど……本当にいいの?」
「いいか悪いかじゃなくて師匠にしか任せられません。タイミングはみんながアメノミカミの頭をいっぱいにした時です」
「……分かったわ。そのタイミングで投げればいいのね」
託されたのはただの道具ではない。この戦いの勝者を決める、国の行く末を賭けた道具と言っても過言ではない。幾度も戦いを経験していた、止めの機会を与えられた経験も少なく無い。それでも、手のひらに乗せられた瞬間、見た目以上の重さが圧し掛かって来た。
どんな想いで作られたのか、どんな想いを繋いで完成させたのか、最初から最後まで彼女は見ていたのだから。その重さは誰よりも理解していた。
「話を聞く限りボクが天の鏑矢であの水の人型を打ち抜けばいいらしいけど、ちょっと厳しいと思うよ? 晴れてれば威力も上げやすいんだけど……」
「まったくセクリったら何おかしなこと言ってるの? ここは今明るいじゃない」
「そういえば……雨降ってるのに温かくて……これは一体何なのかな?」
念話の会議では聞くに徹し状況を理解し、自分が呼ばれたことを正確に理解するセクリ。
視線は上で照らし続けるソルに向けられる。ミュージアムへは行けていないセクリは形を知らない。
「それはソルって言って、太陽の力をくれる道具だと覚えて。これを使えば光属性の術もいい感じになるはずよ!」
「確かにこれなら! 洗濯物を干すのにも役に立ちそうだね! こんな便利な道具があるなら使用人長も言ってくれればいいのに」
場違いな言葉にサリアンは眉をひそめながら魔力を飛ばし、ソルの機能を停止させる。引力に逆らうようにゆっくりと落下してきたソルを受け止め、円盤型に収める。
「そんなご家庭で当たり前に使える代物じゃないのよ。アンナは先に壁上を繋ぐ橋の近くに向かって。私はこのセクリと一緒に狙撃地点に向かうから」
「わたしもいっしょに行った方が?」
「少しでも軽い方がいい、順序としては発射と同時に私がソルを持ってそこまで行く。あなたはソルを受け取った後、飛び降りる。最後に私は投擲準備に入る。ここから先は出たとこ勝負よ」
ここから始まる終幕までの演目。誰かが欠けた時点で大団円は訪れない。
「じゃあ向かうわ!」
「師匠最後に!」
「何?」
「その道具の名前なんですけど思いついたので言います! それは──!」
本作を読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら
ブックマークの追加や【★★★★★】の評価
感想等をお送り頂けると非常に喜びます!




