第61話 ラストミッションミーティング! 02
(おそらく奴は逃走するだろう。自分の正体がバレる可能性もでてきて、次の機会も作れない状況に陥ることを何よりも嫌うはずだ)
「分身を破壊した瞬間にあいつは逃げ出すってこと?」
(追っ払うことはできても国の勝利にはならないはずだ。ソルが治ってない限りこの戦いは繰り返される。不安の種は残ったまま下手したら奴が何もしなくても内側から崩壊する可能性すらある。正体を掴まないと終わりがない)
(どうして逃げると思うの? 勝ってとうぜん! な、動きをしていたのに逃げたらすごくカッコ悪いと思うんだけど……)
(奴の錬金術士のプライドがどれほどのものか分からないけど、過去に一度負けたという経験が二度目の敗北の悔しさを和らげる。もしくは負けと認めるラインが俺達と一致してない可能性もある。すでに望んだ勝ち方はできなくなってモチベーションが落ちたか……)
本来描いたであろう絵と大きく歪んでいるのは想像に容易かった。鉄雄のラスト・リゾートによって天に浮かぶ切り札は破壊された。神立天泣によって砕いた西門はナーシャとアリスィートによって塞がれた。
強さと厄災の証明が悉く汚されたようなもの。余裕で有象無象を薙ぎ払い人々に畏怖と絶望を与える絵は既に描くことはできない。
(だとしたらすごい失礼でムカつくんだけど……! でも、やるなら逃げ場を無くしたうえで速攻で決めるってこと?)
(そうだな。完璧な敗北を叩きこまないと早い段階で再来してくるだろう)
「コアの鹵獲もしないといけないけど、正直言って厳しいレベルじゃないわ。レインによる完全凍結は殆ど期待できない。時間停止できる魔力も殆ど残ってないでしょうし私もせいぜいハリボテな魔術しか使えないわ」
(分身体を倒すと同時に攻撃をしかける。でも、さっきも言った通りただ道具を投げつけたとしても奴は反応して対応してくると思う。だから──)
(テツとわたしで息を合わせる必要があるってことね)
内と外、リアルタイムで遅延も無しで意思の疎通ができる。この戦いにおいて唯一の繋がり。
(そうだ。逃げ場を塞いだ上で意識を壁上に向かせないぐらいの攻撃を仕掛ける!)
(……でも、かなりの攻撃が必要になるんじゃ? わたしと師匠が逃げた時とは比べられないぐらい警戒すると思う)
アンナが逃亡する際も、サリアンの脚力+影分身+煙幕。加えて鉄雄の消滅のグランドエッジがあってようやく可能となった。当時の戦況で言えば微塵も本気ではなかった、好奇心が多く、切り札もあり壊されたところで痛手ではない。
しかし、今回は違う。明確な敗北が刻まれる。余計な思考は一切無いだろう。
(アメノミカミを操っているのはあくまで人間なんだ。天才で経験値が高い相手でも人間である限り物事を処理する脳に限界はある。絶対に防がなければと思わせれば余裕はなくなる!)
「言うのは本当に簡単よね……上級程度の術じゃ見ただけで対処してもおかしくない性能と技能よ」
(レインさんと十全の俺がいれば隙なんて簡単に作れただろうけど、そのレインさんもかなり消耗しているし、俺はポンコツ状態。大技を放つことなんてできない。こっちに手札は残ってない……)
(……手札……わたし達が持っている手札……もしかしてこのソルって役に立つんじゃ……?)
(……多分俺達が思ってる以上に役に立つだろうそれは……! でも、それだけじゃ足りないと思う……)
人工太陽ソルのレプリカ。アメノミカミの襲撃を長年退けていた輝き、その紛い物。蒸発させることは到底叶わないが、空は雲に覆われようと地上で輝くその太陽に目を奪われないことは有り得ない。
「なんでそこにあるかは今はいいとして、もう1手思いついたわ。テツオと私で奴の目を引かせる」
「正直言って腕振るのも厳しいですよ……」
「腕さえ振れればいいのよ。なぜなら──」
ほんの短い一言。それだけで疲労が残る鉄雄の顔に企み顔の笑みが浮かぶ。
(う~ん……このソルをそっちに持っていくとして分身体をオールプランターで倒す……)
(それについてだけど、奴の度肝を抜くような倒し方ってできないか? 倒された原因がわかりきってると相手も混乱とか一切ないと思うから)
(ちょっと待ってて!)
念話を一度中断し、閉じていた目を開き一息吐くと二人を視界に収める。
「師匠! ナーシャ! アレをドギモヲヌクような倒し方って知らない?」
「つまりビックリするような倒し方ですか……」
「位置が悪すぎるのよね……狭い範囲を完全に陣取っている。対面から吹き飛ばす技があったとしても壁上から落とすように押し流せば奴の勝ち、半端な遠距離攻撃じゃ意味がない。有効属性は火だけど雨降り、地が濡れたこの環境じゃ威力は最低」
壁上には落下防止の柵はあれど、それに頼る事態に陥れば的にしかならない。幅3m程度の狭き道。落ちれば30m下の石の路面と激突。接近戦は不可能に近い。
雨の環境により水属性以外の魔術は性能が著しく低下。魔術で破壊するのは骨が折れる程難易度が高い、だが錬金道具にそれは当てはまらない。オールプランターを直撃させれば多大な効果が期待できる。
しかし、種は完全に割れてしまっている。本体ならいざ知らず簡単な命令しか実行できない分身体では丁寧に対処はできない。物が飛んできて、触れた時点で爆ぜる前に敗北を理解する。
鉄雄はその時点で冷静に淡々と撤退してしまうと予想した。だから僅かでも頭を真っ白にさせ理解する時間を作りたかった。
「風や氷……できれば光属性を扱える人がいれば好きな位置で狙撃みたいなことができるけど。余りにも使い手がいない……騎士団にはいなかったはず。国民の中にはいるかもしれないけど攻撃魔術として昇華できているのは流石に期待できない……」
「度肝を抜くとなると光属性は派手さがありますものね。ランタン程度の光でも才が無ければ発動できないのが厳しいですわ」
「光属性で遠距離攻撃……あっ──いる!! すぐ近くにいる!!」
「そんな都合よく!? 誰?」
「セクリです!!」(ねえセクリ! 今すぐここに来られる!?)
興奮した様子で返答と同時に念話による呼び出し。
ブロンズランク昇格試験、素材を得る為の対ゴーレム戦その後に現れた招かれざる来訪者。それを打ち抜いた一つの術。大事な仲間の術を忘れる訳が無い。
(──わっ!? ビックリした!? すぐ行くから待ってて!)
急な念話でも断る事はありえない。場所を聞かずとも理解している。内容を聞かずとも力を貸す。それが従者。
使用人長に空ける事を簡単に告げると、すぐに駆け出す。避難民のお世話という任が与えられていようとも、主の願いが全てにおいて優先される。迷いなく真っ直ぐにアンナに向かい。
「お待たせ!」
「これでどうにかできるはず! セクリもテレパシーを繋げて!」
「分かった!」
カチューシャとリボンとスカーフによって三人の心は繋がる。
(──テツ! 聞こえる? 準備ができたよ!)
(ああ、こっちも作戦を詰めていたところだ! 作戦をすり合わせるぞ!)
(何するかわからないけどボクもがんばるよぉ~)
(ぶっ──!? こりゃまた予想外で頼りになる仲間が来なすったな……)
共に冒険し、共に食事をし、同じ時を過ごした三人の目的意識が今一度一つに混ざり合おうとしていた。
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