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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第55話 覚悟の中身

 6月9日 水の日 13時45分


「お待たせしました!」

「早かったわね……保管されている物が目の前にあるって状況。正直言って現実味がないわ、それに盗んだようなものなのよね……」


 無論アリスィートもミュージアムでソルを拝見している。記憶と同じ物が目の前にナーシャに掴まれて。ただ、一方向に揃えると円盤のような形になることも初めて知った。


「国が滅びる可能性を考えれば論ずることは不要です。それにここからが本番ですわ。警備の方達が来る前に術を発動できれば私は後はどうなっても構いません」

「……ここから西門まで約800mと言ったところよ。これ以上の接近は奴らに気付かれる、ここがベスト」

「わかりましたわ。まずは……」


 右手と左手、指の形を変えながら印相を結び。


「口寄せ──! 伽羅(きゃら)!」


 両手を地に付けると、魔法陣が描かれ光と共にナーシャの使い魔アルラウネの『伽羅』が鉢植えに収まった姿で出現する。


(……召喚術!? 詠唱じゃなくて指の組み合わせ? 少なくともライトニアじゃ聞いたことの無い構築法……)

「使い魔が転送陣の上にいることが条件ですからあまり動かない伽羅には向いているんですの。それよりもソルの設定が大事です。え~と……ここで設定を調整できて……ここが光量で……ここが温度……よし!」


 設定が完了したソルは円盤型の形態から、内側から外側に広がるように五つの輪に分離し回転し、球体を描く。続いて5m近く上昇すると発光を開始し西方向に向かって温かい光が降り注がれ、狐の嫁入りのように日差しの中に雨粒が煌めく。


「確かに温かいけどこれじゃあ範囲を狭めてもあいつらを倒すなんて不可能ね」

「最初に話した通り、これはあくまで術の精度を最大限に高める環境を整えるにすぎませんわ。続きは──伽羅、こちらを食べて」


 懐から取り出すのは飴玉が入っていそうな包装紙。伽羅は中身を理解しているのか視界に入ると喜々として指に擬態しているツルを伸ばして絡み取る。

 包装紙に収まった球体の錠剤を噛み砕くと極上の料理に舌鼓を打つような恍惚の笑みを浮かべる。中身は単純明快、植物系魔物が喜ぶ特製の肥料。いくら美味しそうに食べてると言っても人が食べたらお腹を壊す。


「伽羅の花が咲き次第、術の発動の入ります。オールプランターを五個スターターとして錬金術と魔術の複合技術、錬金魔術を使いますわ」

「その効果を高めるために植物系魔物の伽羅に手伝ってもらう。だったわね」


 伽羅は頭の蕾が主張する通り植物系魔物。故に植物を操る魔術に長けている。ナーシャの練度が十段階中三程度だとするなら伽羅は八程度、倍近く差がある。

 ここで鍵となるのが主従の合体魔術。本来なら三程度の威力の術しか出せないが、使い魔と協力することで、使い魔の得意属性の練度を上乗せすることが可能となる。

 つまりは十一。理想的に行けばの話ではあるが、身の丈以上の術が発動できることは疑いようの無い事実。


「ええ……けれどアリスィートさんには危険な役目を与えてしまい本当に申し訳ないと思います」

「それができるのが私しかいないなら、私がやるしかない。じゃなきゃ私がここにいる意味なんてないからね」


 現在の位置から西門までの距離800m。数多くの術が存在するがこの距離を届かせる術は少ない。ホークのように遠距離武器に乗せて放つならいざ知らず。

 門の近くでオールプランターを使い門を植物まみれにして塞ぐ。これは道中のアメノミカミの分体が危険すぎて現実的ではない。倒しながら向かうにしても数が足りるか不明である。

 そこで考えられたのは術の発動と同時にアリスィートはヴァンロワに乗って先行する。200、400、600の地点で追加のオールプランターを発動し術の射程距離を伸ばす。最後800m、門を塞ぐために追加のオールプランター。

 個数で言えば5ー4ー4-4ー4の合計21個。二人が作成し持ってきた半数近くはほぼ失い余りは1個。


「前に伸ばす事と門を塞ぐ。この二点しか考える余裕はないと思います。なので、手前勝手ながら信頼させて頂きます」


 つまり、アリスィートは分身体蔓延る西大通りを駆け抜ける必要がある。背後から迫る術から逃げながら、目の前の水人形を回避し、オールプランターをタイミング良く起爆させる。


「戦わず避けるだけならヴァンロワで余裕よ。この子はとても賢いから私が指示しなくても避けてくれる。子供の頃から共に過ごして来たんだからいらない心配よ」


 顎を撫でると「グルル」と低い唸り声を上げ、アリスィートの頬に自身の頬を擦り付ける。何度も繰り返された動作であり、育まれた親愛の所作。偶に竜鱗によって頬が傷つくのもご愛敬である。


「それよりも1つ聞かせなさい。何故ここまでするの? あなたは留学生の錬金術士として去年ここにやってきた。勉強の為だけなら異国の問題に首を突っ込もうとはしないはずよ、自分の国に戻っても誰も文句は言わないわ。なのに、強盗までしてその上強力な魔術を使おうとしている。はっきり言って異常よ、愛国心とは違う何かでここまで動けるものなの?」


 強盗の罪は錬金術士であってもゆるがせにされることは無い。名誉を失いかねない暗い未来。その上で自身の身体を痛めつけるような行為。

 納得する理由が欲しかった。何を覚悟にしているのか知りたかった。


「……何ででしょうかね? ここが無くなったら流浪人に戻ってしまう。だから友達の為。けれどやはり、お姉ちゃんの誇りとしてジョニーさんには負けていられないんですのよ!」

「…………はぁ!?」


 言葉通りに解釈するなら、長男が奮起する姿に長女が競い合っているということ。末っ子のアリスィートはその言葉を理解するには厳しかった。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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