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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第51話 合流

 6月9日 13時29分 レーゲン地区西門付近


 レインが戦線復帰する少し前、激流を受け止めたキャミルはと言うと。

 障壁が崩壊する直前、ケインに抱きかかえられながら道路脇に向かって跳び、間一髪で直撃を免れる。しかし、背後で起きた激流が巻き起こした衝撃を防ぐ余裕はなく、容赦なく吹き飛び低木を折りながら転がり森林の中に放り出されることになった。


「大丈夫っすかキャミルせんぱ──って!? 何か全身に模様? 痣? 何かが広がってるっすよ!?」

「────」


 ケインが身を挺して守ったおかげでキャミルに大きな怪我は無い。しかし、全身に広がる異質な黒き紋様。魔の知識に疎いケインには狼狽えることしかできない。

 彼女は全身が錆び付いたかのように動きが鈍くなっており口を開いても言葉が出ず、震えも無いナメクジの如き鈍重な動きで自分の指先を腰のポーチに向ける。


「この中っすか? ……これ? いやこっちっすね?」


 ケインがポーチの中を探すと、魔石や札と言った魔道具の中に一際輝く虹色の試験官を発見。

 それを取り出しキャミルに見せるとゆっくりと頷き、口を開ける──「飲ませろ」という意志表示だとすぐに察し試験官の蓋を開けてゆっくりと流し込む。すると、全身に巡っていた模様が引いていき。


「──ふぅ……助かったわ」

「なにがあったんすか……あの模様普通じゃないっすよ? 術のリスクとか言うやつですか?」

「今はそんなことを気にする場合じゃないでしょ──なんだかよく見えな……メガネも吹き飛んでしまったのね」


 視界の不明瞭さに違和感を抱き目元に手を当てると普段身に付けている愛用のメガネが無い事に気付く。周囲にそれは無く余波に巻き込まれてどこかへ消えてしまった。

 裸眼だと視力は0.1以下、全ての風景に薄いモザイクがかかり1m近くの物でも文字が認識できなくなる程の近眼。失くせば普通に生活することもままならない。


「この戦いが終わったら予備を追加しないと……」


 予想できる障害故に焦る素振りを微塵も見せず、過去のメガネを惜しむ事無くポーチよりケースに収まった同型色違いのメガネを取り出し装着する。

 彼女は常に予備は持ち歩いている。無論同じ度数で。


「これからどうするんすか? 門は壊されて状況的にテッさんも無事かどうか……」

「残念だけどここまで消耗した時点であいつらと戦っても足を引っ張るだけ。後方支援に回るべきね。アメノミカミの状況だったりテツオがどうなってるか確認しておかないと」

「了解っす」


 見つからないように歩くため、進む道は大通りから一つ跨いだ廃墟に挟まれた細道。

 この近辺には分身体は存在せず安心して進めるが、出会ったらまず勝てない。そんな恐怖と隣合わせに周囲を細かく散策していく。


「あっ──!」


 壊れ無造作に重なった風穴の窓より、一瞬見過ごしそうになったが思わず二度見。引きずるように歩く見慣れた男の姿。


「すぅ~……はぁ~……」


 時折歩くのを止めて大きな呼吸を何度も繰り返し、体力を少しでも回復させようと試みる姿。

 無事とは言い切れない姿であっても生きていることに安堵しすぐに駆け寄る。


「あっテツオ! 生きてたのね!」

「キャミルさん……それにケインも無事だったんですね」

「──って! 危ないっす!!」


 そんな再会を咎めるように水弾が鉄雄達目掛けて連射される。道一つ違えばアメノミカミの領域。防ぐ暇無し、先に気付いたケインが肉壁となるために二人の前に立ちふさがるが。

 直撃する前に全てが粉雪と散る、三人の盾となるようにレインが全て切り裂き氷へと変えた。


「ケイン、騎士ならば手を広げてただ壁になるんじゃない。守護の型も習ったはずだろう?」


 かき氷のように積もる粉氷、水の形質を保ったままであれば攻撃の種となるがアメノミカミが操作できるのはあくまで水だけ。二の矢を封じれる点でもレインは相性が有利──いや、有利とするために鍛えた。


「レイン!? 何時の間に立ち直ったのよ!?」

「つい先程だ。とにかく謝罪も文句をぶつけるのは後だ。テツオを連れて急いで離れてくれ」

「遅すぎるわよっ!! この戦いが終わったら中央広場のポンドで一番高いタルト奢ってもらうからね!!」

「……ああ──!」


 そして、3名が離れると分断するように氷の障壁で道を塞ぐ。

 アメノミカミ相手にこの程度の壁は意味は成さない。が、それは強い術を使えたらの話。認識不可の瞬間凍結がレインの手札に残っている以上。壁を壊す攻撃それ即ち、防御の水量を減らし負けの一手となる。

 もう戦況は鉄雄と戦った時と同じではない。雨の操作精度は落ち、神域魔術で周囲の水量は殆ど消えた。質量に任せた大規模攻撃の連射は不可能。


「あの店か……今も尚潰れずにいるとはな──」

「王都の中で指折りの人気店だ。貴様が正体を現し罪を償うなら招待してもいい」

「経営ではなく物理的に潰れかねない状況に思いを馳せただけだ」


 水の鞭と氷結の剣が再びぶつかり合う。レインに触れる水滴はすぐさま氷の粒へと変わり水の枷は作られない。アメノミカミに触れる氷結はすぐさま分離され連鎖氷結を防ぐ。

 本体の性能は確かに低下した。しかし、大量の分身体が王都に出現し動き出している。本体を破壊すれば全てが流れ落ちる。

 切り札はレインにあれど、使えるのは1枚限り。アメノミカミはそれを防ぐ術を持っている。使うタイミングを間違えれば無意味と散る。加えて、発動に必要な魔力を下回れば使えない。

 それを両者理解している。レインの魔力が時止め+絶対零度(アブソリュート・ゼロ)の必要量を下回れば王都崩壊に拍車が掛かる。だが、アンナが間に合えば戦いを終えられる。

 言うなれば魔力と時間の削り合い。


(面倒だけど呆けた私の罰でもある!)

(面倒だが、これこそ望んだ戦いでもある!)


 考えることは両者同じでもある。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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