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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第47話 18分

 6月9日 水の日 13時02分 錬金学校マテリア調合室


 一方、対アメノミカミの切り札を作成する者達はというと──


「よし! 完成した!」

「こちらも出来上がった!」


 両者共に額に汗を浮かべながらも達成感のある表情を浮かべm順調に必要となる調合品の作成に成功していた。

 丁寧に机に並べられる黒き球体『ブラック・ドーン』と8の字型の調合品。


「初めてみるものだけどこれに名前はあるのかしら?」

「完全即興オリジナルだからね、名前はまだない。まあ今は繋げるものとして『コネクター』と呼んでおけばいいさ。それよりアンナ君の方はどうだい?」

「ふぅ……だいぶスッキリできた! 2人ともありがとう!」


 タイミング良く部屋に入るは糊のきいた制服に身を包み、疲労の抜けた顔色、乾き整えられた髪型。十全のアンナが戻って来た。


「1度ボクは着替えを戻してくるね。何かあったらテレパシーで呼んでね!」

「わかった。ありがとうセクリ!」


 主を完全復活させたことで一度その場を後にするセクリ。使用人技術が初めと比べて異様に向上したことがアンナの姿で証明されている。誰にも気付かれないさりげないホスピタリティがアンナを立ち上がらせた。


「後はその3つを混ぜ合わせると完成ですわね……アンナさん、お任せいたしますわ!」


 最後に『アブソーブジュエル』が置かれ、机の上に並べられた戦いを終わらせる鍵となる三つの材料。


「こっちはこっちで作れるだけ作ったわ。今作れるだけのオール・プランターはこれが限界。個数にして丁度40。起動して5秒後に発芽。注文通りにできてるはずよ」

「これを騎士達に配って使わせればいいわけだね。ふむ、これだけあれば勝ち筋の幅も広がるのではないかね?」

「だったら壁上にいる防衛部隊に渡すのが得策ね。大砲部隊が展開されているはずだから人の手で投げるよりも距離は伸びブレも少なく済む」

「それじゃあ師匠には1度それを運んでもらって──」

「こらっ! 君達! ここで何をやっているというんだ? ここは今使用禁止のはずだろう? しかもなんだこれは!? 何をこんなに!?」


 マテリア教師を示す校章を胸に付けたスーツの男が調合室に踏み入る。明確な敵意の孕んだ声が意識外より響き、生徒勢は思わず身体を震わせた。


「閉めたはずの部屋に入っていく姿が見えたから何かと思えば……」


 アンナとセクリが保健室から調合室に向かう間、男は階段を降りる最中偶然目で追いかけ、普通にスルーするところだったが、部屋に入った瞬間思わず二度見してしまった。


「気付くの遅いわよね……」


 小声で漏らすアリスィート。しかし状況は最悪とも言える。


「ここまでバレなかったのが奇跡とはいえ、今が正念場なのに……」


 ここで計画が頓挫してしまえば全てが台無しになる。可能性の芽が潰えてしまう。警備や教師が押し寄せる事態となれば調合自体も行えない。


(この方には眠ってもらうしかありませんわね……けれど、見ている人があまりにも多いですわね……)

(こんなこともあろうかとぼくは麻痺薬のスプレーは常備している。とはいえ、マテリアの教師か……迂闊に手を出せば戦争の引き金になりかねないじゃあないか……)

(この人も仲間に引き入れることができれば……いや、時間が本当に無い! 1時間経とうとしている今あの人も限界を迎えているかもしれない……!)

(あれ? もしかして私も仲間の1人と認識されているんじゃ……? そうなったら不味い! 品行方正成績優秀を重ねて来たのに。大きな汚点ができる!? 何としても誤魔化さなきゃ!)

(力ずくで解決できそうにない……!)


 誰もが尻込み、二の足を踏む中、サリアンは境界線を越えて前に躍り出た。


「まあ、落ち着いてください。私は騎士の1人なのでこの場はお任せください。まあ、まあ、まあ──」

「騎士であれ誰であれ、この状況下で調合室を利用することは問題でしかない! 希少な材料も交ってる素材室に──こら!? 押すな! やめないか! 聞いてるのか!? おい!! ちょっと!? 話を──」 


 サリアンは力づくで扉の向こう側へと男を押し出すと扉を閉じて、自身をつっかえ棒となり扉を完全に塞ぐ。


「──急いで向こうの扉も閉じて! 鍵を持ち出される前に物理的に開けられないようにしなさい!!」

「しっしょう!?」

「あなたは調合に入りなさい! 説得する時間も惜しい! 横道逸れずにまっすぐに進みなさい!」


 迷い無くハッキリと的確な指示を送る。


「椅子で埋めてつっかえ棒としよう! ナーシャ君、アリス君! 急いで運びたまえ!」

「了解ですわ!」

「なんであんたが指示してるのよ! しかもあんたも素直に従うな!」

「こう見えてぼくはクタクタなのだよ。余裕がある君達に任せる他ないじゃあないか」

「すまない。男の僕が動くべきなのだけど消耗が激しくて……」


 調合難度が上がれば錬金術士に掛かる負担も大きくなる。確実に短時間に行おうとすればより大きく心も体も蝕む。そのルールに例外は無い。これから行うアンナの調合にも関わる。


「くそっ! 応援を呼ぶからな! 何をしてるか知らないが私が正義だ! そこで大人しくしているんだな──!」


 捨て台詞のように放たれた言葉が遠ざかっていく。

 この調合室の扉は引戸式、開いた扉を収めるスペースにパズルのように直方体型の椅子を隙間無く埋めて、試しに扉を引いて見るが指一本通らないハマり具合に収まった。


「はぁ~……すぅ~……よしっ! はじめるわ!!」


 後顧の憂いを排除し、呼吸を整え、お膳立てされた最後の調合に取り掛かる。

 使用する釜は『小型錬金釜』。錬金液は『普遍錬金液』。

 使用材料『ブラック・ドーン』『アブソーブジュエル』『コネクター(仮)』

 調合室の中には多少の魔力は漂っている。完全な魔力消失下調合ではない。掛かる時間も成功も何も保障されていない。行える者はアンナ・クリスティナただ一人。

 時計が指すのは13時10分。

 ただ確実なのは不可避の破壊の鐘が鳴り響くのは18分後であるということだけ。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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