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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第41話 規格外の強さ

 6月9日 水の日 12時40分 レーゲン地区大通り


 アンナが対アメノミカミ特効道具を作成する時間を稼ぐ為にレクスと精神を交代した鉄雄。

 これまで三度、彼女(レクス)の圧倒的な力の恩恵により窮地を乗り越えて来た。その力が描く光景は見る者の予想を外した彩りであった。


「ここまでっ……! ここまで差があるものなのか!?」

「玩具にしてはちと上等じゃと褒めてやろう。わらわの訓練相手としては申し分ない、血も出なければ臓物も無い、人を傷つける訳ではないからこ奴の制限に掛からず刃を振るえる。生物相手なら多少本気を出せば戦いにもならんからの」


 両者健全。立ち位置もほぼ変化無し。だが、激戦の爪痕は荒々しく刻まれている。周囲の建造物と樹木は砕き流され泥地へと変貌し石畳の大通りで分割する戦場が作られてしまう。

 30分近く、この中で激闘が収まっていた。


(このアメノミカミでできる術はほぼ出し尽くした……魔力も水も全てが潤沢……なのに……! 何故片膝一つ付けられない!? 有効打一つ当てられない!? 黒霧で包まれてない今!? 何が見えている? それとも全て理解しているのか?)


 数はクラゲ、太さは大樹、そんな水の触手も全て捌かれる。平地をうねる大波も空歩を模倣され悠々と回避される。

 最低限の黒霧による水触手や砲撃の無力化。何故途中で術が崩れるか分からない無駄の無くさりげない分解。

 無駄に踏み込むことはせず、背後は取らせない。鋭い視線はコアを捉え、横をすり抜けようとすれば進行先に黒霧を展開し網のように絡め、消滅のスラッシュストライクでコアを狙う。

 他にも魔力吸収(ドレイン)の霧を鞭や触手のように変形させ、水の巨体を突き刺し、薙ぎ払い、次に繋がる魔術的布石も分解され、全ての攻撃が水かけ遊び程度に威力が激減されられていた。


(……これまでの惨劇もレクスという者が? だが、あまりにも立ち振る舞いが歴史と違いすぎる!?)

「とても割って入っていけるものじゃない……何だったんだあの時の戦いは……」


 この光景に息を呑むのは敵だけではない。

 王都外壁上に待機する防衛部隊隊長ホーク・ジャスティは二名の戦いを目を皿にして全て観察していた。

 思い出すのは初めての顕現。

 訓練場を全て覆った黒霧、あらゆる魔術を封じ、遊び感覚で最高の防具を砕く。レインですら赤子を捻るように無力化された。力任せに振るうだけで全てが解決する暴力の化身。それがレクスだとあの場にいた全員が判断する暴君。

 ──のはずだった。ホークの目に映るアメノミカミの魔術を鮮やかに捌く姿はとても同一人物とは思えない。

 余裕の笑みに動きは流麗にして勇ましく。激流を細波のように御する舞姫。

 無駄な動きがない戦いのお手本、完成された武に畏怖だけでなく美しさを感じるように、見惚れてしまった、安心してしまった。敬意を抱いてしまった。

 防衛部隊は敵の戦力を正しく理解し殲滅する守護の要。読み損なう節穴はいない。二ヶ月前よりも力は確実に減った。だが、強さでいえば現在の方が格上。


「カミノテツオの肉体はここまで優れていなかったはずだ! 手を抜いた状態でも息を切らす男のはずだ! なのにどうして!?」

「ほぼこれが初実戦の奴がまともに戦える訳なかろうが。緊張と焦りで消耗が激しすぎただけ。こ奴の肉体はあの程度で終わる程貧弱ではない。わらわと替わればこの通り、体力の回復すらできる。知っておるか? ストレスがあるとパフォーマンスが著しく低下するらしくての、こ奴は凄まじく甘ちゃんなんじゃよ。破魔斧を操るのに心に厳重な鍵を掛けて律しておる。「自分が努力して手にした力ではない」というしょうもない理由でな。それにわらわという最高峰の力を宿しとるおかげで自分の成長にまるで気付けておらん」


 呼吸も安定し顔色もよく顔に滴るのは雨粒だけ。基礎が正しく積み上がってきたからこその余裕。走る速度も持てる荷物の量も反射神経も入団前と比べて大きく変化していた。

 ただ、周囲の人間との差があまりにも大きかった、魔力による既知とした人間の限界を軽々と超えた身体能力。それに奢らず鍛え上げられた鋼の肉体。成長の実感が無い程、象と蟻の差があった。

 この二ヶ月近く重ねてきた努力は幻ではない。その事実は鉄雄だけが知らなかった。


「どうやらこちらの認識が甘かったと認めるしかないようだ。けれど君はこのまま時間稼ぎで終わるつもりか? こちらとしてもありがたいが」

「というより、どう終わらせるか考えとるところじゃな。アンナが必死に駆けつけるタイミングで貴様を無に帰して、栄誉を授かるか、不利を演じて騎士共の目の前で逆転劇を演出するか。貴様はどう思う?」

「……未来は変わらない。彼女が作る道具は我に届くことはない。君がいくら力を振り回しても決して届くことはなくなる。大人しく我に(くだ)ってくれると助かるが?」

「はっ! よく言うものじゃ! 姿を隠し、表情を隠し、声を隠し、戦場に本人はおらん。そんなに正体が暴かれるのが恐ろしいのか? それとも、絶対に安全でないと一方的に攻撃できる立場でないと安心できない小心者かぁ? そんな小物の言葉に格が宿る訳がなかろう! 子供相手の無双劇がやりたいのなら頭の中で簡潔しておけ」


 言葉に籠る拒絶と呆れ。施しのような言葉はもはや命乞いにしか聞こえない。

 状況は逆転したと言っても過言ではない。鉄雄がどうにかアメノミカミに付いて行くのではなく、アメノミカミがどうにかレクスの隙を突いていく形に変化していた。


「全く……こんなのに付き合っておったらわらわの格も落ちてしまいかねんな。アンナには悪いがここらで幕を引こうとするか──」

(少し待ってくれ……何かおかしくないか……?)


 レクスに待ったを掛けるは立場が逆転し霊魂の状態で半分斧に収まっている鉄雄。


(わらわとお主の力量差のことか?)

(別にそれは分かっていたからおかしくない)


 無論、レクスが稀に助言したように鉄雄と交代した状態でも念話(テレパシー)で意思の疎通ができる。


(言うてみよ)

(まるで必死さが感じられない……あれが作り物で操縦しているから死ぬ心配は無い。だとしても、敗北に変わりない、十年越しの侵攻が終わるっていうのにだ)

(確かにわらわは手を抜いてはおるからまだ勝てると錯覚しておるのではないか?)

(それが分からないぐらいあいつの目は節穴なのか?)


 レクスの中から戦況を分析していた鉄雄はこの状況に疑問を抱いていた。敵であれ戦いを演じ言葉を交わした相手。漫然と戦局を見守っていた訳では無い。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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