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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第38話 抗う者達

「嘘でしょう……!?」


 ジョニーが雨を克服することなど有り得ない。

 アリスィートは知っている、ジョニーの事情を。治める為の土地も人もいなくなり、当主も亡くなりガイルッテ家は貴族ではなくなった。落ちた貴族を保護する者などいない。というより当時の状況はひっ迫していた。

 錬金術の才があったからこそマテリア寮での生活が許されていた。一家が路頭に迷っていたかもしれない。失った財貨を確保する為に自身のトラウマと向き合い乗り越える心を磨く時間は無かった。

 そんな綱渡りな人生を歩んできた男が、目の前で曖昧な作戦に相乗りするかのように駆け出した。


「雨の日でもいつものお兄ちゃんになった……!」


 兄の傘となっていた少女の顔は太陽のように明るい笑顔を見せる。

 晴れの日は頼れる兄で貴族の肩書がなくなってもその心は失わず、日々邁進(まいしん)する正義感ある男。

 しかし、雨が降る日は必ず部屋から出ず、無論登校もしていない。陰鬱な表情で父の敵へ復讐する想いを胸に雨の音を耳に届かせないようにずっと錬金術に没頭する。

 そうして籠っていた日々も無駄では無い。錬金術を磨いた日々は確か。けれど、雨に打たれても前に進めなければ無用の長物。たった今、アメノミカミに立ち向かえる戦力の一つと成った。


(彼が手を貸すからって、私には関係ない……お父様ができなかったことが私にできるわけが……でも──ここで待って、他人の結果を受け入れるだけでいいの?)


 強く握り締める拳は何故か。置いて行かれた気持ちになるのは何故か。彼女達の方が正しいと思うのは何故か。貴族の義務を放棄しているのではないか? アメノミカミとは無縁の新参者が最前線で核心に近づいているのではないか?


(ああ~~! もうっ!!)


 焦りか不安か責務か、爆発した感情がアリスィートの足を動かし雨粒に打たれながらマテリアへと駆けださせた。



 6月9日 水の日 12時13分 錬金学校マテリア調合室


 避難場所に設定されているマテリアに身を寄せる人々は多く、普通科や錬金科の教室で事の成り行きに身を委ねるしかなかった。

 学校の中でも調合器具が数多く置いてある調合室には安全と素材保護の観点から避難所として解放されていない。が、騎士団調査部隊の肉体言語(マスターキー)により錠は開かれアンナ達は足を踏み入れていた。


「オールプランターと言っていたけれど、あんなお祭り用植物爆弾が役に立つというのかい?」

「水と魔力を糧とする植物を素材に作るとアメノミカミの体を侵食しながら活動を阻害できるの! これは確認済みだからだいじょうぶ!」


 既知の事実だが、アメノミカミはコアを除けば水しかない。膨大な魔力が骨子となり水の身体を支えている。


「成程、理解したとも。しかしそれでは倒すに至らないのでは──いや、そうか! 彼の能力と併せれば排除できる牙となる訳なのだろう?」

「そういうこと!」

「ですが、鉄雄さんは今時間稼ぎに専念しているのですよね? 作成して戦線復帰しても彼が戦えるだけの余力は……」

「うっ……! それは……」

「今更ながら彼はどれくらい持つのだろうか?」

「多分今はレクスに交代しているから当分はだいじょうぶだと思う。でも……1時間ぐらいが限界だと思う」

「中々厳しいですわね。本気で調合すれば須臾(しゅゆ)程の時間しかありませんわ」


 破魔斧の力はアメノミカミを倒すのに必要不可欠な鍵。アンナが救援に入った時点で鉄雄の体力は消耗していた。王都に向かわせるために大技を発動した。これ以上を求めることはあまりにも酷であると否が応でも頭に浮かぶ。問題は鉄雄以外に扱える人間が他にいないということ。厳密に言えばライトニアにも存在するが、信頼足り得る者かと言えば否である。


「となれば計画を1歩さらに奥深く進めるべきだろうね。『オールプランター』を増産すると同時にアメノミカミに対して特効道具を作成する!」

「オールプランターだけじゃ足りない?」

「最悪を想定しなさい。鉄雄がやられた時点でこの計画は破綻しかねない。それに、アレのことだから対策が出来上がっている可能性があるわ」

「え──!? たった1個で?」

「相手は憎たらしいけどあなた達を大きく凌ぐ格上の錬金術士。一度で仕留められなければ次は無いと考えるのが妥当」

「なら、そんな相手と戦ってるテツにわたしも負けてられない!」


 従者が戦っているのに主が不甲斐ない結果を出す訳にはいかない。そんな勝気な表情を浮かべ手の平と拳をぶつける。


「決まりだ! ナーシャ君はひたすら『オールプランター』を作成してくれ。アンナ君は奴と相対して経験を活かしてより効果的な道具を閃かせたまえ。無論それには天才たるぼくの持つ頭脳を貸してブーストさせるとも!」

「──そこに、僕の執念も加えさせてくれ」

「なっ!? 君は!」

「たしかジョニー? 手伝ってくれるの?」

「勿論。妹と約束してくれた彼を都合の良い英雄にはしたくないからね。雨に怯えてはいたけど奴を倒すための案はいくつも考えてある。足を引っ張りはしないよ」


 彼女達にとって予想外の援軍。

 薄く濡れた髪をハンカチで拭きながら、堂々と調合室に踏み入れる。


「なら君もアイデア出しに協力したまえ。見え方の違いが弱所を見抜くきっかけになるかもしれないからね」

「手が足りないようなら私も参戦してあげてもよくってよ?」

「丁度いい! アリス君はそっちで『オールプランター』を作ってくれたまえ」


 特に語る言葉も無く、調合準備をしているナーシャの方へ指を向ける。


「この私をここまで杜撰に扱うなんて後悔するわよ……それにこれが材料……? 泥塗れだし触手みたいなのが蠢いてるじゃない!?」

「噛まれないので大丈夫ですわ。調合自体はアリスさんならすぐにできると思いますわ」


 ナーシャの両手は土に汚れ、制服にも跳ねた泥が付いている。机から零れ落ちそうな程重ねられた栄養満点の腐葉土、水が滴り落ちる水性植物の根や葉、大人の腕並みな巨大花のツル、ハッパ草。室内にいながら土の匂いがこれでもかと鼻に付く。

 汚れ一つ無い制服に泥が付くことに逃れることは不可能だが。彼女は自棄(やけ)になりながらも手を伸ばした。


「あぁ~もうっ! やるわよ! 貴族だからやるべきことをやるわよ!」

「よろしくお願いしますわ! 一人ではどうも蚊帳の外な気がしていましたので」

「本当にアメノミカミを倒せると思ってる? あの子の蛮勇に盲目的に付いて行ってるだけじゃないの?」

「蛮勇でもここは賭けるべきだと思いますわ。それに、ただ時が過ぎるのを待つより私も何かをしておかないと何の為に錬金術を手にしたのか分かりませんもの」


 黒板の前に集まり対アメノミカミ特効道具の案を模索するはアンナ、ルティ、ジョニー、サリアン。『オールプランター』の作成に集中するはナーシャ、アリスィート。

 鉄雄がレクスと交代し、戦闘開始したのは5分程前。予想限界時間は残り「55分」──

本作を読んでいただきありがとうございます!

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