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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第34話 雨を置き去る疾風の如く

 6月9日 水の日 12時03分 レーゲン地区 大通り


「お前はこの程度じゃ終わらないだろ……!」


 水が渦を巻き湧き上がり、繭を形作るように噴き上がると。人の上半身を模した水巨人の形態となり再臨する。


「理解してくれて嬉しいよ。ここまで通じ合っているのなら我らは良き友になれると思わないか?」

「俺は名前も明かさず顔を見せない奴とは友達にならないと決めているんでな」


 心の琴線に一切触れることの無い誘いに、興味の無い態度で受け流す。それ即ち敵対意思の継続証明。だが、怒りは微塵も無い。原動力は誇りと約束。

 落ち着いた表情で溢れさせる黒霧。今度は鉄雄がアメノミカミの防波堤となる。


「ともあれこの状況は想定以上だが想像していた展開の一つだ! 君は間違いなく我を脅かす。しかし、一手が足りない! 故に負けは無い! 予想通り彼女も我を攻撃せず逃げに徹した。最悪には常に最善の対処法が出来上がっているのだからな!」

「ご高説を垂れていてもこれで詰み。この状態なら精々形を変えることが限界のはずだ。アンナは無事に王都に到着できる」

「そう、それでいい──」


 アメノミカミの全身を黒霧で覆い尽くす。この時点であらゆる遠距離魔術は封じられた。コアから離れるほど精度も魔力密度も下がる。何をしても離れていく二人に追いつく術は無い。

 サリアンはアンナをお姫様抱っこで抱え込み、王都クラウディアに向けてを水溜まりに波を立てる俊足で駆け抜けていく。


「見事な連携(キャスリング)だと褒めるべきかな? ただ、彼女に我を倒せる道具を作れる可能性は残念ながら0だ。不意の一撃、想定外の効果、確かに驚いた。だが、次は効かない。先程が君に与えられた最初で最後のチャンスだった」

「強がりはよせ、言葉にすると軽くなるぞ?」


 鉄雄を満たすは自信と余裕。信頼できる相手に自分の未来を賭けている。間違いなく勝ち筋を手繰り寄せられると実感していた。

 だが、アメノミカミから聞こえる声も余裕に満ちている。本当に大したことでも無いような子供の遊戯を褒めるかのような寛厚(かんこう)さを。

 

「我が言う0は何も調合の腕前だけでは無い。残念ながら、そもそも計画自体が不可能だということだ」

「っ!?」


 脳裏に浮かぶ不可能と同時にもしもの恐怖。しかし魔力吸収(ドレイン)の黒霧で覆っている。この時点で魔術を発動させるための術式は描けない。必要としない簡易魔術ですら威力は激減。ただの水鉄砲でも二人に当てるには光線レベルの威力を放たなければ届かない。

 それでも、鉄雄は警戒を強める。アメノミカミに対してある種の信頼を得ている。こちらの攻撃全てに対応してくる尋常じゃない引き出しの数、それを破魔斧の力で無理矢理閉じているのが現状。しかし、抑えてない場所がまだある予感。

 黒霧の密度を高めもはや液体状の魔力吸収(ドレイン)で包み込み水の巨人を黒の塊へと変貌させる。術の効果は零れ落ちる水量の増加が物語っている。穴は無いと自負できる。


「──槍雨(レインランス)


 ハッタリ。術名を唱えたところで何も起きない。妨害に関しては絶対の自信はあった。度重なる実験で証明済み。これは鉄雄よりも魔術に詳しく理解がある者と共に証明した。黒霧内では詠唱は意味を成さない歌うだけ。術名を唱えても不発に終わる。

 けれど、言葉と同時に不自然に止んだ雨に寒さとは違う悪寒が肌を走り思わず振り向いてしまう。

 空に浮かぶ黒雲より、離れていても見える程大量の大きな水の柱がつららのように姿を現し、城門近辺目掛けて降り注ぎ始める。


「──嘘だろっ!?」


 研究の日々を正しく導き出した結果を裏切る魔術が発動した。絶対の自信が手折られ大きく狼狽える。


「我がいる時点で門は開かない、であれば跳び超えるしかない。それを可能とする彼女の豪脚と空歩。背後から追うのは愚策。なら通り道に落とせば勝手に当たりに行ってくれる」


 落ちる先は最短距離の通り道をなぞり、加えて城門付近は瀑布のように密度を高めて。


「無論、足を止めれば落水を利用し分体を生成するまで。君はどうする? 最悪を備えて後退しなくていいのかな?」


 鉄雄がいなければ水に捕まった時点で詰み。しかし、二人の最悪に備えて振り返り走り出せば一気に戦線も下がる。そのまま王都に突入される事態になれば被害は建物だけに留まらない。


「……あの人は俺の先輩でアンナの師匠だぞ? 信じて俺がやるべきことをやるしかないだろうが……!」

「そんな不安な顔でよく言えたものだ。我は君が動く動かないはどちらでも良い。ここで君とどんな結末を迎えるか見届けるのも一興か」


 鉄雄はその場から動かずに背後に注意を向けながらアメノミカミに破魔斧を向ける。その選択に対しアメノミカミは攻めの気配を見せず二人に訪れる結末を静観する。

 何故ならこの時点で鉄雄が選んだ悠長な不動の一手は明確な悪手だと判断したから。最悪を想定するなら動かなければならない。この位置から黒霧は届かない、失敗してから動きだしたなら背後より迫るアメノミカミの猛攻に対処しなければならない。

 何も作り上げる分身体が襲うのはアンナ達にこだわる必要はないのだから。



「師匠!! 空から大量の水が!」

「見えてる!」


 飛ぶように地を駆け、王都の門が徐々に大きくなっていく。同時に天より落ちる大量の水の槍も近づいて来る。直撃すれば確実に行動不能に陥るという最悪の未来予想図。


「進めるルートは──」


 視野を広げ見通しても、落下位置は的確に走行ルートを狙っていた。適当にバラ撒いていない。

 綺麗に最速で最短を進もうとすれば水の槍に行く手を阻まれ直撃する。多少左右に動いた所でその先にも幾本もの水塊が進路を遮り、大通りから逸らそうと順路を誘導されてしまう。

 足を緩めれば飛び越えるまでの速度が足りなくなる。アンナという重りを抱えたまま飛び越えるにはサリアンが出せる最速に至る必要がある。なにより空中で一度勢いが死ねば届かず後は落ちるだけ。

 壁に近づく程水塊の数は増える。壁を垂直に登ろうとすればわざわざ当たりに行くようなもの。地上から曲線を描くように飛び越えなければ水柱を避けられない。

 加えて踏み切りが速ければ空歩と合わせても壁を越えるだけの高さが得られない、遅ければ進路が全て塞がる。

 水が落ちてしまえば攻撃性能はアメノミカミと同等の水の分身体が襲い掛かる。その時点で計画は破綻。

 だが、サリアンはこんな頭脳的なことを考える女ではない。調査部隊の役割分担は決まっているその役目はキャミル。サリアンは特攻、持ち前の危機回避能力と身体能力で場をかき乱す。

 故に進まなければならない道が決まっているなら──


「見えたっ──!!」


 頭ではなく肉体の限界を超える。

 強く石畳を踏み込んだ瞬間、破裂音と共に地は爆ぜた。その轟音は鉄雄達の耳にも届き。

 地に落ちる最初の一本(デッドライン)を背後に置き去りに、空を踏み込んだ瞬間にガラスが割れる破砕音と共に駆け上がる。

 その瞬間──


(落下本数は……二十三本、このまま進んで天端(てんば)と重なるのは四本。一瞬停滞する必要がある。壁は念入りに妨害されて着地は不可能。となると……あった──)


 一秒にも満たない状況分析と思考と可能とした超集中(ゾーン)状態。目的達成の為に、精神が研ぎ澄まされる。理解して発動している訳じゃない、鍛えた肉体に危機的状況を打破する執念が合わさることで到達した領域。

 右足で空間を掴み強く踏み、左斜めに跳び上がる。続き、その勢いを殺さず真上に。視界の先に王都の街並みが映る。落ちる水の槍の側面に足を掛け、海歩を組み合わせてより強い踏み込みで、飛び込んだ。

 水の槍が道を塞ぐよりも早く、二本の足のみを利用して、最短距離を最高速度を越えて30m近くある城壁を飛び越えた。

 爆ぜた水の槍がゴールを祝う花火のように地に降り注ぐ。


「嘘だろ……?」


 信じていなかった訳では無い。どんな方法を用いてもアンナをマテリアに送り届けていただろうと確信を持っていた。けれど、正面突破は考えて無かった。想像を超えた先輩の動きに脱帽するしかなかった。


「嘘でしょう……?」


 手を抜いた訳では無かった。理知的に思考した時点で、避けて動こうとした時点で届かなく間に合わなくなるはずだった。想定以上の豪脚で正面突破は考えて無かった。むしろ落下した水を集め分体を操作する準備に移ろうとしていた。


「やっぱり師匠はすごい……!!」


 アンナが師と仰ぐと決めたのは(そら)を学べるからだけじゃない。自分と同じ匂いを感じ取っていたから。頭で考えるよりも身体が先に動くタイプだと。

 そして、建物の屋根を駆けてマテリアへと向かう最中、彼女は師を心の底から尊敬の念を抱いた。理屈ではない損得も無く純粋な心で、憧れを抱くように。

 それだけこの偉業は戦況を変えるものに繋がる。この結果がもたらすのは、鉄雄の選択は最良の物へと変貌するのだから。


本作を読んでいただきありがとうございます!

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