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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第26話 君に一番期待しているのは一番近い人じゃない

「君を折るのは相当苦労しそうなのでね。味方に引き入れれば我にとっても得があり、君()にもメリットがある取引を用意しておいた」

「取引──だと? 俺が全力で破魔斧の力を引き出せばここら一帯が塵芥へと帰することに恐れたからか? あまりにも都合が良すぎないか?」


 この提案……今作った嘘とは考えにくい。

 いくら俺がホラ吹いて強がっても状況的に俺は不利。今は少しでも情報を集めておいた方がいい。何が有用になるかはわからない。このアメノミカミという存在に対して少しでも慣れておく必要もある。


「そう捉えてもらって構わないよ。惨劇の斧──いや破魔斧の情報が出回り始めてから君のことはじっくりと調べさせてもらった。その中で面白いことに気付いた、君はアンナ・クリスティナを家族、いや実の娘のように大事にしているのだろう? だから彼女に手を出せば起こす必要の無い竜を目覚めさせかねない。故に提案だ。君とアンナとセクリ、三人には一切手を出さないしこの先の安全は保障しよう。その代わり、我の仲間になってほしい。無論この戦いに参加する必要はない。我はどうしても君が欲しいのだから」

「いいや、嘘だな! 破魔斧が必要なら俺は必要ない。その魔力で満たされた水の身体じゃ破魔斧を持てない、持ち運べる鞘として俺が仕方なく必要なんだろ?」

「我としては君がメインなのだけどね。破魔斧を手にしたところで暴走の危険性を排除できなければ宝の持ち腐れ、何十年と封印という手段で手をこまねいていたのが良い証拠。だが、君がいれば新たな可能性を模索できる。ライトニア王国は君にとって鳥籠でしかない。だから我の下に来るがいい君は君の価値を正しく理解している人間と共にいるべきだ!」

「……こんな熱烈なアプローチは初めて受けるな……」


 思わず心が揺れてしまいそうな熱量。台本読んでの演技だったらならとんだ名優としかいいようがない。けれど、必要とされているという言葉は俺にとってはどんな甘露よりも甘い誘惑でしかない。

 その言葉を放つのがこれから国を襲うような相手であっても手が伸びてしまいそうになる。でも──


「我は想い人に素直に好意を伝える性質でね。君をこの国の中で一番脅威と思ってるよ。破魔斧の力に溺れているのなら有象無象と変わらなかっただろうけど、そうはならなかった。きっかけ一つで我の前に立つと信じていた。もしも覚悟を決めた瞳で立ちふさがっているのなら。間違いなくレイン以上の障害となるだろうとな」

「……そこまでわかっているなら俺が首を縦に振らないこともわかっているんじゃないのか?」


 自分達の身の安全は保障されます。けれどこれから起こることに目を瞑ってください。なんて取引、受け入れる訳がない。あの子と交わした約束を反故にできる訳がない。

 俺一人だけで作られた覚悟じゃない、故に折れない折る訳にはいかない。

 何より、ここで自分達だけの平和を選んだらカッコ悪い大人でしかない。


「錬金術士が予想できる失敗に手を打たないと思うかい? ちゃんと君達の事は調べてある。次の提案は──」

「残念ながらこちとら覚悟を決めて来たんだ、何を言われようと――」

「──ロドニー・クリスティナ」

「……何?」

「彼に会わせる。と言ったらどうする?」

「…………っ!?」


 ああ、揺れる──揺れなきゃおかしい提案だ。自分でもわかるくらい表情が変わっただろう。

 何せ「会わせる」だと? アンナの夢でライトニア王国に来た目的はどこにいるかもわからない父親を見つけ出すこと。

 俺はその手伝いに尽力すると心に決めた。そして親子の再会をこの目で見届ける。命を助けてもらって居場所を与えてくれたアンナに対する礼儀で何を置いてでも優先すべき事柄。

 それをこいつははっきりと「合わせる」言った。何故は意味が無い、どこまで知っている? 


「主人の目的は何だったかな? 君は彼女を愛しているのだろう? 夢を叶えて欲しいと思っているのだろう? その為ならどんなことでもするつもりなのだろう? ここで断ればより遠のく、いや望まぬ邂逅を果たすかもしれないがな」

「……まさかっ!?」


 「カリオストロ」いや、落ち着け。落ち着け……! 深読みするな。「会わせる」結び付けるな! 「望まぬ邂逅」もしもそうだったとしたら。


「彼は大変聡明で立派な錬金術士であるからなぁ」


 「アンナの父がカリオストロの一員だとしたら?」刃を振れなくなってしまう。


 ──な訳無いだろう!

 人は良くも悪くも想像する生き物。先読みして優位に立つ事に興奮する性質を持ってる。でなきゃネタバレが止まる訳が無い。

 こうして直に会話すると相当おぞましいな。俺みたいに疑り深くて捻くれて俯瞰(ふかん)的な思考を持ってないと簡単に奴の望んだ方向に押し流されかねない。

 おそらく奴に嘘は無い。嘘が無いから異様な説得力やカリスマ性を感じてしまう。破魔斧と正面切って戦うことを望んでいないのもわかる。第一お父さんがカリオストロの一員だとは一言も口にしていない、けれど優れた錬金技術を持つ者同士繋がっている線も否定ができない。

 焦るなよ俺……今、斧を構えて適当に動き出せば全て終わる。冷静になりつつある心を無暗に揺らそうとするな。すべきことが多いことを忘れるな。

 アンナ達がレインさんを救出する時間も稼ぎたい。それにゴッズさんも。

 この空間には相当高濃度な魔力が籠っている、ボトルを差し込まなくても破力を貯めることができる。その時間も欲しい。

 奴をしっかりと観察するんだ。巨大な水塊の中に漂うコアを破壊しなければどんな攻撃も無意味。俺の持ってる手札で何が通用するのか見極めなければならない。

 この凪の状況こそが好機! 知識や知能で指摘したり優位に立つことが全てじゃない! 今はむしろアホになれ、無知を装え、いつでも倒せると気を良くさせておけ。


「ほう……話を素直に聞く気になってくれたようだな」


 破魔斧をホルスターに収め戦う意思が無いことを示す。こいつは俺や破魔斧に危害を加えてこない。今はまだだが、引き金が何になるかはわからない。


「…………勘違いするなよ俺はお前のことを何も知らない。そんな相手に警戒せず尻尾を振るのはただの馬鹿だ」

「我が思った人間で良かったよ。今一度言おう、君達三人をカリオストロに迎え入れてもいいと考えている。才ある錬金術士、破魔斧を操る異世界人、古代のホムンクルス。正しい環境に置けば素晴らしい成長を期待できる。それを我は望んでいる。その対価として君の、君達の願いでもあるロドニーと合わせることを約束しよう」

「そのアンナの父親に会わせるのはどういうことなんだ? 今いる場所を知っているのか?」

「我の仲間となると口にすれば答えてやろう」

「いいや無理だな。そこを隠されたんじゃ全て信用できない。匂わせ程度じゃ101キラにも満たない。対価としては不十分もいい所だ」


 わからないことは素直に全部聞く。どんな取引でも有効な一手。忖度だとか気にする必要は無い遠慮のない子供のように突っ込め。嘘つきなら粗が必ず出てくる。


「それに俺を引き込むにはアンナも一緒じゃないと意味がないことを理解しているだろ? アンナの意志が一番大事なんだ。父親のことなら尚更。これは曖昧な情報じゃ信用信頼を勝ち取るには安すぎるベットだ」

「……君が売り出された日に我がいなかった事が残念でならないよ。答えよう。アンナを父親に合わせる方法は簡単だ、我の錬金技術を全て授けよう。さすれば必ず再会の道具が作れることになる」

「──交渉決裂だな。カリオストロに父親はいない以上。どんな馬の骨かもわからない錬金術士に教えを乞う訳がないだろう。今の環境と変わらないことを良く堂々と口に出せたものだな。バカにするのも大概にしろよ」


 緊張が解れて溜息が漏れる。呆れで怒りが湧くこともあるとは、初めて知れた。

 そもそも何を自信満々で言っているのやら。これで迷いの種は消えた、もしもが無くなった以上これで全力で振るえる。


「この国の講師が我よりも優秀だと思うか?」

「…………」


 持ち手に伸びようとしていた手が思わず止まってしまう。こいつは人間的に信用の欠片は無くなったが、技術に関しては優秀だと本能的に理解せざるを得ない。

 このアメノミカミが良い証拠。


「錬金術に没頭できる環境、潤沢な素材、優秀な講師。この大陸のどこにいるかも分からない父を探し出す道具、どれだけの対価を支払えば望む道具が生み出せるのだろうかな? カリオストロは錬金術士を含めた優れた者を集結する組織。世界には誇れる才を持ちながら環境や人間に恵まれなかった者が多い。そんな者達を救うために存在している」


 人の成長は環境が全てと言っても過言ではない。金銭の有無、出会った人間、指導してくれた人間、勉強に集中できる場所、足を引っ張る人間がいない。理想的な環境で自分を磨けたら世は秀才だらけだろう。


「君の予想と違っていたかもしれないが、一番近道なのに嘘は無い。納得できたかな?」

「……どうだかな。夢への最短距離が他者を見捨てるような修羅の道なら、それはアンナには到底似合わない。アンナは人の痛みがわかって、家族の営みを大事にできる優しい子なんだ。自分の都合でこの国に住む多くの人達を見捨てるような真似は絶対にできない」

「中々強情だな。我はこれでも元――いや、喋りすぎたか……これ以上の交渉は我にとって不利益を生みそうだな」


 元? いや、とにかく少しは稼げたか? レインさんは回収できたか? ゴッズさんは大分離れてる。破力もかなり溜まっている。


「ただ一番欲しいのは君であることに変わりはない。だから最後のプレゼンを聞いてこの場から立ち去ってくれないか? 本気の力のぶつかり合いなど命を枯らすだけの虚しい行為でしかないのだから」

「本当にしつこいしどの口が言っているんだ……」

「こんな機会など一生に一度訪れるか分からない奇跡。手を伸ばさなければ後悔が残る。使える手段は全て使わせてもらうに決まっている」

本作を読んでいただきありがとうございます!

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