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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第22話 10年前の真実 3節

「奴は自由を欲していた。昔は調査部隊という国から与えられた翼は心地よかったのだろう。好きな事をして金銭を手にでき名誉も手にできた。だが、隊長という立場になり翼は重くなり、部下の存在が煩わしくなった、王の期待という檻に囚われた。家族という重しが飛ぶ事が許されなくした。そして願った、全てを捨てて自由になりたいと」

「認められない……信じられない……偽物に違いないんだ……」


 反論ではなく、自分に言い聞かせるような言葉。だが、偽物だと目を皿にするように観察すればするほどその瞳に映る腕章は本物だと理解させられてしまう。

 「腕章が守ってくれたんだぞ!」「服は破れてもコイツは無事なんだよなあ……」「新しく替える? バカ言うな。父さんの分身みたいなもんだぞ」

 誇りや栄光が染み込んだ傷跡が語る思い出に抗えない。

 何度か「もしかしたら」を想像したことがあっても、思い浮かぶ度に跳ね返した。動機が無い、利得は無い、隊長だから、父親だから、謀った者がいる。

 その確固たる心に亀裂が入り始める。


「我はアメノミカミの計画を話すと彼はこう答えた「自由になるためには膨大な金が必要になる。だから、国宝に見合う金を用意してくれ」とな。我とて錬金術士、国宝に興味はあった。だから相当の金銭を提示し奴も了承した。……まさか国王に手を掛けるとは思ってもみなかったがな」


 母との(えにし)が間違いだと、自由に生きたいなど、金の為になど。認めることなどできるわけがない。一つ一つ積み上げて来た信頼や実績を子供の遊び感覚でリセットするような行為を父がしたと認めたくなかった。

 ライトニア王国騎士団調査部隊隊長、ガイア・ローズ。新たなダンジョンが発見されれば調査依頼が真っ先に名が挙がる人間、未踏の地の調査任務でも必ず成果を上げる男。

 多くの武勇伝を共に刻み込んだこの腕章が他人の手に渡ることはありえない。簡単に盗めるものでも無ければ、盗むものでは無い。価値を知らぬ者にとってはただの騎士の証明書。手放すことをしなければ誰かの手に渡ることは無い。


「だが奴は欲に駆られ取引時に金銭を釣り上げた、殺害で昂っていたか、国宝を持っていたことで気が大きくなっていたか。後の結果は裁判でも話された通りだ、無様にやられ、国宝だけを渡すことになり、自身は路地裏に惨めに隠れるしかなかった。成功する裏切りすら最後の最後で失敗する男。そんな男と、追い詰められていた事に気付きもしない女の間に生まれたのが君。レイン・ローズということだ。実に面白いと思わないか?」


 錬金術で化けた偽物がやった。それが信じる答えで心の支え。偽物の手がかりは未だ見つからず、本物の証明書だけが見つかってしまった。

 この十年、皮が何度も捲れ血濡れになった手、ストレスで食事の味も感じなくなった日も多かった、目に映る人全員が石を投げつけてこないか疑心暗鬼になっていたこともある。

 文字通り命を賭けた武闘大会も全ては父の汚名を雪ぐため。家族の繋がりを取り戻すため。何も無ければ舞台に上がることも無かった大会。

 どんな相手であろうと捕らえられる力と技術と魔術を手にしたのに、溜め込んだ怒りや恨みが消えようとしてしまう。自分達が正義だと信じていられたこその感情。その意味も正義も手の平から零れ落ちていく。


「……もう聞こえんか……大陸一の騎士といえど折れる時は脆いもの。このまま溺死させてもいいが、君は逆風の中で生きている姿が美しい。死に逃げる姿は似合わない」

「レイン隊長! 立ってください!」


 大陸最強の騎士が無傷で両膝を付いて腕章を虚ろな瞳で見続ける姿。ゴッズが駆け寄り体を揺すっても反応が無い。もはやひび割れ中身が流れ落ちた空っぽのガラス。何時完全に砕け散ってもおかしくない。

 彼女には身命を賭して国を守る想いは無かった。真実を引きずり出すという復讐心で満たされていた。それが消えてしまえばもう、脅威に向き合うだけの心は残されていない。


「……さて、これにて十年前の真実は閉演とさせてもらおう。君はどうする。ゴッズ副隊長? 多少の成長はあるようだけど、勝ち目は万に一つも無い。尻尾を撒いて逃げる相手を後ろから射抜く真似はしないから安心して逃げるがいい」

「……私とて騎士。自分が成すべき事はわかっている!!」

「ガイアの部下だった君が立派な口を利けると思ったか? 君もガイアを信じるということは自身の剣が歪んでいる証拠。そんな心で何を守るというのだ?」

「貴様の言葉を信じる者がどれだけいる! 自身の都合の良い言葉でかき乱す!」

「君達も自分の都合の良い展開を望んでいたのだろう? いるかもわからない偽物の存在を信じて、父の罪を擦り付けようとしている。上司を庇うために、自分達が良ければ見ず知らずの他人を贄と捧げても良い。素晴らしい正義ではないか……!」



 6月9日 水の日 10時50分 王都中央広場


「腕章って言葉が出てから一変したように感じたんですけど、どういうことですか?」

「……各部隊の隊長に与えられるプラチナム製の証明書みたいなものよ。任務時には必ず身に付けて挑む。騎士団憧れの証。形だけの偽物ならいくらでも作れるけど、戦いの中で傷ついた跡の再現はできない、私でも腕章を見たら誰のだってわかるのよ。レインならよりね……」


 虚実入り混じった情報の中で紛れも無い()()をアメノミカミが出して来た。それが取引の証と来た。


「取引があったから腕章を渡した……それなら納得できますけど。取引が失敗したのに腕章を渡した? なんというか光景が想像できませんね……国宝と腕章を「はいどうぞ」って差し出して、相手も金を「どうぞ」って渡すならわかるけど。あいつの言葉通りなら国宝を持って「金が足りん」って言って、相手は「なら決裂」で攻撃してきた。腕章はガイアさんのまま。ありえるなら気絶なり何なりさせてから国宝と腕章を奪いとったんじゃ……」

「だとしてもガイアさんが王を襲わなかった証明にならないわよ。取引失敗の様子は当時の騎士数名が見ている。行われたのは事実。何時腕章が奪われたのかが重要」

「別人が奪い取って、変装して、腕章付けて、殺害未遂と強奪。取引失敗を見せつける。腕章と国宝は相手に渡って、最後に本人と交代した。でも肝心の別人がいた証拠は無い……」


 確かにな……これを証明しろって言われても無理だろう。普通に考えればガイアさんがやったと考えるのが自然だ。奴の話に多少の齟齬があっても論破はできない。


「あの、それじゃあ変装道具は何を使ったかはわかってるの? ミュージアムでも変装道具はあったけどお遊び用で騙すには到底無理だったし。ガイアさんだって認めるぐらいの品質ならそんなにないんじゃ……」

「確かにね、誰かが変装用の道具を作って、誰かが使用した、その証明もされてない。そもそも王をだませるぐらいの変装道具なんてまずないわよ」

「こりゃお手上げとしか言いようがありませんね……」


 アメノミカミの操縦者と肉体関係にあったかもしれなくて、不平不満が爆発して家族と国を捨てる覚悟をして、ガイアさんと繋がりがあった証明(腕章)も出された。

 自分の援護となる情報も無いのに信じ続けるのは酷と言うしかない。それにこの放送を聞いている殆どの人からは――


「何も変わってねえ、10年前と何も……」「裏切られていたということか!?」「そんなことより、レインがやられたのか!? 強さだけは信頼できてたのにてんで役に立たねえ!」「何の為に先輩達は戦って死んだんだ? 何であの人は生き残ってたんだ? 父親が繋がってたから生き残ったのか?」「また繰り返されるのか!? 急いで逃げなければ!」「騎士だか錬金術士の因縁だか知らないけどよ、巻き込まないでほしいもんだ!」「避難だ避難! すぐにやってくるぞ!」


 混乱、騒めき、小雨でも消せない負の叫びがあちこちから聞こえてくる。敵の言葉を信じてしまっている。繋がる証拠が出てくればガイアさんを信じる僅かな心も吹き飛んでしまうだろう。

 ……本当になんでだよ……誰が最前線で戦っているかわかっているはずなのに、信じ抜く人がいないんだ? 一番辛い状況なのはレインさんなのに、追い打ちをかけるような言葉を出せるんだ?

 八つ当たりに近い感情で巻貝と水の台座に破魔斧を叩きつけて粉砕する。これ以上の言葉はもう無いだろう。


「……よし! それじゃあそろそろ行ってきます」

「テツオ……? どこに行くつもりなの?」

「そのアメノミカミを止めに行かせてもらいます。俺はガイアさんが悪人だろうと聖人だろうと関係無いですし」


 十年前の出来事なんて俺には関係無い。謎解く義務も理由も無い。奴を倒せば隠された事実が浮かび上がる希望も必要無い。俺はやりたいようにやるだけだ。

 この子が命を賭けて戦おうとした想いに準じなければいけない。誰の為でも無い俺の為に。


「……わかったわ。でも、馬車で送るからこっちに来なさい。足で行くより早い!」

「あっ! ちょっと待って! テツに渡さないといけない物があるから。わたしを置いて行ったら絶対に許さないから!」

「なるべく急いでよ!」


 アンナはラミイを抱えて寮に向かって駆け出す。俺達はこれ見よがしにと騎士団正門前に佇んでいる馬車に乗り込む。

 採取に向かう時に乗った馬車と違ってもはや動く秘密基地、剣や槍と言った武器や治療用の薬品があり、何に使うかわからない計器も置いてある。キャミルさんがその計器から手の平に収まるマイクの様な物を手に取ると。


「ホーク! アメノミカミの現在地は?」

「まだ大通りに到着していません。ゴッズ副隊長が足止めをしてくれていますがまるで相手になっていません。突破されるのも時間の問題です」


 どうやら通信機の類のようだ。電波を飛ばしているかは定かではないけれどアメノミカミといい遠距離通信は当たり前なんだな。


「テツオ、こっちも準備をするわよ。服脱いでこれに着替えて」

「これは? ぴっちりした感じのスーツみたいですけど?」

「それは耐水服。インナーとして着ておけば浸水の影響を極限まで減らせる。黒霧で無効化できるかもしれないけど念のためよ。それに雨で体温の低下を防ぐ役割もあるから着るのよ」

「……ここで着替えるんですか?」

「誰もテツオの体に興味は無いわよ。雨の下で着替えるよりはマシでしょ?」

「はい」


 完全にウェットスーツな見た目に少し戸惑うが近づけば暴風雨になりかねない戦いが待っている。着ないと悔いを残すかもしれない。上着とズボンを脱いで耐水服の抵抗感を押し広げるように腕と足を通すと、先程までの窮屈感がまるで嘘のように俺の為に仕立てたのかと思うぐらいピッタリとしたサイズに驚く。その上に改めて服を着直すと多少はゴワ付くが問題は無い。


「どうしてここまでサイズが合ってるんですか……」

「レイン姉さまが一応用意させておいたのよ、雨期に入る前からね。私も同じのを着て横に立ちたかったけど、私の戦い方じゃどうしたって勝てない着る意味が無い。悔しいけどね……」

「期待の裏返しよ。アメノミカミのことになるとレインは全然余裕が無くなるのよね。とにかく、ゴッズも同じのを着てるからそうそうやられはしないと思うけど、相性最悪なのは変わらない。助けに行かないと。テツオには2人を助ける手助けをしてもらって……問題はその後ね……」

「そのまま俺が戦います。破魔斧の力は相性がいいと聞いてますから」

「無理よ。アブソリュート・ゼロを封じるぐらいに手を加えてきた。10年前とは技術の引き出しの数が段違いと見て間違いない。いくら相性がよくても――」

「……勝つか負けるかの勝負じゃないですよこれは。殺すか殺されるかの戦いですよ。力の優劣じゃない成すべき覚悟を持っている人が生き残る。安全な所で高みの見物しているような奴に覚悟なんて無い」


 湿気りきっていた心の薪に火が通り始めている。ここで逃げたら、俺は何もない大人のままだ。破魔斧という力があっても安全な道しか選べない小さい人間のままだ。

 力の有無が全てじゃない、覚悟の有無が大事なんだ。自分がどうなってでも助けたい人がいる。その確固たる意思の輝きを持たないといけないんだ。

 それを子供に教えられてどうするんだよ……。


「それでこそわたしの使い魔! 持ってきたよ、最高のプレゼントを!」

本作を読んでいただきありがとうございます!

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