第10話 錬金術士のお仕事
6月6日 太陽の日 9時00分 錬金学校マテリア
「いいデザインないかなぁ~」
今わたしの頭の中では想像の泉が沢山わいてる。
それは3人でおそろいの何かを作って欲しいというテツからのお願い。本当にかわいいことを言ってくれたから。そんな道具無くても大事な仲間なことには変わりないのにいじらしくてその気持ちに答えたくなった。
指輪は……わかりやすくて良さそうだけどダメ。セクリは水仕事も多いしすっぽ抜ける光景が目に浮かぶ。腕輪や足輪も……う~ん、できれば見せつけたい。体の目立つような場所で人の目に付きやすそうな……。
「良いこと思いついた……!」
そうだ、べつに金属製にこだわる必要もない。いつもわたしが身に付けてて、セクリも身に付けてるものにして、テツにはオシャレとして身に付けてもらう。色合いを揃えて……後は何か共通のマークを付ければいいかな?
「これに錬金術で生み出すなら技能もいい感じの出るようにすれば!」
「なにやら随分と力が入ってますわね。新作を考え中ですか?」
「今は主としての責務を果たしている途中かな」
うんうん。テツとセクリはわたしのためにがんばってくれている。そのご褒美をあげて絆を強くする。これこそ主としての責務ね。
「いいですわね。私も伽羅に何かあげておきましょうかね」
「やっぱり誰かに頼られるってのも悪くないね。いつもより力がはいるもん! それにしても、先生来るの遅いような……」
教室の中でこうして授業に関係ない別のことを考えていても誰にも何にも言われないのはマルコフ先生がまだ来ていないから。それに教室をよく見るといつもより人数が減ってる。普段だったらグループ作って話してるところもあるのに静か。
う~ん……空気も妙に重いし、何かあったのかな?
「あの噂って本当なんでしょうか?」「去年も似たようなこと言ってませんでした?」「ジョニーさんはやっぱり休みですね」「雨恐怖症が根深いのは彼だけではないようです」「10年前の……」「爵位返上もあって――」
少し耳を澄ますと気になるような言葉聞こえてくる。もう少し詳しく聞きたいけど、仲良くないしアリスィートとよく話している人達だから無理そう……。こうして耳を傾けるだけしかわたしにはできな――
「遅れて申し訳ありません。早速ですが本日より特別授業を行います!」
ガラガラと勢いよく開かれる扉に普段みたいに穏やかさがどこかに行ってるマルコフ先生。それに「特別授業」? みんなもなんだか緊張しているような顔になった。
「内容はこちらの資料に全て記載しております。続けて申し訳ありませんがこれから急な会議が入りましたので失礼致します!」
ずいぶんと慌てた様子であっという間に教室を出て行ってしまった。講義は行わずに調合をわたし達で自由にしろということ? 本当に何かがあったのかな?
とりあえず教卓に置かれた積み重なった紙束を2枚とって1枚をナーシャに渡して読んでみる。
「え~と……フェルダンに保存食に耐水布? 決められた技能を発現させて提出、10個づつ!?」
合計30個──多くない!? もっとよく見て昇格試験みたいに見逃しや穴がないか調べないと……。
「今年もコレが来ましたわね……」
「知ってるのナーシャ!?」
「私も去年知ったのですが、毎年この時期になるとこちらの資料に記載されている道具を提出する課題が出されるようですわ。全てちゃんと提出できて満点。後は……ありましたわ、下の方に記載されている道具を追加で提出したら評価が加算されますわよ」
「ほぇ~。あっ、随分と難しそうな道具……」
軽くて丈夫で形の変えやすい『エアロプレート』に、暖房器具の『魔炎ストーブ』? 資材はわかるけどこの季節に暖房器具? 雨が多くてちょっと肌寒い日があるけどそこまで?
他にはっ……と。期日は6月9日まで。必要となる素材は学校に貯蓄されているのを自由に使用してかまわない。提出は購買部の依頼管理所にて。
これに伴いしばらく依頼掲示板を停止します。
──なるほど。確か依頼掲示板はブロンズランクになったらできる追加評価の1つだけどそういう余裕もないってことなのかな?
「さっそく調合室で始めようかな? ナーシャもいっしょにする?」
「ええ、ぜひご一緒させて頂きますわ」
そんなわけで、調合室に向かうと丁寧に必要な素材が各テーブルにきっちりと用意されていてわたし達は作ることだけを考えればいい状態だった。
深く考えずに錬金術に集中できるのはいいけど、なんだか物足りなさを感じてしまう。これじゃあ作るだけの道具になってしまったみたい。
「フェルダンは直径15cmの球体、発現させる技能は『水中爆破』に『弾ける炎』、後は『衝撃波』ね」
そこまで難しくない。素材に左右されやすいけど必要な素材も熱炎石に咆哮袋そして専用の白色火薬とそろってる。
課題としては簡単。焦らず丁寧にやれば今日中に作り終えそう。
「できたっ!」
釜をかき混ぜて数分。すぐに出来上がった。
フェルダンはよく作ってた、昇格試験の経験も得たわたしに失敗のイメージは無い! 技能もちゃんと『水中爆破』『衝撃波』と『業火の花』……確かこれって『弾ける炎』よりも強い火炎を生み出す技能だったような……わたしの実力だとこうなるんだ。
まあいっか。弱いんじゃなくて強くなるなら――
「あらあらアンナ・クリスティナ。こんな規定とは違うフェルダンを作って合格した気にでもなっているのかしら?」
「アリスィート……」
なんだかよく突っかかってくる貴族の女。
テツが言うには口は悪いけど親切心に溢れている人というけど、本当にそうだとしてももっと優しい口調で注意してほしい。
「形も良くて技能も発現してる。性能が上がってるならいいじゃない」
「わかって無いわね。私達に求められているのは性能の差異ができるかぎり小さい道具ということよ。何か1つでも優れていたり劣っていたりしたらダメなのよ」
「何で? 良い物は良いでしょ?」
「使う人のことを考えなさい。想定していた物を安全に壊すのに必要な量を計算していたのに、他と異なる性能の物が混じっていたら不測の事態に繋がって大きな事故に繋がる可能性もあるのよ。劣っているのももちろん、優秀過ぎても足を引っ張るのよ」
「うっ……!」
正しい。使い続けていきなり爆発力が弱くなったり強くなったりしたら不安になる。頭の中で想像していた威力と違っていたら……。
「アリスィートさんも去年同じ事で注意を受けていましたね」
「ぐっ! 覚えているなら余計な事を言わないで欲しかったわ! とにかく、貴族として優秀な者が知恵を授けるというのは当たり前のことよ。では、これにて失礼を」
なんだかその背中がやけに大きく見えてしまう。試験を完璧に合格できてしまって油断していたのかもしれない。テツのためにマナ・ボトルを作ったときと同じような気持ちでやらないとダメ。渡す相手の顔が見えてないからって相手のことをないがしろにしていい訳じゃない。
これはわたしひとりだけが気分よくなってるだけだ!
「ぐうの音も出せないってこういうことなのね……」
本当に周りにいる錬金術士ってすごい人ばかり。同じような年なのにわたしとは何が違うのんだろう? やっぱり環境? 師匠に修行付けてもらったときは身体の動かし方が広がってわたしがグングン強くなっていったのが体で理解できたから、同じように優秀な人にずっと教えてもらっていたのかも。
「まあまあ、素直に受け取りましょう。アリスィートさんはアンナさんのことが気になってしょうがないんですから。すぐに気づいたのが良い証拠ですわ」
確かに完成品をテーブルに置いたと同時に来ていたような……。
「聞こえてるわよ!」
聞き耳立ててた……けど、どうしてここまでわたしにこだわるの? あったこともないのに?
本作を読んでいただきありがとうございます!
「続きが気になる」「興味を惹かれた」と思われたら
ブックマークの追加や【★★★★★】の評価
感想等をお送り頂けると非常に喜びます!




