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最低価格の俺が錬金で成金!~The Lowest price man Promote to Gold with Alchemy~  作者: 巣瀬間
第三章 雨の魔神と太陽の錬金術士
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第9話 十年前の罪と彼女が最強になったわけ

 6月6日 太陽の日 10時45分 ローズ家


 人を迎える玄関の扉は無残に壊され、来る者を拒まずとなっていた。そんな枠を抜けると壁の至る場所に拳、刃、槌、あらゆる物で乱暴に怒りのまま叩きつけられた跡が広がる。

 悲惨な光景に恐々としながら部屋を巡っていくと屋根も天井も砕け、雨が直接入ってくる部屋。いくつも穴が空けられ風通しが良すぎる部屋。住んでいた人の思い出など読み取ることができないぐらい原型が無くなっていた。

 そして、家族の団欒があったであろうリビングは土に塗れ破壊の跡しか残されていないときた。

 廃墟探索なんて好奇心を煽るような状況でも、それが知人の家となると寒気の方が強く体に現れた。

 自重だけでも砕けそうな階段を昇り、二階の妙に小綺麗で何も残ってない部屋に到着すると、そこが目的地だと示すかのようにキャミルはその部屋の中央で立ち止まり、鉄雄と向き合う。


「ガイアさんは私を助けてくれた恩人でもあるのよ。調査部隊の隊長で多くのダンジョンを攻略した実力者でライトニア王国に多大な貢献をもたらした人。これから話すのは何故投獄されるに至ったかよ」

「…………はい、お願いします」


 騎士団本部を出てここに来るまでの間、普段見せる怠けた様子など微塵に見せない真剣な姿に鉄雄は強烈な違和感を覚えていた。目の前にいるのは本当にキャミルさんなのだろうか? と。対面の訓練の最中に時折見せる表情を常時見せられどこか他人行儀になってしまっていた。


「アメノミカミが出現して最初は調査部隊が確認へと向かったわ。どんな敵か何が目的か知るために。でも、情報を集める間もなく天候は豪雨となって戦闘が始まったの。あまりの強さに防衛、討伐、調査、全ての部隊の騎士を総動員して撃退に動いたけど、まるで歯が立たなかった。おまけに敵の目的もわからないから動きも読めない。強大な力に圧倒されて負傷者が増えて戦線離脱する騎士も多かった」


 水がある限り無限に増殖し、あらゆる水が己の武器となる存在。

 1対多数と傍目には見えるが実際は逆も良い所。水の領域に踏み込んだ者を個別に攻撃でき、相手の前後左右上下360°余すことなく水の侵食で襲うことができる。技量の低い騎士は容赦なく命を奪われそうになり熟練者が救助に入る事態となり、攻撃できる状況じゃなかった。

 仲間を見捨てなければ攻め込めない、全てが悪循環に陥ってしまった。


「ガイアさんも負傷して途中で離脱。戦線復帰はできそうになくて国民の避難誘導に移動。ここまでは多くの騎士の記憶も含め確信を持って言える正しい情報よ」


 陣頭指揮を執っていたのは当時から討伐部隊隊長のラオル・ブレイブ。ライトニア王国最強の座につき『獄炎の獅子』と呼ばれ国に降りかかる脅威を灰塵と帰していた。彼がいたからこそ被害が抑えられていた。


「ここからが問題。現王クラウド様、そして付き添いの使用人が目撃したのは先代王のコメット様に凶刃を振るうガイアさんの姿。間違いなくガイアさんだったと話していたわ。そして、王室に保管されていた国宝の剣と盾を奪い隠し通路から脱出。嘘も誤魔化す理由も無いし、隠し通路の位置を知っているのは限られた人間のみなのも証拠として大きかったわ」


 王城には緊急避難用の隠し通路がいくつも存在している。

 騎士の階級や信頼足り得る人物によって伝えられる場所も異なる。そしてガイアは謁見の間に存在する隠し通路まで知っていた。

 それは先代王コメット直々に伝えられた情報。信頼と実力、両方を得ていたガイアだからこそ与えられた証。


「状況的に国から脱出していてもおかしくなさそうなんですが、捕まっているんですよね?」

「ええ、巡回していた防衛部隊の人が偶然見かけたのよ。壁の上で謎の人物と国宝の取引をしている姿を。ただ取引に問題があったのか攻撃を受けて慌てた様子で逃走。その後を付けると気絶したガイアさんが裏路地で発見。このやり取りを見ていた人は王殺しや国宝奪取は知らなかったから善意で診療所に運んだの、その後は全てが発覚しそのまま投獄。事件はここまでね」

「妙に気になるというか、本当にその人がやったんですか? 騎士で隊長な人が王を切りつけるなんて、しかも大変な状況を狙って? どれだけ根深い恨みを持ってたんですか?」


 言いたいことは多く浮かんでいた。騎士が王に刃を向けるなんて事態。あってはならない。


「裁判も開かれたぐらいよ。レインや調査部隊の人達は『錬金術によって姿を変えた人物』の犯行と主張したけど、認められなかった。まっ、その理由はわざわざ言う必要もないでしょ?」


 現場にいた王子の言葉を虚偽だと真っ向から言える者はまず存在しない。というには情報がしっかりしすぎていた。王子と使用人、二人の言葉も食い違っていない。幼い王子が「間違いなくガイアであった。言葉は交わさず、焦った様子で父に何かを渡そうと近づいて、そのまま……剣を」とはっきり答えた。

 その時の振り絞るような悲痛な感情に裁判所は涙に溢れ。ガイアを擁護する者は国の癌と言わん状況でもあった。


「確かに事実だとしても言ったもの勝ちな気がしますね……これが通れば犯罪者全員言い出しかねませんよ」


 確かに姿形を変える錬金道具は存在しミュージアムにも展示されている。娯楽やジョークグッズとして性能は抑えられていたが本気で作り上げれば、見分けがつかない程の道具を生み出すことは可能である。だが、声を望んだ人間の声に変える道具は生み出されていない。

 そんな一縷の望みにレインは賭けたが声を聴いてない以上認められなかった。


「犯行の流れはこうよ。アメノミカミと戦い負傷したと嘘を吐いて戦線を離脱。避難誘導と見せかけ王城へ侵入。何かを渡す素振りそのまま王へ刃を突き立てる。謁見の間の隣に保管してある国宝を奪って隠し通路で脱出」


 調査部隊隊長ならいてもおかしくない状況、すれ違う誰もが深く疑わなかった。緊急時故に武器を携えていても注意が無かった。言葉が無くとも近づけるだけの信頼を手にしていた。

 最悪に備えて使用人は王子を守ることに集中せざるを得なかった。すぐさま部屋から脱出し叫んだ。

 その先どうなるかは予想できていてもそうするしかなかった。王城は嵐の如く混乱に見舞われる。治療、追跡、警護、誰もが何を優先すべきかわからず、本来なら指示する者は床に伏している。

 隠し通路の出口も1つじゃない。捕まえることは不可能だと誰もが悔しさと憎しみを飲み込みながら理解させられた。


「そして、国宝の取引が行われたのは王都の壁上。金銭に変えて国から逃亡。だけどここでトラブルが発生して攻撃を受けて逃走。別のルートを探そうにも傷が深く気を失ってしまう――」


 ライトニア王国の国宝は錬金術の粋を集めた結晶。力の象徴とも言える他国も知る逸品中の逸品。普通に売るようじゃ足が付く、その場で捕まってもおかしくない。

 状況を分析し、組み上げていくと裁判の最中最低最悪のもしかしてが浮かび上がった。

 「アメノミカミとガイア・ローズは繋がっている」

 アメノミカミの操縦者に情報と国宝を売り渡し国を破滅に追い込もうとしていた。ケガをしたのは自作自演、王を殺すために隊長になった。というものが──

 火薬庫に火が付いたかのように予想や言葉が飛び交い、誰もがガイアを悪だと信じて疑わなかった。


「あまりにも状況が繋がっていて、ガイアさんが行ったようにしか見えなかった。おまけに治療の際に戦闘後にしては不自然なぐらい懐からは持ち歩くにしては大金が零れ落ちた。アメノミカミの時には無かった傷も増えていた。ガイアさんも必死で弁明していたわ「自分は知らない」「覚えが無い」「騎士である自分がするはずない」でも、身を潔白する具体性は何もなくて、言葉を吐く度に場にいた全員の憎悪が膨らんでいったのが嫌でもわかった」


 その姿に調査部隊隊長の格は無かった。誰もが目を背けたくなるような無様な男が保身のために芯の無い言葉を口にしていた。

 国民に対しての裏切りだと。


「ローズ家全員国に仇なす逆賊ではないか? 調査部隊で得た情報は全て他国に売りさばいていたのではないか? そんな言葉も出てきて、もうあの時の空気は危険すぎたわよ。全ての原因はローズ家にあると国中が決め付けたぐらいにね。アメノミカミで受けた痛みの怒りも何もかもがレイン達に向けられたわ」


 正義を心に宿した人間の行動力は凄絶を極めていた。国を破滅に追い込もうとした悪人ガイア・ローズを殺すべきだと誰もが口にし、その血縁者であり調査部隊の一員であるレインにも疑いの念が掛けられ、正当な罰だと信じた感情は握る武器を軽くした。


「ガイアさんは死刑が強く望まれたけれど、取引相手や背後関係を調べるために地下深くへ投獄、国宝の行方の手がかりでもあったからね。レインは姉と母と連れて国から逃亡。調査部隊は解散。私も資料室の仕事で日銭を稼いでいたのよ」


 国から逃げなければ殺されていた。二人が今いる廃墟がその証明。

 レインはもはや無実の証明や事件の調査なんて行える状況では無い。四六時中日中夜、殺意の視線を向けられていた。逃げ出そうものなら後ろ暗いものを持っていると判断される。私刑に走る者の餌食になってもおかしくなかった。

 そんな四面楚歌の状況であったが友の助けがあり無事国から脱出することに成功した。


「そんなことがあったのによく戻ってこれましたね……」

「大陸神前武闘大会って言うのがあってね。それに優勝した人はどんな願いでも叶えることができる権利を得るのよ、国王になりたいとか、若返りたいとか、土地が欲しいとか、罪を消したいとか、何でも」

「若返り!?」

「正確に言えば若返り薬を作成し服薬する権利を得ることよ。でも、それは置いといて――レインは2年前にその苛烈な大会を勝ち抜いて優勝したのよ」


 誇らしげに語るレインの偉業。友として自慢したくなるのも無理も無い、そこに至るまで生半可な努力では到底届かない。参加者の誰もが血の滲むような努力と激戦を潜りぬけた経験を糧に舞台に上がっている。

 そんな人間達を切り伏せ勝ち残ったのがレイン・ローズ。最初から本気で戦えばレクスに乗っ取られた鉄雄も容赦なく切り伏せられていただろう。


「その時に特別な力を得たと同時に願ったのよ『ライトニア王国で調査部隊を再編成し、私を隊長にしてほしい』とね」

「父親の罪を消して欲しいでは無いんですね」

「消したところで謎は消えない。父親の無実を完璧に証明するには調査部隊が必要だったというわけよ」

「なるほど……人がやたらと少ないのって再編成されたばかりなのと、国を脅かしたガイアさんの娘だから……再び同じことが起きるかもしれなくて、策略を企てた一員だと思われたくないから」

「大正解。レインはアメノミカミと最後まで戦った1人だから、当時と比べて落ち着いた今はレインに対して石を投げるような人はいないわ。まあ、大陸最強の名誉があるから怖くてできなかったかもしれないけど」


 国を脅かした元凶の娘が大陸最強の調査部隊隊長となって帰って来た。多くの国民は恨みや怨念が再燃するよりも大陸最強の肩書に委縮して氷付いた。

 単純なパワーだけならラオルの方が上。しかし、他全てが大差を付けて負けている。こうしてライトニア最強の椅子は譲られたのだ。


「でも、わかったでしょ? 手がかり掴むために必死なのよ。テツオの力が魅力的過ぎるからあんな態度を取ってしまった。あまり悪い隊長だと思わないで」

(そういえば結局それに落ち着くのか……)


 そもそもの発端はレインの弁護のようなもの。ただ、これを知らなければ鉄雄は国を守るために生贄にしようとしてくる隊長と思い続けていただろう。

 それほどまでにレインに対する評価は下がっていた。何せまともな交流はしていない。仕事外の付き合いも無ければ、食事を共にしたことも無い。訓練ではボコボコにされる間柄。

 逆に鉄雄が調査部隊で一番付き合いがあるのはキャミル。修行を手伝ってもらったり、仕事を教えてもらったり、美味い料理屋を教えてもらったりしていた。だからこそここまで素直に付き合ったわけでもある。


「話はわかりました。でも、戦うかどうかは別ですよ」

「それでいいのよ。大事な人がちゃんと決まっていて、その人を守りたいから離れたくない。間違ってないわ。その気持ちは大切だから無くしたらダメよ。むしろ半端な気持ちでアメノミカミで戦おうとするならひっぱたいても止めるわ」


 迷いの無い目でそう答える。本気で叩くだろうだろうとわかっていた。そういう人間だと知っているから。友の為にわざわざこんな場所まで連れて話すような人なのだから。


「……わかりました」

「ならいい。ふぅ……ちょっと話すぎて疲れたわ……テツオは今日はもう帰っていいわよ」

「えっ?」

「気まずいでしょうし、この話を飲み込む時間も必要でしょ? レインについてはこっちで上手く言っておくから」


 意図せずして半休をいただいてしまう鉄雄。無論体を休めたり遊ぶ気にはなれなかった。王都に戻る途中に見える修繕された多くの場所。知ってしまった今は来た時と比べ思うところが多く、足取りは重くなっていた。

本作を読んでいただきありがとうございます!

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