初の攻撃魔術会得からのぉ、討伐クエスト初受注からのぉ、・・・・・・。
前回のあらすじ(簡略版)
念願の防具を買い揃え小型モンスターの一角兎捕獲クエストを受注する
【チャーム】を使い難なく捕獲完了するのだがユットは一角兎に少し愛着を持ってしまう
そんなユットに気遣うことなくレーネは一角兎を売り飛ばし解体挙句の果てに
一角兎の肉を使ったコロッケをユット(何も知らない)に食べさせてしまう
ユットは後で何の肉かを知りレーネのことを一週間無視したのだった……。
ステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル15
チャームレベル20
筋力レベル5
俊敏性レベル5
その他1
一角兎事件から10日経った頃、小型モンスターの捕獲クエストを毎日受注したお陰で(報酬が少ないからその日暮らしが辛かったけど)僕はようやく攻撃魔術を修得していた。
「ホント長かった。ここまで来るのに2ヶ月もかかるなんて」
「私が言うのもなんですが、攻撃魔術を覚えるのにプレイ時間、600時間(実働)もかかるゲームがあったとしたら3時間くらいでやめますね」
たしかに、1日10時間は仕事やらクエストやらやってこれだもんね、辛すぎるよ。
「それで、何の攻撃魔術を覚えたのですか?」
さりげなく近寄ってきたレーネが僕のステータス画面をのぞき込んでくる、前まではこれだけ近いと、あのレーネとは言え流石にドキドキしていたけど、今では洋菓子のような甘いレーネの匂いにも慣れてしまい、姉弟みたいな関係になりつつあるんだけど、もっとまともなお姉ちゃんが良かったよ。
「もう、近いよ、えっとね、【ファレム】だって」
「なるほど、火属性の攻撃魔術ですね。よかったじゃないですか。念願の火属性低級魔術ですよ」
「よかったぁ、今までの流れだと、また大したことない魔術とかだったらどうしようかと思ったよ」
「ここまで苦労して会得した魔術がしょぼいわけないじゃないですか、そんな鬼畜仕様、昭和のレトロゲーマーでも裸足で逃げ出しますよ」
「とりあえず、使ってみていいかな?」
「駄目ですよ、前も言った通り、街中で攻撃魔術を使って憲兵に見つかったら投獄されますよ、ここは試し斬りとして討伐クエストを受注してきましょう」
「おおぉ! いいね! そうしよう」
ようやく覚えた攻撃魔術にテンションが上がりまくりの僕らは勢いのままギルバーで縞猪討伐クエストを受注して町から少し離れた小山の中に来ている。
「なんか、迷いそうだね」
「そうですね、それなら――」
鬱蒼とした木々の中で先に進んでいたレーネは立ち止まって僕の手を握ってくれる。
「あ、ありがと」
「どうしました? もしかしてドキッとしましたか?」
「……してないよ」
本当は少しだけドキッとしてしまって、そんな僕をからかうような顔でレーネは覗き込んでくる。ホントこんなレーネにドキッとした少し前の僕は大馬鹿だ。
レーネに手を引かれて数分後、少し開けたところに出た僕らの前に茶色と黒の縞模様が特徴的な猪が現れた。
「……ねぇ、レーネ、もしかして縞猪ってアレじゃないよね?」
「特徴的にはマスターに聞いた通りの外見ですね、大きさ以外は」
マスターが言っていたのは、縞猪は小型でレーネの膝位の高さしかないって言っていたけど。
「じゃあ、これが縞猪ってこと? それはおかしくない? だって、僕と目線が同じなんだけど」
どう見ても、僕と同じくらいの高さがあって胴の長さに至っては多分レーネの身長より長い。
「例え、聞いていた大きさの2倍以上であろうと、関係ありません。獣系のモンスターは魔術系に弱く、更には火属性にも弱いわけです。ユットの【ファレム】があれば、問題ないはずです」
「問題ないはずって言う割にはどうしてゆっくりと後退りをしてるの!?」
「私はユットを信じていますから」
「いや、言ってることとやってることが真逆なんだけど、僕の後ろに立って、僕を盾みたいにしながら言うことじゃないよね!?」
「あっ、もしかして、今、『立って』と『盾』かけました?」
「かけてないよ!」
そんな僕のツッコミに反応したのかはわからないけど、縞猪が突進して来る。
「来ましたよユット、モンスター目掛けて、魔術名を唱えてください」
「えっ、いきなり本番!? 練習とかしてないよ。詠唱とかいらないの!?」
「低級魔術に詠唱はありません、ほら、早くお願いします」
「わ、わかった。【ファレム!】」
勢いよく火の弾丸が出るイメージで人差し指を突き出したけど、火の弾丸の代わりに僕の人差し指がまるで蝋燭になったかのように小さな火が指の先に灯っていた。
「あー、なるほど、こう来るか」
始めて覚えた攻撃魔術が実は強力で想定外の大きさのモンスターも一撃で丸焦げ……なんて展開はこの異世界転生にある訳がなく、そんなことはここまでのことでわかっていたはずなのに……、僕は全てを察した一言を呟くと、とりあえず向かってくる縞猪を寸でのところで横に飛び込みかわした。
「危なかったですね、でも、おかしいですね。魔術が発動しなかったなんて、でも大丈夫です次こそは頑張りましょう」
「違うんだレーネ、魔術は発動してる」
左の人差し指で自分の右の人差し指の先を指し示すとレーネは『あーなるほど』と言って、どこからか、マッチを取り出して火を点ける。
「マッチ以下ですね」
指先の火の隣にマッチの火を近づけ比べ初め、僅かにマッチが勝っていることを確認してくる。
「レーネ、僕はもう心が折れそうだよ」
「そう、落ち込まないでください、【ファレム】のレベルは1なのですから、こんなものですよ、それにもしかしたら火の大きさは小さいですけど、威力は強力で触れた瞬間、モンスターを燃やし尽くす可能性も――」
「あると思う?」
「ないですね、そよ風で消えそうですから」
ちょっとした風で揺らぎ今にも消えそうになっている【ファレム】を僕らは虚ろな目で見ていると縞猪が反転して向かってくる。
「あっ、これ、まずいですね」
「今は落ち込んでる場合じゃないね、どうすればいい?」
「とりあえず、いつも通り安定の【チャーム】を使って縞猪を手懐けて危機を回避しましょう」
「わかった」
レーネの言った通り縞猪に【チャーム】をかけたところまではよかったんだけど、縞猪の様子がおかしい、目がハートになっているような気がするのは僕の錯覚かな? そして僕に向かって一直線に向かって来てるように思うのは僕だけかな!?
「ちょ、レーネ、これ――」
「計画通り」
振り返ったらレーネは僕から離れていて、それでもヒロイン(自称)なのかと言いたくなるようなまるで新世界の神にでもなったかのような凶悪そうな顔を僕に向けていた。
「それでは、私は町に行っていますので、お先に」
そう。僕に【チャーム】を使わせることで縞猪の興味が僕に向くことを知っていたレーネはそれを利用して、僕を囮に使い1人で安全に町へ帰るつもりなんだろう。
そうとわかれば、こちらも容赦はしない。
「なっ、私に【チャーム】をかけましたね?」
今までは対魔術耐性の高いレーネに【チャーム】は効かなかったけど、今や【チャーム】はレベル20まで成長してるから少しは効果があったみたいで、僕を置いて逃げようとするレーネの足が止まる、魅了された相手をこの危機的状況に置いてはいけないだろうと思ってやってみたけど、上手くいったみたいだ。
「ふっふっふ、1人で逃げれると思わないでよね、僕だっていつまでもレーネにやられっぱなしじゃないから」
そう言って僕はレーネの手を握って捕まえる。
「死なば諸共だよ」
「くっ、可愛い顔してやることがエグイですね」
「お互い様だよ!」
そんなやり取りの後、僕たちは2人3脚のような感じで必死に駆けまわり何とか小山を抜け出した。途中、このままでは逃げ切れないと思って、防具を全て脱ぎ捨てて体を軽くし、それでも最後のほうは体力の限界が来て、レーネに抱えてもらい、何とか町までやってきたけど、門番に止められてしまった。
どうして止められたかって? 見ればわかるはずさ、だって、下着姿の僕を抱えるレーネ(女性)どう見ても攫って来たようにしか見えない。
「違いますよ、勿論人さらいじゃありませんし、私はショタコンなんかじゃありません。ユットの口からもちゃんと説明してあげてください」
「そうなの?」
門番の人にそう言われて、一瞬考えたけど、答えは簡単だ。
レーネがこうなっているのは僕を助けてくれたからだ、だったら言うことは決まってる。
「この人、変なんです」
「なんだね、チミは?」
不審者を見る目でノリのいい門番さんはレーネにそう言うと、レーネはそのノリに応えようとする。
「なんだチミはってか? そうです、私が――」
当然最後まで言わせてもらえずレーネは門番2人に引きずられるように連れていかれる。
「ユットォォ、助けてくださぁぁい! 連れていかれちゃいますよ! 誤解を解いてくださぁぁい! じゃないと門番2人に酷い事されちゃいますよ! 私の薄い本出ちゃいますよぉぉ!」
レーネが僕を助けようとしてくれたのはあくまで【チャーム】のお陰だからね、【チャーム】がなかったら普通に置いてかれただろうし、同情の余地なし、少しは反省するといいよ。
あと、薄い本に関してだけど売れない本は作られないから安心していいよ。
そう思いながら引きずられていくレーネを生温かい目で見送ったのだった。
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