捕獲クエスト
前回のあらすじ(簡略版)
お使いクエストを受注しお金を稼ぎ防具を揃えようとしたのだが
そもそものステータスレベルが足りず防具を装備できないことに気づく
クエストでお金を稼ぎつつ、地味なステータスレベル上げをなんとか終えて
ようやく異世界転生らしくなっていく、はずなのだが……
ステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル10
チャームレベル10
筋力レベル5
俊敏性レベル5
その他1
翌日のお昼。
僕は前から目を付けていた、防具屋で1番安い、見習い魔術師のローブとついでに安売りになっていたハットを購入していた。自分でも浮かれているのがわかるぐらいテンションが上がってたので試着したまま購入して店の外にでた。
「うう、良い買い物をしたとは言え、残金が689ジェニーかぁ」
残金と言う名の現実を見てしまうと、さっきまでのテンションが嘘のように下がってしまう。
「そう落ち込まないでください、せっかく念願の防具を買えたのですから、それに似合っていますよ、特にその三角ハットがとても可愛いですよ」
「……ありがとう、ただ、レーネの食費がもっと安ければこんなに苦労せずに済んだんだけどね」
「私だって、我慢したのですよ。そのせいで体重だって落ちたのですから」
「何キロ痩せたの? (正直、見た目じゃわからないけど)」
「100グラムです」
「少ないよ!」
「何を言っているのですか、私のお肉は10グラム、3000ジェニーはする質の高い高級なお肉なのですよ。つまりは3万分の損をしているのと同じですよ」
「それなら、そのお腹に蓄えている高級なお肉を売って来てよ。そのお金でレーネのご飯買うから」
「なっ、ユットは私の体を売って来いって言うのですね! ヒ、ヒドイです!」
「そう言う意味で言ってないよ! 誤解されるようなことを大きい声で言わないで!」
「『100分3万で稼いで来いなんて』ううう」
「具体的な数字言うのやめて! わかった、わかったから、レーネの食費のことはもう言わないから、その嘘泣きを今すぐ止めてください! お願いします!」
「アレで手を打ちましょう」
レーネの指先にはお肉屋さんがあり、そこのお惣菜であるコロッケが食べたいらしい。
「(もう、やり口が裏社会の人のやり口だよ)」
渋々、レーネと2人でお肉屋に行き、レーネがコロッケを注文する。
「おばさん、コロッケ2つお願いします」
「何しれっと2つ買おうとしてるの?」
「ユットも食べるかと思いまして」
「いや、いらないよ。さっきお昼ご飯食べたばかりなのにコロッケ食べたいなんて言うのはレーネぐらいだよ」
「そうですか、それじゃあ私が――」
お肉屋のおばさんから当たり前のようにコロッケを2つ受け取ると両方に歯型をつけてしまう。
「ちょっ! 何食べてんの!?」
「ユットがいらないと言ったので」
白々しくとぼけるレーネを見て、返品できないようにワザとやったことに気づいたけど、どうしようも出来ないので、渋々、2つ分のお金を払うことになった。
「ありがとうございます、ユット」
本当に美味しそうにコロッケを食べるレーネの顔を見ると、なんだかんだ言っても許してしまいそうになってしまうのもレーネのことがムカツクポイントです。
「さて、お腹も心も満たされましたし、防具を試しにクエストにいきましょう」
「そうだね、それじゃあ、ギルバーに行ってクエストを――」
「受注しておきましたよ。これです」
仕事早いなぁ、レーネの場合仕事が出来ないんじゃなくてやらないだけだから余計に立ちが悪いんだよね、やろうと思えばこんな感じですごくサポートしてくれるのに。
「なになに……、一角兎の捕獲? 捕獲ってことは倒すのとは違うってこと?」
「そうですよ、ユットはまだ攻撃魔術を覚えていないので、討伐より捕獲の方が合っていると思いまして、一角兎も町の外に出れば頻繁に見かけるモンスターで攻撃性も低く、最初のクエストにしては丁度いいかと」
そう言ってレーネは小動物を捕まえるような両手より少し大きい檻型の罠を見せてくる。
「それで捕まえるの?」
「ええ、そうですよ。あっ、もしかして赤と白色のボールだと思いました?」
「思ってないよ! そんなのが出てきてもらっても困るよ!」
「なるほど、赤白如きじゃ満足しないと、紫白がいいと、でも、そうなるとマスターのボールが必要になりますね。まぁ、2つあるでしょうし、1個ぐらいわけて――」
「くれないよ! って言うか、シワシワのマスターのボールじゃ何も捕まえられないどころか、そんなの投げたら僕らが捕まるよ色んな意味で!」
「えっ、何故マスターのボールがシワシワって、あっ――」
「何察したみたいな顔してるの!? 違うよ! そう思っただけだから見たことないからね!」
いつも通りの馬鹿なやり取りもほどほどに僕たちは町の外に出て、緑の生い茂った林に到着して、歩いていると、草むらから小さくて白い角の生えた兎のような小型モンスターが現れる。
「あっ! もしかしてあれが一角兎じゃない?」
「【あっ! やせいの一角兎がとびだしてきた! テレテレテレテレテレテレテレテレ、 テッテッテレ、テッテッテレ↑――】」
「いや、あのBGM真似しても伝わらないと思うよ」
僕は自分でもわかるぐらい冷めた目でレーネを見つつも無駄にクオリティの高いモノマネBGMを聞き流しながら淡々と罠をセットする。
「それで、これからどうすればいい?」
「――そうですね、まずは【チャーム】で一角兎を魅了状態にしてこの罠の中に誘導します、中に入ったら入り口を閉じます、中から出られなくなる、以上です」
「随分と簡単そうだけど、(大丈夫かな?)」
とりあえず、言った通りに【チャーム】をかけてみたら思ったより効いてくれて何事も無くすんなりと罠へと誘引できてしまったのですぐに入り口を閉める。
「えっ、これでいいの?」
「はい、ばっちりですけど、何か物足りませんか? だったら『一角獣ゲットだぜ』とか言ってみますか?」
「いや、それはもういいよ。じゃなくて、いつものパターンだと上手くいかずに四苦八苦して結局クエスト失敗みたいな流れになるのかなって思ってたから」
「ああ、つまりはおいしくないと」
「そこまでは言ってないけどね!」
「まぁ、いつもいつでも上手くいくなんて保証はどこにもないけど、たまにはこういうのもいいんじゃないですか?」
「そうだね、楽に越したことはないけど、でも……これなら防具いらなかったんじゃ?」
「今回は要りませんでしたけど、一角兎を見つける前に急に強いモンスターが出てきたら普通にユットは死にますよ。そうならないための保険ですので、もし、不満なら売ってきましょうか?」
「――調子に乗ってごめんなさい」
珍しくレーネに正論を言われた気がする。明日の天気大丈夫かな。
そんなこんなあってモンスター相手の初クエストは難なく終わり、鉄の檻に入れた一角兎を持ったまま町に戻り(モンスターを町へ入れる際、町の入り口で憲兵さんのチェックなどがあったけど割愛)、依頼者のところへ持って行っていた。
「でも、見れば見るほど、可愛いよね」
「ありがとうございます」
「いや、レーネじゃなくて、――この一角兎、モフッモフだし、毛並みも角も綺麗な白色だし、長い耳が垂れさがってるし、赤い眼もつぶらで可愛いし、鳴き声も『キュウキュウ』って可愛いし、凄く懐いてくるし」
「確かにルックスだけならペットになってもおかしくはないのですが、一角兎は臆病な性格で警戒心も強いので普通は人に懐かないんですよ」
「そうなんだ、でも、僕には凄く甘えた声を出だしてくれるよ」
「ああ、それはそうですよ、【チャーム】掛かっているのですから、簡単に言えば普段は大人しい女子でもアダルティなお薬を盛られたら乱れるのと一緒で――」
「どんな例えだよ! もっとマシな例えいくらでもあるよね! なんでそんな生々しい例えをチョイスするの!?」
「さんざん大人な女性たちを弄んできたユットならわかりやすいかと」
「わざと人聞きの悪いことを大通りで言うのは止めて!」
「ふふっ、ちょっとからかっただけじゃないですか、そんな耳まで赤くしなくても」
「うるさい」
「でも、『僕には凄く甘えた声出してくれるよ』って、NTRっぽくて、ちょっといやらしいですね」
「悪意のある切り取り方をしないで!」
町を歩く人たちから若干引かれつつ、避けられつつ、そんなこんなで依頼者のところへやってくる。
「あれ? ここって?」
ほんの3時間位前に立ち寄ったお肉屋さんだった。
「それじゃあ、失礼しますね」
レーネはそう言って僕の手から檻を取っておばさんに見せる。
「おばさん、依頼の一角兎、生きたまま捕まえて来ましたよ」
「へぇぇ! 凄いね、一角兎はすぐ逃げるからこんな綺麗な状態で捕まえるなんて、じゃあ、早速――」
そう言うとおばさんは檻を受け取り店の奥へと行ってしまい、30秒後くらいに『キュュュュウ!!!』っと、大きな鳴き声が聞こえたかと思うとしばらくしておばさんが出てくる。
ん? どういうこと?
「はい、それじゃあ、これ依頼料ね、それとこの角はいらないから持ってきな、ああ、あとこれはサービスね」
依頼料7000ジェニーと綺麗な白い角とコロッケを2つ貰い、店を出る。
「それじゃあ、とりあえず薬屋さんにでも行きましょう、この角は薬の材料になりますから買い取ってくれますし……、ボーっとして、どうかしましたか、ユット」
「え、えっと、ちょっと待って、いや、整理させて、一角兎を捕まえたよね、あの一角兎を依頼者に渡すのはわかるよ、でも、その依頼者がお肉屋さんで、なんか断末魔みたいな鳴き声が聞こえて、それで見たことある綺麗な白い角を貰ったんだよね。それってさぁ――」
「そういうことです」
「ええぇぇぇ! 本当なの!? 本当に解体されたの!?」
「まぁ、お肉屋ですから、あれくらいのモンスターの肉なら解体して売るのは普通だと思いますけど、……露骨に落ち込んでいますね」
「そりゃ、そうだよ、あんなに可愛かったのに……」
「まぁまぁ、そう落ち込まずに、美味しいもの食べると気分も上がりますよ」
珍しく元気づけようとしてくれたレーネはおばさんから貰ったコロッケを1つくれる。
「また2つとも食べたと思ってたよ」
「私だってさすがに空気ぐらい読みますよ」
「……ありがと、――モグモグ、――うん、美味しいよ」
本当にたまにだけどこういう優しいところがレーネの数少ない良いところなんだよね。
「よかったです、これ、私の好物なのですよ。『一角兎コロッケ』」
「…………」
「ユット?」
「…………レ」
「レ?」
「レーネのばかぁぁぁ!!」
1ミリも空気の読めない僕の相方は鬼か悪魔か、どちらにせよ、僕はそれから3日間レーネとは口を利かなかったとさ。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます。
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