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初期設定、覚えてますか?

前回のあらすじ(簡略版)

グレーゾーンの仕事に嫌気が差したユットはレーネの反対を押し切り引退する

代わりの収入を得るため非効率ではあるが、ギルドでクエストを受けるため

レーネの先導でギルド『ギルバ―』にたどり着く

『ギルバ―』のギルドマスターである『マッカオ』と出会い

町の中で出来る簡単なお使いクエストを受注したはずなのだが……

ステータス画面『ユーネスト』

総合魔術レベル10

チャームレベル10

その他、レベル1


「キ、キツ過ぎる」

 依頼主の飲食店に立ち寄り、運搬に必要な台車を借りて港まで歩き、生きた魚を持ち帰るため大きな水瓶に海水と魚を入れて運んでいるんだけど、この町は港町と言うこともあってか坂が多く、傾斜が結構キツイ、それなのに僕と同じか下手すると重い台車を押して歩くのは一種の拷問のような過酷さがある。

「頑張ってください、あと半分です」

「頑張ってくださいじゃないよ! 瓶と一緒に台車に乗ってないでレーネも手伝ってよ!」

 レーネはゆっくりと動く台車の上から僕をこうして応援してくれているけど、水瓶だけでもキツいのにレーネが乗っていることでキツさが倍になってる。

「私が水瓶を持っていないと倒れてしまいますから」

「だとしても、普通役割逆じゃない?」

「いえ、これは特訓も兼ねていますので、重い荷物をなるべく早く運搬しようとすれば、自然と鍛えられ、筋力や瞬発力のレベルが上昇します、両方戦いで必要なステータスなのでこれは必要なことなのです、決して私が楽をしたいとかそういうわけではありませんので」

「いや、絶対に嘘でしょ! だって、この前はレーネ、攻撃魔術と最低限の防具があれば戦えるって言ってたじゃん、嘘ついてサボらないでよ、ちゃんと手伝ってくれないと夕ご飯抜きだからね」

「今のお母さんっぽいですね」

「いいから早く手伝ってよ!」

 そんなこんなあって、レーネと役割を交代し、早朝と夕方計8時間で日当1万、賄い一食つき(初日に賄いを食べ過ぎたレーネのせいで初日分は給料半額)、これを繰り返し20日が経った。

 依頼期間をとりあえず満了した僕たちは期間を延長しないかと店主さんに言われたが、とりあえず3万5千ジェニーは貯まったので『もう大丈夫です!』とキッパリお断りしたその足でギルバーに報告へ行く途中、レーネの提案により、防具屋へ立ち寄っていたところだ。

「……ただいま」

「お帰りなさい、どうでしたか?」

「『君のような非力な子じゃ、魔術師見習のローブでさえも装備できないよ』って軽く笑われた」

「つまり?」

「レーネの言ってたことは本当でした」

「嘘つき呼ばわりされて傷つきました、それに運搬時の台車担当はほとんど私だったのですが?」

「ごめんなさい、……けど、防具を装備するのに筋力とかいるって知らなかったし」

 土下座で謝罪した僕は少し不満気に顔を上げる。

「だから、私が言ったじゃないですか『両方必要なステータス』だって、ちなみに瞬発力が無ければ装備したところで動きが遅く、まともに歩けませんよ」

「(うぅぅ、そういうのはちゃんと言っておいてよ、というか、こういうところだけは異世界らしいのがなぁ)これからどうすればいい?」

「そうですね、効率を考えるならさっきのクエストの依頼期間を延長してもらうのがいいと思います」

「えっ? でも、さっき結構キッパリ断っちゃったけど」

「たしかに、ドヤ顔で断っていましたね。ただ、アレで謝罪すれば許してくれますよ、きっと延長してくれると思いますけど?」

「アレ? ……アレか」

 10分後お店に戻った僕は店主を見つけるとついさっきドヤ顔で辞める宣言したにもかかわらず『もう一度雇ってください』なんて言わないといけないのかと一瞬躊躇しつつも羞恥心を捨てて、アレ(本日2回目の土下座)を行いながらチャームを周りの女性に使い同情を誘うことで味方につけ、なんとか依頼を延長してもらった。

 我ながら恥も外聞もないよね。

 ともかく、それは同時に地道なステータスレベル上げがまた始まることを示していた。


「ねぇ、レーネ」

「なんですか?」

「いつまで、こんな地味な作業を続けないといけないの? おかしくない? 異世界転生ってもっと派手に魔法とか使ってバッタバッタと敵を倒すとかそんな感じなんでしょ? こんなんじゃ世界の異変を正すなんて夢のまた夢だよ」

 そんな風にボヤキたくもなるよ、思ったより上がりの遅いレベル、貯まらないお金、そして辛い重労働、はっきり言って異世界に転生したという感覚がなくなってきている。

 大体今日まで僕が見た魔術は自分で使える【チャーム】とマスターの風属性の魔術(魔術名とか聞いてないから詳しくは知らないけど)だけって……、もう、こっちに来て1ヶ月過ぎているのに……。

「そうですね、そろそろ進展がないと、ユットが女神代行の秩序守護バランスキーパーとして異世界転生したってこと、そろそろ忘れられている頃ですね」

「これじゃあ、異世界に出稼ぎに来てるフリーターみたいだよ」

「ああ、それもアリですね、なんか新しい感じしますし、そっちに路線変更しますか?」

「しないよ、と言うか、忘れてるでしょ? 僕はこの異世界で異変を見つけてそれを正す、それをすることで裕福で幸せな人生が約束された新たな人間として元の世界へ転生することができるわけ、レーネは女神の代わりに僕の手助けをするんでしょ?」

「わかっていますよ。言ってみただけです。そう言えば昨日リス(通信機)を使って母と話していたみたいですけど、何を話していたのですか?」

「なんて言うか、進捗? だよ。どういう感じで進んでいるかとか聞かれたからありのまま答えただけ(レーネのこと〈主に食費〉も報告したら『まぁ、そうなるだろうね』って言われたから、わかっててレーネを押し付けてきたのが確定したんだけど、それは内緒にしておこう)」

「……私のこととか聞かれませんでした?」

「いや、別に何も聞かれなかったけど」

「そうですか」

 少し寂しげな顔になったレーネを見て、僕は察した。

 女神がレーネのことを心配してないか気になったんだと、それはそうだよね、親子なんだから子供としては異世界に転移した娘の心配をしてほしいって思うのも当たり前か、だったら失敗しちゃったな。嘘でも心配してたとか言ってあげればよかった。

 なんてフォローすればいいんだろう? 普通に励ますのも違うし、……あっ、そうだ、『心配してないのはレーネをそれだけ信用してるからだよ』ってフォローすれば、自然だし元気になってくれるかも。

「はぁ、戻って来いとか言ってくれれば合法的に帰れたのに」

「……今なんて?」

「いえ、だから母が戻って来いと言ってくれれば私は大手を振って帰れるじゃないですか、正直、こっちの生活は大変ですし、また実家でゴロゴロしたいなぁと思いまして」

 一瞬でも、励まそうとしたこっちが馬鹿だったよ!

「レーネだけは絶対に帰らせないからね!」

「ん? それって新しいプロポーズかなにかですか?」

「違うよ! 僕が例えプロポーズをするにしてもこんなタイミングなんかじゃないし、ましてやレーネになんてしないよ!」

「えっ、私じゃ不満ですか?」

「不満だよ! 不満だらけだよ! 何で自覚ないの!?」

「そうなのですか? 私の目標は高収入の夫の家に入って、リビングで1日中ゴロゴロすることなので、てっきり理想のお嫁さんなのかと」

「それのどこが理想のお嫁さんなの!? ただのレーネの欲望でしょ!? と言うか、どんだけゴロゴロしてたいのさ」

「一生していたいですね」

 ああ、僕の中のレーネの株価がすでにストップ安なんだけど、一向に上がる気配がないんだけど。

「はぁ、ツッコミを入れるのも疲れて来たよ」

「まぁまぁ、そう気落ちせず、今日の分が終わればステータス的にも防具を着られるでしょうし、そうすれば町の外でモンスター相手に稼げるようになりますから、頑張ってください」

 誰のせいで余計に疲れていると思ってるんだよ、ってツッコミかけたけど疲労感から言葉にせずに飲み込んだ。

 レーネの言う通り、なんだかんだとこの馬鹿でかい水瓶の運搬にも慣れてきて、ステータスも向上して筋力、俊敏性ともにレベル5になる。最低限必要なステータス条件をもうすぐクリアできる。

 長かった地道なステータス上げもようやく目途が立ったから少しは希望と言うか、少しホッとしてる。

「ようやく、この坂道を水瓶と重り(レーネ)を乗せて押さなくてもいいのかって思えば、少しはやる気にもなるね」

「そうですよ、あと少しです、頑張ってください」

 相変わらず台車の上で足をパタパタと動かしながら心のこもっていない応援をしてくるのを聞いて(我慢、我慢、苛ついたら負け、僕は大丈夫)そんな風に言い聞かせ、台車を押し続けたのだけど、今更ながらこの絵面って大丈夫なんだろうか? 重い水瓶を乗せた台車を子供が押すのはまだいいとして、レーネは小柄とはいえ、普通に僕よりも体格が大きい、そのレーネが台車に乗って『頑張ってください』とか言って運んで貰ってるって絵面的にヤバイんじゃ? 見方によっては普通に虐待では?

 そんなことを本当に今更ながら考えている内にお店の前まで到着し、「お世話になりました」ってドヤ顔をせずに丁重に低姿勢で挨拶をして、何とか最低限のステータスレベル上げを終了した。

 これでようやく、異世界転生らしくなる……はず?



今回もここまで読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字ありましたらご報告いただければ助かります。

ブクマ、感想、評価などお待ちしていますのでよろしければお願いいたします。

世間的に外出し辛い状況ですので少しでも暇を潰せることに協力できればと思い

なんとか投稿頻度を上げられるように頑張っていきたいと思います。

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