夜に入るラーメン屋の魅力には勝てなかったよ・・・
前回のあらすじ(簡略版)
初黒星を喫しながらも【チャーム】の魔術を使い防具を買うための金銭などを稼ぎ始める
稼ぎ自体は順調だったが、思ったよりも精神的負担が大きく早くも挫折しそうになるユット
それでも魔術レベルを上げ攻撃魔術を覚えられればギルドでクエストを受注することができ
町の外で稼げることをレーネに教えてもらい、なんとかモチベーションを保っていたのだが……
現在のステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル5
チャームレベル5
その他、レベル1
あの日から僕は頑張ってきた。
資金を少しでも早く貯めるためにレーネの提案に従って色々してきた。
対象のお姉さんがママや姉と言う設定でデートをする代わりに報酬を受け取る(ママ活、姉活って言うらしい)こともしたし、望まれればレーネ護衛の下、添い寝もした(5分で2000ジェニ―)
何度蔑まれようとも、小馬鹿にされようとも、『おい、見てみろ、あいつだぞ、最近巷で有名な物乞いは、女に媚びて金を貰うらしいぞ』なんて陰口を叩かれるほど有名人になってしまっても聞こえない振りをして頑張ってきた。
そうして2週間、毎日平均15時間働いて稼いだお金はようやく20万を超えた。
これだけあればそれなりに貯金も出来ているはずだから防具を揃えられると思って僕はジェニーカード(クレジットカードのようなもので稼いだお金を手の平サイズのカードに振り込むことが出来る、使う時もジェニーカードから支払われるから現金を持ち歩かなくてよく非常に便利)を握りしめ防具鍛冶屋さんへ行き、色々見て回りお気に入りの防具を試着したのち、支払いを済ませようとして残高が273ジェニーしか残ってないと言われ、恥をかいたのが10分前の事……。
どういうことなのか、カードを管理していたレーネから話を聞こうといつもの部屋に戻ってきたところなんだけど……。
「……っで、どういうこと?」
「何がです?」
「いや、約2週間で稼いだ20万がどうして現在273ジェニーになっているのかきいてるんだけど、管理してたのレーネだよね?」
「確かにそうですが、よく考えてみてください。稼いだお金は確かに20万ほどありましたが、当然私たちは生きています、生活をしています。つまり生活費として食費や宿泊代など掛かる訳です。そうなれば2人で2週間も宿屋で生活していれば、泡と消えるのも当然です」
「ここの宿泊費は1泊2人で6千、6千×14日で約9万、食事も1日2人で2千×14日で約3万、その他消耗品を含めても2万程度、つまりは最低でも6万はカード(ここ)に残ってないとおかしい、だから僕は3万あれば最低限の防具は買えるのを調べていたから今日買いに行ったわけ。なのにどうしてあるはずの6万がなくなってるんだよ」
「……やはり気づいてしまいましたか、出来ればこのことは私の中に止めて置きたかったのですが、致し方ありませんね」
レーネの雰囲気が急に変わった。
いつものふざけている空気感ではなく、シリアスな、次の瞬間には僕に武器を向けて来そうな気迫を感じて、一歩後ろへ下がってしまう。
まさか、まさかの最初に仲間になったレーネが実は黒幕で、母である女神の邪魔をしようと、この異世界で異変を起こし不調和を企んでいたのかと、そんなシナリオが頭をよぎり身構えた僕を尻目に、この女はあろうことか土下座をしている。
「……何してるの?」
「ユットが元いた世界では土下座という何でも許される素晴らしい謝罪方法があると知っていたので実践しています」
「いや、いくら土下座とは言えど、何でもは許さないよ」
「なるほど、何でもは許されないわよ、許されることだけ、ということですか」
「それで、一体何に使ったの?」
「ユットはもう知っていると思いますが、私はこう見えて意外と食べる方なのです」
「ああ、最初に会ったときも大食い勝負? みたいなのしてたもんね」
「その私がユットと同じ量の食事で満足できるはずもなく、しかし、かと言って、その場でおかわりをするのも女子としてどうなのか? と思い言い出せず、いつもユットが寝たのを確認し外で夜食を食べていたわけです」
「(女子としてとか気にするの? 今更感が半端ないよ、最初あった時、すでに口の回りトマトソースまみれとか、平然と下ネタ言ってた時点で手遅れだったような気がするけど)なるほど、つまりは食費に消えたってわけね、でも、それにしては掛かり過ぎじゃない? 2週間で6万近く減るってことは1食4000ジェニーぐらい使ってるってことでしょ? いったい何をどれくらい食べたそうなるの?」
「ふらりと立ち寄ったラーメン店がですね、すごく美味しくてつい」
「いやいや、ラーメンで4000ジェニーは使い過ぎでしょ、(と言うか、この世界にもラーメンあるのか、まぁ、この世界だと物価的にそんなものかもしれないし、ラーメンが高級品の可能性もあるから、一応確認してみよう)どんな注文したの?」
「そんなにおかしいことはないと思いますよ? 餃子と唐揚を1人前ずつ、ラーメン特盛、ビールを大ジョッキで2杯――」
「ちょっと待って! 特盛の時点で、ん? ってなったけど、それはもういいや、ビールってなんだよ! 何しれッとお酒呑んでるんだよ!」
「こう見えてもこの世界基準で私は普通に大人扱いなので別に問題ないと思いますけど」
「いや、年齢的な話をしてるんじゃなくて、お腹空いてるから夜食を食べるまではギリギリ理解できるけど、お酒は無駄でしょ、無駄遣いでしょ!」
「ユットは子供だから理解できないかもしれませんけど、大人になると仕事とか大変ですし、お酒を呑んで嫌なことを忘れたくなる、そんな日もあるのです」
「仕事って、レーネの仕事ってほとんど僕の護衛というか、ほぼ見てるだけだよね! 正直ほとんど仕事らしいこと何もしてないよね!」
「確かに私は仕事らしいことをほとんどしてないかもしれません」
「(あっ、こいつ遂に認めたぞ)」
「しかし、ユットがそんなことを言えるのは子供だからです。夜中にラーメン屋へ行き、野菜多めだけどニンニクがしっかり効いた餃子や衣に包まれた鶏肉の旨みが噛んだ瞬間にジュワッと口に広がる唐揚げをキンキンに冷えたビールで流し込み、シメにラーメンを啜る。この『誘惑』に勝てる大人など――はっ! まさかあの店主、頑固おやじ感が半端なかったですけど、まさかの【チャーム】使いなのでは!? だとしたら私は【チャーム】によって半分洗脳されていたようなもの。よってここは、無罪に――」
「ならないよ! (と言うか【チャーム】を半分洗脳って言い出したよ、それ、僕らが1番言っちゃ駄目な奴)大体さっきから大人、大人って言うけど、傍から見てみてよ、子供の僕がグレーゾーンの仕事で稼いだお金を使って夜な夜なお酒を呑む大人のことをどう思う!?」
「人間のやることじゃないですね、誰ですかその屑は!」
「お前だよ! そう言うことだから執行猶予無し、即実刑ね、1週間夜食禁止の刑を実行するから、当然だけどカードの管理も僕がするから」
「異議あり! あまりに罪が重すぎます、夜食が無ければ餓死してしまいます減刑を要求します」
「却下します。そもそもすでにお金自体がないんだからどっちにせよ、食費を削るしかないので諦めてください以上」
「そ、そんなぁ」
絶望の表情で崩れ落ちるレーネを見て同情心は生まれなかったが、その夜、お腹が鳴る音と共にラーメンではなく涙をすする音が聞こえた時は(ほんとにお腹空いてるんだな)と少しだけ同情した。
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