初黒星
前回のあらすじ(簡略版)
お金を持っていそうな女性を狙い、チャームを使い金品を分けてもらう作戦を実行する
ユットが思っていたより上手くいき、複雑な気持ちになりながらも宿屋で宿泊することになる
2人で1部屋なことにユットは抗議するが、レーネの予想通り、ユットのユットはレーネの下着姿に
反応せず、ユットは自分の体が思っていたより子供だったことに落胆したのだった……。
「今日もなかなかの収穫ですね」
翌日の夜、僕たちは昨日と同じ宿屋の同じ部屋で今日1日の収穫(グレーゾーンの汚いやり方で稼いだ金品)を見ていた。
「これいつまでやらなきゃいけないんだよ?」
「どうしたのですか? 昨日より収穫が多いのに随分と落ち込んでいる様子ですけど」
たしかに【チャーム】の魔術と、この新しい顔と体のお陰で収穫は多い、朝7時から頑張って媚びを売り続け13時間で2万2千ジェニーと野菜や薬草などなど、十分すぎるほど稼いでいる(この部屋は1泊1人3000ジェニーなので十分貯金できるレベルだ)
「そりゃ落ち込むよ、今日は1回マジでゴミを見るような目で見られて無視されたんだから、あの如何にも夫が儲けたお金で贅沢してます感のある婦人の迷惑そうな顔は夢に出るレベルでショックだよ」
昨日は不敗だったのに今日は遂に断られたのだ。14勝1敗が今日の結果だった。
「何言っているのですか、ただ1度ゴミのように見られただけじゃないですか、普通の営業職とかだと100件当たって話を聞いてくれるのは10人いないのですからそれに比べたらイージーゲームじゃないですか、十分すぎるほどのチート能力ですよ」
「そうかもしれないけど、僕はそもそも営業職とかしたことないからこの凄さがわからないと言うか、異世界に来てまでやることがこれって地味すぎない?」
「まぁ、他の異世界だと最強の古代魔法とか見ただけで対象を殺せるとかやっていますからね、それに比べれば地味かもしれないですけど、実際、羨ましがられると思いますよ、【チャーム】だって、私の友人も保険の営業職に就職したって言っていましたけど、訪問営業に行くと毎日必ずキレられるって言っていましたし、ノルマきついし、自分だけ成果低いと居場所がないとか嘆いていましたから」
「1つ確認だけど、レーネとかその友達とかも神様的な、神聖な存在なんだよね? それなのに俗世的と言うか、そんな世知辛い感じなの?」
「まぁ、社会と言うのはどこも大して変わらないってことです、ユットが元居た世界だろうが天界だろうが一緒ですよ、ちなみに女神もれっきとした仕事で、わかりやすく言えば就職案内所とか大企業の受付とかそんな感じです」
「ふ~ん、(なんか聞きたくなかったような気がするけど、まぁ、いいか)それじゃあ、レーネはいったいなんの仕事をしてたの? というか、これが仕事なの?」
「そうですね、私の仕事は実家の家事手伝いなので、母の仕事であったこの仕事の補佐をするのも私の仕事です」
「(ん? 当たり前のように平然とした様子で言ってるけど家事手伝いって)それって俗にいうところのニートなのでは?」
「ニートなんて随分と古い言い方ですね、久しぶりに聞きましたよ。私はニートじゃなく花嫁修業をしていただけですよ」
「いや、そっちの方が古い言い方だよ! 花嫁修業とか言って就職せずに実家の家事手伝いをしてる人も世間じゃニートって言うんだよ」
「なるほど、しかし、仮に私がニートだったとして何か問題でも?」
「いや、まぁ、たしかに問題は無いけど」
普通に開き直って来たよ、まぁ、別にニートでもなんでもいいんだけど、と言うか、もしかしてだけど、補佐とか言って異世界に送り出されたのって体のいい厄介払いなのでは?
「そう言う、ユットは何か仕事をしていたのですか?」
「僕は16で死んじゃったから仕事はしてないよ」
「ああ、最近流行っている奴ですね、異世界に行く条件の1つ、『トラックに都合よく轢かれる』って奴ですか」
「それは一部だけだから! 別に流行ってるわけじゃないから! 僕の場合は病気? だったと思うけど」
「随分と曖昧な表現ですね? エッチな病気とかですか?」
「恥ずかしいからぼかしたわけじゃないよ! 単純に覚えてないと言うか、記憶? がないんだ」
「ああ、なるほど、……しかし、その割には元の世界の事とか知っている感じでしたけど?」
「記憶って言っても僕が失ったのは思い出のほうで知識は覚えているんだ。例えば中学校の授業とか行事とか何があったのかはちゃんと覚えているけど、どんな授業が好きだったとか修学旅行で何をやったのかとかは覚えてないって感じ」
「なるほど、つまりド○クエのストーリーは覚えているが、どのシリーズが好きとか、どの場面で感動したとかは覚えてないってことですね」
「まぁ、そうだけど、わざわざいるかな、その例え」
「でも、それなら知識はあるのですよね? だったらそれが好きかどうか今、判断することは出来ると思いますけど?」
「う~ん、それは出来るけど、それが元の自分の感性と一致しているかは別だと思うんだよね、例えば、知識の中で選ぶなら授業の中で今は体育が楽しそうだと思うけど、元の自分は嫌いだったかもしれないみたいな感じかな、魂は同じだから感性も同じはずだけど答え合わせ出来ないからあくまでも想像の中で感じ」
きっと僕ならこうだろうな、こう思うだろうな、こう感じるだろうなと想像と言うか予想するって感じかな? 伝わるかな?
「ああ、つまりは友達からストーリーの触りの部分を聞いて『あっ、それならⅧが一番好きな奴』って予想する感覚ですね」
「たしかにそういう感覚かもしれないけど、なんで、一々ド○クエに例えないと気が済まないんだよ! と言うか、今更な感じするけど、レーネって僕が元いた世界に詳し過ぎない?」
「その辺は抜かりなく、ユットの元居た世界についての知識はちゃんと予習しておきましたから、だって――この世界で元の世界のことを知っているのがユット1人なんて寂しいじゃないですか」
「レーネ……」
そうだったんだ、気を遣って色々調べてくれたんだ。それじゃあ、今までしつこい位のパロネタとかは僕を気遣ってくれてたからなのか。
顔とスタイルは良いけど、全然仕事手伝ってくれないし、ボケてばっかりで話進まないし、ツッコミ大変だしで、ああ、これが俗に言うところの無駄美人って奴なのかって思ってたけどいい奴だったんだな。
「――と言うのは、建前で普通に私の趣味だったので二次元関係に詳しいだけです」
「えっ? どういうこと?」
「ん? もしかして信じましたか? よく考えてみてください私はユットが来る10日前に初めてこの世界にやってきたわけです。しかも、その時はユットがここに来ることを知りません、ユットが来ることを知ったのはユットが来る3日前なわけですから、たった3日であれだけの情報を得るのは不可能なわけです。つまり私がユットの元いた世界について詳しいのは元々ニートで時間を持て余していた私の趣味と言うわけです、例えるなら外国人の二次元オタクみたいな感じです」
「僕の感動を返せよ」
しかも、サラッとニートだったこと認めたし、ホントこいつは無駄美人と言うか残念系美人だということが確定してしまった。
異世界転生してパーティーを組む最初の仲間が美人で性格も良くて頼りになるなんて都合のいいことはどうやらこの異世界では起きなかったようだ。
「それで、大きく逸れた話を戻すけど、この物乞いはいったい、いつまで続ければいいんだよ? って今、露骨に嫌な顔したよね?」
もしかして、レーネの奴これに答えたくなかったからって意図的に話を逸らしてたな。
「具体的な日数はわかりませんが、条件としては魔術レベルが上がり攻撃魔術を修得することが1つ、もう1つはある程度の貯金ですね。お金が無ければ生活できないですし、最低限の防具も買えませんから」
「今の【チャーム】のレベルは魔術レベルと同じ5でまだ他の魔術は覚えてないけど、どれくらいで覚えるの?」
「魔術レベルが15まで上がれば攻撃魔術を覚えるはずですね」
「それじゃあ、今のペースなら数日の内には攻撃魔術を修得するわけってわけか、その後、防具を買ったらどうするの?」
「防具と攻撃魔術さえあれば、最低限町の外へ出ることが出来ますからギルドからクエストを受注できます、クエストをクリアすれば報酬が出ますからそれが主な金策になりますね」
「おお、なんかついに異世界転生っぽくなってきたな。よぉし、それならもう少し頑張りますか!」
「そうですね……」
この時の僕は何もわかっていなかった。
目の前にいるレーネのことなんて信じちゃいけなかったのに……。
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