火事と喧嘩と両手の花
前回のあらすじ(簡略版)
【エルダート】を無力化するために【ファレム】を撃ち続けることを
決めたユットだったがその挑戦は無謀なものだった
自信の魔力量以上の魔術を使った反動で体はどんどん衰弱していき
遂には立てなくなってしまう
それでもなんとか力を振り絞り最後の力を込めて
直接【ファレム】を叩き込んだのだが・・・
ステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル22
チャームレベル20
ファレムレベル5
筋力レベル5
俊敏性レベル5
その他1
ステータス画面『レーネ』
レベル???
ステータス画面『エリー?』←パーティー仮加入
レベル???
……あれから時は流れ、僕は療養所のベッドの上にいる。
まぁ、有体に言えば助かったのだ。僕自身あまり覚えてないけど、どうやら最後の【ファレム】が、ちょうど聖なる炎の純度を下げて大規模魔術は寸でのところで無力化されたらしい。これが奇跡という奴なのか、はたまた俗に言うところの主人公補正なのかはわからないけど、なんにせよ。町も人も無事だったのはよかった。
それで助かったはずの僕がなぜ療養所のベッドの上にいるかと言うと、あの後意識を失った僕はレーネに担がれ町へと戻りすぐにお医者さんに診てもらったらしい。聞くところによればもう少し腕の火傷が重傷だったらもう使い物にならなかったらしいので薄っすらと火傷の跡が残るだけの右腕をさすりながら安堵する。
それから意識が戻るまで数日寝込んだのち、目が覚めるとお見舞いに来ていたレーネからその後の町の様子や状況を教えてもらった。
例えば、僕たち(レーネとエリーさんも含めたパーティー)は緊急クエストを達成し町を救った英雄になったようだ。僕が目を覚めたと聞いて町長さんや町のギルドの長たちが駆けつけてきてとにかく感謝された。それ自体はされて気分の悪いことじゃなかったけど、実際、ある程度レーネの計算通りだったので素直に喜べなかった。
当然、緊急クエストを達成したことにより莫大な収入を得たわけだけど、そのほとんどはすでに僕の手元にはない(勿論レーネにも)。そのお金をどうしたかと言うと、エリーさんにあげたのだ。
どうしてそうなったかと言うと、エリーさんが町の英雄となったお陰と黒幕の存在が明らかになったお陰で『黒き翼』の面々の減刑が確定したんだけど、それでも『黒き翼』が行った放火や窃盗による被害額を払う必要があった。その金額は当然『黒き翼』では払えるような額ではなく、緊急クエストの報酬の3分の1を貰ってたエリーさんでさえも肩代わりできる額ではなかったんだけど、僕の分とレーネの分を合わせれば少しお釣りが出るぐらいにはなったのでエリーさんにほぼ全額渡したと言う訳だ。
勿論レーネは駄々をこねた『そこまでする義理はない』とか『勿体ない』とか『所詮は自業自得』とか言ってたけど(まぁ、気持ちは少しわかるけど)それでも、エリーさんの協力がなかったら大規模魔術【スコルチャード】の阻止は間に合わなかっただろうし、何よりダークエルフの少女に濡れ衣を着せたまま終わっていたかもしれない。そうなっていたら最悪のバッドエンドだったろうし、考えただけで背筋が凍る。
そうそう、あのダークエルフの少女も『黒き翼』の一員として身柄を拘束されてたらしいけど、境遇やクエスト解決に協力したとしてあっさりと釈放され現在はギルバーで預かることになって今はウエイトレス的な仕事をしてるらしいので今日見れるのが少し楽しみだったりする。
まぁ、そんなこんなあって緊急クエストも無事達成し、最初の目的だった放火魔の犯人扱いされた濡れ衣も晴れ、一件落着となった。
そしてようやく長い(と言っても数日程度だけど)療養生活も終わるわけだけど。
「それにしてもレーネ遅いなぁ」
療養所に迎えに来るはずのレーネの姿がまだ無い、予定の時間をすでに30分ほど遅れてる。まぁ、レーネのルーズさは今に始まったことじゃないけど。
「おっ、ユット!」
療養所の前で待ちぼうけをくらってる僕にそう言って駆け寄ってくれたのはエリーさんだった。
「あっ、エリーさん、こんなところに何しに? 怪我でもしたの?」
「違うって、あたしがそうそう怪我なんてするわけないだろ」
「だったら何しに?」
「そりゃあ、ユットに会うためさ」
「えっ、僕に?」
「そうさ、あたしはユットに感謝してるんだ。あたしのろくでもない仲間を助けてくれたんだからね、あいつらも今は故郷に帰って地道に労働して汗を流せてるのもユットのお陰さ」
「そんなことないよ、僕たちだってエリーさんに助けてもらったわけだし、お互い様だよ」
「いや、違うね。あたしらがやったことなんて些細なもんさ、少なくとも保釈金に見合うことをしたつもりはない、それでも恥を忍んで貰ったとなりゃあ、きっちり返すのが人の道ってことさ」
「返すって言ったって、エリーさんだって全額保釈金に使ってほとんどお金ないんでしょ、無理して返そうとしないでいいから、そもそもあげたつもりだし」
「いやいや、それじゃあ、あたしの気持ちが治まらねえ――って、言いたいところだが、ユットの言う通り金はない。ってことで、体で返すことにしたわけさ」
「はい? えっ、いやいやいや! それはちょっと」
「ん? 駄目かい? ちゃんとあたしがパーティーの戦力になることはこの前に見せたと思うんだけどねぇ?」
「――えっ? 戦力?」
「覚えてねえのかい? ほれ、あのアホ共のアジトをあたしが一発で壊滅したじゃないか、自分で言うのもこそばゆいが、あたしがパーティーへ正式に入れば百人力だろ?」
少し赤らめた頬を人差し指でかきながらそう言ったエリーさんを見てようやく『体で払う』意味を理解する。
言っておくけど変な勘違いとかしてないから。絶対にしてないからね。
「(ああ、そういう意味か)お、覚えてるよ! すごかったよね。うん、エリーさんがパーティーに加わってくれるなら心強いよ」
「おうさ、そう言ってくれると嬉しいんだけどねぇ、ユット、今ちょっとがっかりしなかったかい?」
「い、いやいや、そんなことないよ」
「本当かい? ふ~ん、なるほどねぇ」
エリーさんは何かに気づいたようにニヤリと笑い僕に体をくっつけてくる。
「ユットさえ良ければ、別に体で払ってもいいけどね」
「えっと、パーティーに入ってくれてクエストを助けてくれるんでしょ?」
「またまた惚けんなって、わかってるくせによぉ」
「いやぁ、なんのことか」
「言っておくがあたしはこう見えても身持ちの堅いほうさ、つまりはあれだけの大やけどを負いながらもこの町と人を救い、あたしのろくでもない仲間を助けるためにあんな大金を払ってくれた。そんなことが出来る奴とあたしは今まで会ったことが無いのさ、まぁ、なんだ、有体に言えばあたしはユットのことが――」
「おっと、私の主に何か用ですか? ドスケベ褐色女」
そんな攻撃的口調の主は……なんて勿体ぶる必要も無く、僕の後方から現れたレーネだった。
「おうおう、随分とまぁヒドイ言い草じゃねえか、あたしのどこがドスケベだって?」
「その男に媚びた脂肪だらけの体を自分で見たことが無いのですか? 私があなたの体だったら恥ずかしくて外へも出られませんけど」
「はっ! 言ってくれるじゃないか、だがねぇ、あたしからすればあんたの体は病的な色白で貧相すぎるんじゃないかい?」
「な! 私の完璧に洗練された体を見てよくそんなことが言えますね。白魚のような肌、無駄な肉の無いライン、無駄にデカすぎないバスト&ヒップ、生きる芸術品と言っても過言ではない私の体をよく批判できますね。ユットだってこの完璧な私の肉体にメロメロですし」
「チビが何寝ぼけたことを、だいたいそっちが『男に媚びた』だなんだ言って来たんじゃねえか、ってことはあたしの方が男に受けるってことだろ? つまりユットはあたしの方が好みってわけさ」
「私はチビじゃ――ちょ、ユットの肩を持って無理やり寄せるのは止めなさい。離れなさい、ユットの教育に悪い――」
「ほれほれ」
「……なるほど、これ以上私の主の肩を汚すと言うのなら仕方ありません、まずはその汚らわしい肩を落としてから話し合いましょう」
エリーさんの挑発で遂にレーネの細い堪忍袋の緒が切れたようで躊躇なく拳銃を取り出し僕と密接してるエリーさんの肩へ銃口を向ける。
「そんなもん撃てば大事な主様の肩だって危ないんじゃねえのかい?」
「心配ご無用です、私はそんなヘマしませんし、したとしてもユットは優しいので笑って許してくれます」
いや、普通に許さないけど。
「あたしが言うのもなんだがねぇ、前から思ってたが、あんた頭おかしいだろ?」
「誉め言葉として受け取っておきます。天才とは周囲に理解されないものですから」
「ユット、よくこんな奴と一緒に過ごしてきたな」
そう言ってくれると苦労が少しは報われるよ。ホント慣れって怖いね。
「まぁ、いいさ、万が一あたしのユットに傷をつけられちゃたまらないからね、つってもただじゃ済まないけどね」
そう言って僕から離れてくれたエリーさんは弓を取り出し、レーネに構える。
「私とやり合うつもりですか?」
「ふっかけてきたのはそっちだろ?」
「私からすればふっかけてきたのはそちらなのですが」
バチバチにやり合ってるこの2人をなぜ僕が止めないかだって? 答えは単純、止まらないからだよ。
療養中もこんな感じのやり取りは何度かあって、お見舞いに来るタイミングが被れば毎回のように僕を出しにして喧嘩をするわけ、最初のほうは当然止めてたけど、止まらないし、なんならこの2人の喧嘩を止めようとして怪我が悪化するレベルだからね。もう放置しておくことにしたと言うわけ。
それから数分後ガス抜きも出来たようだったので療養所の外のベンチに座っていた僕は立ち上がり2人に声を掛ける。
「そろそろギルバーに行かないといけないんじゃない?」
そう、今日は僕の全快祝いと緊急クエスト達成祝いを兼ねたパーティーをギルバーで開く予定なんだよね。それでレーネが迎えに来る予定だったわけ。
「……もう、そんな時間ですか、仕方ありませんね。仕留めそこないましたがパーティーのほうが優先ですのでここは見逃してあげましょう」
「はっ、あたしの方がどう見ても押してたんだがねぇ、まぁ、いいさ、パーティーが優先ってことには同意だしね」
仲直りのキスでもするのかってくらい近づいて眼を飛ばし合っている2人の間には火花が散っているかのように見えるぐらいの迫力があった。
このままだとまた喧嘩が始まると思った僕は、始まったら止められないので始まる前に鎮火するために2人の間に入り落ち着かせてからなんとか3人でギルバーへと向かったのでした。
今回もここまで読んで頂きありがとうございます。
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