奇跡を起こすから主人公なのか、奇跡が起きたから主人公なのか
前回のあらすじ(簡略版)
リザに【エルダート】を発動されただけでなく、リザとスウィを逃がしてしまう
【エルダート】の炎が魔術術式の六芒星を描くとき【スコルチャード】は発動し
周辺を焦土と化すのだがレーネに焦りの色は無い
なぜならユットの【ファレム】を【エルダート】の炎に混ぜることによって
無力化出来ることを知っていたからだ
だが、実際やってみるとユットの【ファレム】のレベルが低いせいで
聖なる炎が無力化されることはなく絶体絶命の危機に・・・
ステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル22
チャームレベル20
ファレムレベル5
筋力レベル5
俊敏性レベル5
その他1
ステータス画面『レーネ』
レベル???
ステータス画面『エリー?』←パーティー仮加入
レベル???
「どうするのさ!」
勢いは全く変わらずに赤白く燃える聖なる炎を指差して僕はレーネに迫る。
「いやぁ、まさかこうなるとは思わず」
「『思わず』じゃないよ! 僕の【ファレム】を混ぜれば無力化出来るんじゃないの!? ここに来て勘違いだったじゃ済まないよ!」
「いえ、そうではないのです。ユットの【ファレム】を混ぜれば無力化出来ること自体は間違っていないのです。ただ単純に純度の問題です」
「純度? どういうこと?」
「簡単に言うならば聖なる炎の純度に対してユットの【ファレム】の純度が低すぎたと言う訳です」
「えっと、それって、100%が99%になれば無力化出来るけど、僕の【ファレム】が1%以下だから無力化される純度まで落ちないってこと?」
「そうです、ユットは理解が早くて助かります」
いやいや、僕の【ファレム】弱すぎるでしょ! いや、それはさ、強いとは決して思わないけど1滴の泥水にもなれないって、さすがに主人公として情けなさ過ぎるでしょ。
「……他に方法とかないの?」
「ユットの【ファレム】がいくら弱いとは言え、無力化させる程度は出来ると踏んでいたので正直他の手は……」
そりゃ、そうだよね! さすがにこれくらいは出来ると思うよね! 僕だって話を聞いたとき出来ると思ったもん!
「なんか、ごめん」
「いえ、こちらこそ」
あのレーネが僕に気を遣って謝るほど今の状況が切迫してることがわかる。なんとも言えない重苦しい雰囲気になってしまいお互いになにも言えず黙り込んでしまう。
なんとかこの状況を打破しないと本当にこのままだと僕ら2人は確実に死んでしまう。だからと言って、あのレーネがこの状況になっても『逃げだしましょう、今なら間に合います』とか言わない当たり、どうやらもう逃げ出しても間に合わないんだろう。
まさかこんなことで詰むなんて、こんなことならもっと魔術の特訓とかしてればよかった。レーネの言った通り恥をかいても【チャーム】を使ってもっと効率よく魔術レベルを上げておけばよかった。
死に戻りも無ければタイムリープもないこの異世界でこんな後悔をしてもなんの意味もないことはわかってるけど、それでも、やっぱり悔しい。
僕はもっと――。
「……仕方ありません。ユット、ここは私にお任せください」
「レーネ? なにをする気?」
「このままではどうせ2人とも死にます、だったら私が全魔力を使いこの魔術陣の一部を消滅させます。そうすれば【スコルチャード】は失敗に終わります」
「それじゃ――」
「心配いりませんよ、私が消滅しても代わりは派遣されます。リザが異変の正体だと伝えれば私より優秀な――そうですね、次女辺りが来ると思います。まぁ、私の方が可愛いですけどね」
「レーネは――」
「私だって、あの愚姉の魔術を止めるためだけに消滅するなんて嫌ですけど、現状それしかできないですし、何よりユットが愚姉の魔術で死ぬのが1番嫌ですから、――それに命を懸けて主人公を守ったとなればヒロインとしての株が急上昇するでしょうし、下がりきっている好感度を上げるにはちょうどいいイベントじゃないですか?」
「いや、だから――」
「止めないでください、――本当に、もう、ふざける余裕もないのですよ、今、止められたら本当に止まってしまいます。こう見えても臆病者ですから私、最後に言わせてください、私――」
なにを言う気かは知らないけど、さすがにここまでされるとイラッときたので、レーネの口を塞ごうと掌を精一杯伸ばして口を塞ぐ。
「さすがにこの場面で主人公に話させないのは無しでしょ?」
「……ホレモスグハラ」
塞がれたまま喋ってるのでなにを言ってるかわからなかった僕は仕方なく掌を退ける。
「なんて言ったの?」
「それをするなら手ではなく普通は口で塞ぐのでは?」
「それは洋画の見過ぎじゃない?」
どこがふざける余裕がないのかわからないけど、まぁ、少なくともさっきまでのレーネは本気だったと思う。本気で自分の命を懸けてたと思う。だから僕もそれに本気で答えたい。
「単純な話だけどさ、僕の【ファレム】の純度が低いから無力化出来ないんだよね? だったら、質を数で補えばいいんじゃない?」
「数ですか?」
「うん、1発で駄目でも何度も撃てばそのたびに少しずつでも純度が下がっていくんでしょ? だったら99%になるまで撃ち続ければいいだけだと思うんだよ」
「理屈的にはそうかもしれませんが、さすがに厳しいかと、見た感じですが1発2発程度でどうにかなるようにも見えませんし、100発撃っても無理かもしれません」
「だったら1000発でも打てばいいでしょ」
「ユット――」
「無茶なのはわかってるけど、みんなが生き残るにはこれしかないと思うんだよね。だったらやるしかないよ、それに――この物語に仲間の犠牲なんてシリアス似合わないからね」
それにレーネには消えてほしくないって素直に思えたから、普段どんなにクズで駄目な非ロインでも消えるってなると本当に嫌だって思えた。レーネのいない異世界生活なんて想像できないし、きっとつまらない。まぁ、それでもずっと不幸だった事実は変わらないし、レーネと居て幸せだったとも思わないけど、――それでも楽しかったんだって思えるし、もっと一緒に居たいって思う。……絶対にレーネには言えないけど。
「ユットの言う方法を試すとしても、現実的にユットの魔力量の問題があります。今のユットのレベルでは1000回どころか100回も【ファレム】を撃つのは不可能です」
「そこはレーネに協力してもらう。レーネは聖剣から膨大な魔力を供給されるんでしょ? その魔力をレーネ経由で僕に供給してほしい、それなら1000発くらいなんとかなるでしょ?」
「……それは所謂魔力供給ですよね? 粘膜接触が必須な奴ですか?」
「違うよ! 普通に手とか握ってくれれば出来るでしょ!」
そう言って僕が左手を伸ばしたんだけど、何故かその手を取ってくれない。
「レーネ? どうかした?」
「いえ、なんと言いますか。普通に手を握るって1周回ってすごく恥ずかしいのですが」
「今更そんな純情ヒロインみたいなこと言われても反応に困るんだけど」
でも、正直気持ちはわかる。ここまでふざけ合ってきた仲でこんなシリアスな場面で手を握る何てことをするのは気恥ずかしい。それでも――。
「――ほら」
照れくさそうに手を伸ばしてきたレーネの手を取って僕は聖なる炎へと視線を移す。
「ユット」
「なに?」
「普段から私のことをクズとか非ロインとか言っていますけど、今みたいなことをもっとしていれば、ユットこそもっと主人公らしくなったのではないですか?」
「――ああ、僕も今更ながら反省してるよ! 【ファレム!】」
まさかこの場面で主人公としての駄目出しをくらうとは思わなかったけど、実際レーネの言う通りなのでここは素直に反省しつつ、聖なる炎目掛けて【ファレム】を撃ち始める。
「【ファレム!】【ファレム!】【ファレム!】【ファレム!】」
――――もう、撃ち始めてからどれだけの時間が経ったんだろう、あれから何発撃ったんだろう。正直もう、感覚がない。魔力自体は供給されているから問題はないけど、気力や体力は徐々に蝕まれていくのがわかるし、体感的な話だけど、前の人生がどんなものかほとんど覚えてないけど言い切れる、今の僕はきっと今までで1番頑張ってる。恐らく生まれてから今日までで初めてだ。命を懸ける感覚は。
「【ファレム!】【――ファレム!】【…………ファレム】「【………………ファ、れ】」
体からスッと力が抜けるのがわかる、体が言うことを聞かない、顔と地面の距離がどんどん近づいて――。
「ユット」
倒れていく僕の体をレーネは優しくも力強く抱えるように支えてくれた。
「レーネ、ありが、とう。だいじょう、ぶ。まだ……まだ、やれる、から」
「いえ、もう、十分ですよ。十分です」
「レーネ? なにを、言って――」
「ユットは十分頑張りましたよ、ここで諦めても誰も文句は言いませんし、――私が言わせません」
いつもの淡々とした口調とは少し違う、意識が朦朧としてるからはっきりとは見えないけど、どこか涙ぐんでいるようなそんな口調だった。
「なに、いってる、のさ。ここで、ぼくが、がんばら、ないと、みんなが――」
「ユットは! ――今の自分の姿が見えないからそんなことを言えるのです。丸顔で可愛い童顔の顔がやせ細り、みずみずしかった肌もこんなにカサカサになって、何よりも苦しそうに震えているじゃないですか、――もう、見ていられません」
そうか、そんなに酷いんだ、今の僕の姿は? ――あれ? レーネ? なんでなにも言って……、ああ、そうか、もう、僕の声が出てないんだ。
やっぱり無謀だったんだね。今更僕なんかが何かを変えられるはずもないし、やるだけ無駄だったんだ。主人公らしくみんなを救うなんてカッコつけたのにこのザマだよ。ああ、ホント情けないなぁ、……くそぉ。
「もう数分もすれば恐らくタイムリミットです。正直間に合うかは微妙なところですし、そもそも残りの魔力的に厳しいとは思いますが一応、私の全魔力を放出して魔方陣の破壊をやってみます。――ユットはそんなストーリーは似合わないって言うかもしれませんけど、たまには今までダメダメだったヒロインが命懸けで主人公を救い、主人公は救われた命でラスボスを倒し世界に平和が訪れる――なんて、この物語らしくない王道ストーリーも良い物ですよ。何より私がそう――」
そこから先は聞こえなかったレーネが小声で言ったのか、それとも僕の耳までもおかしくなったのか、それはわからないけど、そんな僕の表情を見てレーネは察してくれたのか、少し笑みをこぼす。
「聞こえなかったのですか? ここに来て難聴とは……ユットも主人公らしくなってきましたね。――大したことは言っていませんよ。この場面でこんな退場の仕方をすれば好感度爆上がりですし、この大変でシンドイ異世界生活からようやく解放されて、あとの面倒事はユットに押し付けられる訳ですし、もしかしたら消滅の後に天界へ帰れるかもしれませんし、私としては願ったり叶ったりだと言ったのですよ」
僕に聞こえやすいように少し声を張ってそんな悪態をつきながらも優しく僕を地面に寝かせてくれる。
「さて、もしも上手くいったらあとの面倒事はよろしくお願いしますね。ユットがこの世界を救うことが出来ればきっと私もこの世界の歴史に名を残すことになりますね。何せ、自分の命を捨ててまでユットを生かした命の恩人なのですから。言ってしまえばこれからユットが行うすべての事柄は私のお陰と言っても過言ではないわけですし、困っている人を救おうが、町を救おうが、世界を救おうが、すべては私の犠牲の上に成り立っている訳です。――そう考えるとやはり悪くない選択ですね」
そうか、まぁ、そうなるよね。レーネのお陰でこれからの僕があるわけで、なにをやってもレーネのお陰かぁ。
朝は中々起きないし、無駄に大食いで食費は掛かるし、隙あらばボケてくるし、すぐに下ネタ言うし、共同のお金勝手に使っちゃうし、僕の私物を売りさばいてお金にしちゃうし。
こんなダメ非ロインに命を助けられた人生かぁ……ああ、ホント。
「そん、な――」
「えっ、ユット!?」
立ち上がる、フラフラっとだけど何とか立ち上がった僕を見てレーネはらしくない驚いた顔をしてる。僕だって驚いてるよ、どうやって立てたのかもどうして立てるのかもわからない、それでも立ち上がれた。
だったらやることは1つだろう。
僕は1歩ずつ聖なる炎へと近づく。ヨタヨタと歩き慣れてない幼児のように少しずつ。
「ユット、何をしているのですか!? 安静にしてないと」
駆け寄って僕を止めようとしてくれるレーネをなんとか振り払い僕は足元でギラギラと燃える聖なる炎の前に立つ、本当に恐怖を覚えるほどの熱を感じるがそれでも僕はもう決めたんだ。
僕は右手を聖なる炎へと突っ込む。
「ぐっ、あああぁ」
熱い! 熱い!! 一瞬で意識が飛んでしまいそうになるぐらいに。
正直、もう溶けてなくなってしまってるんじゃないかって錯覚するほどに。
「ユット!? 止めてください! 何をやっているのですか!?」
「もう、【ファレム】を飛ばす気力もないから、ゼロ距離で最後の力を振り絞るんだよ」
「な!? 何を馬鹿なことを――」
「馬鹿でもいい、それでもやるんだ。最後の悪あがきに賭ける!」
「……どうして、そこまでするのですか?」
「――ははっ、そんなの決まってるでしょ」
そう決まっているのだ。満身創痍の僕がここまでする理由なんて1つしかない。
「レーネみたいな非ロインが命を捨てたお陰で続けれる異世界生活なんて、死んでも御免だからだよ!」
こんな非ロインの命で救われるなんて絶対に嫌だ! それこそ死んだほうがマシだ!
「いっけぇぇぇ!!【ファレム!!】」
火事場の馬鹿力+怒りのパワーとは恐ろしいもので、満身創痍にも関わらず最後の【ファレム】は今まで撃った【ファレム】の中でも渾身の威力だった……。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
訳あって少し間が空いてしまい申し訳ございませんでした。
お待ちいただいた皆様ありがとうございます。
間が空いた理由は後々説明しますので今は内緒と言うことでお願いします。
ブクマ、感想、高評価いただけると嬉しいです。
誤字脱字ありましたらご報告お願いします。
明日も投稿する予定なのでお時間あれば読んで頂けると嬉しいです。




