仲の悪い姉妹程、傍から見ると性格似てる説
前回のあらすじ(簡略版)
洞窟の奥でレーネの姉『リザ』と茶髪のお姉さん『スウィ』を見つけたユットたちは
自分たちの考えを確信に変えるために2人の会話を盗み聞きすることに
仲の良さそうな2人の会話を聞いてリザが黒幕で間違いないと思ったレーネは
躊躇無くリザのこめかみに魔弾を撃ち込むのだった・・・
ステータス画面『ユーネスト』
総合魔術レベル22
チャームレベル20
ファレムレベル5
筋力レベル5
俊敏性レベル5
その他1
ステータス画面『レーネ』
レベル???
ステータス画面『エリー?』←パーティー仮加入
レベル???
「ちょ、ちょっと! レーネ! 当たっちゃってるけど!?」
その場で倒れてしまうリザさんを見て僕は驚きを隠せずに隣にいるレーネの袖を揺する。
「狙いましたから」
僕とは対照的に落ち着いた様子のレーネは当たり前のようにそう言ってくる。
「『狙いましたから』って、レーネのお姉さんでしょ? 普通こういうのは平和的解決と言うか、まずは説得を試みるんじゃない?」
「ああ、たしかにRPGとかだとそうですね、でも、どうせ戦うじゃないですか? ボス戦が話し合いで解決するなんて興覚めですし、どうせ戦うなら先手必勝です」
相変わらず、無茶苦茶なヒロインって言うキャラだけはブレてない様子で、身内だろうが容赦せず不意を突いた一撃で急所を狙う、掟破りもいいところの非ロイン感を出している。ここまで苦労して来たのにたった一発で仕留めに行くなんて、それこそ興ざめだと思うのは僕だけなのかな?
「そうは言っても、普通は戦ってお互いに力を認め合って和解してエンディングとかじゃないの?」
「物語的にはそれが理想と言いますか、そうなれば良いと思わなくもないのですが、一応、私は愚姉の妹ですから、そうはならないことを知っていますので、それに……」
レーネが倒れてるリザさんを指差したので僕はレーネの顔からリザさんの方へ視線を移す。
「ったたたぁ」
「リザ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ、もう、一体何なのよ」
魔弾はリザさんのこめかみに命中したはずなのにそこに大きな傷はなさそうで、痛みはあったせいか苛立ちつつも普通に話しながら体を起こして立ち上がる。
「……あの通り、あの程度ではどうせ死にませんよ。死んでくれればよかったのですが」
レーネは呆れ顔で肩をすくめている。
どうやらレーネはリザさんがあの程度の攻撃で死なないことを知った上で魔弾を撃ったみたいだ。
それを知った僕は少しだけホッとしたと言うか、口ではこう言ってるけど、本音で言えばリザさんを殺す気は無いんだとわかって嬉しい。
「――それで、これからどうするの?」
「さぁ、出たとこ勝負ですね」
またか、と思いながらため息をつくとリザさんが魔弾の飛んできたコースから逆算してこちらに目を凝らしてくるのが見える。
「ったく、どこのどいつが――って、は? レーネ? レーネじゃない!?」
どうやら見つかったらしい、見つかってすぐ戦闘になるかと思ったんだけど、何故かリザさんのテンションが上がってるって言うか、友達と久しぶりに会ったテンションでこちらに駆け出そうとしてたんだけど、それを察知したのか、レーネは近寄らせないと言わんばかりに額目掛けて魔弾を容赦なく打ち込み、リザさんを仰向けに倒す。
「リ、リザ様、だ、大丈夫ですか?」
かなり派手に後頭部から倒れたのでさすがにスウィさんも心配そうに駆け寄っていく。
「ったぁぁ、コブが出来るところだったわよ」
「リザ様、ご無事で何よりです、……攻撃してきたように見えますが、お知り合いなのですか?」
「ああ、アレ、ちっこい方は知らないけど、ウチそっくりの可愛い奴はウチの妹だから心配いらないわよ」
ちっこい方って呼ばれ方は心外だけど、まぁ、この姿じゃしょうがないか、それよりもレーネに向かってスウィさんが戦闘態勢を取っていたんだけど、リザさんの言葉を聞いて姿勢を崩してくれる。それ自体は凄く助かるんだけど、なんて言うか、ここまでのレーネとリザさんの反応を見る限りなんとなく温度差があるような気がする。
「ちょっとレーネ、何すんのよ、久しぶりに会ったのに魔弾はあんまりでしょ?」
「……お久しぶりですね、リザ」
少し嬉しそうにレーネに話しかけるリザさんに対してレーネは面倒くさそうにそう返事をする。
「ん? 何その喋り方、あんたもっとラフな感じで話してたじゃない? それにリザって呼び捨てにしないでよ、前みたいにリザ姉って言いなさいよ」
「私には私の立場と都合がありますので」
「何それ? ……まぁ、いいわ、可愛い妹がわざわざ異世界まで『手伝い』に来てくれたんだもの、それくらいは大目に見るわ」
「相変わらず思い込みが激しいようですね。私はリザの『手伝い』をしにここまで来たわけじゃないですよ」
どうやら、リザさんは自分の計画を手伝うためにわざわざここまでレーネが来てくれたと思ったらしい、だからテンションに差があったのかな?
ともかく、これでリザさんの勘違いは解けたようで、不穏な空気が流れ始める。
「……『手伝い』に来たんじゃないですって? じゃあ、何しに来たって言うのよ」
「逆ですよ、逆。あなたを殺しに来たのですよ」
「ははっ、くだらない。あんたってそういう冗談を真顔で言うんだもの、笑いにくいのよ」
「笑わせるつもりはないので、――ふぅ、本当にあなたの相手は疲れます。ユット、あとのことを説明よろしくお願いします」
少し会話しただけ、消耗してるレーネは何故、僕たちがここに来たのかの説明を丸投げしてくる。
「っで、あんた誰?」
「えっと、僕はですね。ユーネストって言いまして――」
そうして詳しい説明を全て僕がすることになり、女神様の代わりにこの世界の秩序を守護するために僕らはやって来たこと、レーネと一緒に行動してること、トダースの町で緊急クエストが出ていて、その黒幕がリザさんたちであることなどを説明した。
「――なるほど、かくかくしかじか、ってわけね」
いや、そうは言ってないけど、って、このツッコミ前にしたことあるような気がするとか思いつつもとりあえず内容は伝わったようなので少し安心する。
「つまりはウチのやってることがあんたたちからすればこの世界の異変ってことで、あんたたちは秩序を守護しないといけないからあたしを殺しに来たってわけね」
「リザ様、ここはわたくしが――」
「スウィは下がってなさい、ここはウチ1人で平気だから」
「しかし――」
「いいから! 任せなさい、あんたにはあんたの出来ることをやりなさい」
自分の身を守ろうとしてくれるスウィさんをリザさんはそう言って後ろに下げる。
「あの、リザさん、レーネはああ言ってますけど、僕たちは別にリザさんを殺しに来たわけじゃなくてですね。この大規模魔術を止めるためにここへ来たんです。
「……なるほどね、そっか、レーネだからこの場所に見当がついたってわけね、ウチのこの魔術を知ってたから。ユーネストって言ったかしら? この『大規模魔術を止めるためにここへ来た』って言ったわね? それはウチにとっては殺しに来たって言ってるのと同じよ」
今までにないほどの敵意を向けられ、たじろいでしまった僕はどういう意味か分からずレーネの方を見る。
「レーネ、あんたならわかるでしょ? ウチにとってこの大規模魔術はパパの意志を受け継ぐ第一歩なの、おいそれと退くわけにはいかないわ」
「やはり、そうでしたか。まだそんな下らないこと言っているとは……」
「下らないですって!? レーネ本気で言ってるの!? パパの夢は偉大で崇高な物なのよ!? その夢を意志として引き継ぐのがウチら姉妹のやるべきことでしょ!?」
「実家を飛び出して何をしているのかと思っていましたが本当に下らない。父はもういないのですよ。いない存在にしがみついてまでやることではないはずです」
「ええ、そうよ。もうパパはいない。いないからこそ! ウチがやらないといけないのよ! パパが考え出した世界管理術、【リスチャード】『世界を再構築』する魔術の完成をねっ!」
「『世界を再構築』?」
聞くからにヤバそうなワードが出てきたので僕はすぐにレーネの方を向き、説明を求める。
「……女神の仕事の1つに世界の管理があるのはユットもご存知だと思いますが、これが中々難しい仕事なのです。いくら女神の力でなんでも思い通りに出来るとはいえ、女神も万能ではなく、複数の世界を管理しつつその他の仕事もありますので管理が行き届かず、終焉を迎える世界も少なくありません。例えばこの世界のように魔術がある世界では魔術の源であるマナが飽和し魔術が暴走したり人間たちによる戦争が激化し世界そのものを破壊したり、様々な理由で再起不能になり終焉を迎える世界は少なくないのです――」
僕みたいな特に取り柄もないような人間が女神様の代行として秩序守護に任命されたのもそう言う背景があるからなのか、所謂、猫の手も借りたい状態ってことかな? ただ単純にあの女神様がサボりたいだけかと思ってた。
「――そこで私の父だった方が魔術の研究の末たどり着いたのが終わりかけた世界、もう手の施しようもない世界をリセット、つまりはやり直すことが出来る魔術【リスチャード】を理論上完成させたことによって『世界の再構築』が可能だと提唱したのです」
「その通り、レーネあんたわかってるじゃない! パパは終わった世界を救うために色んな研究をしてようやく答えにたどり着いたの、その道のりはとても険しく辛かったに違いないわ、レーネそこまでわかってるのならなんであんたはウチの『手伝い』をしないのよ」
「面倒だからですよ」
「は?」
「だから面倒くさいからですよ。何度も言わせないでください」
何熱くなっちゃってるんですか? と言わんばかりの冷めた目でレーネはそう言い切った。その態度はまるで夏休みの宿題をやってこなかったことを先生に怒られた不真面目な生徒が逆ギレしてるようだった。
本当にこのヒロインは……この物語らしくない良い感じのシリアス感がせっかく出来上がっていたにもかかわらずお構いなしにぶち壊すんだけど、リザさんも『えっ、そんな理由』みたいなキョトンとした顔してるよ。
「本当に面倒な姉ですね。あなたの所為で――いえ、もういいです。言いたいことは山のようにありますけど、どうせ言っても意味がないですし、リザのやりたいことが何なのかも判明しましたし、やろうとしていることが私たちにとって敵対行為だと確定しました。それさえわかれば後はシンプルです。リザはやりたいことを勝手にやればいい、私たちはそれを全力で阻止しますので、それこそ――殺してでもね」
「あんたがウチを殺す――ね。あんたがウチに喧嘩で勝ったことなんて今まであったかしら?」
「……少なくとも料理の腕では負けたことはないと思いますけど、メシマズ」
「なっ! 今ウチにメシマズって言った!? 実の姉に向かってなんてこと言うのよ!」
「事実ですから、何ならここで話しましょうか? リザが実家にいた頃、家族相手に自信満々に振る舞った伝説のペスカトーレの――」
「わー! わー! 止めなさい! 今すぐ忘れなさい!」
顔を真っ赤にしながら必死に大声を出してレーネの声をかき消すリザさんを見てどうやら黒歴史を晒されてることだけは察したわけだけど、さっきまで『――殺してでもね』のところ辺りまではちゃんとシリアスに戻ってたのに気づいたら日常系コメディにありがちなやり取りが繰り広げられてる。ここだけ見れば微笑ましい姉妹喧嘩なんだけど、それが良いのか悪いのか、もう僕には判断がつかなくなってきたよ。
「ユット、そう言う訳ですので、私から言いたいことは言いましたので後は主人公であるユットから何か宣戦布告みたいなの言ってやってください」
憤慨してるリザさんを見て満足げなレーネは雑な感じで丸投げしてくる。
こんな雰囲気でパス出されても普通に困る訳だけど、最低限主人公である僕に華を持たせようとしてくれた訳だから、ここは主人公らしくビシッと決めますか。
「僕たちは必ず――」
『僕たちは必ずあなたを止めて見せます』そう言おうとしたのに、セリフの途中で祭壇後方から火柱があがり、そこから2本のラインのような光が地面に刻まれていく。
「整ったわね、この地に聖火を刻め【エルダート!!】」
ニヤリと笑ったリザさんは次の瞬間、魔術を使いラインに炎を灯した。
「ふっはっはは。どうやらウチの勝ちのようね」
リザさん渾身のドヤ顔での勝利宣言と拡がっていく炎を見て魔術術式が完成してしまっただけでなくこの辺り一帯が焦土化するカウントダウンが始まってしまったことと、また主人公として見せ場を作ることも出来ずキメ台詞の一言すら言わせてもらえないことを察してしまうのだった。
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