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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十章 受付の外で起きるコト

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80.誰も与り知らぬ場所で

 目的は桜の提案で、上位端末の発見だ。

 まず、桜はハイメレと自分の境遇について、氷国連合側にざっくりと説明した。詳細までは言わなかったが、彼らよりは詳細を知る重戦士と小麦は何も言わなかった。空気を読んでくれたのだろう。


 結局のところ、ロバリー組の知りたいことと桜の知りたいことで最も重要な部分は、上位端末でアクセスしないことには情報が引き出せないと桜は説明し、いくつか実演して見せた。

 地球とロータ・ロバリーの関係については、今それを話しても余計な混乱と無駄な時間を割くだけだと話していない。話したくないという思いがないわけではないが、事実である。


 という訳で、リメインズ攻略が開始された。

 餅は餅屋、リメインズのことはマーセナリーに聞けば早い。元マーセナリーである重戦士と小麦が、この間来た道を下降しながら軽く説明する。


「リメインズにはそれぞれ名前がある。俺と小麦たちがいたのはラクシュリア。西大陸の中央より少し南の場所だな。西大陸には他に東の山岳地帯のすぐ近くに一つと、南に一つある。確か名前はアーチェディアとエンヴィディア。あとは西大陸より東、不可知海流ウィムジカルカレントの影響が少ない場所に一つ、イラだったか。東大陸の……場所はよく知らんがあちらにも三か所あるらしい」

「東大陸は巨人ダラボムを含め、西大陸とは大きく様相やサイズの異なる人種が多いですし、ギルド進出も始まって十年少ししか経過してませんしね。なんとか周囲に城塞都市は建設されていますが、調査まで手が回らないそうですよ?」

「という訳で、実際には俺たちは西大陸タイプのリメインズしか知らん。大陸の向こうのリメインズと同じかどうか確認も碌にとれないからな」


 重戦士は昔はもっとローテンションで遅めな喋り方だったが、最近は結構はきはき喋るようになったな、と桜は思う。恐らく鉄血時代のコミュ力が多少反映されているのだろう。


「リメインズの中は基本、ドーム状の部屋が下へ下へと重なるように出来ている。上下には必ず一か所は出入り口がある。ドーム内は多種多様……森林だったり荒れ地だったり巨大水槽があったり、階層ごとに様相が異なる。天井には擬似的な空まで映し出されているから外と見間違うが、実際には日が沈んでも明るいままだったりする。尤も、このリメンズは違う気がするが」

「その根拠はなんじゃ。言うてみぃ」

「……お前の話を聞いていて思ったんだ、白狼女帝。あそこは嘗て、魔物を観察したり研究するケージだったんじゃないかと。あそこはどこからともなく常に魔物が居なくなった分だけ補充される……個体数を一定に保った環境で、色々研究でもしてたんじゃないだろうか」


 その場の全員が返事は返さないが、否定的な顔もしない。

 桜自身、リメインズに行ったことはないがそれは大いにあり得ると思う。


「このリメインズの直径は聞いたが、明らかに狭い。他のリメインズなら大都市がすっぽり入る面積だというのに、ここはその半分どころか五分の一にも満たない。内部も覗いたが、明らかに趣が異なる。リメインズ内には時折隠し部屋があって、大抵そこには古代文明の遺産が残っているが……そういう部屋と似た雰囲気を感じた」

「確かに調査の際は部屋がとにかく多く、様々に区切られておった。魔物ではなく人間が使っていたと想像できるの」

「最初は考えが纏まらなかったが、西大陸が生物実験を主にしたリメインズだったと考えると、ここは別の事を主に行うために設計されたのでは、と思い至った。実際、ここには自律機械オプスマキーネしか敵がいなくて、破壊されても補充されていない」


 聞けば聞く程、このリメインズは他と違い過ぎる。

 桜はふと昨日の事を思い出した。


「そういえば、ハイメレが言ってたな……このリメインズ、正式には第八垂直構造体マエスティーティアって言うらしい。リメインズは確認されているだけで七つ、そして第八ってことは、ここは最後に作られたリメインズなのかも」

「なぬっ、そんなことまで確認できるのかその板切れは!! 余も欲しいのう、欲しいのう!」

「と言っているが、どうなんだハイメレ」

『どう、の意味が不明瞭ですが、現在この世界にユーザー権限を持っているのはユーザー唯一人です。すべてはユーザー次第でしょう』

「よよよ、ハイメレは冷たい女子おなごじゃのう……まぁよいわ。とどのつまり、このリメインズではこれまでのリメインズのセオリーが通じない可能性が高い訳だな」

「ああ。とはいえ、油断は禁物だ。桜、己の防衛を怠ってはいないな?」

「そりゃもちろん。今なら魔将相手でも暫くは持ちこたえられるぜ」


 具体的には歪曲、屈折、反射、物理の四重障壁を貼り、映像屈折で自分の前方に虚像を先行させ、オートカウンター術式と任意で使い勝手が良く、なおかつ屋内で使いやすい術をいくつか使えるようセットしている。

 話を聞いた小麦がぱぁっと表情を明るくする。


「ということは今日だけ桜さんに誤射跳弾し放題ですか!?」

「何オッソロシイこと可愛い笑顔で言ってんだこの女!?」

「やだぁ、可愛いだなんて褒めたって今更あげられるものなんて弾丸ぐらいしかありませんよぅ!」


 瞬間、バキュゥンッ!! と一昔前のドラマの発砲音みたいな音を立てて俺の顔面直撃コースで弾丸が放たれた。


「どえぇぇぇぇえぇッ!? 今掠った!! 俺の張った歪曲障壁に掠った!? お前このホントマジでふざけんなよボケゴルゥアッ!!」

「おお、直撃コースだったのに本当に大丈夫みたいですねアダァッ!?」


 ごっきゃぁぁぁぁんッ!! と、重戦士の鉄拳が小麦に直撃して聞いたことのない音が響いた。余りの衝撃に小麦さんの首に小さな亀裂が入り、近衛兵もドン引きしてる威力で床が揺れた。


「いい加減に、しろ。事故、跳弾、器物破損に繋がるから軽率な発砲をするなとリメインズ時代から耳にたこが出来るほど言った筈だが、水でもぶっかけられたいか?」

「は、反省します。しょぼーん……」

「あーっはっはっはっはっはっ!! まるで父御ててごのようじゃのう重戦士!! おぬしら漫才師として宮廷に仕えぬか!? のう、侍女もいいと思わぬか!?」

「それ笑えるの白狼女帝様くらいですからやめてください」


 閑話休題。


「ロック開けろ」

『認証中……終了、ロック解放します。前方をしっかり確認して進んでください』


 ぷしゅ、と微かな音を立て、スライド式の壁が解放される。

 重戦士と小麦が素早く部屋の先を確認すると、自律機械が数機いた。が、休止状態にあったのか起動までに時間があったため、容赦なく破壊されて無力化する。


 先ほどからこの調子で次々に扉という扉、隔壁という隔壁を開放して一行は邁進している。マエスティーティアのマップはアクセス権内らしく、メンバーは着実に目的地に近づいていた。


「ふぅむ。こうも簡単じゃと拍子抜けじゃのう。重要な研究所であれば物理的なセキュリティも障害になるかと思っておったが……まぁ、最後まで気は抜かずにおくか」


 顎を撫でて思案する白狼女帝だが、俺は「最後の地球人」の話を知っているから、最初から突破不能なものはないとは踏んでいた。どのリメインズも、恐らく最後には攻略し切れるような調整がされている。すぐに渡さないのは、段階を踏ませなければ進歩を急ぎ過ぎた人類が地球と同じ過ちを冒すリスクを考えたのだろう。


 そしてこの建築物は、恐らく本来は順番にロックが解放されていく性質のものだったのだろう。それを、俺がユーザー権限とやらで次々にこじ開けているだけだ。


(――と、理屈は通るが……若干の腑に落ちなさはあるかな)


 これは望まれない遺産の譲渡だ。

 本来の手続きを無視している。

 ハイメレのシステムを作る程の人物が、この事態に対応する保険やセキュリティを仕掛けていてもおかしくはない。それこそAIの類を一つ二つ設置するくらいでこの事態は防げた可能性が高い。

 気にし始めると、様々な事が気にかかる。


(始まりは雪兎のことと、ポニーへの突然の辞令。それが俺がここにこのタイミングで来ることになった切っ掛け。でも辞令は突然で、しかもポニーを指名する形になったのは、理屈上不条理とは言わないものの不自然ではあった。そして真実を知り、俺は紆余曲折あって下を目指す。すべては偶然……では、ない?)


 もし、この移動が何者かの意図のままだとしたら――しかし、引き返したところで事態は何も進展しない。結局、虎穴に入らずんば虎子を得ることは出来ないのだ。


 そして、辿り着く。


「――ここが、データ上では最後のロックだ」


 そこには巨大な隔壁があった。ロボットアニメの隔壁みたいな、巨大で重厚な壁。アカヌトビラとどちらが頑丈か見物だと思う。俺は一度背後を振り返る。


「何があるかは全く分からんが、準備はいいか?」


 返答は重戦士と白狼女帝。


「万一の為に俺が先頭に立つ。セキュリティの類も俺なら死にはしない」

「近衛二人は重戦士のバックに付け。小麦は背後を警戒。妾はここで桜と侍女を守ろう」


 手早く準備は終了。桜はハイメレに語り掛ける。


「隔壁を解放しろ」

『情報処理中――認証。電子ロック解除、物理ロック解放、隔壁を開放します』


 ゴウン、ゴウンと重苦しい金属音と共に扉がゆっくりと解放され、その隙間から肌寒い空気が噴き出すように漏れる。


 その先にあったのは――円形に並べられた巨大なモニタとホロボード。

 まさにSFに出てくる巨大なメインコンピュータ、と言わんばかりの巨体が空調の効いた部屋に鎮座する。一万年以上誰にも触られることなく、しかし人が触る為に存在し続けたそれは画面に文字と記号の羅列を音もなく吐き出し続け、数秒の間を置いてモニタが真っ白になった。


『入室者を地球人と認定。上位端末から認可。ようこそ、桜。貴方を第一権限ユーザーとして正式に登録しました。なんなりと確認してください』


 星の核心に、到達した。

 知るのは希望か絶望か――武器も神秘も用いない、桜の戦いが始まった。

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