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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十章 受付の外で起きるコト

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ソレガ ジジツ

 桜さんは現在、死にそうな顔をしています。


「冷静に考えたら俺は辛い現実を理由にポニーにオギャっただけの最低な野郎なのではないだろうか。急速に死にたくなってきた」


 全く意味は分かりませんが、男の矜持に泥を塗ってしまった的なことのようです。そっとしておきましょう。男の人はそういうのにこだわりが深いらしいです。


 しかし、時間を置いて改めて考えると桜さんの話はやはりポニーちゃんの理解が及ばない部分が多いです。桜さんは自分の故郷が過去でここが未来と言っていましたが、ポニーちゃんから見れば今は今でしかありません。


 そもそも、未来に行くとか過去に戻るとか、実現できるとは思えません。

 それとも桜さんの世界ではそれが可能だったのでしょうか?


「……相対性理論を信じるなら、時間は常に一定ではない、らしい。俺達の生活ではその変化が余りにも微細すぎて変化がないように見えるが、通常を遥かに超える速度で移動する乗り物で生活していると、外の時間より時の流れが遅くなり、乗り物から出た頃には周りがすっかり歳をとっている、みたいなことが理論上はあり得る……らしい。俺は学者じゃないから分からんが、この理論を突き詰めれば時間退行は可能なのかもしれない……どっちにしろ俺の時代には、あんな技術は……」


 そこで桜さんは言葉を切り、暫く考え、首を振りました。


「……いや。とにかく、絶対ありえなくはないんだ。大体俺たちはもう二人も時間の概念を部分的に覆してる人を見たじゃないか。慈母と銀刀だ」


 言われてみれば、確かにそうです。慈母さんは女神の加護ということですが、銀刀くんは自力でそうしているらしいです。自分が年を取らない状態でいれば、相対的には未来に行くことになっていると言えなくもありません。

 例えば年を取らない状態になって、そのまま何年も眠り続ければ、目が覚めた人には未来に来たように思えるでしょう。トンチのような気もしますが、否定するほど間違ってもいません。


 ――しかし結局のところ、変わらないのではないでしょうか。


「現在も過去も未来も、変えられないってか」


 ――いえ、そうではなくて。


 ――桜さんのやるべきことは、変わらないのではないでしょうか。


 ――桜さんは過去の告白をした翌日、言っていたではありませんか。


 ――ここが何処で、どういう経緯で飛ばされたのか調べる、と。


「でも、知っちまった今となっちゃ……」


 ――何言ってるんです、未だに謎だらけじゃないですか。


 ここがどこかは分かっても、桜さんが何故ここに来させられたか、そしてそれが何者の手引き、どういった事象によって引き起こされたのか全く分かっていません。地球の手引きか、ロータ・ロバリーの手引きか、他の誰かの手引きか、それとも何らかの事情がいくつも重なって奇跡的に起きたのか、分かっていません。


 しかし、もしロータ・ロバリーにこの時間を超えた拉致事件の首謀者がいるのなら、その相手には明確な目的が存在した筈です。何で桜さんがこんな目に遭わなけれなならなかったのかの答えに最も近い存在を見つけずして、何も究明されません。


 ――桜さん。


「……ポニー」


 ――もしかしたらこの先、真実を追うのは辛いことかもしれません。


 ――目を背けたくなるような現実があるかもしれません。


 ――残酷な選択があるかもしれません。


 ――もしかしたら桜さんとポニーちゃんたちが一緒に居られなくなるかもしれません。


 ――進まないという選択も、あります。


「……」


 桜さんは無言でうつむきました。

 ポニーちゃんは話の半分以上が未だに見えていませんが、もしも桜さんが未来に来たのが過去を変える為ならば、それは未来に生きる人を何らかの形で犠牲にするのでしょう。どう犠牲になるのかは分かりませんが、桜さんが泣きながら「出来ない」と言うくらいには残酷なことなのでしょう。


 ――哀しい結末を迎えるのは、もちろん嫌です。


 ――でも、選択とはそこに至る過程を全て理解してこその選択です。


 ――契約内容を碌すっぽ確認せずに二つ返事することは、選択とは言えません。


 ――選択肢を示されるまで進むのか、留まるのか……。


 ――桜さんは、どうしますか?


 ――行き先に待っているのは絶望だけとは限りません。


 ――可能性の存否さえ排斥し、留まりますか?


 ――それとも、希望を信じて進みますか?


「……お前はどうするんだ、ポニー」


 ――私は何があってもギルドの受付嬢で、貴方の担当です。


 ――何度問われても、職を辞するその日までずっと。


「……だよな。知ってたくせに何馬鹿なこと言ってんだか、俺」


 桜さんは天井を見上げてぼうっとして、不意に呟きます。


「雪兎が最初に口にした言葉……実は、ギルドで初めてポニーに会った日のあれなんだ。舌足らずで言葉って言えるか分からんが、声で意味が伝わるならそれも言葉だと思う。雪兎は……『一緒がいい』って言った。だから……俺は進む。雪兎と一緒にいられる未来ってのを探すために……駄目かな」


 最後に自信なさげな一言が入ったのが少々締まりません。


 ――決めたのなら駄目もいいもないでしょう。


 ――冒険者は有言実行が基本ですよ、桜さん。


「そっか。そうだな……ありがとう。お前が……いや、ポニーが俺の担当受付嬢でよかった。素直にそう思う」


 こうして、桜さんの相談は無事に幕を閉じました。

 ヘタレな所がある桜さんはこれからも転んで塞ぎ込むかもしれませんが、ポニーちゃんはもう少しだけ桜さんの出来るところを信じてあげようと思いました。 




 = =




 ポニーを見送り、軽食を無理やり喉に流し込み、もう少し考え事をするから待ってくれと心配する周囲に言い残して術で外界と遮断した部屋に籠り、桜はスマホをテーブルに立てかける。


「地球人が事実上滅亡した経緯を、西暦2000年以降の情報を主にして教えろ」

『了解しました。データベース参照、言語最適化、整理中……整理終了しました』


 確認はいつでも出来たが、怖くて出来なかった。

 だが、事ここに至って見なかったフリなど出来ない。

 サポートツール『ハイメレ』は淡々と語る。

 閉ざされし禁断の歴史か、或いは継承者がいなくなった文明の遺産か。



『事の発端は西暦2021年の8月16日。この日、中華人民共和国の非公式な研究実験にて新たなエネルギー源が発見されました』


『既存のあらゆるエネルギー源と一線を画す超自然エネルギーはアイテールと名付けられました』


『アイテールはそれまで架空のエネルギーとされたエーテルに近い性質を持ったエネルギー源であり、極めて優秀な再生可能エネルギーとして世界に普及していきました』


『第一次霊素革命と呼ばれる技術革新時代の到来です』


『人類は今後到達するまでに数百年がかかるとされた技術を短縮して手に入れ、各地での技術革新を続け、およそ200年後の第二次霊素革命発生の際には火星への移住――テラフォーミングを何の技術的問題もなく成功させるまで発展しました』


『その後、地球人類はアイテールの恩恵によって発展し続けていくものと思われました。しかし、ここで地球人類最後の契機が発生しました』



『このとき既に本格的宇宙進出と同時に西暦が廃止されていましたが、ユーザーの理解度を優先して西暦と仮定した数値を出します。西暦3557年8月15日、より高純度のアイテール――『ハイ・アイテール』の生成実験とその結果が、人類が予想だにしない事態を引き起こしました』


『――ハイ・アイテールは自我を持つ個体として出現したのです。実験は成功でしたが、その結果は取り返しのつかないものでした』


『ハイ・アイテールは出現と同時に、空間そのものに満ちるアイテールを支配下に置き、地球人類に攻撃を開始しました。理由は一切不明です。元々そうした性質を持っているのか、自我を得る過程で人類を滅ぼす思考を持ったのかは定かではありません。コミュニケーション能力はありましたが、相互理解を求める様子はなく、ただ一方的に地球人類は――正確には、地球由来の生物全てが敵とみなされました』


『霊素革命を2度経験し発展した最新鋭の防衛兵器も時間稼ぎ程度の効果しかありませんでした。大地球連盟はハイ・アイテールへの対抗手段を講じる時間なしと判断し、地球人の惑星外退去を命じ、数多くの宇宙航行船が地球圏を脱出しました』


『しかし、ハイ・アイテールは地球の外まで追撃を仕掛けてきました。地球人は様々な手段を講じてこれに抵抗しましたが、全てが失敗。移住惑星や恒星、人工居住衛星等に至るまで全ての地球人活動範囲の人類が絶えていきました』



『――状況説明のために一度この話を中断し、ロータ・ロバリーと地球の関りについて説明いたします』


『事件よりおよそ900年前、ハイパースペース航法を用いて地球圏の外へ探査に向かった幾つかの外宇宙航行船の一つ、『ヴィゾーヴニル』は、移動先で地球と比較的条件の近い惑星を発見しました。しかし、この事実は大地球連盟の耳に及ぶことはありませんでした』


『何故ならば、ヴィゾーヴニルは航行中に地球圏で活動する反政府非合法組織『ウジン』に支配され、情報シグナルを自ら断つことで地球からは『消えた船』として扱われていたからです』


『地球圏に知られることなく一つの惑星を入手した『ウジン』はここを生物実験惑星として扱い始めます。知的生命体の祖先になるかもしれない程度の生物しか存在しなかった、そこはコードネーム・ロータ・ロバリー……この星は惑星型の実験場と化しました』


『宇宙法で禁止された原生生物や生態系への過度な干渉や倫理を超えた生物実験も、ここでは行われました。すべてはアイテールにより深く適合した生物兵器を生成する為です』


『しかし、『ウジン』の生物実験は一定の成果が得られたものの、大きな技術的問題があり、当初の想定ほどの利益を生み出せなかったとデータにはあります』



『――ここでハイ・アイテールと地球の話へと戻ります』


『ハイ・アイテールは地球から遥か遠く離れたロータ・ロバリーにまで襲撃してきました』


『180万光年という距離を一切無視した出現であり、当惑星にいた『ウジン』構成員は為す術もなく殺害されました。不思議な事に、ロータ・ロバリー内に存在した実験生物は一部殺害対象にはなったものの、その他の生物は放置されました』


『こうして人類は完全に絶滅しました』


『たった一人、ハイ・アイテールからの追撃を奇跡的に逃れ、ハイメレを完成させ、ロータ・ロバリーで天寿を全うした人間と――新たなユーザーの出現という、例外を除いて』

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