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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
七章 受付嬢ちゃんで!

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52.受付嬢ちゃんですら知らない

 移動方法には様々な手段があります。

 基本は徒歩、長距離は馬車。

 今は車や地上艦など移動を速める手段はありますが、空を飛べる者はそう多くはありません。ただ、超巨大迷宮から回収された情報の中には空を飛ぶ船の描写があり、将来的にはそういった移動手段が開発される可能性があるそうです。


 しかし、桜さんはそれとはまた違った方法を考えているようでした。


「あのエインフィレモスとかいう奴は俺がここにいて何者なのか知ってる風だった。必然、俺が『近道』を使う可能性なんぞ百も承知の筈だ。つまるところ、そうしても問題ないくらい状況は逼迫してるかもしれん」

「何をする気だい、桜?」

「本気を出す」


 懐から、時々触っている板切れを取り出した桜さんは、普段からは想像もつかない真剣な眼差しでそれを見つめます。


「俺はもう躊躇わねぇ。逃げねぇ。大した数も掴むことは出来ねぇちっぽけな手で、掬えるだけ掬って突っ走る。エインフィレモスの尻尾も掴む。雪兎の正体も調べる。例え、あの時俺が……王様気分で全て滅茶苦茶にしたあの島を、もう一つ生み出すことになっても」


 桜さんの過去はよく分かりません。

 当人が語らないのだから、ゴールドさんさえ分かっていません。

 意気地なしともとれた過去の彼の性格とかかわりはあるのでしょう。

 そんな桜術士さんが本気を出すというのは、一体どういうことなのでしょう。


「俺の権限の下に命ず。登録データ『マーセナリーズ』の現在位置をマップに表示、状況を投影せよ」

『命令を受諾しました。固有神秘係数検索、イルミネイターにアクセス。投影比率を権限者の前方にデフォルト値で表示します』


 ありのまま起きた事を説明しましょう。

 桜さんが板に話しかけたら、桜さんが変声腹話術で返事をしました。


 とうとう自分を鼓舞するためにイマジナリーな自分を心の中に作り出してしまったと言うのでしょうか。元々戦いを嫌っていた桜さんが立ち上がるにはそれほどまでの事をしなければならなかったとは。ポニーちゃんは涙を堪えるので精一杯――となると思いきや、更に驚くことが起きました。


 突然、桜さんの前に絵画のようなものが出現したのです。


 いえ、よく見ればその絵画の絵は動いており、更に先が微かに透けています。その場の殆どが理解不能なものを見る目をしていますが、翠魔女さんと銀刀くんはそれが何なのか理解できるようです。


「映像の投影……! うそでしょ、そんな技術を個人で所持してるなんて……!」

「これは現在の映像か? 視点は、真上から拡大されていっているのか? 興味深い代物だ」


 エイゾウのトーエイ。そこそこ教養のある方であるポニーちゃんを以てしてサッパリ意味が分かりませんが、これは何なのでしょうか。


「多分、人工衛星的なものにアクセスして対象を自動追跡してんだ。神秘術も使ってるけど明らかに機械文明幾つか挟んでる。てゆーか人工衛星て。ファンタジー世界に人工衛星とかマジどうなってんだこの世界」


 全く説明の体を為していないことを言いながら桜さんが独り善がりに苦悶しています。雪兎ちゃんも意味も分からず同じポーズで苦悩っぽい顔をします。ゴールドさんが「真似しなくていいから」とやんわりやめさせ、桜さんを遠い目で見ました。


「ああ、この感じ久しぶりだな。ええと、今じゃあんまりないけど桜は時々まったく意味の分からない独り言を呟いて一人思考の海に沈んでいく癖があるんだ。おーい、桜ー! ロータ・ロバリーでも分かる言葉で話してくれー!」

「ン……ああ、すまん。つまりこいつは遠見の神秘術をすごい発展させた術だと思ってくれ。映像からしてご一行は移動中らしい」


 遠見の神秘術とは、人間の視力では子細に見えないほど遠くの光景を鮮明に見る為の神秘術です。基本的には双眼鏡などと同じですが、遠見の神秘術は見たい光景が術者の視界にダイレクトに入るのでよりよく見えます。他の神秘術を一切使えなくても遠見は使えるなんて人もたまにいるくらいです。


 桜さんの言葉を信じるなら、目の前のこれはその遠見の術を何もない場所に――原理は全く理解できませんが、映す術を板を通して使っているようです。


 映像には移動する馬車が移っています。

 あの中に重戦士さんご一行がいるようです。


「大陸のどのあたりだ?」

「縮尺変えて表示するぞ」


 板切れを何やら触ると映像が急速に馬車から離れていき、やがて世界地図に載るこの大陸が映し出されます。赤い点で表示されているのが馬車の位置のようです。銀刀くんはしばしこれを見つめ、口を開きます。


高木こうぼくの村の跡地、『鉄血』の墓にあと一日で到着するくらいの位置だ」

「その村ってのは?」

「鉄血の婚約者が住んでいた場所。そして公に鉄血と婚約者が死んだことになっている場所だ。近くに研究砦があって、第二次退魔戦役で……いや、ともかくこの土地は退魔戦役の主戦場に近く、土地は草木も育たないほどに朽ちてしまったから今は魔物さえ住んでない」

「成程、そこに行けばいいんだな?」


 言うが早いか、桜さんは神秘術を行使して目の前の投影された光景を消し、代わりに光の輪を生み出しました。輪はみるみるうちに大きくなり、2マトレ少しほどの大きさになって目の前に光の壁のように固定されます。


「神秘術で空間を捻じ曲げて、行き先とここを直結させた。ほれ行くぞ」

「え」

「え」

「え」


 非常にサラっと、桜さんは現代の移動手段に平気な顔で唾を吐きかけるような移動方法を提示しました。


「ええええええええええええええええええええええええええええッ!!!」

「言っただろ、本気出すって。俺もう自重しないもんねー」


 どこか解放感さえある様子で桜さんは悠々と光の輪の中を潜って姿が見えなくなりました。止める間もなく雪兎ちゃんもついていき、光の中に消えていきました。念のために輪の反対側を見ますが、いません。翠魔女さんが頭を抱えています。


「出来るけど、理論上は出来るけど!! でも待って、それ神秘数列の処理するのにマギムだと丸一年はかかるやつッ!! しかも一方通行の一人用!! 歩いて移動した方がマシなやつだからッ!!」

「桜……そんな便利な術隠してたのか……」

「疑問。この光を通過することで本当に目的地に到達できるか不鮮明」

「出来るぞ」

「わぁぁおッ!?」


 光の中からひょこっと桜さんが上半身だけ登場です。

 桜さんの下から雪兎ちゃんも顔だけ出しています。

 横から見ると浮遊生首です。怖すぎて腰を抜かすかと思いました。


「いいからとっとと来い。野営の準備はしてあるだろ? 馬車用意するとか術で飛ぶとかやるよりこっちの方が楽なんだ。重戦士たちを先に目的地で悠々と待ってやろうぜ」

「ぽにー、わたしテント張りやりたい!」


 結局、皆はおっかなにびっくり光の中に一人ずつ入っていき、全員が達成感もなにもなく目的地に到着しました。

 長旅のデメリットは消失しましたが、移動手段を確保していたらしい銀刀くんは少し釈然としない顔をしていました。慰めるためにさりげなく頭に手を回すとスルリと逃げられましたが。


「懲りないな、お前も」


 ――絶対諦めませんからねっ!


「どっから湧いて出るんだそのバイタリティは。女ってのは全く……」

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