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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
七章 受付嬢ちゃんで!

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49.受付嬢ちゃんではフォロー出来ない

 依頼は、原則としてクエストボードに貼られたものを冒険者が持ってくる仕組みになっています。いつからそうなったのかは定かではありませんが、口頭では正確性に欠け、受付一極管理ではギルド側の仕事が鈍化するため、思いついた人は頭がいいとポニーちゃんは思っています。


 時に依頼紙の奪い合いになることもありますが、魔物の皮紙で出来た紙なのでまず破れません。それでも稀に破る人が出てくるのが、人間の個性というかなんというか。ともかく、そういうことです。


 時に、まず受付で目的の依頼がまだあるか確認したり、受付で予め確認をしてからクエストボードに行く冒険者さんもいます。狙いの依頼が既に取られていないか、取ろうと思っていた依頼がまだ残っているか。そういった確認もまた、一種の仕事効率化です。


 汚臭改め微臭さんは偉そうに「いつもの」とか言っていますが、あれでも一応自分で依頼を取りに向かっています。流石にあの人ほど頻繁にカウンターに来られると鬱陶しいなぁというポニーちゃんの闇の心が毒づいたりしますが、これまた冒険者の一種のマナーなのです。


 しかし、世の中には困った人もいる訳で。

 更に、困っている人は好きで困っている訳ではないこともある訳で。


「あれ? あれぇ? 依頼……どこぉ!?」


 頭より幅の大きな巨大メガネを付けた土竜族モルムの新人冒険者が必死にボードに齧りついています。彼の一族、モルムは掘削能力に優れ、仕事柄昔からガゾムと深い親交関係があります。彼らの爪の鋭さと硬度は土を掘り進むのにこの上なく適しており、採掘系の依頼ならモルムとガゾムが一人ずついれば失敗はないとまで言われています。


 が、そんなモルムの民には致命的な弱点があります。

 超がつくほどド近眼なのです。


 そんなので戦えるのかと言われれば難しいですが、地面に潜ればこっちのものらしく、地形によってはモルムの削岩能力で相手の足場を崩すことも出来ます。この間の万魔侵攻でも、木の少ない開けた土地ではモルムの冒険者たちが合体神秘術の『ボトムレス・スワンプ』なる技で多くの魔物を土に沈めました。


 種族によって向き不向きがあるのは冒険者あるあるなのですが、依頼書を探す能力が低いとなるともうギルドではどうしようもありません。大抵のモルムは相方に頼んで持ってきてもらうのですが、彼にはまだ相方がいないようです。

 困り果ててウロウロうする巨大メガネさんに周囲も依頼が取り辛くて少しピリピリしており、善くない空気がこちらにまで漂ってきます。


 と、クエストボード前に久しぶりに現れた斧戦士さんが今日の依頼を見渡します。


「ふむふむ、今日のはワルフ討伐、コヴォル討伐、トラウド討伐に青鈴草採取、復興手伝い、西のカリーナ洞窟でラジェル鉱石の採掘ねぇ!」


 斧戦士さんは毎度毎度クエストボードの前で目に付く依頼を大声で読み上げて周囲に「またこいつかよ、煩いなぁ」と顔を顰められる悪癖があります。今日は午前中を神腕さんによる指導を受けるのに費やしたらしく今日はあのデカ声を聞かずに済むと周囲が言っていたのですが、噂をすればやってくるようです。

 しかし周囲にとって厄介者でも、デカメガネさんにとっては救世主です。


「えっ、ドコ!? カリーナ洞窟の鉱石採掘ドコドコ!?」

「なんだこれ探してんの? ほれ」


 斧戦士が依頼用紙をペリっと剥がして渡すと、顔に密着するくらい紙を凝視したデカメガネさんは歓喜の声を上げました。


「コレだ、コレですよ!! どーしても文字が見えなくてずっと困ってたんです、ありがとうございます!!」

「何だよ、これ探してずっとウロウロしてたのか? そのデカメガネは何のために着けてるんだっての! がーっはっはっはっは!!」

「ホントですよね! あーっはっはっはっは!」


 煩い人と煩い人が合流して煩くなってしまいました。

 斧戦士さんは最近神腕さんの笑い方が移り、耳障り度が1.2倍増しになったとは常連冒険者さんたちの談です。


「……ところでお前のそのメガネ、端っこのネジ回してピント調節するタイプじゃね?」

「え? ……フオオオオオオオオ!! 見える、貴方の顔までハッキリ見えますよォ!! いやー、そういう仕組みだったのかぁ! ガゾムの商人から高い値段で買い付けたんですが、近眼過ぎて説明書を読むのを諦めてたんで使い方知りませんでしたっ!!」


 周囲が盛大にずっこけました。

 世の中、変な人が変な場面で役に立つこともあるようです。

 なお、二人はその後仲良く任務に出撃しました。




 = =




 ――夢を見る。


 ここではないどこか。

 遠く、近い、セピア色の断章。

 見覚えのない憧憬――未知と既知の混ざり合う、不可思議な感覚。


『必ず、戻ってくる』


 余り見ない意匠の剣を腰に差した男が、女に語り掛ける。

 男の後ろから見るような視線であるため、男の方は顔が見えない。

 女の方は見える。

 普通に綺麗で、普通に可愛い。そんな女性だ。


『この村はギルドの拠点が近い。あそこには『数学賢者』もいる。あの人は凄いよ、あの人がゼオムの戒律を破って降りてきたからこそ、ハロルドにも対策が取れた。危ないと思ったら村のみんなで拠点にお邪魔するんだ』

『嫌です。私はここで貴方を待ちたい……』

『それこそ駄目だ。俺からすれば、君が生きていないと戦う意味がない』

『だって……だって!!』


 女性はわっと涙を流し、男に縋りつく。


『人類存亡を賭した最終決戦なのでしょう!? 国をも滅ぼす魔将ハロルドが何体も控えている!! それは、いくら貴方が王国屈指の剣士だったとしても、死地ですッ!! 婚約者が死地に赴くと知って平静でいられますかッ!! 自分だけ安全な場所に避難しようなどと思えましょうかッ!?』

『分かってくれ、ロー。それに俺には頼れる仲間が沢山いる。みんなこの戦いを勝って帰ろうと意気込んでいる。この戦い、人類が生き残る道はまだあるさ』


 男は女性を優しく抱き、その額に口づけした。女性――ローと呼ばれたローテールの女性は暫く男の胸に顔をうずめてぐずっていたが、数分すると、ゆっくりと顔を離した。


『矢張り私はここで待ちます。村の皆も、死ぬときは故郷で死にたいと言っている。私は死ぬ気はありません』

『しかし、ここもいつ魔物に攻め入られるか――』

『貴方は勝つのでしょう? であるならば、私はそれを信じて待ちます。貴方の後ろには私たちがいる。貴方がもし志半ばで力尽きたら、私も死後の世界までお供します』


 女性の目は、強い目だった。

 もうこれ以上てこでも動かない、そう確信するほどに強い目。


『生きて帰ってきて、私を抱いてください。『鉄血』さん』

『……ああ。我が誇りと剣に誓って』

『――隊長、そろそろ』

『分かっている。ロー……俺は君を愛している。俺が俺である限り、永遠に』


 部下らしき男――どこか、古傷の顔の面影が見える気がする――を従え、鉄血と呼ばれた男がローに手を振り、マントをはためかせて遠退いていく。


 その顔を見て、驚くことはなかった。


 雰囲気は違うが、その顔立ちを見間違えることはない。


 そこにいたのは、まぎれもない。


 今は重戦士と呼ばれる男だった。





「貴様は何をしてる」


 はっ、と。

 

 弾かれるように視界が遠のき、月明かりに照らされる暗い部屋の天井が視界に広がる。


『――彼女に危害を加える意図はない。人間で言うならば、女神の慈悲さ』

「信じると思うか。この我が、貴様らを」

『信じるさ。君は人間の中でも極めて知的で理性的だ。女神の慈悲が如何なるものか、既に想像がついているのではないかな?』

「そうだな。そしてその慈悲とやらが、貴様らに齟齬なく正確に伝わっていると考えるほどお人よしでもない」


 開かれた窓、部屋に立つ二つの影。

 ここはポニーちゃんの寝ていた宿屋の一室です


 影の一つは二代目銀刀くんです。

 もう一つの影は――。


 魔物、と、ポニーちゃんは思わず叫びました。


『お初にお目にかかる、お嬢さん。わたしの名は『エインフィレモス』。人間から見れば魔将ハロルドと呼ばれる存在だ』


 それは、美しい青年でした。上等な白いローブに身を包み、アクセサリのようにいくつもの本を吊り下げ、シルクのように純白な肌を持っていました。ただ一つ、魔物だと一目で確信できる理由として――彼の体は、その奥の光景が見えるほどに薄く透け、足がないのに浮遊していたのです。

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