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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
七章 受付嬢ちゃんで!

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48.受付嬢ちゃんでは捕まえられない

※黒術士の種族名間違えてたので修正しました。

×フェリム 〇エフェム

「雪兎の謎に、いい加減斬り込みたいと思ってる」


 桜術士さんが、宿でぽつりと言いました。

 当の雪兎ちゃんは外でゴールドさんと遊んでいます。


 最近、雪兎ちゃんの感情が分かりやすく顔に出るようになりました。それはただ単純に喜ばしいことです。言葉のたどたどしさも消えてきて、すくすく成長しているのだと思えます。

 なによりも笑顔が可愛い。

 笑顔以外も可愛い。

 素晴らしいことですと言うと、桜術士さんも真面目な顔で頷きます。


 しかし、同時に最近、雪兎ちゃんは嗅覚が非常に鋭くなりました。遠くの音を確認する際に犬耳を生やしたり、届かない高さのものに手をつける為に羽を生やして飛んだりもしています。また、これはつい先日確認されたことですが、強く力を籠める際に額から二本の角が生えることも確認されました。


 聴覚や嗅覚に優れたケレビム。

 空を飛ぶ黒羽根のナフテム。

 肉体の頑強さが目を見張るディクロム。

 彼女の体には現在、複数種族の特徴が確認されています。

 これは、今現在の世界で全く確認されていない種族的特徴です。


「羽根は分からんが、耳と角……雪兎が相手から引きちぎって呑み込んだんだって?」


 思い出したくない光景が頭を過りますが、頷きます。

 確かにあの時、雪兎ちゃんはそれらを呑み込みました。


「無関係とは思えん。元々そういう特徴を持っていたのではなく、相手の一部を取り込むことでその能力を模倣している可能性があると俺は見ている。雪兎の心は女の子だけど、体の方には絶対に秘密がある。あの子自身の為にも、その正体を見極めて教育方針をちゃんと決めたい」


 それは、よい心がけだと思います。深く彼女の事を愛している父親だからこそ、娘の体に何が起きているのか知ろうとするのは親の義務です。ポニーちゃんはあくまで彼らの私生活に口を出す立場ではありませんが、その方針は人間として正しいと感じました。

 本音を言うと、ポニーちゃんも知りたいのです。


 しかし、どうやって調べるというのでしょうか。


「軽業師がな、母国の方でちょっと心当たりがあるらしい。そろそろこっちは夏で避暑も兼ねて里帰りするから一緒に来ないか――だってよ。いい機会だ、乗るしかないと思ってる」


 初耳ですが、軽業師ちゃんも何かと雪兎ちゃんを妹のように思って接している節があります。二人が並んでいる時の光景と来たら、尊すぎて胸が苦しくなります。しかも軽業師ちゃんは皇女というやんごとなき立場にあるのですから、その心当たりとなれば期待値は高いでしょう。


「そういう訳で、俺とゴールドと軽業師ちゃんは重戦士さんたちが戻ってき次第ここを暫く出る予定だ。結果が分かったらポニーにも伝えるよ」


 まるで近い先に長期出張することを妻に告げる旦那のようです。

 そういうと、桜術士さんがそっと目を逸らしました。


「そういうこと言うな。恥ずかしいから。あと、それ男を勘違いさせる系の発言だからマジ控えてくれ」


 そういうものなのでしょうか。


「そうなんだよ。ていうかポニーはそういう経験結構あるんじゃねーのか?」


 あると言えば、あります。冒険者さんに告白されたりとか。

 でも経験則的なデータで統計的に覚えているので、前例のない「男を誘惑する言葉」である場合は無意識に言っちゃったかもしれません。ポニーちゃんは最近、男女の距離の取り方については割とポンコツだと言われることに定評があります。


「自慢になんねーから。勘違い加速させたくなきゃさっさと冒険者以外のいい男見つけてくっつけっての」


 割と心を抉る一言、かつ尤もな意見です。

 フリーだから勘違いされるというのは的を射ていると思います。

 しかし、いい男とはそう簡単に見つからないものなのです。

 恋愛遍歴が貧弱なポニーちゃんですが、そろそろいい男を真剣に探すべきなのでしょうか。そのうち先輩にでも相談してみよう、とポニーちゃんは憂鬱をため息に乗せました。




 = =




 冒険者とギルドの間での諍いというのは厄介ですが、実際の所、何であれ諍いは全部厄介というのが真実だとポニーちゃんは思っています。


 その最たる例が、冒険者と冒険者の諍いです。


「いいやッ!! コッチが17匹でお前が8匹だッ!!」

「嘘を盛るのも対外にしなッ!! コッチが15でソッチは10だったろッ!!」


 猛烈な勢いで激突するのは二人の女性冒険者、ディクロムの大剣士さんとエフェムの黒術士さんです。

 この二人はギルド内でも中堅より上に位置するベテラン冒険者さんで、タッグを組んでいるのに仲が悪いことでも有名です。そんな二人が今日はとうとう受付カウンターを前に激突しています。


 二人は本日、デスビーニというイノシシの姿をした魔物の討伐に赴き、全部で25匹で構成される群れを全滅させて帰ってきました。この二人は常日頃から敵にトドメを刺した数で取り分を決めているため、今回も互いに仕留めた数の分だけ分配する筈でした。


 ところが、そもそも当初の依頼ではデスビーニは十数頭の群れだった筈が終わってみれば二倍近かったというのが実際の所でした。更にデスビーニとの予定外の大乱闘に他の魔物たちまで乱入して現場はしっちゃかめっちゃか。そのせいで二人とも仕留めた魔物の数を覚えておらず、取り分で喧嘩を始めてしまったのです。


 それだけの乱闘を軽傷で切り抜けた二人のチームワークにも驚きますが、そこまでお金に執着があったのなら自分たちできっちりカウントして欲しかった所です。一度こうなってしまうと、どんな冒険者も長時間の喧嘩になってしまいます。


 通常の討伐の場合、魔物討伐の証である体の一部は仕留めた冒険者さんが袋なりテレポットなりに詰めて持ってくるので、回収時に決着が着きます。ギルドまで問題を持ち込まないのは冒険者のマナーと言われているくらいです。つまり、それだけ二人も疲れていたのでしょう。


 魔物の体の斬り方で見分けるという高度な分析もあるのですが、残念なことに殺した人と斬った人が一致していないので意味がありません。二人とも同じ袋に討伐証明を詰めたものだから今更見分けも何もあったものではないです。


 気分的にはペナルティとして二人とも報酬なしとか言いたい所です。


 と――。


「ふん」


 いつの間にやらカウンターに腰かけていた二代目銀刀くんが神秘術で風を起こし、刈り取った魔物の体の一部――討伐証を舞い上げます。舞い上がった討伐証は空中で回りながら二つに分かれ、12と9と、あと4つの三つに分けられました。


「右の12が大剣士、9が黒術士の取り分だ」

「なっ、何でそんなことお前が決めるんだよ!?」

「術で殺された魔物は全身に神秘の乱れが起きる。それが起きた分と起きてない分で、どちらがとどめを刺したか判別できるだろ?」

「た、確かに熟達した術士なら見分けはつくけど……」


 黒術士さんが信じられないと言った風に呟きます。彼女もなかなかに上位の術士ですが、どうやらその域には至っていなかったようです。と、大剣士さんが食いつきます。


「ち、ちょっと待て! じゃあ残りの四つはなんだよ!?」

「鑑定料。俺の取り分だ、文句あるか?」

「あ……あ……」


 ぷるぷる震える手を握りしめ、大剣士さんは――。


「ありましぇん……」

「ないのッ!? ち、ちょっと大剣士!! 子供に取り分取られて引き下がる程アンタしおらしい女じゃないでしょ!?」

「だってぇ、怖ぇんだもん……! ディクロムの民はガキの頃から悪いことしたら鬼儺に殺されるって言って聞かされるし、実際に前の防衛戦じゃ魔物切り刻んだんだろ? アタシまだ死にたくねぇよぉぉぉ~~~~!!」

「わっぷ、ちょ、抱き着くな暑苦しいわねっ!! も、もうっ!! いいわよそれでっ!!」


 本気で怖かったのか、大剣士さんは普段絶対人前に出さないであろう情けない声で黒術士さんに抱き着いて泣き始めました。黒術士さんはそんな彼女に力で敵わず、しかも相方が先に折れてしまったことで反論もしづらくなり、結局その取り分で処理されました。

 ……心なしか黒術士さんの頬が僅かに赤らんでいるのは見なかったことにしましょう。


 まさかアサシンギルドの頭領の名前がこんなところで問題解決の糸口となるとは。ポニーちゃんは思わずお礼という名目で二代目銀刀くんを抱きしめようとしましたが、一瞬早くカウンターから降りて逃げられました。


 仕方ないので頭を下げてお礼を言いました。

 嗚呼、いつになったら頭をなでなで出来るのでしょう。

 この間おいしいナポリタンのお店を教えた際はそれなりに喜んでいたように見えましたし、フルーツプレゼントは美味しそうに食べてくれたのに。仕方ありません、次は絶品ケチャップオムライスの店を紹介して一気に接近を図りましょう。


「鬼儺もこえーけどポニーの怖いもの知らずもこえーよぉぉぉ~~~~!!」


 何故かその大剣士の言葉に周囲がうんうん頷きました。

 納得いきません。皆さんは口元にケチャップをつけてスプーンを握る二代目銀刀くんの可愛らしさを知らないからそんなことが言えるのです。

ポニーちゃんの豆知識:ナポリタンとオムライス

実はこの二つの料理は超巨大迷宮の地下深くから発見された古代の料理本を解析して現代に復活した料理です。そしてこの二つの料理に使用されている調味料こそがケチャップです。このケチャップを含むレシピたちは非常に良好な保存状態で発見されており、戦後に発見されてから製法は爆発的に世界に普及しました。

実は古代の文献は欠落や保存状態の悪さ、更に未だ完全解読できない文字が使用されており、名前まではっきり解読出来たものは非常に珍しかったりします。大抵は古代文字をそれっぽい感じに訳し直したものが正式名になりがちなのです。

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