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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
七章 受付嬢ちゃんで!

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47.受付嬢ちゃんでも怒られる

 余りにも、多くの事件が連続しました。

 とりあえず、ポニーちゃんが経験したことから順を追って話します。


 まず第一に、ポニーちゃんは紫術士騒動の比じゃないくらい怒られました。冒険者さんを引き連れて避難誘導はまだいいとして、途中で冒険者さんを引き返させる指示をしなかったことは凄まじく怒られました。猛省せざるを得ません。


 同時にイイコちゃんも凄まじく怒られていました。

 なんでもタレ耳ちゃんがいなくなっていることに気付かず「不明者一名」と誤った報告を上げていたらしいです。しかも改めて数え直したところ、他にも三名人数が足りていなかったことが判明。人の命にかかわる仕事を疎かにするなと猛烈に叱られていました。


 足りない三人は誰か。その答えは雪兎ちゃんの証言で判明しました。


 なんでも雪兎ちゃんが言うにはその三人は異端宗派ステュアートの人間だったそうです。何を根拠にどうして雪兎ちゃんが気付けたのかは分かりませんが、その三人は元居た住民三人を金を使って別の町に移動させ、自分たちが成り代わることでギルド地下のシェルター避難名簿に入り込んでいたようです。


 もちろん雪兎ちゃんも猛烈に怒られました。

 彼女と親しい軽業師ちゃん――変身出来て二度可愛いなんて素敵すぎます――やゴールドさんは勿論、大人たちに随分頭をポカポカされて涙目になっていました。ちょっと可哀想ですが、ポニーちゃんからは何も言えません。


 雪兎ちゃんを見ると、あの時の血に濡れた雪兎ちゃんを思い出して心がざわめきます。尋常ならざる力、明らかにおかしかった身体的特徴。その謎は一切明かされず、雪兎ちゃん自身も全く分かっていない様子でした。


 でも、事が終わって「かってなことしてごめんなさい」と抱き着きながら謝ってきた雪兎ちゃんは、ポニーちゃんのよく知っている可愛い雪兎ちゃんでした。もう二度と危ないことしないでね、と約束しました。


 なお、勝手な行動をしたタレ耳ちゃんはというと、クエレ・デリバリーの人たちに二言、三言小言を言われた程度で済んだようです。話が終わって以降は何かとポニーちゃんの傍にいます。曰く「護衛」だそうです。

 こんな可愛い女の子が後ろをトコトコついてくるのは正直堪りません。


 冒険者さんたちの間でも大騒ぎが起きていました。

 今回の『万魔侵攻』による冒険者側は奇跡的に死者ゼロという快挙です。

 これを祝って冒険者さんたちは祭りのように騒ぎ、飲み明かしました。その騒ぎの中心人物、第二次退魔戦役の英傑『神腕』が町の宿屋に泊まっているのですから、騒ぎにならない訳がありません。中でも斧戦士さんはどうも町中で彼に助けられたらしく、滅茶苦茶大きな声で弟子入り志願していました。


 また、それだけではありません。

 なんともう一人の英傑『銀刀』の二代目が未だギルドに居座っているのです。彼は形式上はギルドの人間なので追い払うことも出来ず、周囲は戦々恐々です。で、それはいいのですが、問題は二代目銀刀くんが予想以上に美少年だということです。


 つまり可愛いのです。

 見た目は9歳くらいに見えますが、大人っぽい雰囲気を醸し出してるのが背伸びしているっぽくて非常にキュンキュンします。一回撫でていいか頼み込んでみましたが、とりつく島もなく断られました。その断り方も子供扱いされたくない子供感があっていいので、定期的に頼みに行っています。


「ホント可愛いものに見境ねーなポニーは。フツー殺し屋だと分かってて自分から行くか?」

「まぁ、それがポニーさんですからね……可愛い子の為なら命を懸けるってのは、その、違うと思いますけど」

「反省のハの字もないよねアノ女」


 その二代目銀刀くんは、何やら確かめたいことがあるそうです。

 それを確認し終えたら、また仕事に戻るのだと言います。

 こんなかわいい男の子が人殺しに手を染める世界は間違っていると思います、と主張すると、鼻で笑われました。


「あるべき形を決めるのは俺だ。お前じゃない」


 ――なお、二代目銀刀くんは味覚は子供なので普通にお子様ランチを食べていて可愛すぎて悶絶しました。いつか必ず抱きしめたいです。


 あと、これはどうでもいい話なのですが、銀刀くんは左耳だけ女物の銀のイヤリングをしていたり、銀の指輪を嵌めたり、銀色のチェーンの装飾が服にあったりとやたら奇抜なファッションをしています。銀刀くんにとって、銀は特別なものなのかもしれません。


 そんな中、突然にその日は訪れました。


「近いうちに、ギルドを離れる」


 相変わらず護衛も兼ねて過ごしている宿屋『泡沫うたかたの枕』の食堂で、重戦士さんがそう話を切り出しました。


「古傷と会って、『鉄血』の墓に行くことになった。そこですべてを語ると」

「ちょうどいいことに神腕さんが暫くこの町にいてくれるみたいだし、ギルドの戦力的には問題ないでしょ?」


 小麦さんも一緒に行く気らしいです。

 ポニーちゃんとしてはきっと重戦士さんの正体は『そう』なのだろうとほぼ確信していますが、他ならぬ当事者である古傷さんが語るのであればそれは揺るぎなき真実となるでしょう。

 同行者は他に水槍学士さんと一角娘ちゃん、あと二代目銀刀くんも行くらしいです。真実を今なお語らない古傷さんは少し離れたテーブルでこちらを見つめています。


「……面影は、あるな」


 小さな声なのではっきりと聞き取れませんでしたが、何か言ったようです。


 正直に言うと、重戦士さんの正体を知る当事者になりたい思いはあります。しかしポニーちゃんはギルド受付嬢。そして今回の彼らの移動はクエストと何の関係もありません。ついていくのは幾らなんでも受付嬢の鉄則に反します。いくら数日間の謹慎を受けているとはいえ、彼らの移動は往復一週間以上は余裕でかかります。


 悲劇の英傑、鉄血の最期の地は平原国より更に南の山間にある大平原、その一角とされています。そこに行くには山を越え、谷を越え、馬車を乗り継いでもなかなかの距離を移動せねばなりません。その間ギルドの腕利きが三人いなくなるという穴を、神腕さんが埋める手筈のようです。


「……奴にも言われた。少し変わったが、お前は鉄血だと」


 正直、ポニーちゃんもそうなのではないかと思い始めています。


「しかし俺は……もっと恐ろしい想像を……いや、何でもない」


 かぶりを振った重戦士さんはそれ以上を語りません。

 その愁いを帯びた顔は、どこか嫌な感覚を想起させます。

 ほんの数度だけ見たことがある――もうギルドに帰ってこられない事を覚悟し、消えていった冒険者さんたちを。

 ポニーちゃんは重戦士さんの手を取って問いました。


 ――戻ってきますよね?


「………」


 重戦士さんは茫然とポニーちゃんを見つめ、やがて、口を開きました。


「昔、誰かに。同じことを言われた、気がする……そして恐らく、その約束が果たされることは――」

「だったら、二度目は守ってやりな」

「古傷……」

「お前さん今は生きてんだ。相手も生きてる。守ってくれるヤツもいる。これだけおあつらえ向きに条件揃ってんだから、叶えられなきゃ男が廃るぞ」


 ぶっきらぼうに、しかし重戦士さんを導くようにそう告げた古傷さんは、そのまま興味なさげに編み物を始めました。無骨な指に似合わず中々の腕前です。ポニーちゃんも少し編み物に挑戦してみたいな、と思いました。

 と、テーブルの下から雪兎ちゃんがひょこっと顔を出しました。


「やくそく、ゆびきり」

「?」

「さくらが教えてくれた、たいせつな人とのやくそくのしかた」


 雪兎ちゃんは重戦士さんの左手の小指とポニーちゃんの左手の小指を掴み、それをテーブルの上で組ませて上下に揺らし始めます。


「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらハリセンボンのーます。ゆびきったっ」


 聞いたことのない歌が終わると共に、ポニーちゃんの指と重戦士さんの指が離れます。雪兎ちゃんはどこか自慢げな顔で満足そうにうなずきました。


「やくそくやぶったらじゅーせんしひどい目にあうから、やぶっちゃダメだよ」

「あ、ああ……」

「不思議な約束の仕方ですねぇ……でもまぁ、何にせよ結んだ約束ですから無碍にはしないでしょ?」

「分かった。この件にカタがついたら、またこの町に戻ってくる……ポニー」


 なんでしょうか?


「……俺がいない間に、助けられなければいけないような危険な目に遭うなよ」

「いや。重戦士さんがいる場合でもダメでしょ」


 切実すぎる重戦士さんの声色に、小麦さんの突っ込み。

 更には一角娘ちゃんまで腰に手を当てて怒り顔です。


「ポニーさん、いい加減懲りてくださいね?」


 ごめんなさい、反省します。そう言って頭を下げると周囲がうんうんと頷きました。自分が悪いのは理解しているつもりですが、何となく釈然としないポニーちゃんでした。

桜の冷静に考えると怖い豆知識:ゆびきりげんまん

ゆびきりげんまんって子供は気軽に言うけどさ。げんまんって拳骨一万発だぜ? 袋叩きに遭ってもそんなに殴られないというか、ぶっちゃけ死ぬだろ。しかも拳骨一万発を越えたとして、その先に待ってるのは裁縫針千本丸呑みだぞ。

これ、約束破ったら惨たらしく殺すっていう強迫じゃん。しかも約束の元辿ったら、指切りってのも小指切り落としだったらしいし。昔の日本怖すぎね? 

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