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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
六章 受付してる場合じゃないっ!

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45.討伐戦:vs海淵の想魚! 後編

 ゴールドと軽業師の視線が集中する中、居心地が悪そうに赤槍士は口を開く。


「あー、まずアイツは水の神秘術に特化した魔物だ。ええい、名前ないと言いにくいな」


 確かに、とゴールドは思い相手をみる。

 まるで何かをずっと考え想像しているように目を閉じる姿。

 想像する魚――ソウギョなどどうだろう。


「じゃあ仮称としてソウギョと名付ける」

「おっけ。じゃ、ソウギョね。ソウギョは氷を水に変えるし水を動かせるけど、自ら氷を作ることは不得意だと思う。物質を凝固させるクァトルの能力が低いってワケ。だから軽業師の氷を逐一水に変換して返してくる」

「確かに。水も有効な攻撃手段ではあるが、氷の方が射出速度は勝るな。しかし、こちらの足止めを主としているのなら現状、彼奴は上手くやっておることになるぞ」

「まぁそうなんだけど、どっちにしろ無駄な手間を一つ入れていることに変わりはないっしょ?」


 神秘術とは結果を導き出すまでの過程が多いほど高度な術になる。属性の複合はどうしても、単一属性に比べると若干術式が複雑になり、その分だけ時間が掛かったり消費する神秘が増えたりするのは事実だ。


 氷を水にして跳ね返すのなら、まず神秘術で神秘術に干渉して氷の動きを止め、属性をクィンクェで上書きし、自分のコントロール下に置き、その上で改めて発射し返すという過程を辿っている。これが氷同士の応酬ならば一過程減らすことが出来て効率的だ。


「つまりさ、あいつは氷の術で水のコントロールを取られたら、取り返すまでに若干ラグがあるんだよ。尤も本体に近ければ近いだけラグも短くなるだろーけど……そもそもの話いい?」

「何だい?」

「あいつは全身を水で覆っているけど、覆うってことは覆わないと身が危険ってことじゃね? だって覆わなくても問題ない防御力だったら、その分の水を全部攻撃に回すっしょ? 逆説的に、あいつ実は防御力の面ではそこまで強くないんじゃないかなーって……」

「――生物とは須らく、意味のある姿を取る。氷国連合のことわざじゃが、可能性はあるな」


 軽業師も頷く。ソウギョの外見は、鱗こそあるかもしれないが表面が滑らかで硬度が高くは見えない。最低でも、あの魔物の防御力に『厚さ』はない。代わりに通常の魔物に比べてバランスが悪いまでに頭部が大きく、その姿が胎児を想起させる一因になっている。


 元々そういう魔物なのだろう。

 これまでのデータで、魔物は体における頭部、つまり脳の割合が大きいほど術の能力が高く、身体能力のどこかがそれに反比例するというデータがある。何かを特化させれば、必ず他の何かが犠牲になるのが生物だ。魔将( ハロルド)や英傑といった例外はあるが、恐らく彼女の推測は正しい。


「だからさ……こっからが本番。全員で息ピッタリ合わせれば、あいつを倒せるかもって作戦」


 その作戦を聞いた二人は暫く話に耳を傾け、そして特段の躊躇いもなく頷いた。




 = =




 魔物との戦いに激戦とか、接戦などといった言葉は必要ない。


 勝てる作戦を用意すれば勝ち、失敗すれば負けるだけだ。作戦を立てずに戦って勝てる者を英傑といい、負ける者には何の呼び名も残らない。戦士は英傑になる必要はない。生きるために知恵を絞り、戦い抜いて生き残ることこそが勝利だ。


 赤槍士は両手に槍を抱えている。

 そのうちの一本をぐるりと回し、はぁ、とため息をつく。


「ゴールドぉ~……弁償してよ? マジで」

「そんな機能つけたってことはいつか使う覚悟はあったんでしょ? ま、上手くいったらギルドから特別功労褒章くらい降りるでしょ。恩知らずの君と違って俺も少しは恵んであげるよ。君の嫌いな歴王国の礼儀として」

「やっぱり要らなーい!! ……ごめん嘘。マニーマニープリーズ」

「自分に正直で宜しい。そろそろやるぞ」


 赤槍士の緊張もほぐれたらしい。覚悟を決めたように彼女は槍を掲げ、そして――。


「射出角調整、風速、空気抵抗、噴射角、コリオリ力……文字通り一発限りの攻撃だ!! どぅおおおおおおおりゃあああああああッッ!!!」


 大きく体を仰け反らせて槍を振りかぶった赤槍士は、その一槍へ全身を捩じって運動エネルギーをありったけ注ぎ込み、一気に解き放った。


 最初腕力だけで投擲されたそれは、射出一秒後に槍底部から炎を噴出し、みるみるうちに投擲の初速を超える速度で加速。更に槍の先端が白熱し、槍そのものの熱が加速度的に上がっていく。

 すぐさま状況に気付いたソウギョが全面へ巨大な水柱を射出して槍にぶつけるが、触れたそばから水分を瞬時に蒸発させた槍は水柱の中を一直線に突っ切る。


『――ァァァ』


 ソウギョは攻撃方法を変え、渦潮のように海流を荒々しく回転させるが、槍の速度が速過ぎて、その先端が音速を突破する。衝撃波ソニックブームによる怪物の遠吠えのような轟音とマッハコーンを纏う。

 全ての防御を突破した槍はしかし、流石に押し寄せ続ける水の全てを弾ききれなかったか、超音速と高熱で到達直前にゆっくりと自壊してゆき――。


 瞬間、衝撃。


 轟爆音を響かせて、槍が超高熱の塊となって爆発する。

 膨大な熱量がソウギョに押し寄せ、爆風と高熱が全身に纏った水の衣を強制的に引き剥がしていく。放射線状に飛び散る水、水蒸気、そして熱の塊が通り過ぎたとき、その中心部にいたソウギョは全身の表面を焼かれ変わり果てた姿でそこにいた。


 しかし、焼け焦げた表面がボロボロと崩れ、その中から再び真新しい皮膚が浮き出てくる。高位の魔物が持つ自己再生能力だ。周辺に飛び散った水分も既に神秘術でコントロール権を取り戻し、群がるように水粒が殺到する。


 されど、その一瞬こそが致命的な隙だった。


「極南の極寒よ、セプテムの勅に従い彼の者をとこしえの氷櫃に誘えッ!! フリジット・フォォォォーーーールッ!!」


 爆発前から動いていた軽業師の両手が空に掲げられ、晴天だった空から突如として極低温の空気の塊が降り注ぐ。氷の術でありながらセプテムの属性が濃いこの大技に大気中の水分が凍り付き、更にソウギョそのものまで凍らせてゆく。

 

『――ァァァ』


 だが――ソウギョの抵抗力はこの程度ではない。術に特化した能力をフルに活用したソウギョは自らの体液に術を強制発動させ、自分自身の凍結を防ぐ。同時に凍らせられた水も数秒をかけて再び奪い返そうと術を拡大させる。


 ――されど、その数秒こそが狙い。


「「チェストォォォォォーーーーーーッッ!!!」」


 時間にすれば僅かな間隙。

 しかし戦いに於いては致命的な間隙。


 ソウギョの眼前に金色に燃える槍を持った二人の男女の姿が迫り――そのまま、金色の流星はソウギョの頭部を穿ち、抜けた。




『アタシの槍にはね、神秘を溜め込むコンデンサがあるのよ。クリスタル・コンデンサと原理は一緒。もうアタシ自身は結構神秘消耗しちまってるけど、槍の片方にこの神秘を過剰に詰め込んで奴の前で爆発させる。つか、あわよくばその一撃がぶっ刺さって死んでほしいんだけど……』

『ならば妾が追撃を仕掛ければよいだろう』

『うん。でも軽業師とソウギョの術は互いに互いを打ち消し合うから、状況によっては振り出しに戻ると思う。だから――軽業師がアイツの水を封じた瞬間、もう一本の槍でアイツを貫く。ただ、神秘が足りないから……』

『俺の『オーラ』を使って威力を高めようってことか……』



 オーラ。神秘とも生命力とも違う、不思議なエネルギー。それは人間のポテンシャルを極限まで引き出す効果があり、かの英傑『神腕』が編み出した技術だ。他者にオーラを送ることで相手を強化することも出来るこの摩訶不思議な力は謎が多く、その使い手は世界を見渡しても数える程しかないないという。

 ゴールドは冒険者駆け出し時代に偶然『神腕』の弟子を名乗る男性に世話になり、そこでオーラを習得していた。その力を使い、ゴールドと赤槍士は二人で槍を加速させ、敵を貫いたのである。


 空中で失速した二人――ゴールドと赤槍士は、回り込んだ軽業師に拾われて息を吐く。


「名付けて……ライトニング・ゴールデン・ドーン!」

「いいや、金色龍槍こんじきりゅうそう画竜点睛撃がりょうてんせいげきだ!」

「どっちも風情のない名前じゃのぉ。しかし、残り二体のソウギョを放置して進まねばならんのは癪であるな……ともあれ、休むにはまだ早い!! 疾く町へ!!」


 勝利の余韻も何もなく、三人は町へ急いだ。

 雪兎、そしてポニーを助けるために。

 三人が通り過ぎた後、ソウギョの一体に異変が起きた。

 突然、纏う水の圧が急激に高まって収縮していったのだ。

 内部のソウギョは圧のせいで水から出ることも出来ず、術をより強力な術に塗り潰され――やがて、自らのテリトリーである筈の水中で、水圧に圧し潰されて絶命した。


「――ふう、神秘術のゴリ押しなんて久しぶりムキになっちゃったなぁ。さあ、急ぐわよ!!」


 その頃、もう一匹のソウギョの下に小さな物体が超音速で飛来した。

 物体は水に着弾すると同時に凄まじい勢いで弾け。ソウギョが纏う水が物理的に押しのけられる。花のように開いた水をすぐさま復元しようとするソウギョだったが、その胴体に続く超音速の物体が飛来し、胴体を貫いた。

 余りの威力にソウギョは上半身と下半身が分断され、絶命した。


「ん~~我ながらナイスな狙撃センス!! 『スウォーノポップ』で鎧を剥がして『スピエド』で一撃!! 誤差0コンマ00以下!! 貫通した弾丸も人の住んでいない山に命中して砕けるよう調整するなんて、もしかして私ってば天才!?」

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