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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
六章 受付してる場合じゃないっ!

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42.緊急捜索:迷子の雪兎!?

 ギルド地下にあるシェルターに避難する際には、確かに手を繋いでいたのです。

 緊急時の避難では子供と保護者が最優先。そのマニュアルに従い、雪兎ちゃんは確かにポニーちゃんが責任をもってシェルターに入れ、騒ぎが収まるまでここでみんなと大人しくしててね、と言い聞かせました。


 その後は町の住民さん達を次々に誘導してシェルターに入れていき、雪兎ちゃんの事はもう大丈夫だろうと安心しきっていました。大人のいう事をよく聞いてくれる雪兎ちゃんなら心配ないだろうと思っていました。


 桜術士さんとゴールドさんの信頼を裏切る気など、ある訳もありませんでした。


『――あれ? 雪兎ちゃんは?』


 最初に言い出したのは誰だったか、今となっては判然としません。


 あれほど目立つ容姿で、信頼できる人の近くに座らせておいたはずの雪兎ちゃんが、忽然と姿を消している。最初はトイレにでも行ったのではないかと思われました。しかし、クエレ・デリバリーから避難してきたタレ耳ちゃんがそれを否定しました。


『確かなんだな、タレ耳』

『トイレ、荷物の影、どこからも雪兎の匂いはしない。雪兎は特徴的な匂いがするから近くにいればすぐに捕捉できる。彼女はこの地下避難所にいない確率が99%』


 その言葉を聞いた時には、既に避難を終えて出入り口を封鎖しようとする人々を押しのけてポニーちゃんは走り出していました。


 シェルター内にいないのであれば当然、いるのはギルド内部。そう思って雪兎ちゃんが普段いる場所をひっくり返して回りましたが、見つかりません。外のギルド警備に回されていた数名の冒険者にも事情を話して探して回りますが、それでも見つかりません。どんなに呼びかけても返事が返ってこないのです。


 まさか、外に出てしまったのでしょうか。


 大変です。『万魔侵攻』に備えた念のための避難とはいえ、魔物の群れは稀に町に襲撃を仕掛けてくることがあります。そうなってしまえば無防備な町の住人たちは一たまりもありません。そのために地下避難所が複数存在するのです。

 今回たまたまそれが起きてしまえば、雪兎ちゃんは魔物にとって恰好の餌です。なんとしてでも見つけなければなりません。このような形で死者を出すなど、ギルド受付嬢として――いえ、人として絶対にあってはならないことです。


 でもどうしましょう。どうすれば。

 ポニーちゃんは頭の中からあらゆる情報を引きずり出して何とか彼女の居場所を探る方法がないか考え――思い出します。


 そういえば避難開始前、桜術士さんに『雪兎の居場所を指し示すネックレス』を受け取っていたのでした。慌てて懐を探れば、幸いにしてすぐにネックレスが見つかります。

 親バカのきらいがある桜術士さんの過剰な高機能アイテムが今こそ火を噴く時です。


「お、おいポニーちゃん! こっから先は俺らが行くからあんたは地下に……!」


 出来ません。地上に一人でも避難し遅れた人間がいて、そのことを認識しているギルド職員がいる以上、ギルド職員が先に安全な場所に移動することはギルドの規律に反します。


「そりゃ、そうだが……! 明らかにヤベェ状況の場合は当てはまらねぇだろ!?」

「さっき外で鐘が鳴った。ありゃ町の防衛線と魔物がぶつかった合図だ。限りなくアウトに近い状況なの、分かってるのかポニー?」


 行きます。それに、どちらにせよ雪兎ちゃんは一人でいる時は警戒心が強く、知らない人には近寄ろうとしません。今この場にいる冒険者さんたちは誰もが雪兎ちゃんとほぼ面識のない人ばかり。雪兎ちゃんを確保するには現状ポニー以上に適した人間はここにいません。


 難しい顔をする冒険者さん達。ここでポニーちゃんに万が一があれば彼らの名前にも傷が付きます。しかし、ポニーちゃんもここだけは譲る事が出来ません。

 やがて、根負けしたように冒険者さんの中で一番年長だった人がため息をつきます。


「ここで言い争っていても時間の無駄だ。こうなっちまったら一人守るも二人守るも同じと思って連れていく!! シェルター警護に二人ここに残れ!! 道案内は結構だが絶対に俺らの警護から離れるんじゃねえぞッ!!」


 ポニーちゃんはその判断に一度深くお辞儀をし――そして冒険者さん達四名を連れてギルドの外に駆けだしました。




 = =




 雪兎ちゃんは町の中心部に向かっているようでした。ネックレスを頼りに全速力で走りますが、冒険者さんたちの足はまだまだ余裕そうです。デスクワークだけに齧りついているつもりはありませんでしたが、思いのほかポニーちゃんは運動不足だったのかもしれません。


「おいおい、上! なんか始まってんぞ!!」

「マジかよ、空から群れが!!」


 見れば空中には町に迫る無数の魔物の編隊と、地上から断続的に放たれる強力な神秘術の閃光が光っています。術が放たれる度に何かを貫くような亀裂音が響き、魔物の編隊が一体ずつ落ちていきます。しかし攻撃頻度が遅く、町への侵入までに間に合わなそうです。


 今は空の遠くに見えるあの魔物たちがもうすぐ押し寄せてくると思うと、心臓の下辺りがきりりと痛みます。魔物とまともに相対したことのないポニーちゃんにとって、それは余りにも明確過ぎる死への恐怖です。


 しかし、足を止める訳にはいきません。

 ポニーちゃんでさえこれほど恐ろしく思うのならば、雪兎ちゃんはもっと恐ろしく感じる筈です。一刻も早く彼女を連れ戻さなければ手遅れになってしまいます。


 送り出した冒険者が命を落とすことは、ポニーちゃんは割り切れます。

 しかし冒険者に託された大事なものを守れないことを、割り切れません。


 雪兎ちゃんはいまだに移動中。防衛線からは市街戦になる事を知らせる真っ赤な狼煙が立ち上っています。その防衛線からまた神秘術が放たれ、最初は無数存在した魔物も半数にまで減っていました。

 この調子なら何とか間に合わないか――そんな淡い希望も虚しく、とうとう町に到達した魔物たちが急降下を開始します。その落下先は、余りにも受け入れがたい事実を指しています。


「おいあいつら、雪兎がいるって方角に向かって――!!」


 何故、どうしてよりにもよって。

 こんな悲劇があってもよいのでしょうか。

 ポニーちゃんはそれまでを超える程の全速力で駆け出し、冒険者さんたちを追い抜きました。


 天におわします女神エレミアよ。

 もしもあなたがこの光景を見てほんの僅かにでも慈悲の心を抱いたのであれば、どうか雪兎ちゃんをお救い下さい。その為ならば、我が身が魔物に捧げられても構いません。


 天におわします女神エレミアよ。

 他に何も縋れるものがないポニーちゃんの願いを、どうか、どうか聞き届けては戴けませんか。


「――下らんな」


 え――。


「神よ神よと祈ったところで目の前の障害が振り払えると本気で思っているのならば、貴様は極まった愚者だな」


 そこにいたのは、黒い羽と黒い髪、黒服の少年でした。

 いつの間にか、ポニーちゃんの横を並行して飛んでいたのです。

 美しい筈の琥珀色の瞳は恐ろしく冷たく、そして腰には銀色の剣を下げています。


 黒翼の民――すなわちナフテムの民。アサシンギルドを構成すると言われるナフテムです。つまるところ、このあどけなさが残る顔を残しながらも強烈な自意識を感じるこの子供は――そして銀というおおよそ武器に向かない筈のものを剣にして携えるこの子供は、まさか。


「だがまぁ、唱えながらも走る足を止めないことは評価してやろう。その心を忘れぬ限り、お前の心が鬼を産み落とすことはない。ゆめゆめ忘れるなよ」


 少年はそれだけ告げ、急加速でポニーちゃんを追い抜くと降下してくる魔物へと突き上げるような角度で肉薄していきます。その速度たるや、ポニーちゃんが見たことのあるハルピムの飛行速度をゆうに五倍は上回っているのではという差です。


 そして、少年は――。


「仕事以外の戦いはしない主義だが――まぁ、事情が事情だ。食前酒代わりに少々貰ってやる」


 強烈な突風を神秘術として収束させ纏わせた銀色の刀によって、降下してきた16体の魔物のうち、10体をすれ違いざまに粉微塵に切り裂きました。残り六匹も剣の余波で発生した突風に巻き込まれて散り散りになっていきます。


 人間を超えた圧倒的な力。

 空中戦で魔物を引き裂く風の術。

 種族、武器も鑑みれば、思いつく人物は一人しかいません。



 彼はアサシンギルド頭領にして第二次退魔戦役の英傑の一人――『銀刀』の後継者に違いありません。



 そしてそれは、同時に『アサシンギルドが殺すべき相手がこの町にいる』ことを意味していました。


 強力な人類の希望が現れたのに、どうしてか何一つ安心できないまま、ポニーちゃんは走りました。

 その男は日柄日中、当てもない旅をしていた。

 時折筋のいい戦士を見つけては助言者の真似事をしたり、魔物被害に困る村に寄っては一宿一飯の恩と魔物を狩り、実に自由気ままに旅をしていた。かと思えば何日も昼寝して雨にずぶ濡れになったり、村人に不審者扱いされて苦笑いしながらその場を後にしたこともある。


 その男が平原国に存在するとある町に向かっていたことに、特に理由はない。


 強いて言うのならば――こちらから面白そうな気配を感じたから、だろう。


「ふーむ、何やら魔物に襲われ大騒ぎしているらしいな……うむ! では一丁、飯の前の腹ごしらえと行こうッ! ガハハハハハハハッ!!」


 男は『遥か10000マトレ先にある町』を裸眼で眺め、両足を踏ん張り――そして、地面にクレーターが出来る程の踏み込みで空に向かって跳ねた。

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