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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
六章 受付してる場合じゃないっ!
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41.迎撃戦:空魔急襲!

 町の防衛線では既に戦闘が始まっていた。


「撃て撃て、撃ちまくれ! 味方にだけは当てんじゃねーぞ!!」

「危なくなったら援護するから土嚢の裏に逃げ込みな!!」

「罠にかかったからって油断すんな!! リーチの長い武器で確実に仕留めろ!!」


 姿が見えた瞬間に神秘術と弾丸、矢が降り注ぎ、魔物を掃討する。僅かでも道を逸れた魔物を罠が喰らう。それでも突破してきた敵を接近戦自慢の冒険者が叩き潰す。

 ギルドの前線は現在の所、問題なく魔物を迎撃していた。


(数は多いけど、大物はいないわね。討伐隊が削ってくれたみたい)


 碧射手は、敵が向かってきた方向が重戦士の出撃した方向であるのを考え、流石だと思った。


 碧射手は嘗て開拓冒険者を目指して超大型迷宮リメインズに挑んだことがある。

 その際に教官役を務めたのが重戦士だった。


 尤も、挑んだ結果は惨敗。碧射手など殺されそうになり、危ういところを重戦士に助けられた。当時のチームはそれですっかり自信を喪失して去っていき、碧射手は今に至る。


(でも、重戦士さんがいながらこれだけの数……討伐隊も殆どが魔物追撃に引き返してきたってことは、それだけの相手が出てきたってことなのね)


 討伐隊は皆ギルドの手練れだ。それがいながら数が多いのは、強い群れに当たった証。危険度10以上の魔物が出てきたのだろう。襲撃する魔物の中にも時折難度7近い魔物が現れては、碧射手と桜術士が連携で仕留めている。


トーレス支配オクト! 大蛇となって纏わりつけッ!!」


 煙管を構えて桜術士が雷を飛ばす。最初はもっと長い詠唱だった筈だが、集中力がゾーンに入ったのかかなり詠唱が省略されている。煙管の先端から発射された雷は蛇の如くうねりながら魔物たちに迫り、その動きを電気で拘束していく。弱い魔物は軒並み焼かれ、それなりの力がある魔物も電流で身動きが取れない。


 そうなってしまえば、もはや碧射手にとって唯の的だ。


セプテムよ、我が一射へ収束ドゥオの名の下に集いて悪しき者へ裁きを運べ!! クライシス・エアッ!!」


 矢のない弓の弦を引き、幻の矢が風を纏って幻出する。碧射手自身が発する非凡な神秘量が収束され、詠唱と共に解き放たれる。空中で無数に分裂した矢の全てが風に導かれて魔物の首や腹など脆い部位を貫いていく。


 碧射手の属する種族、エフェムはロータ・ロバリーに存在する種族の中でも指折りに神秘術の適性が高い。桁外れの能力を誇るゼオムには届かなくとも、生まれながら全ての属性を扱えるのはエフェムくらいのものだ。

 そんな彼女が一度神秘の矢を解き放てば、危険度5相当の魔物さえ一撃で貫く威力と化す。散弾でありながら全てが一撃必殺となった矢の雨は、一発の無駄撃ちなく魔物の命を貫いた。


 一息ついた桜術士が気のない声で呟く。


「相変わらず怖いくらいの精度だな」

「狙った獲物は逃がさないの。魔物も、それ以外もね?」

「身の危険を感じる……娘にだけは手を出さないでくれ」

「意地悪なこと言わないの。私がパートナーじゃ駄目かしら?」

「身に余る光栄過ぎて気が引けるってことで一つ」


 そんなことをいいつつ、桜術士が意外と照れ屋であることを碧射手は把握済みである。人に好かれる自信がないから他人と距離を取ってなんでもないフリをするのだ。それだけではないかもしれないが、根っこの人格ではきっとそうだ。


「もう少し自分に自信を持って。貴方のこと誘ってるのは術が強いからって訳じゃないのよ?」

「へー、そいつは初耳だ……なっとぉ!!」


 撃ち漏らしの大型魔物が遅れてやってきたのを、察知するや否や雷の神秘術で攻撃し、拘束する。恐らくはその気になれば黒焦げにも出来る筈の術を用いて。彼が自分の能力を偽装していることなど当に察している。


「貴方とゴールドくん、ポニーちゃんと口で勝負したら負けるわ! 負ける理由は貴方たちが男だから! 喋れる女が必要じゃなあい?」


 即座に碧射手も射撃。今度は弓に複数の神秘の矢が番えられ、地面と水平に発射されて魔物を貫いた。


「……いずれ雪兎が立派なレディーに」

「なるまでずっと待つつもり?」

「ああ、うん。自分が口で女に勝てないの忘れてた」

「同意とみて宜しいですね? ……忘れないで桜術士くん。仲間は互いに互いの益を守ることで強固になる存在なのよ」

「……待て」

「待てないなぁ」

「違う。索敵に感あり。後続が来る」


 大方の魔物掃討を終えようとしていた中で、桜術士の顔色が一変する。


「時速160キロ前後。神秘反応が強い、術が得意な奴だ。目視まであと12秒。多分一匹、というか一羽か? そいつだけが違う種類……来るぞ、あっちだ!!」


 理解できない言葉もあったが、一瞬で状況を把握した桜術士に先ほどまでの若干やる気に乏しい表情は消え失せている。彼の言った方向に目を向けると、V字に飛行する影が見える。鳥かと一瞬思ったが、すぐに違うと気づいた。鳥にしては大きすぎる。


「数は三十!! 町に一直線に向かってる!! ありゃ群れじゃなくて明確に襲いに来てるぞ!」


 その声に高台の下で戦っていた冒険者たちもぎょっとする。町は地下の避難設備に人を移動させてはいるものの、町への直接攻撃など今まで一度もなかったことだ。町を焼かせる訳にはいかないと思った碧射手はすぐさま行動に移る。


「迎撃するわ!! 吹き荒ぶ烈風セプテムよ――!!」


 クライシス・エアより更に威力を込め、本数を抑える代わりに追尾能力を高める。複数の魔物をも食い荒らす三匹の猛獣を形作る、碧射手の数ある術の中でも高位のものだ


「フレス・ベルグッ!!」


 三つの風の獣がはるか遠くの敵に向かって襲来する。

 そして、群れに到達した瞬間に術が砕けて消えた。


「――ッ!? どういうこと!?」

「えっと……加護セクスの神秘術!? それを魔物の一体が使った!! 結界、いや違う? 加護セクスの持つ沈静化の特性を応用して数列にマイナスを混ぜて神秘術を霧散させたんだ!! そうか、あの一匹は群れを守る為の壁役……該当する魔物は、カルドリス!」


 一瞬パニックになりそうだったが、桜術士はあれほど離れた場所で起きた現象をその場で看破した。その際に懐を妙に漁っていたように見えたが、あれは多分彼の癖だ。ときどきよく何もないのに自分の懐をまさぐっていることがある。


 カルドリス――目撃証言の極端に少ない魔物で、魔物の中でも非常に珍しく自分以外の存在に加護セクスによる治癒回復を施すことができる。しかしその術を使って神秘術に干渉するなどという話は聞いたことがない。


 魔物の知られざる力にも驚かされるが、一瞬で看破した桜術士もまた底が知れない。


「……どうすれば倒せる!?」

「鎮められないほど収束させた術で狙い撃つしかない! それも、カルドリスを直接狙わず端の連中の数を減らすしかな!!」

「それ以降は!?」

「……あの速度じゃ町への降下は避けられない。碧射手たち狙撃部隊はここに残って敵を撃って、残りは市街戦に持ち込んで仕留めるしかない!! 数を減らさないことには、羽生え組が直接接近戦でカルドリスを叩こうにも危なすぎる!」

「すまんが桜術士の言う通り、あの数はキツイ!」


 ハルピム含む数名の有翼族たちが苦い顔で頷く。有翼族は確かに自力で飛べるが、このギルドに多数の敵を翻弄できるほどの手練れはいなかった。


「後はそうだな……神秘術を鎮める術をカルドリスが使ってる間は取り巻きの連中も術を使えない筈だ! 先手を取らせるのは癪だが、その時にカルドリスを仕留めるのが効率的か……?」

「それで行くしかねぇ!! おい、余裕のある奴は町の方へ! 他は後続の可能性があるから待機! 狙撃組は桜の言った通り高台を確保して撃ってくれ!!」


 この場の仕切り役になっているガタイのいいガタイさんが指示を飛ばし、皆がそれに従う。


「……ところで、貴方は町と高台とどっちに――桜術士?」


 ふと振り返ったその時には、既にそこに桜術士の姿はなかった。

 それに気づいたとき、一瞬視界が真っ白になった。

 気が付けば足は全速力で駆け出し、町の中へと向かっている。


 桜術士の便利な索敵能力は、最近になって特定の人物の居場所を常に追跡できる機能を神秘術に付与していた。その機能に表示された二つの光が、避難所の外を出て移動を開始していたのだ。

 

「冗談だろ、なんでこんな時に……! いい子にして待ってろって言っただろ!!」


 先行して出た光は、雪兎。

 遅れてそれを追うように出たのは、ポニーだった。

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