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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
六章 受付してる場合じゃないっ!

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38.討伐戦:vs雷光の俊馬!

ここからは、本来なら来月分を予定していた内容です。前話で終わりだと区切りが悪いという判断から一か月前借りしてここで放出します。

  この世界は魔物による残酷な死に溢れている。


 しかし、もしこの世界に魔物を操る明確な存在がいるのだとすれば、それは少なくとも『万魔侵攻イミューム』によって人を滅ぼす気はないのだろう。『万魔侵攻イミューム』による大量発生で人類を滅ぼしたいのなら、発生場所である超巨大迷宮リメインズ全て同時に魔物を発生させ、周辺の砦を徹底的に無視するか徹底的に滅ぼしながら人里を襲って行った方が、効率がいい。


 退魔戦役と認定される戦いの場合は迷宮に限らず全世界から魔物が溢れる。

 魔将たちは情け容赦なく人間を鏖殺し、魔物を戦略的、戦術的に駆使してくる。


 しかし超巨大迷宮リメインズは連続、或いは同時に『万魔侵攻イミューム』を起こすことはない。発生後は必ず数年の合間が空く。無限に発生することもない。そして発生する魔物だけは人を襲うことより周辺に散る事を優先する。まるで間引きのように。


 人間が滅びない為の筋道が、ここには用意されている。

 理由は分からない。或いはこれは、女神が人に与えたもうた試練なのかもしれない。


 『万魔侵攻イミューム』での魔物討伐のキモは、魔物たちがまだ群れで移動する段階で叩くことである。それも、常に移動を続け、必ず難度の高い魔物が混ざり、そして群れであるが故に正面から挑めば踏み潰される死の壁に挑まなければならない。


 偵察に双眼鏡を覗いていた冒険者の一人が前方から迫る土煙の先頭を見て悲鳴を上げる。


「げぇッ、嘘だろ!? 先頭にいんのアルステリオンだぞ!?」


 冒険者たちがざわめく。


「間違いねえのか!?」

「あんなデカイの見間違えるかよ!! 距離はざっと3000マトレ先! あっと言う間に接敵するぞ!?」

「雷鳴の魔物アルステリオン……退魔戦役で陸上戦艦三隻を丸焼きにした、難度十二の怪物の中の怪物!!」


 アルステリオンは全高15メートルを誇る巨体の怪物だ。牛の体から頭部を排除し牛顔の巨人の上半身を植え付けたような異形であり、強烈な走破能力は城壁やバリケードを飛び越え或いは蹴散らし、蹄は下手な金属よりも堅牢。しかもアルステリオンの体からは至る所から漆黒の角や棘が突き出しており、この全てから相手を追跡する雷撃を発射するため近づくことすら困難で、蹴られれば鎧と盾ごと即死するパワーまである。

 現代最上位の魔物の一角であり、雷の有効射程は驚異の1000マトレ。通常の冒険者ギルドにこの魔物の討伐依頼が来たらどうにかして英傑を呼び出す、と言われる程の存在だ。遠近共に隙がなく、地形によっては手がつけられない。


 しかし――この部隊には、それでもなお「問題ない」と言える人物がいた。


「あら、それじゃ早速私の出番ね。射程、相性……あの術がいいかな? 景気よく行くわよー!」

「お、お願いしますセンセー!!」


 心なしかうきうきしているのは、翠魔女。

 現代の術士で最高峰に位置する人物だ。


 すう、と杖を持ち上げた彼女の周囲に神秘術の光が溢れる。

 術の使用時には多かれ少なかれ光は出るものだが、翠魔女が詠唱を始めた瞬間、彼女だけでなく周辺30マトレに及ぶ大地が共鳴するように光り、淡く光る神秘数列が大地に刻まれていく。つまり、彼女はその気になれば周辺30マトレにいる存在を即座に吹き飛ばすほどの力の行使が出来るということだ。


 天空都市から外に出ることの殆どないゼオムという種族が、なぜ世間でお目にかかる事が殆どないのに「最上位の術士が多い」という恒常的評価を得られるのか。そして何故地上でどんな戦いが巻き起ころうが対岸の火事と構えていられるのか。

 その答えが今、示されようとしていた。


「豊穣の大地よ、牙を剥け。裂かれ束ねる必罰の茨、具現せしめるは共鳴する『収束ドゥオ』の響き、『クァトル』の息吹! 憤怒を以てして掃滅せよ――!!」


 見る者が吐息を吐くほどに美しく、そして峻酷に、翠魔女は裁定を下す。



「パニッシュメント・オブ・ガイアッ!!」



 瞬間。


 あと少しで雷の射程圏内に迫ろうとしていたアルステリオンとその後に続く魔物たちの足元から、高質化した夥しい量の尖岩たちが噴出した。アルステリオンはその皮膚も生半可な剣では貫けない硬さを誇るが、大地という莫大な質量が下から刃としてせり上がり、更にそれが全身を貫く量と硬度になれば話が別だ。

 射出と呼んだ方が正しい速度の尖岩に突き上げられた上に己の自重が更に威力を加速させ、アルステリオンは耳を覆いたくなるような悲鳴を上げ、見るも無残に尖岩に抉られていった。


「い……一撃……」


 誰の口から洩れたか、その声は目撃者の代弁たる言葉だった。

 アルステリオンだけではない。後から続いていた大量の魔物たちの実に九割がこの術の射程範囲に入ってしまい、次々に全身を貫かれた魔物の死体が大地を赤く染めてゆく。

 それはまさに、大地そものが愚かな生物たちに裁きを下すかのような凄惨な光景だった。


 ただ、アルステリオンは瀕死であって即死ではなかった。


『Gi……GIIIIIIGAAAAAAAAAAAA!!』


 全身を包み尖岩すら破壊する雷が全身から溢れ、己の肉さえ灼き尽くす雷霆が冒険者たちめがけて迸った。

 決死の意志ゆえに限界を超えた力。従来のアルステリオンの雷の射程を超える威力と速度で冒険者の集団に迫る。既にアルステリオンは息絶えているが、その威力は受ければ全滅を免れないことだけは明白だった。


「なっ、まず――!!」


 だが、最悪の事態を想定して動くのも戦士である。

 アルステリオンが最後のあがきを始めたときには、既に部隊の一人、水槍学士が動き出していた。


「ご心配なく。僕がやります。行雲流水こううんりゅうすい我が身に宿れ、逆巻くクィンクェの加護ぞあれ! 璧水へきすいッ!!」


 即座に周囲と雷の間に割って入った水槍学士が槍を大地に突き刺し、そこを起点に巨大な水の壁が生まれる。アルステリオンの雷は水に命中した途端に急激に威力が減退し、残った雷は壁の向こうの槍に吸い込まれ、大地に拡散して消えていった。


「と、止めた……難度12の一撃を……?」

「助かったのか、俺達……」

「ええ、もう安心ですよ」


 雷が通り過ぎた後の独特の鼻を突く異臭も風が連れ去り、ふう、と息を吐く水槍学士を翠魔女が称賛した。


「やるじゃない、流石はメガネちゃんが褒める程の頭脳。術のコントロールは私が見てきた人の中でも群を抜いてるわ」

「あはは……あれほどの術を行使した上に防御の準備も整えていた貴方には敵いませんよ。もしかしたら余計なお世話でしたか?」

「いえ、不測の事態に備えて力はある程度温存しておきたかったし、何より貴方の術は雷との相性がいいわ。純水は電気を通さないものね……ほら皆! 残りの魔物を仕留めに行きなさい! ここで倒せないと報酬全部私が貰っちゃうわよ!?」


 怒涛の攻防に呆気に取られていた冒険者たちが我に返り、武器を構えて突撃する。


「やべっ……野郎共! 急いで残党狩りだ!!」


 そう、圧倒的殲滅力で大多数の魔物が串刺しにされたが、魔物は全滅しきってはいない。そしてこの出撃は冒険者の義務だが、報酬の増減は活躍度合いによるのだ。これ以上翠魔女が活躍すると本当に彼女の言った通りの結果になってしまう。


 彼らを見送った翠魔女は、その集団についていかない水槍学士に話しかける。


「貴方は行かなくていいの?」

「……生憎、リメインズで稼いだお金がまだ有り余ってまして。見た所脅威となる魔物は全て先ほどの攻撃で撃破され、残りは雑魚だけのようです。彼らに任せます」

「じゃあ、戦いが終わったら部隊を二手に分けましょう。西の部隊は特に数が少ないし……」

「ああ、そっちは要らないと思いますよ。何せあっちには小麦さんが行ってますからね。ほら、あっち」


 水槍学士が指さした遥か向こうで、ドギャンッ!! ズドォンッ!! と轟音と噴煙が巻き上がる。遅れて魔物の断末魔が響き、暫くすると沈黙した。


「……あの人、唯でさえ過剰火力ですからね。殲滅戦なんてむしろ望む所だと思いますよ。今日は狙撃するんだーって携行数砲に装着する一マトレくらいのバレル抱えてましたし、あの人ならアルステリオンの顔面スナイプ出来るんじゃないですかね?」

「最初、重戦士とコンビ組んでたのが小さな女の子だって聞いて耳を疑ったけど、成程今は納得してる。重戦士レベルじゃないとコンビを務められなかったのね……」

「そういうことです。破壊姫ですよあの人」

水槍学士のメモ帳:小麦さんと重戦士さん

小麦さんはマーセナリー時代に多くのパートナーと組んではその過剰火力から逃げられ続け、最後の最後に正式パートナーになれたのが重戦士さんだったそうです。パートナーになった切っ掛けは、難度十二の新種魔物ヒュドーペントを協力して撃破したからとか。

重戦士さんの記憶探しの後押しをしたもの小麦さんらしいのですが……小麦さんはただいい人でも暴れたいだけの人ではなく、打算もする人です。二人はあくまで利害関係の一致で共に過ごしているだけに過ぎません。かといって思いやりや気遣いがない訳でもなく……不思議な関係ですね。

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