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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
五章 受付嬢ちゃんに!

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34.受付嬢ちゃんにあらぬ疑い

 いつの時代、どの社会にも嘘をつく人間がいます。

 人の心の弱み、立場の弱みに付け込んで人を陥れ、財産を奪う悪。人が言葉を使ってコミュニケーションする限り永遠にいなくならないであろうそれを用いて生計を立てる者――人、それを詐欺師と言います。


 ただ、人は思いこむ生き物です。感情的になると思い込みでいもしない詐欺師を頭の中に勝手に形成し、それを悪と断じることで自らを正義と定義するというはた迷惑な人も存在します。ギルドでも割とよくあることです。


「さっ、詐欺だ!! こんなの詐欺じゃないか!!」


 ポニーちゃんを詐欺師呼ばわりしているのは新人冒険者の新人剣士くんです。

 彼はクエストの遂行期間を過ぎてから終了報告にやってきたうっかりさんです。新人だったのでしっかりと違約金等の罰金ペナルティの話を聞かせた筈ですが、全く覚えていなかったようです。新人にありがちなミスですが、人を詐欺師呼ばわりまでする人は珍しいです。


 あと後ろで見ている斧戦士さんが「分かる分かる」と言わんばかりに頷いていますが、彼は任務不履行の上に期間オーバーと言う一番性質の悪いやらかしをした人なので、なんだか微妙に釈然としません。


「あんなに頑張って狩ったんだぞ!! もう帰ってきたときにはフラフラで、家で寝ないと動けなくなりそうだったんだよ!!」


 これまた斧戦士さんがうんうん頷いていますが無視して新人剣士くんに説明します。


 報告するまでがクエストです、と。


 仕事が完了したかどうかの報告は仕事をする人間として必須の義務です。現場でそれをやったとして、やり終えたことがはっきりしないことには状況の整理がつきません。依頼主も当然安心できません。やったかやってないかが分からないというのが一番困るのです。


「そんな事務仕事の話ばっかり持ち出して、戦うこっちの苦労を少しは労われよッ!!」


 堂々と俺正しいこと言った感を醸し出す新人剣士くんですが、厳しい事を言わせてもらえば仕事を自ら受けたのに完全に履行しきれなかったのは当人の能力不足が原因です。冒険者ならば帰りの道をいつ通るかまで計画して挑まなければいけません。


 それに、こんなことは言いたくありませんが、仕事を終えて町に戻った時点で余力がないようなクエストのやり方をしていたら、近い将来間違いなく死にます。帰り道で不測の襲撃に遭ったらどうするのですか。


「うぐっ……!」


 ついでに言うとギルドには怪我人が運び込まれた際の為のベッドや仮眠室も存在します。倒れそうなくらいフラフラならギルドで報告してから仮眠室で寝ればよかったのです。ギルドだってそれぐらい気は利かせます。

 あ、これも冒険者講習で説明した筈の事ですよ?


「うぐぐぐっ……!!」


 不幸中の幸いか、クエストの報酬は半額になったとはいえ貰うことができます。次に同じ依頼が来た際に全額を受け取る為の努力を今からするべきです。もちろん答えが出ないのであれば、ギルド受付嬢としてアドバイス位できますし、先輩冒険者さんに手ほどきを受けられるよう話をすることだってできます。


「……すんません。頭冷やしてまた来ます」


 項垂れる新人剣士くんの肩を斧戦士さんがポンポンと叩き、そのまま二人は食堂の方へ消えていきました。今回は俺の奢りだ、とか言っているのでしょうか。


 数時間後。


「あいつっ、斧戦士!! 財布忘れたとか言って先に逃げて俺が全額金払ったぞッ!! 奢るって言ったのにッ!! 詐欺だろこれェ!?」


 流石に可哀そうだったので、事実確認の上で斧戦士さんに「お金払わないと査定に響く」と言っておきました。二人の仲は一応もとに戻ったようです。





 さて、引き下がる冒険者あらば引き下がらぬ冒険者もまたあり。


「これは詐欺だろう、お前!!」


 冒険者歴10年のベテランを自称するおじさん、足軽さんが威圧的な発言を繰り返します。

 足軽さんは前から評価が低い水準で漂っている人なのですが、その理由が依頼不履行率。時間遅れや履行したという虚偽の報告がちらほら重なり依頼達成率70%という嫌な数字を叩き出しています。


 70%と言うとそんなに低くはないと思うかもしれませんが、実際には「10の依頼をこなすと3つは必ず不備がある」という意味での70%です。これは冒険者としてはかなりひどい仕事ぶりです。そのたびに足軽さんは言い訳をぐちぐちと受付嬢にぶつけ、ギャルちゃんに怒涛の如く怒られてこっちに回されてきました。


 しかし今回の言い訳にはかなりボルテージが上がっています。


「依頼はこなしただろ!? でも依頼から戻ったら親戚の訃報が入って葬儀に三日かかったから報告できなかっただけだ!! 葬儀だぞ、葬儀!! その時に行かなくていつに行けるっていうんだ!! それとも何か!? 冒険者は葬儀に参加する権利すらないとでも言いたいのか、ええ!?」


 顔を真っ赤にして唾を場き散らしながら怒鳴る足軽さんですが、親戚の葬儀に行く前にギルドに報告だけすることは出来たと思いますし、葬儀先から伝書鳩を飛ばすという事も十分可能だったと思います。

 しかしそれを指摘すると今度は「人付き合いってものがあるんだ!」とか「馬車の定期便を逃すと三時間待ちだぞ!!」とか「わざわざ依頼をこなしてやったのにその言い草はなんだ!」とか、自分の事情が最優先だと言わんばかりです。ちょっとの努力でどうにか出来たものばかりどころか、後半は恩着せがましいだけです。

 依頼は報告までを含めて依頼だと言ったら今度は「揚げ足取りみたいなことばかり言いやがる!」と抜かしてきました。揚げ足も何も事実です。十年冒険者やっててそんな基本的なことも覚えていないのはどうかと思います。


「ギルドってのはいつから冒険者をひっかけて小銭を稼ぐ詐欺を始めたんだ!!」


 何故努力義務を怠っている癖してここまで人に偉そうに出来るのでしょうか。実のところ、情状酌量の余地を考慮して話を聞く姿勢を普通に取ったのですが、最初から喧嘩腰でこちらの話を聞く気がありません。

 普段なら待ち冒険者が身内の恥として連行していくこともあるのですが、その時は丁度人が少なく、気を利かせるタイプの人もいないので言い放題です。当人ももしかしたら時間を見計らっていたのかもしれませんが、確認するすべもありません。


 しょうがありません。理性的な対応をしてくれないのであれば、親切心を捨てて事務的に行くしかありません。


 葬儀の為にクエスト報告ができなかったのですね?


「そうだって言ってんだろ!!」


 葬儀の案内状は? この町ではない場所で行われたのなら、伝書の一つでも届いたのでしょう?


「ああ、あったさ! 捨てたがな!!」


 つまり証明可能な書類と認められるものは持っていないのですね。

 では書類では証明はできません。あれば正当な理由として確認できたのですが、ないのならば仕方がありませんね。

 では馬車は、誰の商人の馬車を使いましたか?

 確認を取って移動の事実を確認したいのですが。


「覚えてないな! 急いでたんだ!」


 ならばどの馬車を使ったかはギルドで確認します。

 行った村はどこですか? 馬車の確認が取れれば必然的に場所は知れますが、本人から確認できれば一番確実なのですが。


「俺がどいつの葬儀に参加しようが勝手だろうが! 勝手に調べてろ!!」


 ではギルド側で確認させて頂きます。

 確認が取れ次第、依頼者の方をギルドに呼び直談判の機会を設けます。そこで事実確認をして依頼者に納得していただければ依頼料は全額支払われることになるでしょう。


「ハン! 当然全額支払ってもらえるようギルドが説得するんだろうな!?」


 何か勘違いしているようですが、ギルドは依頼者と冒険者の仲介役のお手伝いをしている立場です。報告するのは事実だけです。交渉は当人がやってください。


「ああ!? そっちの事情で呼び出しておいて何でそんなことしなくちゃならない!?」


 では交渉はキャンセルしますか?


「依頼料が貰えるように処理しろと言ってるんだ!! お前らがやるんだよ!!」


 止まる事を知らず上昇を続けるボルテージに周囲も顔を顰めますが、今のポニーちゃんはもう仕事モードです。事実確認の上での仕事処理しかしません。あくまで全てルールに従って処理します。

 そのまま数分平行線の議論が続いたのち、足軽さんが更に何か叫ぼうとしたところで周囲の異変に気付きます。足軽さんの周囲を私服の男性二人と、ベテラン先輩が囲っているのです。


 とうとうこの時を迎えてしまいました。足軽さんは経験豊富な冒険者ですが、経験だけで態度と実績が釣り合っていないことを理解することはなかったようです。


「な、何だお前ら!?」

「足軽さん。冒険者としての評価値が基準を下回った為、現時点を以て足軽さんの冒険者登録を抹消します」

「な――そんな馬鹿な!? 受付嬢、貴様ハメたのか! 俺を怒らせて!?」

「貴方の内申はもとから低かったので、彼女は関係ありません。警告は何度もあった筈ですよ? これは貴方自身が招いた結果です」


 冷酷な声と共に突き出される一枚の公的書類には、まさにベテランさんの言った通りの内容が書かれています。

 ギルドへの正当な理由なき反抗的態度は冒険者の内申評価を下げ、総合的に見て目に余ると判断された場合は登録を抹消されます。冒険者は信用が第一ですが、日雇いという形式をとっている以上は仕事率が低い上に言う事も聞かない人材を手元に置く理由がありません。


 彼はそれをギルドのど真ん中で堂々と続けました。引き返す機会、非を認める機会、素直に罰金を払う機会を全て蹴って、ポニーちゃんに噛みつき続けました。ここで譲歩したところで、彼が本当の事を言っていたところで、次に遅れたときも同じようにルールに則らない抗議を続けるであろうと判断されたのです。

 私服の男性二人――ギルド隠密室に。


 ギルド隠密室はギルドを守る盾にして冒険者の監視者です。対人戦闘訓練を受け、内申評価も基本的に彼らが一般人に隠れてこっそり行います。国とのいざこざにも駆り出されますが、基本的には彼らの仕事はこういったものです。


 結局、足軽さんは抵抗虚しくギルドを追放されました。

 これ以上騒ぐなら次はこの国の衛兵の出番になります。

 当の本人はこの扱いを不服として衛兵を呼び出しましたが、内容が内容だけに誰も相手にしてくれずに暫く騒いでいました。


 嵐が去って、ポニーちゃんは深いため息をつきました。

 これではまるで、ポニーちゃんが足軽さんを嵌めて追い出したかのようです。見様によってはまさにその通りで、だからポニーちゃんは事務的処理をしたくなかったのです。ベテランさんが肩をぽんと叩いて励ましてくれた後、ポニーちゃんはいつもの仕事に戻っていきました。



 後で分かった事ですが、葬式の話は法螺ではなく本当だったようです。

 本当だったからといって、彼の言動は正当化されません。

 自分でチャンスを蹴ったのであれば、もう手遅れなのです。

受付嬢ちゃん豆知識:隠密室

隠密室はギルドの部署の一つであり、主に諜報活動や有事の際の事態鎮圧を行うギルド唯一の実働部隊です。本来中立性を貴ぶギルドとしてこのような戦力は持つべきではないのですが、第二次退魔戦役以前に起きた冒険者によるギルド乗っ取り事件などの数々の問題を鑑みて、中立性を守るための戦力が必要であるとして隠密室が立ち上がりました。

隠密室は魔物との戦いは出来ませんが、武器を持った相手を素手あるいは非殺傷の武器で鎮圧するための訓練を徹底的に叩きこまれていますし、活動の詳細は表のギルドにも大まかにしか伝えられていません。理由は情報漏れを防ぐため。身内にさえ徹底しています。

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