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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
五章 受付嬢ちゃんに!

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32.受付嬢ちゃんにクレーマー

 クエスト受諾は早い者勝ちです。なので、タッチの差で依頼を他の冒険者に持っていかれたら、取り損ねた冒険者は諦めるしかありません。


「昨日まであそこにあっただろ、依頼が!! オリドーンの飼いならし依頼がッ!!」


 本人ががのんびりしているから出遅れただけの話なのに、昨日まであったという何の保証も生まれない根拠を振り翳してここまで怒鳴り散らす人も珍しいと思います。もちろん昨日まであったから何ですかという話です。ポニーちゃんは素直にもう別の人が依頼を受けましたと言います。


「下ろせソイツを依頼から!!」


 倒置法でとんでもない要求をしてきました。


「俺はこの道10年のテイムのベテランだぞ!! このギルドに俺以上のテイマーなんていねぇ!! 受けたそいつに仕事をやらせたらテイムが不完全で事故が起きてギルドの為にもならんぞ!!」


 10年テイム依頼を受けてるなら依頼を受けた人を正当な理由なく降ろすことができないことも熟知していそうなものですが、どうやら自分の主張こそが正当な理由と思っているようです。自分の仕事を誇っているのか他人を馬鹿にしているのか理解に苦しみますが、そこはかとなくポニーちゃんを脅しているようにも見えます。


 彼は調教師さん。本人の言う通りモンスターテイム歴10年のベテランです。


 少し説明しておきましょう。

 オリドーンは低級の魔物で、巨大な水鳥のような姿をしています。普段は割と無害な魔物で知能も低く、飼いならしの知識と技術を持つ人なら飼いならせます。個人用の飛行家畜としての他、船を引かせるのに利用されます。

 が、飼いならしたとしても生まれて十年ほど経ったオリドーンは大型に進化して一気に狂暴化します。なのでオリドーンはきっちり年齢を計り、ある程度働いてもらったらすぐ殺処分してお肉を頂くのが定番の扱いになっています。食べたことがありますが、柔らかくて適度に弾力があり、脂がサラサラしてて美味しかったです。


 余談ですが、稀に殺すのが嫌で放逐してしまう飼い主がいるのが密かな問題になりつつあり、調教資格のほかに魔物飼育資格を導入することが検討されています。


 話は戻り、調教師さんは無理だと言ってもお冠です。


「死人が出たらアンタのせいになるんだぞッ!! 無責任なこと言いやがって!!」


 無責任ではありません。今回依頼を受けた新米調教師さんは既に資格を得ていますし、訓練でオリドーンの飼いならしも成功しています。資格を得るという事はそれをする資格があるということです。


 そして誰にとっても初めての本仕事の時はあります。まして冒険者のやる依頼に命の掛からないものなどありません。薬草採取とて、野に出る以上は魔物の遭遇と隣り合わせです。そしてポニーちゃんは仕事のリスクを説明し、不安であれば同行者を連れてもいい旨を伝え、しっかりとした確認の末に新米調教師さんを送り出しました。


 それに、あまり言いたくはありませんが……とポニーちゃんは言葉を濁します。


「何だよ、言いたいことがあるんなら言……!!」


 ベテラン調教師さんはそろそろ引退を視野に入れる年齢に入っており、そのベテラン調教師さんが依頼を独占して弟子も取らないので新人が育っていません。嘗てはもう少し数がいたのですが、ベテラン調教師さんの仕事への信頼とオリドーン調教依頼がそう多くないことから、儲けがないと調教師さんが激減してしまっているのです。


「そりゃあ、仕事の出来る人間に人が来るのは……!」


 そう、当たり前のことです。

 依頼者も実績のあって顔を見知った人に優先して依頼するのは理解できます。有名冒険者や専門冒険者というのは得てしてそういうものです。しかし、その末にたった一人の冒険者にのみ頼るようになって、いざベテランさんが体の不調で仕事が出来なくなったり引退した後、その仕事を誰がするのでしょう。


 というか、その旨既に数度メガネちゃんから説明がされている筈ですし、同行指導の依頼もお願いした上でご自身が突っぱねた筈ですが。


「……あの嬢ちゃんの話は、その……声が小さくてよく分からん。ああいう娘は見てるとどうももどかしくて苛々するんだ」


 聞いていなかったのならそう言いなさい。


「……それが嫌になって、メガネの嬢ちゃんとは合わないからアンタに変えて貰ったんだ」


 少し頭の痛くなる話ですが、やっと事情が掴めました。

 メガネちゃんは真面目な子なので一生懸命説明したのでしょうが、ベテラン調教師さんの苛立ちの混じった視線にだいぶ声が震えたりしていたのでしょう。本人は勇気をもってちゃんと説明したのだから引継ぎは必要ないと思ったようですし、実際説明しているのでメガネちゃんが悪いとは言い難いです。ただ、聞いてなさそうな人ならそれに留意する必要があったとも言えます。


 ポニーちゃんはギルドの情報伝達に不手際があったことを素直に謝罪しました。


「わ、わかりゃいいんだよ……なんでぇ、物分かりのいい嬢ちゃんじゃねえか。シャキシャキ物を言うし、変えて貰って良かったぜ」


 視線の隅でしきりに恐縮するメガネちゃんは後でフォローするとして、ともかくこうして情報が正確に伝達されました。


 ベテラン調教師さんは意図せず実質テイム依頼を独占していたので、どこの誰とも知れない奴が依頼料欲しさにいい加減に依頼を受けたのではないかと思っていたようです。だからそんな不届きな輩をギルドが役所仕事的に見逃したと思ってあんなに怒ったのでしょう。

 しかしギルドは依頼達成率の維持のためにベテランばかりに依頼を集中させる今の状態は問題だと考え、新人に経験を積ませるという観点からテイム技能のある人のクエスト受諾を承認したということです。


 現場の人間と受付の人間が認識する「正しさ」は時折衝突します。

 しかし付き合い方や勘違い、意見の行き違いが原因であれば、話して通じることもあります。


「……わぁったよ。依頼の場所だけ教えてくれ。やっぱり新人が一人で依頼こなすってのは不安でしょうがねえ。いい加減な仕事する奴だったらクビにしろよぃッ!!」


 こうしてベテラン調教師さんはカウンターを去っていきました。

 代わりに新米調教師さんに災難が降りかかるかもしれませんが。



 翌日。



「オメェ若いのに見どころあるじゃねえか!! ようし、今度はユニヴァーンを手懐ける裏技教えてやるよ!」

「マジっすかセンパイ!! ユニヴァーンって女調教師にしか懐かないんじゃないんっすか!!」

「バッカ手前ぇ、だから裏技って言うんだろうが! ガッハハハハハ!!」

「センパイ一生着いてくっすッ!!」


 意気投合したらしい二人はそれ以来、二人合同でよく依頼に出るようになりました。


 これぞ古事に言う『話せば分かる』。

 これはどんなにいがみ合う相手でも、一度腹を割って話せば理解し合えることもあるというエレミア教に伝わる有名な言葉です。これはギルドの基本理念にも通じる所があります。


 ただ、何故かその言葉を桜術士さんが微妙な顔で見つめていたののは何故なのでしょうか。なんかゴールドさんとぼそぼそ喋っています。


「……それってだいたい口に出したときには手遅れなのが定番じゃなかったっけ」

「そういう説もあるね。大昔は解釈が二分する言葉だったけど、どうせならいい意味で使いたいって時の権力者が言い始めて今の意味になったとか。にしても君そんなのよく知ってるね。それ相当古い文献にしか乗ってない解釈だよ?」

(偶然、かね……? なんで犬養毅の言葉がこの世界の教義になってんだ……?)

受付嬢ちゃんの豆知識:モンスターテイム

魔物はこの地上に生きとし生ける全ての人間の敵……とこれまでは考えられていたのですが、ここ20年ほどで一部調教が可能な魔物がいることが判明しています。これを調教するのがモンスターテイムです。危険度3以上になるとまずテイム可能な存在はおらず、一部では魔物を利用することに抵抗感が強い国も多いです。ただ、歴王国では昔からその可能性が提唱されていたようで、歴王国周辺では活発にテイムの技術が磨かれています。

なお、いくら調教したとはいえオリドーンのようの後になって狂暴化する魔物も存在する為、テイム可能魔物の認定はかなり難しいそうですよ。

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