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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
四章 受付嬢ちゃんは!

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30.受付嬢ちゃんはおかえりを言う

 とうとう王都を離れ、平原国の見慣れた町に戻る日がやってきました。


 あの後、ゴールドさんはギルドを去る――ことはなく、桜術士さんの知恵を借りて色々とやった結果、病気のお父さんと和解したそうです。三名の合同声明で正式にわだかまりが解消されたことによってシルバーさんに反発する勢力も拳の行き場を失い、やがて下げることになるでしょう。


 シルバーさんにはあの後一度顔を合わせましたが、「まさかああいった手段をとるとは……兄に一杯食わされましたが、まぁよしとします」と苦笑いしていました。一体どんな手段をとったのか非常に気になる所ですが、聞いてもいいか尋ねると「兄に聞いてください」とゴールドさんに押し付けました。

 シルバーさんなりの意趣返しなのかもしれませんが、どこか重荷を下ろしたような清々しさのある顔を見れば、無事に問題は解決しそうなようです。


 なお、ゴールドさんに聞くと「プライベートな事だから言えない」と突っぱねられました。


「ポニーちゃんは俺の頼みを無碍にして桜術士に告げ口したもんねー。これって個人情報の管理に関する問題があるんじゃないの?」


 桜術士さんは最初から話を聞いていたのでノーカンです。

 ポニーちゃんはそこに少しばかり冒険者の礼儀を付け足しただけです。


「やめろゴールド。ポニーにその手のちょっかいは通じねえよ」

「分かってるさ……ありがとうポニーちゃん。桜術士に迷惑かけまいと思ってたけど、結局話して正解だったよ」


 ゴールドさんが左手を差し伸べて握手を求めてきたので、あれ、と思いながらも応えます。

 疑問を代弁するようにマッチ女さんが横から覗き込んできます。


「あれ、アンタ右利きじゃなかったの?」

「両利きだよ。心底感謝する時だけ左で握手するのさ。深い意味はないけどね」


 ゴールドさんの立派な手を握り、握手を交わします。


「改めて、これからもよろしく!」


 周囲の皆も顔を綻ばせ、ポニーちゃんも笑顔で頷きました。

 ゴールドさんとの付き合いは、もう少し長くなりそうです。



 さて、ゴールドさんの話は解決しましたが、未解決の問題も残っています。

 慈母さんと会っていた重戦士さんは彼女から様々な話を聞き、自らが「鉄血」であるという可能性を否定できなくなったそうです。しかもその帰り道に慈母さんと同じく退魔戦役の英傑である「銀刀」にも同じく「鉄血」と呼ばれたそうです。

 アサシンギルドの頭領である銀刀……一体なぜ王都で重戦士さんに声をかけたのでしょう。殺されなかったのならターゲットにされた訳ではないのでしょうが。


 あの王都に、同時に二人――或いは、本当に重戦士さんが鉄血であるならば三人もの英傑が集っていたとは、驚くべき話です。もしかしたらあの日、王都はポニーちゃんの想像以上に恐ろしい日を迎えていたのかもしれません。


 さて、そろそろ突っ込みを待つのも限界なので触れましょう。


 マッチ女さん、何故ここに?


「や、色々と考えたんだけどさ。アタシも平原国のギルドで冒険者しようかなって。こう見えてもアタシ槍捌きには自信アリよ?」

「いやぁ落とした方がいいよ彼女は。きっとガサツだから任務こなせないし、むしろ鳥頭で受けたクエストをギルド出る前に忘れそうだし、住所不定無職だし、絶対入れると損すると思うな」

「ぅおいコラゴールド、てめぇ!! 人の職業選択の自由に横からツバ吐きかけるような真似すんじゃねーよッ!!」

「ていうか何? もしかしてまだ俺にたかる気なの? 言っとくけど君をホテルに泊めたことで発生した金額は全部俺の日記に帳簿としてまとめてあるから本気で冒険者になるなら全額耳を揃えて返してもらうけど?」

「実家は成金で金余ってるくせに」

「実家からッ!! 金はッ!! 受け取ってないッ!!」


 ぐぬぬバチバチとゴールドさんがマッチ女さんと睨み合い火花を散らします。ついでに言うと現時点で無賃乗車なのでその分の代金もギルドに払ってもらわなければいけません。本当に戦えるのでしょうか。


「まー見ててって」


 マッチ女さんは言うや否や後ろでまとめたお団子ヘアーに差したマッチの形の髪飾りを二本取り出します。二本の髪飾りはなんとマッチ女さんの手の中で急に膨張・変形し、次の瞬間にはなんと二本の槍に変形しているではありませんか。これにはポニーちゃんに限らずその場の全員が仰天です。

 思わず翠魔女さんが身を乗り出して槍を見ます。


「お、驚いた……これって神秘武具カバラエールム!?」

「そっ。アタシオリジナルの数列使ってんの! とはいっても基礎はテレポットの拡張原理にマイナスの数値を混ぜたものだから難しい理屈じゃないんだけど。アタシ以外が持ってると神秘供給が滞って小型化も解けちゃうしね」


 一見して武器ではないものを武器に変化させて隠し持つとは、驚くべき術です。

 テレポットを自前で持っている人にはそこまでの利点ではありませんが、武器は持ち歩くだけで重量が体を疲労させるので凄いアイデアではあります。

 ただ、ゴールドさんだけは少し冷めた視線を送っています。


「……『あれ』は持ってきてないのかい?」

「んー、何の事かなー?」

「……まぁいいや。精々俺たちの足を引っ張らないようにね」

「へーんだ、アタシくらいの実力がありゃあお前なんぞ二、三日で追い越してやるよーだッ!!」


 相変わらず二人だけしか通じない空気です。やっぱり仲がいいのでしょうか。


「「よくないっ!!」」


 ポニーちゃんは曖昧な笑みで頷きました。何気に桜術士さんにちらっと視線を送ると、自分も驚いたんだとばかりに小さく肩をすくめます。どうやらマッチ女さんは桜術士さんよりも前にゴールドさんに出会っていたようです。

 少しだけ気になるのは雪兎ちゃんがしきりにマッチ女さんを警戒するような瞳で桜術士さんの陰に隠れていることですが、多分お気に入りのゴールドさんを取られた独占欲か、激しい罵り合いを怖がっているのかもしれません。結局、適当な所で二人は罵り合いをやめ、互いにそっぽを向きました。



 さあ、厄介ごとも片付けて王都観光も満喫し、新メンバー候補も増えました。


 明日から再びギルドでの喧噪が待っています。

「桜術士、マッチ女には気を許さない方がいいよ」

「お前、なんか知らんがあの女のことやたら気にしてんな。突っかかる割には近くにいるしよ」

「目を離した隙に何をやらかすか分からないから監視してるんだ。今回のこれだって何を企んでいるのか分かったもんじゃないんだから」

(何がそこまであの女を警戒させるのか……ぼったくり価格でマッチでも売られたのか?)

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