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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
四章 受付嬢ちゃんは!

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27.受付嬢ちゃんは兄弟を知る

 どうしてこんなことになったのでしょう。

 ギルド手配の宿の一室でポニーちゃんは頭を抱えそうになりながら、前を向きます。


「すみません、私の我儘に付き合ってもらって。本来歴王国の家系としてギルド職員の貴方にこのような話を持ち掛けるのは体裁の良くない話なのですが、兄を含め冒険者の方々は貴方は品行方正で公正な方であると聞いています」


 その女はこの前飲み屋の勢いで危ない話に首を突っ込み危うく酷い目に逢いかけた女なのですが。


「それは正義感の強さ故の事と受け取りました。周囲にいい顔しか振舞わない者より遥かに信用できます」


 目の前にいるのはシルバーさん。

 歴王国を支える十摂家が一角の滅竜家当主です。

 具体的には歴王国の軍事力の2割強を動かす権限を持つ、事実上の将軍です。歴王国の十摂家はそれぞれ国防で担う役割が違い、滅竜家はその中でも遊撃を担う切込み軍隊。嘗ての英傑「鉄血」もこの滅竜家に仕え、出世したとされています。

 ……滅竜家に何か、重戦士さんの秘密があるかも……?

 いえ、今はそれどころではないでしょう。


 つまり、今のところポニーちゃんが対面した人間の中で一番偉い人です。そりゃ緊張もすれば頭も抱えたくなります。しかも一対一ですし。

 上司に仕事を丸投げしたい気分ですが、これは非常にプライベートかつデリケートな問題です。なにせ突き詰めると、ゴールドさんとシルバーさん兄弟の人間関係の問題なのですから。


「本当は兄に直接伝えたい事なのですが……ご存じかとは思いますが、兄は今でも国民や滅竜家に仕える人々に大きな影響力を持っています。その影響が私に負の作用を及ぼすことを懸念して、手紙のやり取りでさえ神経を使うのです」


 そこまで話が拗れるのでしょうか。ただやり取りをしただけで?


「……ここだけの話、先代である父は跡継ぎ問題で家臣からかなり不信を買いました。病床に臥せっているのも誰かが毒を盛ったからだという噂が流れる始末で、未だ当主挿げ替えを狙う輩もいるのです。さえずるだけならいざ知らず、家臣同士のいがみ合いに発展させたくない」


 端正な顔立ちを歪めて嘆かわしそうな表情をするシルバーさん。祖国のことで複雑そうな顔をしたゴールドさんとよく似ています。流石兄弟といった感じです。

 して、何故ポニーちゃんの下にやってきて話の場を設けたのか、本題をそろそろお聞きしてよろしいでしょうか。


「……手を取り合いたいのです。反当主派を鎮静化させるには、やはり当事者たる兄がいないことには話が始まらない。何もずっととは言わない、長くとも3年……それだけ時間を貰えれば、私と兄とで滅竜家の抱える家の内々の問題を解決できると私は考えています」


 反対派の人は、それで納得するのでしょうか。数年すれば当主にしたいトップがいなくなると知ればパフォーマンスと疑われるのでは、とポニーちゃんは愚行します。


「いえ、そもそも滅竜家は一族の団結が原則で、今のような意見が割れた状態こそが異常なのです。前当主と現当主、更にその兄弟までもがバラバラの方向を向いているなど前代未聞。せめて兄弟が手を取り合っている事を納得して貰わねば、不仲説を無責任に吹聴する輩も増長するばかりです」


 滅竜家のお家騒動はかなり大変のようです。

 他にも現当主を重視する余り排他的になる一派、前当主の返り咲きを唱える一派までいるとなるとまさに混沌の坩堝。その全てが前当主とゴールドさんの不仲から来ているというのですから、ゴールドさんがどれだけ人望があったのか計り知れるというものです。


「……兄は定型に囚われない人であり、身分の差を重視しないことから民にも愛されていました。だからこそ誰よりも厳格な父とはどこまでもそりが合わず、剣術指導が諍いの場に移ったときが最も酷かったですね。いえ、脱線しました……ともかく、このことを兄にどうかお伝えください」


 話は分かりました。しかし未だに納得いかないのですが、それほど重要な話ならなおの事本人と話した方がよいのでは?


「……ここから先の事は兄には他言無用で」


 瞬間、シルバーさんの目つきが据わったものに変貌しました。


「兄は滅竜家の事柄に一切関わらない姿勢を見せていますが、それは私の事を気遣う他に、そもそもお家の面倒ごとから全力で逃げたいという下心があります。直接会いに行けば口が達者な兄は私を丸め込んでそれっぽい美談で納得させて逃げようとするかも知れません。子供の頃にも散々やられました。今回とて本心では他人に任せて自分は好きな冒険をしていたかったと思っている筈です。ええ、分かりますとも。弟ですから。そんなわけでいい加減な話では誤魔化せないほど公正な人の仲介が欲しかったのです」


 心なしか若干の私怨が混じった声です。どうやらシルバーさんも兄に対して弟として鬱屈した不満が存在する模様です。ゴールドさん結構天然な所があるので悪意とは限りませんが、それならなおの事性質が悪いです。ポニーちゃんは、昔に全く自覚なしに他人に仕事を押し付け続けている新人が半年でクビになった事をなんとはなしに思い出しました。


 少々変則的ですが、これも受付嬢の仕事でしょう。

 家族の同意を得ずに冒険者になった若者のトラブルというのは意外とバカになりません。冒険者の活動妨害、拉致、ギルドへの提訴など発生する問題に暇はなく、数は多くないにしても無視していい程楽観的に慣れる話ではないのは確かです。下手をすると滅竜家とのいざこざをギルドに持ち込まれる危険性もあります。


 つまるところ、これは面談の一種です。兄弟喧嘩が根底にあったとして、解決するならそれに越したことはありません。


 という訳でレッツ、ゴールドさんの部屋なのですが、何だか部屋の中が妙に騒がしいです。もしや事件が!?と思ったポニーちゃんは思わず扉をあけ放ちました。


 そこにはベッドに寝そべって絡み合う、ゴールドさんと知らない橙色の髪の女性。

 二人とも凍り付いた表情でポニーちゃんを見ています。


「……………」

「……………」


 ノックもなしに申し訳ございません。引き続きお楽しみください。

 そう言ってポニーちゃんはそっと部屋を後にしました。


「まっ、待って! 待ってポニーちゃん!! そういうんじゃないから!!」


 とりあえず至急速やかに軽業師ちゃんと雪兎ちゃんにはこの部屋に近寄らないよう伝えなければいけないのですが、いつまで待てというのでしょうか。


「誰か知らないけどアレだから! ちょっとじゃれてたら偶然この体勢になっただけだから!! アタシとコイツはアレじゃないからっ!! 金に物を言わせる男とかシュミじゃないしっ!!」

「なっ、何だとこのマッチ女!? 俺が自分で稼いだ金でいい装備買ってることの何がおかしいって言うんだ! 定職に就かずに怪しげな仕事してる君こそ恥ずべきだろうっ!?」

「ハッ!! これだから植民地作りまくり傲慢歴王国の貴族サマなのよ!! シホンシュギ的で慎みとか品ってものがないんだから!!」

「語るに落ちたねマッチ女!! 君は清貧じゃなくて唯単に浪費癖で貧しいだけだろう!! しかも品のなさも育ちの悪さ以前の問題だ!! ああいや、その胸だけは確かに慎ましいけどね!!」

「ンだとこの金髪野郎!? 前からデリカシーがないとは思ってたけど、とうとう言ってはいけないことを言ったわね!? この野郎顔がいいからってなんでも許されると思ってんじゃねーぞぉぉぉッ!!」

「上等だッ!! こちとら昼飯も晩飯もたかられた上に宿にまで入り込まれていい加減に堪忍袋の緒がはち切れそうなんだよッ!!」


 激しい言い合いの末に即取っ組み合いの大喧嘩が開幕。驚くべきことにそれなりに高位の冒険者であるゴールドさん相手にマッチ女さんは互角の立ち回りをしています。具体的には引っ掻きや噛みつきなど喧嘩では禁じ手として扱われがちな攻撃を全力で繰り出しています。

 見る見るうちに二人は痣と傷だらけになっていき、5分ほど経過したところで互いにぜぇぜぇと息を切らせながら睨み合って互いに捨て台詞を吐きます。


「き、今日の所はこの辺にしといてやる……!」

「は、ハン……今言ったって、負け惜しみにしか聞こえないわね……!」


 普段は大人びたゴールドさんがこれとは、実は仲いいのでしょうかこの二人は。

 

「「よくないっ!!」」


 ポニーちゃんは曖昧な笑みで頷きました。

 

 なお、マッチ女さんは、ゴールドさんより少し年下で細身の女性でした。

 自称マッチ売りで、今や時代遅れのレトロアイテムであるマッチを売って生計を立てているそうです。細身の体と橙の髪を揶揄している訳ではなく、本当にマッチを山ほど持っていました。ちなみにマッチが廃れた原因は神秘術と神秘道具の普及のせいでしょう。


 ポニーちゃんより年下だけど、恐らく軽業師ちゃんよりは年上。大人と子供の中間地点といった感じです。ゴールドさんとは腐れ縁らしく、今回は偶然再会したついでに仕方なく部屋にいさせてやっている、とゴールドさんが嫌そうな顔で告げました。

 先ほどのあれはゴールドさんの財布から金貨をくすねたマッチ女さんがベッドで絡み合う原因だったそうです。この手癖の悪さ、口には出しませんでしたが常習犯なのではとポニーちゃんは密かに思いました。


 ただ、伝言を伝える話になると、マッチ女さんは席を外さずゴールドさんも文句を言わなかったので、信頼し合っている関係なのかもしれません。


(……この女から目を離すと何をしでかすか分からんからな。背に腹は代えられない)

(……ちっ、とっとと目的を達成してーのに見逃してくれないか。まぁいいや、話のタネに聞いてやろ)

受付嬢ちゃんの愚痴:男女関係

英雄色を好むという言葉にある通り、有能な冒険者さんの中には女癖が悪い人もいます。ときおり優秀でない上に女癖の悪い人もいるのですが、それでも冒険者と非冒険者の関係ならまだいいです。しかし冒険者と冒険者での男女関係は、第三者が絡むと仕事に支障が出て、嫉妬心などから犠牲者を出してしまうという悲惨な結末も起こりうることです。そのため二股は早死にするというのが冒険者の間では通説になっています。少し悲しい話ですが、二股はいけないことだと思います。

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