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23.受付嬢ちゃんは英傑と会う

 移送当日。同僚たちに歴王国のお土産を頼まれたり、護衛組が声援を受けたり、リスク回避のために紫術士の護送が先に始まったり、予定通りに事が進んでいきます。


 護送に使われるのはギルド所持の超大型移動陸船。ポニーちゃんも動いているのは初めて見る、世界に6個しかない陸上船です。輸送機能がメインで有事には多機能拠点にもなりますが、輸送物資を満タンにしても100人くらい船内で生活できる驚異の大きさを誇ります。

 元は鉄鉱国が戦時に開発した「ロアンゲルス級陸上移送艦」という船で、終戦後に型落ちになったものを改装して鉄鉱国からギルドに売られたという経緯があります。改装前は頭がおかしいぐらい大量に積まれていた大砲の9割を取っ払い、残りを積載量と生活空間に充てたこの船は、滅多なことでは使われません。


「というか移送艦に山ほど大砲積んでたのか……設計者に移送という言葉の意味を問いただしてぇ」

「まぁ、設計はあの大砲王だもの。細かいことを気にしちゃ駄目よ」


 誰もが最初は通るツッコミを入れる桜術士さんに、翠魔女さんが苦笑いします。大砲大好き鉄鉱国の大砲王はどんな船にも大砲を極限まで積むのを信条にしているらしく、鉄鉱国が主立って戦った戦場は砲弾で穴だらけになることでも有名です。

 大砲王は戦役の英傑の中で唯一、数と物量とほんの少しの知恵で「数では覆せない」とされる魔将を撃破に追い込んだ男。国王であり将軍であり天才設計者な合法ショタとは、設定を盛りすぎではないでしょうか。


「白狼女帝さまも設定量は負けておらんのじゃ! 美人、巨乳、のじゃ口調に純白の毛と耳、ふっさふさの立派な尾! 政治も戦も比類なきその姿はまさに頂点に立つべくして立ったお方!!」


 軽業師ちゃんのあくなき対抗心が微笑ましくてポニーちゃんは今日も幸せです。彼女も実力があるので移送の護衛に呼びました。「今度は妾が守護し切るのじゃ!」と意気揚々に頷いた軽業師ちゃんは抱きしめたいくらい可愛かったです。

 ついでにゴールドさんの口添えで雪兎ちゃんも来ています。はぐれるといけないので桜術士さんがしっかり手を握っていますが、初めて見る移動陸船に興味津々のようです。


「すごくおっきい。乗りたい!」

「ふん、こんなもの大した規模ではないわ! 氷国連合なぞ10隻の砕氷船を所持しておるしな!」

「そんなもんまであるのか。氷国連合もかなり文明発展してんだな」

「当然じゃ! 白狼女帝さまの国であるからしてな!」


 氷国連合の事をよく知らない桜術士さんの感嘆の声に気をよくした軽業師ちゃんはご満悦のようです。ポニーちゃんも少し氷国連合に行ってみたくなりました。

 そういえば、雪兎ちゃんは氷国連合出身の可能性があるという話がまだ片付いていません。氷国連合曰く、当人が国に来ないと照合できないということで、あの国だけ彼女の身元確認が出来ていないのです。桜術士さんは機会があればそのうち行く気らしいですが、もしあちらで親や親族が見つかった場合、彼女とはお別れです。

 一抹の寂しさを感じますが、きっとそれでいいのでしょう。


 彼女の面倒を見るもうひとりの男、ゴールドさんを見ると、彼はまさにギルド代表の一人としてアロディータの宝帯を護送しながら王国の人たちと話をしています。今更になって思ったのですが、ギルドが彼を優遇しているのはその希少すぎる立場と人脈故だったのでしょう。

 これまた移送に呼んだ碧射手ちゃんもそれを感じたのかゴールドさんを見つめながら呟きます。


「まさか彼が十摂家の一つ『滅竜家』の直流の血筋だなんて……そりゃギルドも彼に甘くなる筈よね。ただでさえ仲の悪い歴王国との貴重な接点だもの。彼を通すだけで二勢力の間がかなり円滑になってる」

「あいつは単に冒険していたいだけだろうけどな。事が事だけに黙ってられないって訳か」

「桜くん、やっぱり友達なだけあって知ってたんだ」

「まぁ。おれ歴王国行ったことないし言葉でだけな。曰く、自分が王国に戻ると実家がモメて滅竜家によろしくないんだそうだ」

「継承問題かな……じゃあ今滅竜家の当主してるのはお父さんなの?」

「いや、もう弟が継いだらしい。ま、当人のいないところでの身の上話はこの辺にしようや」

「桜くんのそういうさりげない気遣いがゴールドくんは居心地いいのかもね。私も好きよ、そういうところ?」

「俺をからかって遊ぶのやめてくれよ碧射手……」

「嘘は言ってないよ、ふふっ♪」


 若干照れながら顔を背ける桜術士さん。最近碧射手ちゃんのチーム候補として目を付けられたらしく、桜術士さんはあんな感じで碧射手ちゃんに口説かれています。ポニーちゃんとしては、よく碧射手ちゃんの美貌につられて言いなり化しなかったものだと感心します。

 それにしても碧射手ちゃん、彼の前では意外と小悪魔気質です。なんだか二人を見ているとシングルファザーを狙う魅惑の女みたいな構図に見えてきます。愛と背徳の香り……ギャルちゃん辺りの大好物ですが、別段二人のそれは不純な関係でもないので別にいいと思います。


 と、歴王国から二人の人が近づいてきます。一人はいかにも貴族然とした豪奢な礼服を身に纏った男性。そして隣を歩くのは――あの純白の鎧、白金色の剣、そして全身に纏う周囲を包み込むような柔らかなオーラ。

 まさかあの人は、とポニーちゃんは息を呑みました。


「護衛責任者として派遣されました、滅竜家当主のシルバーです。短い期間ですが、何卒よろしく」

「慈母と呼ばれております。現役からは退いた身ですが、微力を尽くしましょう」


 世界有数にして最高のビッグスター、慈母さんとの出会い。

 ポニーちゃんの中のミーハーなポニーちゃんが、ギルド入って良かったヒャッホウ、と叫びました。




 = =




 各員に挨拶を済ませ、ギルドの人間としての仕事をきっちり済ませ、初めての移動陸船に興奮する雪兎ちゃんに付き合い、日が傾き始めた頃になってポニーちゃんはやっと自由行動の時間を得ることが出来ました。


 平原国での護衛の予定、歴王国への入国手続くと書類の確認、そして首都までの警備時間割。ギルドの冒険者も護衛メインなので常に三名が甲板で見張りをすることにしています。接近戦が不得意な冒険者が被ったり仲の悪い人が被らないよう注意を払って作った代物で、今の甲板には碧射手ちゃん、軽業師ちゃん、そして近隣ギルドから来た別の冒険者さんが出てるはずです。人数に余裕があるので4時間ごとに交代します。


 冒険者をギルドの都合で遠征させる場合、いくら冒険者の皆がプロとは言ってもある程度相性のことを考えて組ませないと後々厄介な問題を引き起こします。冒険者は荒くれ者も多く、最終的にストレスで喧嘩して遠征が失敗なんてことになると、名指しで派遣したギルドとしても任命責任がなくはないのです。

 なにより、日雇い系冒険者の中には協調性が皆無というどっかの汚臭、改め微臭さんのような人もいます。軽業師ちゃんも若干その気がありますが、多分手綱を握る人次第でしょう。こういうのはギルドの指示が曖昧なのが一番の失敗の元なのです。

 上の指示が曖昧だと下が困ります。

 ただ、上の指示が細かすぎても下は困ります。節度が大事です。


 そして、ポニーちゃんは知っています。この時間帯、慈母さんは空き時間を過ごしていることを。そう、今こそあの人にサインを貰える貴重な仕事の合間。逃す手はありません。これに関してはギルド受付嬢ズ全員の希望と夢が肩にかかっているので遠慮しません。最低でも一枚、『ギルド西大陸中央第17支部受付嬢の皆さんへ』のサインだけは貰わないと帰れません。


 迷うほど広くはないこの陸船、地図も完璧に頭に入れています。

 慈母さんの自室の灯りがついていないということは、船内のどこかにいる筈。そう思って探し回っていると、誰かの会話が聞こえてきます。


 聞き覚えのある声。これは――。


「どうして……」

「……何がだ」

「どうして、今まで何も言ってくれなかったのですか? 生きていると……」


 曲がり角の先をこっそり覗いたポニーちゃんが見たもの。

 それは、重戦士さんを抱きしめて涙を流す、慈母さんの姿でした。

 

 衝撃的過ぎるスキャンダルに、ポニーちゃんは足元に色紙とペンを全部落としました。

ギャルちゃん豆知識:ロアンゲルス級陸上移送艦

おお、ロスアンゲルス級の話か! いいぜ、聞かせてやるよ。

時は第二次退魔戦役末期、大砲王は困っていた。鉄鉱国の戦いに必須な大量の物資補給が空から襲い来る魔物のせいで滞ってたんだ。足止めならまだしも移動する足場そのものをグチャグチャにされたらいくら鉄鉱国の乗り物でも遅れちまう。

そこで大砲王は考えた。補給と攻撃を同時に出来る艦を作ればよくね?――と。

こうして生まれたロスアンゲルス級には大砲の他にも空の魔物を仕留める為の数砲が多数装備された。これは実弾の消費を抑える効果もあったらしい。移動しながら空にホーミング光弾をばら撒く姿は戦場のバースデーケーキと呼ばれたぐらいだ。

……敢えてこの艦の欠点を挙げるなら、余りにも雑魚魔物の掃討能力が高すぎて専ら攻撃用に使われてたってことかな! そこがまた大砲王らしくてアタシは好きだぜ、ロスアンゲルス級!

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