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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
三章 受付嬢ちゃんが!

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21.受付嬢ちゃんが猛省

 ギルド職員が拉致されるという前代未聞の事件の被害者となったポニーちゃんは、その後猛烈にギルドの職員に心配されたり怒られたり泣きながら無事を祝われたり大変でした。皆反応はそれぞれでしたが、特にイイコちゃんからは危機管理意識が全くなっていないと烈火の如く怒られました。その怒りっぷりたるや、小言を言おうとしたベテランさんが気迫負けする程でした。


「どうしていつもいつもいつもいつも他人には色々言うくせに自分の事にはぜんっぜん無頓着なのよ!! そういう中途半端な所が大っ嫌いなの私は!! いいこと!? 貴方は女なの!! 私程じゃないけど男が涎を垂らして見つめる女なの!! だったら女として男を退ける対策の三つ四つくらい練っておきなさい!!」


 更に審査会からの派遣という形で飛んできたお姉ちゃんに強烈なビンタと強力なハグを受け取りました。心底心配させてしまった申し訳なさや囚われたときの恐ろしさの反動で、こちらも泣きながら抱きしめました。


「お願いだから、二度とこんなことしないで……あなたは私のたった一人の妹なんだから……!!」


 色々と積もる話もして、落ち着いた時間を得たポニーちゃんは天井を見上げながら今日のことを振り返ります。まさか紫術士があそこまで危険な人物だったとは……想像だにしていませんでした。

 しかしそれ以上に、その紫術士を桜さんが拘束したというのも驚きました。


 匿名の通報を受けてポニーちゃんを探しに町に出た桜さんはゴールドさんと共に紫術士の家に突入し、そこで用意していたらしい迎撃機械オプスマキーネ相手に大暴れ。挙句、店から逃げてきたらしい紫術士の謎の洗脳術に『術返し』をかまし、現在紫術士はギルドに捕えられているというのですから驚きです。


 『術返し』は相手の術を完全に解析したうえで、そのまま効果を相手に返すという最高位術の一つです。一般的に、これを実戦で行使するのは天空都市出身のゼオム以外には不可能ともいわれている絶技です。おかげで現在桜さんは桜術士さんと呼ばれています。


 その桜術士さんは、事の発端となった碧射手ちゃんと共に極めて申し訳なさそうに頭を下げてきました。

 

「すまん。酒の場とはいえ軽々しく俺がけしかけるようなことを言ったせいで、こんな……」

「いえ、殆ど私の責任だわ。人の好いポニーにあんなこと言えばこうなるかもって予想できたはずなのに……」

「いやいや余計なこと言った俺が……」

「いえいえ余計な相談した私が……」


 客観的に見て二人が悪いかと言われれば、ポニーちゃんとしてはそんなことはないと思います。しかし二人ともはまるで自分の事のように苦し気な表情で謝罪するので、いいですとあっさり許しても彼らの気が済まないような気がしました。

 なので、わざと怒った顔をしてお詫びに今度晩御飯を奢ってくださいと言ってみました。苦笑されましたが、喜んで、だそうです。碧射手ちゃんはともかく、もしかして桜術士さんの今回の大暴れは責任感の強さからなのでしょうか。また桜術士さんの新たな側面を見ました。


 雪兎ちゃんと軽業師ちゃんもやってきて、両サイドからぎゅーっと二人に抱きしめられました。二人とも心配してくれていたようですが、ものすごく癒しです。不謹慎にもちょっとだけ攫われてよかったと思えるほどのご褒美を堪能します。


「心配したんだぞ、莫迦者ぉ……」

「むぎゅー……だまってどこかにいっちゃメっ、だよ」


 そしてゴールドさんはというと、紫術士さんの持っていたアロディータの宝帯を前に、険しい顔でギルド職員さんたちに説明をしていました。


「間違いない。これは10年前にエレミア教総本山『タンダリオン神殿』から強奪されたオリュペス十二神具の一つ、アロディータの宝帯……本物だ。あの男、異端宗派ステュアートの手の者だったと見ていい」


 ポニーちゃんは言葉の意味を今一つ把握していませんでしたが、メガネちゃんとベテランさん、そしてギルドの上役全員の顔色が青くなるのを見て、自分が予想を遥かに超えてとんでもない事に巻き込まれていたのだという事を改めて実感しました。


 タンダリオン神殿は世界中で広く信仰されるエレミア教の総本山であり、歴王国の中に存在しながらも神殿自体が独立した国家として扱われるほど絶大な影響力を持っています。そしてオリュペス十二神具とは、ゴールドさん曰く神殿が『人類が持つべきではない十二の災い』として封印を施していた古代災厄兵器なのだそうです。

 歴王国の大貴族出身のゴールドさんはこれは偶然にも子供の頃に見たことがあり、あの帯が本物であることに確信を抱いているようでした。ちなみに帯の効果は受付嬢ちゃんの予想通り『魅了・洗脳』。術士の技量によっては町を丸ごと洗脳することさえ出来たそうですが、どうやら紫術士ではその1割の力も引き出せていなかったようです。聞けば聞くほど恐ろしい話です。


 現在、桜術士さんが逆算に使った術を基に同じく洗脳されている人がいないかチェックが行われています。紫術士の周囲で起こっていた事の多くは彼自身の指示で仲間が手を回しての事でしたが、口ぶりからして直接洗脳までした人は多くはないでしょう。洗脳された当人もそう言っていました。


 それにしても異端宗派ステュアートがまさかこのギルド付近に何年も潜伏していたとは、これにはギルド側も寝耳に水の大騒ぎです。あとちょっと重戦士さんが遅れていたらこの事実も表に出ず仕舞いだったのかもしれません。


 ちなみに紫術士直属とおぼしき4人の部下は、重戦士さんがポニーちゃんを安全な場所に運んでいるうちに行方をくらませました。失神していた筈の4人がどこに消えたかは不明ですが、現場には『黒い羽』が落ちていたそうです。


 こうして様々な取り調べや報告があり、様々な人に心配や叱咤を受け、様々な事後処理を行い……ポニーちゃんが通常業務に復帰するまでにゆうに1週間が経過しました。


 久しぶりに受付嬢としてカウンターに座ります。受付嬢人気というのは移ろい易く、1週間も休んでいたら担当をしていた冒険者が半分いなくなっていた、なんてこともあるくらいです。ポニーちゃんもそれぐらいの覚悟はしつつも仕事が減るのはある意味楽できていいかも、と思っていたのですが……。


「ポニーちゃん復帰おめでとう! じゃ、この依頼やらせて!」

「馬鹿、斧戦士。テメェまた分不相応なの頼みやがって……おう、俺ら本当に心配したんだから、次から無茶はなしだぜ」

「すまぁないが今月も金欠だ。割のいいのをいくつぅか見繕ってくれない?」

「コヴォルの依頼を頼む」

「うわぁ、汚臭だ! 臭……く、ない? いややっぱり若干臭いが、少しはマシになってる!?」

「名前変更。今日からお前は微臭な」

「ちょっと町を離れてる間に何かあったらしいけど、昼休みにでも聞かせてくれる?」


 いざ仕事を始めてみるといつもの顔ぶれが次々にやってきます。


 いつもの日常が帰ってきた。

 いつもの日常が戻ってきた。


 そんな気分にさせられる、いつもの困った冒険者たちを前に、久々に腕が鳴るのは職業病でしょうか。こうして後を引く大事件を背にしながらも、ポニーちゃんは業務に戻っていったのでした。


 ただ、その日から暫く警戒令ということでポニーちゃんには護衛がつくようになり、その関係で冒険者が宿泊に使っている旅館で暫く寝泊りすることになるのですが、それは少しだけ先の話。

受付嬢ちゃん豆知識:異端宗派ステュアート

この世界では一般的に「女神教」が広く普及しています。唯一神という訳でもありませんが、人々にとって最も身近な神です。

しかしそんな女神教には一部に過激派がいます。それが、歴史上唯一女神教を敵に回したとされる異端宗派ステュアートです。その詳細や目的は知られていませんが、資料によるとなんと戦時中も人類の邪魔をするような行動をとっていたそうです。なんて迷惑で、そして恐ろしい人たちなのでしょう。

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