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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
三章 受付嬢ちゃんが!

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16.受付嬢ちゃんが休暇

 冒険者ギルドは年中無休ですが、従業員も年中無休かというとそんな訳はありません。

 そう沢山の日数は取れませんが、休暇だってきちんとあります。


 プライベートの時。それは数少ない、ポニーちゃんが完全に受付嬢の衣を脱ぎ捨てる瞬間です。この時だけポニーちゃんは野に放たれ、数名の友達と共に町でショッピングをしたり、家でのんびりした時間を過ごしたりします。

 今日は普段シフトの関係で一緒に仕事をすることの少ない数名の同僚と休暇が被ったので、一緒に町を回ります。受付が苦手で書類処理に回ったというスリムちゃん、たまたま出会って合流した夜シフトのフラットちゃん、あとは椀々軒の看板娘ちゃんも一緒です。元々彼女と一緒に回る予定だったりします。


「まぁ、あたしは夜番だから割と昼はフラフラ出来るんだけどね」

「でもポニーちゃんと一緒とかかなり久しぶりだよね! いつ以来?」


 常にテンションがフラットすぎて冷たい人呼ばわりされがちなフラットちゃんと、スリムな見た目に反して実は大食いのスリムちゃん。二人ともほぼ同期ですが、一緒の職場で仕事をしているのにのんびり話せるのは仕事外ばかりです。唯一看板娘ちゃんは全員と定期的に会っているのですが、これまた仕事外で会うのは稀です。

 女三人寄れば姦しい。ショッピングしながらも話は盛り上がります。


「……という訳で! 病気の原因まで突き止めてしまってスゴかったみたいですよ!」


 看板娘ちゃんの話はなかなか刺激的です。彼女の故郷はこのギルドより遥か東の山に囲まれた地域なのですが、そこにあるケレビム族の里で数か月前に大事件が起きたという話でした。

 里の人々が次々に原因不明の病に倒れ伏し、あわや死人がという所で謎の薬師が颯爽と登場。無償で御薬を調合し、里が救われたという昔話みたいな話でした。看板娘ちゃんが姉と慕ういとこもこの薬師の死ぬほど苦い薬を飲んで復活したそうです。


「その後も突然魔物が出没したりしたそうですけど、ここで薬師さんに加えて別の冒険者さんがやってきて、お姉ちゃんと一緒に魔物を討伐! ……らしいです」

「ふーん。大ごとにならなくてよかったねー。なんで薬師が戦ってるのか知らないけど」

「あれ? でもケレビムって数多くの冒険者を輩出してることでも有名ですよね。余所者の人まで連れて行かないといけないほど強かったの?」

「ガネンテンっていう魔物だったらしいですよ。私は詳しくないんですが、知ってますか?」


 フラットちゃんはどこかで聞いたような、といった感じで、スリムちゃんは聞き覚えがないようです。自然とこっちに視線が集まってきたので答えてみます。

 ガネンテンは危険度6の魔物で、象と人のキメラのような姿をしています。驚異的なのはその怪力、鼻のリーチ、防御力の高さというシンプルな強さ。狭い場所だと攻撃の逃げ場がないので突発的に遭遇すると非常に危険です。これまでに余り多くは確認されていない個体ですが、主に迷宮に出没する事が多く犠牲者が後を絶たないため、確かギルド本部では危険度の繰り上げを検討していると耳にしたことがあります。


「流石は昼の受付嬢。知ってるねー」

「そんな場所に迷宮の魔物が……うーん、ときどき迷宮から湧き出る魔物発生時の討ち漏らしかな? 何にせよコワイ事だよ」

「薬師さんは術士さんでもあったみたいです。ケレビムは術は苦手な人が多いですし、大活躍だったみたいです! 最終的にはその冒険者さんとコンビネーションでこう、ドーン! って文字で書いてありました。何があったのかは分かりませんが」

「あんたのいとこド天然か、もしくは文才ゼロね」


 フラットちゃんのキレ口が鋭いです。口には出しませんでしたがポニーちゃんもそう思いました。


「まぁ、手紙にはその人が男か女かすら書いてませんし否定はしませんけど」


 ド天然かつ文才ゼロというダブルコンボの可能性が浮上しました。


 と――町中で何やら喧騒が起きています。何事かと思ってみてみると、見慣れた女性と見覚えのある男性たちが何やらモメているようです。


「いい加減にしつこいですよ。貴方方と組む気はありません。ましてそうも強引な輩ならば猶更です」

「意地張るのは良くないぞ? 碧射手。弓使いであるお前とパーティを組むなら前衛は必須。いつまでもその真価を遊ばせておくのは得策でないことくらい理屈では知っていよう?」


 女性の方は碧射手ちゃん。若くして一時期は上位冒険者ともなった腕利きの人で、しかもエフェムという目麗しい一族であるため周囲の目を引きます。エフェムは別名「森の民」とも呼ばれ、術に長け、耳も長いことから古代にゼオムが天空都市に住まう際に地上に残った人々の末裔ともいわれています。ただ、寿命は長くとも200年、耳はゼオム族に比べて垂気味です。

 ただ、碧射手ちゃんは元々パーティを組んで名を挙げた人で、去年に「上位冒険者」と呼ばれる側へとパーティごと足を踏み入れたものの失敗してしまったそうです。原因は不明ですが、パーティはそのまま解散し碧射手ちゃんはフリーに。その後いいチームが見つからずに燻っています。


 どうやら男の方は、そのチームに碧射手ちゃんを引き込もうとしているようです。碧射手ちゃんは既に一度名を挙げていて、貴重な中・長距離攻撃のエキスパートで、おまけに美人です。一度落ちたとはいえ引く手数多の存在であることに変わりはありません。しかし、嘗てぶつかった「壁」を越えようとする彼女はかなりパーティを選り好みしているので、殆どが長続きしません。


「いつまでも意地を張らずに妥協を覚えなさい。いなくなった仲間の幻影が重なる人など見つかる筈もない。過去は美化されるものだ」

「そうでしょうね。任せてもいいと感じた冒険者を次々にギルドから追い出している貴方がいる限りはね」


 諭すように語るリーダー格の男に対し、碧射手ちゃんは冷たく言い放ちます。

 リーダー格の男をみて、ポニーちゃんはあっと思いました。見覚えのある冒険者の名前を思い出したのです。それも、あまりよくない噂の絶えない問題児に分類され、かなり狡猾なタイプです。


 紫術士。実力は中堅より少し上で、常にパーティを率いて戦っている冒険者です。依頼達成率は良好、依頼消化頻度も良好、表向き何の問題もない冒険者です。しかし、彼には不審点が多く、ギルドは密かに彼をマークしていますが中々尻尾がつかめないでいます。


 彼か彼の周囲で依頼受注時の記入漏れで依頼料を受け取る権利を不当に奪われたと書類審査などを訴えられるも、決定的な過失が見つからずに暫定無罪、或いは軽い罪に済まされること数十件。

 行きの際には同行した冒険者が目撃されているのに帰ってきたときにはいなくなっており、その後に同行した冒険者が突然ギルドを抜けたりそのまま行方不明になる、という事態が十数件。

 そして、集団でのいやがらせ、いじめ、依頼妨害の指示を行ったという匿名の通報を受けて調査するも、いじめの実行犯数名しか証拠が掴めず紫術士の関与が認められないケースがそろそろ十件。


 決定的な証拠はありませんし、本人は常に正規の書類、正規の手続きを行っているので評価を下げる訳にもいきません。なので表向きギルドは彼を無罪としつつ、その資金繰りや人物像をつぶさに監視しています。現場を押さえようとしたこともありましたが、言いくるめられたり逃げ道をきれいに逃げられることが多いです。

 紫術士さんは周囲に野次馬が集まりつつあること、そしてこちらの存在を一瞬視線で確認すると、急に話を畳んで踵を返します。


「ひどい誤解があるようだね。それを解消する場を設けられることを祈るよ」

「あらそう? 私としては、誤解は誤解のままで一向に構わないけど?」


 紫術士は去っていき、その付き添いたちも続いて去っていき、その場に残された碧射手ちゃんはそれを鋭い目つきで見送った後、ふぅ、と疲れたようなため息を吐きました。そしてこちらの存在を確認すると、安心したように近づいてきます。


「ポニーちゃん今日は休暇だったんだ。道理でギルドにいないと思った。私服も似合ってるよ?」


 まるで親しい友人のような――いえ、軽業師ちゃんがそうであったように親しみを込めてか、碧射手ちゃんに私も返します。そう、彼女もまた自身の受け持つ冒険者の一人なのです。

受付嬢ちゃん豆知識:種族の派生について

ロータ・ロバリーの多種多様な人種は、元を辿ると三大国ビッグスリー、つまり歴王国のマギム、鉄鉱国のガゾム、そして天空都市のゼオムから全て派生したとされています。

猫人族ナネム有翼族ハルピム有角族ディクロムなど基本的な身体と寿命が近いものはマギム。

蜥蜴族ティラム巨人族ダラボム魚人族アポカムなど皮膚や身体構造そのものに特徴が出ているのはガゾム。

そして光人族ウルティム森人フェリムなどはゼオムから。ゼオム派生は近年提唱されたもので、ゼオム派生の人は「人体を構成するものがより純エネルギーに近い」らしいです。他の二種族に比べ色々と例外的なので、専門家ではない人には正直どういう分類の違いがあるのか理解が難しいところです。

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