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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
三章 受付嬢ちゃんが!

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14.受付嬢ちゃんがジャッジ

 冒険者ギルドは一年に一度、町の広場でとあるイベントを行います。


 その名も『新人組手』。

 これは、町のギルドに入った新人や転入者を選出して実力の近い者同士で模擬戦をさせるというイベントです。彼ら新入者の実力を確かめると同時に、ギルドによる市民への娯楽の提供や、冒険者たちの顔を覚えて貰うなど複数の目的を以て行っています。たまに参加拒否する人もいますが、正当な理由なしには認められません。


 今回はポニーちゃんがジャッジを任されています。

 では第一回戦です。


 片や、この間ワルフ討伐で痛い目に遭った力自慢の新人さん、斧戦士さん。

 お調子者の彼は周囲からの歓声にまるで人気者であるかのようにアピールし、その姿から憎めない奴と評判です。村一番の力持ちだったらしい彼の斧の一振りは、威力だけならかなりのものです。


 対するは自称術を使える程度の男、武器も持たない桜さん。

 全体的に謎の人で、今回の対戦においては「俺戦闘力ないっすから」と参加を断ろうとしています。しかしゴールドさんに半ば無理やり参加させられたようです。


「おっ、武器も持ってねーぞコイツ! へへっ、ちょっとばかし躓き気味な冒険者生活に勢いをつけられそうだぜ!」

「畜生あんにゃろう、こちとら元はニコチン中毒者だぞ。えーい、勝ち上がり式じゃないだけマシと思って一発かまして盛り上げて、適当なところでリタイアするしか……!!」


 桜さんにフェアプレイとか男の子の意地というものは一切ないようです。あと斧戦士さんは桜さんが魔法を使えるという事前情報を忘れるか、そもそも聞いていなかったようです。そんな斧戦士さんは何故かこちらをチラチラ見ています。判定を甘くしてくれということでしょうか。もちろんダメです。

 どうしましょう、一試合目から泥試合の予感です。

 しかしそれはポニーちゃんがどうにかすることではないので、さっそく試合開始!


「うおりゃあッ!! 華々しく散れぇッ!!」

「散るか馬鹿!! どわぁぁぁぁッ!? おいコレ、この斧って刃ぁ潰してるらしいけどこの威力で当たったらどのみち死ぬくない!?」


 一応訓練用斧ということで人が死なないよういくつもの術によるプロテクトがかかった品ですが、確かにアレは死なないと分かっていても恐怖でしょう。意外な俊敏性で逃げる桜さんと何も考えず追いかける斧戦士さんの追いかけっこが始まります。

 会場はというと、コミカルな二人の動きにまぁまぁ温まっているようです。

 と、逃げるばかりの桜さんがとうとう動きました。


「こいつ最初はビビったがよく見たら脳死ブンブンかッ!」

「何だノーシブンブンって!!」

「お前色々難しいこと考えて戦うの嫌いだろって意味!!」


 桜さんが手元に見慣れない板切れを握り、なにやら指で触っています。皆からは陰になってて見えていないようですが、おまじないか何かでしょうか? 疑問に思っていると、桜さんがその板を懐にすぐさま仕舞い、咥えている細長い煙管を短めの杖のように構えます。


「奔れ、弾けろ、トーレスよッ!!」


 瞬間、彼のパイプの先端からまばゆい光と共にバチバチバチィッ!! と稲妻が横に飛び、斧戦士さんに直撃します。


「アバババババババババババババッ!?」


 なんだかビリビリの余り骨が透けて見える気がするほどビリビリと痺れた斧戦士さんは、口からパイプのような煙を吹きながらうつ伏せにばったり倒れ伏しました。何も考えずノーガードで術師に斧を振り回していたのが運の尽き、動きを見切った桜さんの術でアッサリ敗退です。


 解説の翠魔女さん、奇術師さん。この戦いをどうみますか?


「桜の坊やのパイプは術の媒体だったのね。確かに人によっては武器を術の媒体として設定する人もいるけど、なんだかおしゃれね? 術の発動に踏み切るまでが遅かったけれど、トーレスの属性は扱いが難しいのによく出力調整が出来てると思うわ」

「斧戦士くんのぉ筋力と体力はぁ、評価に値すぅるね。もぉう少し情報の大切さを学ぶかぁ、誰ぞいいパートナーか師をぉ得れば化けると思うぅよ」

 

 解説ありがとうございました。

 ……あの板切れを指でなぞっていたのは結局何だったのでしょう。


 その後も暫く新人同士の戦いが続き、やがて大トリの最終戦です。


 片や、転入者にして経験豊富なお金持ち冒険者、ゴールドさん。

 最近このギルドでも実力と甘いマスク、人当たりの良さで人気者になりつつあります。特にバカ息子さんを追い払った件で彼の株は上がり続けていますが、その真の実力や如何に。


 対するは、我がギルド新進気鋭の出世株、軽業師ちゃん。

 周囲には色々と言われてはいますが、向上心を失わず懸命に依頼をこなしてここ2年ほどでメキメキと頭角を現しました。


「勝負とあらば手加減は抜きだ。恨みっこなしだよ、軽業師ちゃん!」

「当然よ! むしろ手など抜こうものなら指の一本でも貰っておる所じゃ!!」


 データ上の二人の実力は拮抗していますが、ゴールドさんの冒険者歴は軽業師ちゃんの2倍少し。しかも幼い頃から剣を叩き込まれていたらしいゴールドさんがやや有利でしょうか。個人的には軽業師ちゃんを応援したいポニーちゃんですが、ここは心を鬼にして公平ジャッジです。

 では、試合開始!


「参るッ!! つぇあああああああッ!!」

「ぬぅッ、この剣圧……ただの道楽者ではないな!!」


 開始と同時に気合一閃。凄まじい速度で振り抜かれた剣を間一髪で躱す軽業師ちゃん。しかしゴールドさんは斧戦士さんと違って次々に剣を繰り出しながら流れるように軽業師ちゃんを追い詰め、軽業師ちゃんもすぐさま迎撃に移ります。

 多彩な武器を持っている軽業師ちゃんですが、最も好んで使うらしい二本のマチェットが引き抜かれ、凄まじい速度で刃と刃がぶつかります。


「ハァッ! せいッ! このッ!!」

「二刀流か!! グッ、手数が多い!!」


 大胆に体を動かしスピードで反撃に出る軽業師ちゃん。ブーツにも鉄の刃を仕込んでおり、時折体術を交えてゴールドさんを翻弄します。そのスピーディーな攻めに今度は防戦に回るゴールドさんですが、その口元は実に楽しそうに笑っています。


「何が可笑しいのじゃ、ゴールド!!」

「楽しいんだ!! 歴王国に籠っていたら絶対に戦えなかった相手、見ることの出来なかった戦法が!! それと戦えることが!!」

「貴様……さては唯の武術馬鹿であるな!?」

「誉め言葉だねッ!!」


 どんどんヒートアップしていく剣戟に会場も大盛り上がりです。うら若くも勇敢な軽業師ちゃんは一部では熱烈な人気なのですが、ゴールドさんの人気も相当なもの。既に黄色い歓声を上げて応援する女性たちの姿があります。よく見ると先輩のツリ目ちゃんも混ざっています。


「よかろう! ならばその雄姿に免じて妾の真なる実力の一端を見せてくれる! その身で味わえる栄誉に震えるがよい!」

「名残惜しいがそろそろ決着をつけないとね! 次の一撃に……全力を捧げるッ!!」


 瞬間、二人の周囲の大気が逆巻きます。

 凄まじい迫力、次の一撃が勝敗を決すと見ました!


「大地潤すクィンクェの恩寵よ、凝結クァトルの勅に従い我が二爪に宿れ!!」

「燃え上がれ闘志!! 我が一太刀に歩んだ道と感謝を込めてッ!!」


 軽業師ちゃんのマチェットに螺旋を描く水がまとわりつき、凍り付いて二振りの長剣となります。瞬時に距離を取った軽業師ちゃんは空中で宙返りしながら着地し、地面に足がつくと同時に凄まじい速度で疾走しながら双氷剣を構えます。対するゴールドさんはすさまじい闘志をオーラとして噴出しながら剣を上段にどっしりと構え、軽業師ちゃんを迎え撃ちます。


「氷燕斬ッッ!!!」

「チェストォォォォォーーーーッ!!!」


 巨大な力と力が激突し、音を置き去りにした衝撃が周囲に撒き散らされます。

 目を開けていられないほどの衝撃に思わず顔を庇ったポニーちゃんですが、すぐさま勝敗を確認するために広場の中心を見ます。


 そこにあったのは――地面に生え揃う二列の氷の柱の丁度中心で体が半ば氷漬けになったゴールドさんと、マチェットを二本とも手放して大地にひっくり返る軽業師ちゃんでした。ゴールドさんは意識はあるようですが氷によって身動きが取れず、軽業師ちゃんも意識はあるようですが体がついていかないようです。

 少し迷いましたが、この試合は引き分けです。

 

 会場はすさまじい戦いに大盛り上がりで、軽業師ちゃんを毛嫌いしていた人たちも実力だけは認めざるを得ないとばかりに不本意そうに拍手を送るほどです。ポニーちゃんも二人に惜しみない称賛を贈ります。


「ぬ、う……ば、馬鹿力めっ……わ、妾はまだ本気を出しておらなんだから、勘違いするでないぞ!」

「だろう、ね……こんな強力な氷の術、本気でぶっ放したら……うう、寒っ! 観客まで凍ってしまうだろう……」


 こうして、恒例行事の『新人組手』は大成功で幕を下ろしました。


 ……え? 一人忘れてないかって?




「なんで私は参加できないんですか!! 納得できませんよ重戦士さんッ!!」

「……小麦、お前は……町の広場で数砲しゅほうぶちかまして、憩いの場を粉々にを破壊する気か……? いくら観客を守る障壁があるとはいえ、お前のそれは過剰火力だと前から言っているだろう……」

「大砲は強い方がいいじゃないですかぁ~~~!! 納得いきませぇぇ~~~~~んッ!!」


 ドギャギャギャギャァァーーンッ!!という凄まじい炸裂音が遠くの山から響き渡りました。


 翌日、小麦さんのストレス発散に付き合わされた重戦士さんによって、彼女が昨日のうちに危険度6の魔物を12頭、危険度7の魔物を3頭、そしてタッグでの戦いで危険度8の魔物を1頭討伐した旨の報告を受けた受付嬢ちゃんは、やはり小麦さんを参加させなくてよかったと心の底から思いました。

 なお、回収された魔物の死体はほぼミンチだったそうです。

受付嬢ちゃんメモ:詠唱

術の発動には詠唱が使われますが、決まった言葉がある訳ではなく単に術者がイメージを固めやすいように使用しているだけだったりします。術の構成は基本的に頭の中で『数列』を組むことで特定の現象を発動させるので、理論上は詠唱なしでも全く問題ありません。

実際、翠魔女さんは術を使うときは一切詠唱を行わないようです。流石だなぁ。

ちなみにゴールドさんが最後に使った技は、術とは違う技術が使われてるんだとか。

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