最終話 受付嬢ちゃん、物語を締めくくる
ギルドに顔を出す前日――桜はゴールドの下にいた。
「よっ。俺が寝てる間に出世し過ぎじゃないか? こりゃ冒険者は廃業だな」
「仕方ないさ。ここまでの大事になったら流石に家が気まずいだ何だと言ってられないしね。やりたい目標もある。後悔はない。ところでこれどう? 似合う?」
王として身に着けるマントを冗談めかしてひらめかせたゴールドは、いつも桜の手伝いをしていた頃と何ら変わりない態度で桜を出迎えた。
仮設地であっても王族はかくあるべし、と一夜で作られた簡易的な城の個室は、他の誰も聞き耳を立てていない王の数少ないプライベートの空間だ。
雪兎とアイドル、碧射手にタレ耳も来ているが、雪兎がゴールドと会うのが怖いと部屋の隅で蹲ってしまったのでそちらの対応に当たっている。赤槍士もいるが、彼女もまたアイドルの手伝いということでそちらへ向かっていた。実際の所、ゴールドに気を遣ったのだろう。
激務で少し窶れたゴールドを友達と会話させ、少しでも心の安寧を図ったという事だ。
「君はどうなんだい? 地球にはもう戻れない。隣人もいない。そんな風に嘆いていた君は、折り合いをつけられたのかい?」
「そうだな……過去の俺のおかげで、俺も地球が滅んだことについて受け入れた。受け入れざるを得なかった感もなくはないが、少なくとも納得はしたよ。でもまぁ、残ってるものはあった。俺の人生は少なくとも無駄じゃなかったって思える」
「二人の娘、か……皮肉な話だ。二人とも君と強烈な縁を持っていたのに、二人ともそれに気付いていなかったなんて。君たちは奇跡の親子だね」
「だよな。運命論なんてあまり信じたくないけど、全ての偶然は必然によって連結されていた訳だ」
未来にそうなる筈だった桜が遺した子。
その桜の妻が遺した最後の子。
それが果てしない未来の世に、まさか両方とも女神を名乗る存在になるなど、誰も想像しないだろう。思い出すだけでため息の出る話だ。そのため息を、ゴールドは笑った。
「な、なんだよ笑いやがって」
「氷国連合での一件以降、君はそんな風に小市民的なため息を吐くことがなくなってたからね。やっと君の心も平和に馴染んだようで安心した」
「そういうお前はよく笑っていられるな。世界最大級の国家を作り替えて再建するとか、実際どうするんだ?」
「暫くは大丈夫。文明を売って外交を凌ぐから、その間に歴王国の国家再建プログラムを徹底的に改修する」
文明を売る。歴王国ほど文明を独占した国家だからこそ出来る荒業である。しかもこの時の為に薬草の生成を行ってきたスヴァル神殿を終末巨人の瓦礫の中から発掘して色々と解析したらしく、これをまずは売り払う気らしい。
「色んな悲劇の始まりだからね、あれ。まぁ暫くは種も独占させて貰うし、神殿の内と外では薬草育てるにしても条件が違う。各国が薬草栽培を安定化させるまで猶予はあるさ。他にも色々あるが、むつかしい話ばかりだ」
「……お前もしかして赤槍士の為に王になったんじゃ」
「あはははは! 我ながら直情径行だとは思うけど、思い立ったが吉日って言うだろ?」
ひとしきり笑ったゴールドは、息をついて天井を見上げた。
「俺と君、最初は気楽な二人旅。それが巡り巡って一年も経たずにここまで来るとは、とんでもないな」
「まぁ、そうだな……ロータ・ロバリーに来る前の俺はいっそ死んでやろうかなんて思うほど折れかけてたってのに、今は生きる目標も生き甲斐もある。差し当たっては、ニヒロの発掘とA.B.I.E.システム復旧かな」
「……? それで何を?」
「雪兎を、人として再臨させる。寿命を持った有限の命としてな」
ゴールドが思わずいじけ続ける雪兎の方を見る。
「それは……いいのか……?」
「ちゃんと話し合って決めたことだ。地球が超新星爆発起こしたって、アイテールを自己生成できる雪兎の意識は続く。俺が死んでもゴールドが死んでも、下手したらこの星が死んでも延々とな。そっちの方が怖いし嫌だってよ」
「そう、か……それでいいのかもしれない。八部衆も言っていたらしいからね。永遠の命など持て余すって」
女神大戦に於いて、自殺者にカウントされるが故に戦死者に数えられなかった八部衆。彼らの亡骸は埋葬され、名もなき碑のような墓標の下で眠っている。聖騎士がやってきて自らそうしたそうだ。
世界全てが永遠になるか、それとも自分が有限になるか。
雪兎にとってはその二つにそれほど大きな違いはないのだろう。
或いは成長してから雪兎は改めて死の恐怖を抱くのかもしれない。
正解など今の段階では分からない。
「ま、ゆっくりやるさ。命短しとは言うが、人生はまだ長い。もしかしたら未知の外宇宙生命体が侵略してくるかもしれん。正直そっちは御免被りたいが、なんとかやっていくさ。親としてな」
「それが聞けて安心したよ、親友」
二人で笑いあっていると、やっと勇気を振り絞った雪兎が二人の下――より正確には、ゴールドの下にやってくる。帰ってきて以降、雪兎はまだゴールドと一言も口をきいていないのだ。
おずおずする雪兎は、頭を大きく下げた。
「あの……ごめんなさい! たくさん悪い事して、ゴールドのふるさとを滅茶苦茶にして、いっぱい迷惑かけて……ごめん、なさい……」
最後は消え入るような声だった。
相当な罪の意識に苛まれていたのだろう。桜の世話をする間、雪兎はそれを口実に家の外の人と接触をずっと避けていたくらいだ。しでかしたことが余りにも大きすぎることも、彼女は理解していた。
ゴールドは目を細め、彼女の頭に向けて手を振り上げた。
雪兎の目が大きく見開いたと思えば、衝撃に備えるように目を瞑って体を庇う。しかし彼女の想定する衝撃は来ない。恐る恐る目を開けた雪兎を待っていたのは――。
「王様チョップ!」
「あたっ」
雪兎の頭に小突く程度の衝撃。ゴールドは雪兎の頭頂部に軽いチョップをかますと、しゃがみこんで彼女と目線を合わせる。
「雪兎、本当なら君への罰はこんなものじゃ済まない。でも君が正直に名乗り出たら、ロータ・ロバリーは大混乱。だから今回のおイタはこれで済ませる。いいね?」
「……いくない、気がする」
「そうかい、じゃあもう一つ罰を追加だ」
そう言うと、ゴールドは彼女の華奢な体をぎゅっと抱きしめた。
「君があんなことして、みんな悲しかった。俺も、もう何を考えればいいのか分からないくらい悩んだ。桜がどうなったか、君は自分の目で確かめただろ? 悪い子だよ雪兎。みんなからの想いをあんな形で裏切って……」
「ご、ごめ……」
「だからもう二度と皆に黙ってあんなことしないでくれ。でないと、もう遊んであげないぞ?」
そう言って笑ったゴールドは、雪兎の腰を抱えて高い高いした。
雪兎はそれを懐かしむような、何かを堪え切れなくなったような、そんな顔で涙を流した。彼女にとってゴールドは、兄か、もう一人の父のような存在だった。そんなゴールドの優しさとぬくもりを再確認してしまった雪兎は、何度も頷く。
「うん……うん! もうみんなに酷いことしない! 隠し事しない! 約束する!!」
「よーし、いい子だ! とはいえ前ほどたくさん遊んではあげられないけど、その分はまぁ家族に甘えなさい。次に出会ったとき、きみの心が一まわり成長してることを期待してるよ!」
こうして――ゴールドとの邂逅は幕を閉じた。
ただ、去り際に少し意外なことがあった。
タレ耳が、ゴールドに「自分を雇え」と言い出したのだ。
「桜が健康になったと思ったら、今度はお前が不健康になりつつある。公務のサポートは足りていても健康面でのサポーターが足りないと判断。次に雪兎が遊びに来た時に腰痛で遊べないでは困る。私を雇って健康管理させるべき」
「えっ、あー……」
「私を、雇う、べき。アサシンギルドとの連絡役もこなせるし護衛も出来る、悪いことは言わない。私を、雇う、べき」
「……あー、うー、赤槍士どう思う?」
「いーんじゃねーのー……このロリコン」
「これ俺が悪いのぉ!?」
タレ耳はタレ耳なりに、これ以上雪兎の悲しむ姿を見たくないのだろう。友達唯一人だけの為に王家に仕えることを決めるとは、不敬なのか凄いのか。幼女が旦那を求めてきて不機嫌な赤槍士をどうするかは知らないが、彼女がゴールドのサポートをするならあの若干窶れた新王も少しは楽になる筈である。
――ちなみに、一応白雪も一緒に来ていたのだが……俺以上に疲れを溜めていた白雪は今、殆どの時間を寝て過ごしている。彼が以前のようなお喋りを取り戻すには、今しばらく時間が必要なようだ。ゆっくりおやすみ、白雪。
= =
――受付嬢ポニーは、ここに女神大戦後の目まぐるしい周囲の変化について、個人的に日記としてまとめさせていただきます。
まず、ポニーたち受付嬢ズは元のギルドの生活へと戻りました。
念のために女神大戦に関する出来事を口にすることを縛る神秘術を受けましたが、これはうっかり真実を漏らすことで余計な情報の漏洩を防ぐためのものとして納得し、受け入れています。別に当事者しかいない場所では普通に喋れちゃうのでそれほど不満はありません。
ただ、ギルドに戻ってから暫く受付嬢の仕事がかなりヒマでした。
窓際族や冷遇という訳ではなく、世界全体で魔物の被害や目撃証言が激減したのが主たる要因です。女神大戦にて大量に動員された魔物が諸事情ありほぼ全滅したことで、魔物討伐の仕事がなくなってしまったのです。
日雇い冒険者たちが職に困り集団退職しかけたり、大地の破壊によってライフラインが寸断されたりと不便も相応にありましたが、生きているので問題はありません。魔物もまたそのうち増えるそうですし、人類と魔物の戦いは暫く続くことでしょう。
周囲の人たちについても少々語りましょう。
ゴールドさんと赤槍士ちゃんのアレには非常に驚きましたが、それは長くなるので割愛して……。
まず、重戦士さん。
重戦士さんは現在、歴王国――もとい新王国で生活に困る人々の支援と護衛を務めるクエストを実行中です。これは仕事半分、人間に戻った慈母の様子見半分だったようです。
なお、魔将の力を活かして自らの身体の一部をアクセサリに変形させてポニーちゃんに渡してくれているので、呼べばすぐに分身重戦士さんに変化します。ポニーちゃんを守る約束を忘れない律義な重戦士さんですが、過保護すぎでは? と言うと、ポニーだし、と心配そうな顔で言われました。ぎゃふん。
「護るものと身内ばかり何故か増えていくな……まぁいい。せっかくの丈夫な体、酷使していくさ」
慈母さんは、世間に女神大戦の中で永遠の若さを失ったことを世間に告白したそうです。でも、彼女を待っていた皆さんにとっては無事に帰って来たことの方が喜ばしいことだったようで、一安心です。
今、慈母さんは孤児院の院長と子供たちに勉強を教える教師の二足の草鞋の生活を送っているそうですが、周囲からは「なんだか重戦士さんとだけ妙に距離が近い」と噂されているとのこと。
「今日の晩御飯は鶏肉と豚肉と牛肉とどれにします? ……え、相変わらず肉好きすぎ? いっ、言わないでくださいよもう! 鉄血からそんな記憶受け継がなくていいですからっ!」
そんな噂話を聞かせてくれるのは流体ちゃんです。
女神大戦終結後、なんとか肉体を維持する力を取り戻した彼女は暫く凹んでいましたが、今は立ち直って重戦士さんのお手伝いをしています。重戦士さんの事は相変わらず「おにぃ」と呼んでいますが、重戦士さん曰く最近やけにスキンシップが多いそうです。甘えたいお年頃なのでしょう。ポニーちゃんもパインお姉ちゃんには相当甘えたのでとても分かります。
「おにぃ、おにぃっ! えへへ、呼んでみただけー!」
重戦士さんのパートナーこと小麦さんも新王国にいますが、地の術に優れる彼女は地盤調査から建築まで様々な分野で引っ張りだこで、今や現場監督に近い扱いを受けているそうです。
ただ、最近慈母さんと流体ちゃんが重戦士さんにぐいぐい近づき過ぎじゃないかと懸念しているそうです。プライベートで重戦士さんが誰と結ばれてもいいけどビジネスパートナーの座は渡さない! だとか。よく分からない理屈ですが要するに重戦士さんのことが本当は好きなんじゃないでしょうか。ガゾムの感性は分かりません。
「重戦士さん、重戦士さん! えへへ、呼んでみただけ……いだぁっ!? 何で私にはゲンコツなんですか!? 不平等です、不条理です!! 罰として新銃の試射に付き合ってもらうますよ!? 拒否権などなーい!」
ちなみに、古傷さんと一角娘ちゃんは町に戻っていますが、宿はすっかり女神系列の人々のたまり場と化している模様。ポニーちゃんたちも口封じが解かれる貴重な場所としてご飯を食べにちょくちょく向かっています。
一角娘ちゃんは最近は家事より鍛冶に興味があるらしく、古傷さんにせがんで色々と技術を伝授してもらっているそうです。もしかしたら将来の名鍛冶士になるかもしれません。
「ちっ、有角族の筋力のせいで俺より力が強くなってきやがって……」
「ぶつくさ言わないで次どうすればいいか教えてよお父さん! 娘が名工になる為にさ!」
水槍学士さんは、町のギルドに戻ってきています。
平和になったとはいえ魔物が完全にいなくなった訳ではないので、逆に今がチャンスと魔物の生態を個人的に調べてはメガネちゃんと意見交換しているようです。あの二人も肩と肩がぶつかる距離まで近づいているので、もう少ししたら、もしかするのかもしれません。
「やはりあの魔物は現住魔物の特性を色濃く残しているようです。この後ろ脚にある骨がそれを証明しています」
「確かに、近代の魔物の脚部には見られない、いわば無駄な骨ですね!」
翠魔女さんもギルドに戻ってきていますが、今、彼女は大きなプロジェクトの監督を任されています。実は最近になって崩壊したアトス――すなわち歴王国の王都の残骸から、世界のあらゆる薬草を育てる機能を持つスヴァル神殿の種子保管庫が発見されたのです。
遺跡が崩壊した以上、薬草は安定供給できません。しかし、ここで新王ゴールドさんが鶴の一声でスヴァル神殿の残骸から回収できたデータを世界中に大公開しました。これによって薬草の安定育成という新たな道が拓かれ、翠魔女さんはその監督を任されたというわけです。
まだデータだけでは育てるのが難しいので試験運用的な生育が続いているそうですが、翠魔女さんは「これが成功すれば世界の薬事情が変わる!」とやる気満々です。
「病に苦しむ人を一人でも救うために! さあ皆、今日も雑草取りよ! 薬草と間違えて抜いた人にはオシオキなんだから、しっかりやりなさい!!」
神腕さんは現在療養中です。
実は離元炉を破壊する際に肉体の許容量をオーバーした破壊力を出してしまった神腕さんの腕はボロボロで、今もまだ本調子ではないらしいです。ただ、素手でダンベルを折り曲げながらの発言なのでどこまで本気かは分かりませんが。ちなみに折れ曲がったダンベルは翌日には「指のリハビリ」と称して限りなく球に近い形状になっていました。
「暇ー暇ー暇だー……暇って言うのにも飽きてきた。もう足だけで暴れてみるか?」
そんな神腕さんを甲斐甲斐しくサポートしているのは、狐従者さん。
丁度治療関連の知識があり、手が空いていた彼女は神腕さんを何かとサポートしていますが、既にその動きは出来過ぎたお嫁さんムーブです。狐従者さん自身、心なしか神腕さんの豪放磊落な所に惹かれ始めている節がある気がします。一体どうなるのやら……。
「安静にしてくださいね。湿布の張り替えの時間ですから上着をお取りします……(はぁ、なんて逞しい胸板……い、いえ駄目です! 今の私はあくまで医療従事者! 色恋など持ち込んでは……!)」
そういえば、紫術士さんは戦いが終わって以降、時折手紙が送られてくるだけで顔を見せません。やっぱり以前の事件の件で気を遣っているのでしょう。表向きにも彼は脱獄犯扱い。このまま陰の世界に生きていくつもりなのでしょう。
でも、そんな紫術士さんは最近アトスの中枢コンピュータのバックアップユニット――美少年です――に手を焼いているらしく、彼にしては珍しく愚痴っぽい口調で「野良猫のような警戒感だ」と書き記しています。それでも面倒を見ようとするところは、悪くないのではないでしょうか。
「またぼくを風呂に入れる気だろ! 絶対入らないぞ!! 自動洗浄機能で事足りる!」
「いや、自動洗浄にも限界があるから。ね? いい子だから、ね?」
そういえば、シルバーさんと婚約者のプラチナさんから、近々挙式するので是非来てほしいと案内状が届きました。まさか家督から逃げていたゴールドさんが当主より更に大変な役割に自ら就いたとはシルバーさんも思いもしなかったでしょうが、今は全力でサポートしているそうです。
プラチナさんとは余り話す機会もなかったのですが、結婚式については「こんな忙しい時にって声もあったけど、こんな時だからこそ私たちの結婚を理由に国民に久々の祭り気分に浸らせてあげたい」という意図があったそうです。矢張り育ちのいい人は考えが違います。お友達になれたらいいなぁ。
「兄さんのサポートと当主の仕事で天手古舞さ。でもまぁ、今は兄さんの踏ん張り時だ。僕が頑張らずして誰がって思っちゃうよね」
「相変わらずたまに兄馬鹿よね、シルバーって……嫉妬しちゃうわ」
白狼女帝と軽業師ちゃんは、一度氷国連合に帰りました。
なんでも軽業師ちゃんの妹が生まれるらしく、年下の姉妹に憧れていた軽業師ちゃんは帰国するまでに百回は妹が成長したらああしたいこうしたい、というたらればの話を繰り返していました。微笑ましすぎて30回ほど我慢できずに抱きしめました。きっと彼女の妹も最高に可愛い子に成長するでしょう。
白狼女帝さんの方は、ゴールドに一杯食わされたとか何とかで、国の方針について色々と練り直しているとのことです。他にも何かある風な口ぶりでしたが、敢えて聞きませんでした。
「妹が生まれたらいの一番にぽにぃに見せに行くぞっ!!」
「くく……ゴールドのわっぱめ、そう易々と三大国を降りる気はないという訳か。面白い、受けて立つぞよ?」
聖騎士さんは、終末巨人が空けた穴を魔将たちと一緒にこつこつ修復しているそうです。終末巨人が破壊し尽くした大地は崩落の危険有りということで全面的に立ち入り禁止になっているのを逆手に取った活動です。
ガナンによって異空間に取り込まれた大質量の物質を少しずつ大地に馴染ませていく作業は相応に大変らしいですが、このような日の目に当たらない活動もまた正義! だ、そうです。ただ、このままでは聖騎士さんがおじいさんになっても修復が終わらないので、アイドルちゃんも交えてこれからの方針を協議するとのことです。
なお、ヘイムダールのパイロットにされた当たり屋さんのその後を気にかけているらしく、ちょこちょこゴールドさんたちと連絡を取り合っているそうです。
「正義ぃぃぃぃーーーーー!! 正義ぃぃぃぃーーーーー!! む、何を叫んでいるかだと? 朝のボイストレーニングだが? 正義ぃぃぃぃーーーーー!! 正義ぃぃぃぃーーーーー!! ……え? 近隣から謎の魔物の遠吠えが聞こえて怖いと苦情が? くっ、正義破れたりか……!!」
そんな聖騎士さんと共にアトスに乗り込んだ銛漁師ちゃんは――何故か「ギルド職員を目指す」と言い出して町に滞在中です。ギャルちゃんから時折何やら間違ったギルドの鉄則を教わっては「それ本当に合ってるの……?」と怪訝そうな顔をしています。
人との関わり合いを避けているイメージがありましたが、心境の変化があったようです。ポニーちゃんは勿論頑張る人の味方なので、後でギャルちゃんの知識についていろいろ補足して手伝っています。
世間でも珍しいレライムの民である彼女はマギムとはかなり見た目が違いますが、とても美しい人ですから、きっとギルド受付嬢になった暁には多くのファンを得ることでしょう。実際、彼女と偶然出くわした数名の男性が既に変な方向に堕ちています。
「ちょっと、マギムの分際で何ジロジロ見てるのよ……は? もっと罵れ? 気色悪い、どこまでも下種で低俗な精神の持ち主ね。一度死んで生まれ変わってみたら? ……ちょっと、何でもっと喜んでるのよ!!」
パインお姉ちゃんはギルドに戻りましたが、その後は復興支援等の仕事に忙殺されているそうです。なので返信には間違ってもこちらは暇ですなんて書けません。ごめんなさいお姉ちゃん、ポニーは悪い子です。
でも、あの女神大戦をパインお姉ちゃんと一緒に潜り抜けたことは、やっと尊敬するパインお姉ちゃんに並べた気がして嬉しかったです。とにかく体に気を付けて、体調管理を怠らないよう、と生意気なアドバイスなどを文にしたためました。
「ポニーったら生意気言うようになったわね……ふふっ、貴方が元気ならそれでいいわ。よーし、お姉ちゃん頑張っちゃうぞ!!」
……そういえば、大砲王率いる鉄鉱国の皆さんは、現在母国に戻ってポルトスの修復を行っているそうです。あの人達なら元のポルトスが原型を留めない大砲だらけの歩く要塞とか作りそうで恐ろしいです。
「次はポルトスが反動で砕け散る威力の大砲を……なに? 星の自転速度をこれ以上狂わせるな? やむを得んな……鉄鉱国はこれより宇宙進出を第一目標とする!! 宇宙なら撃ち放題じゃあああああ!!」
ダルタニアンに乗っていた冒険者一同とキャプテンさんは、暫く星を巡る旅をするそうです。まぁ、今このままギルドに戻ってきたら社会を混乱させる事実を割とペラペラ喋りそうなので、少々寂しいですが受け入れるほかありません。
皆さん、なんだかんだキャプテンの人柄に惹かれているらしいです。ポニーちゃんもいずれ直接会ってみたいものですね。
後は……意図的に触れなかった人が、二人。
これについては、今は何も書けません。
一つだけ確実なのは――二人のうちどちらか一人とは、恐らくもう二度と出会えないことでしょう。
しんみりしていると、ギルドの扉が開き、ギルド内の冒険者たちが見覚えのある顔に湧きたちます。復帰おめでとう、とか、雪兎ちゃん帰って来たってな、とか、アイドルちゃん連れてこい、とか、碧射手ちゃんと結ばれやがって妬ましい、とか、いろんな言葉にへらっと笑って手を振って返事するその人物は、ポニーちゃんの担当冒険者です。
「おそよう、ポニー。受付まだやってる?」
桜色の髪で幼子とやたら縁があり、あらゆる困難を乗り越えた末に戻って来たその人に――桜さんに――ポニーちゃんは万感の思いを込めて告げました。
――桜さん、休みすぎて冒険者評価がどん底寸前です! 余裕の表情してないで馬車馬の如く働いてください!! このままだと冒険者クビですよ!?
「マジでか!! ええと依頼依頼……翠魔女の助手しかねぇッ!! しかも主な作業は草むしりかよッ!? 腰に来るが、背に腹は代えられん……!! おのれ、来るのが遅くて数少ない依頼も取られてやがる!!」
本日は快晴。絶好の冒険日和。
ポニーちゃんは仕事が減っても手は抜きません。
桜さんみたいな危機感の薄い冒険者の尻を叩くのも仕事のうちです。
桜さんの後ろからは碧射手ちゃん、そしてダブル女神の雪兎ちゃんとアイドルちゃんも一緒です。
「やば、私も査定絶対下がってる……! ポニー、私もそのクエスト受ける! 二人ともパパとママがお仕事終わるまでギルドでいい子にしてるのよ?」
「はい、お待ちしてます。その……お、お母さん」
「ポニー! 桜がおしごと終わるまで一緒にいようねっ!」
アイドルちゃんは未だに言い慣れないのか恥ずかしそうにお母さんと口にし、雪兎ちゃんはポニーちゃんの仕事が少ないのをいいことに膝の上に座って甘えてきます。無論最強可愛い雪兎ちゃんの甘えをポニーちゃんが拒否できる筈もないのでそのまま仕事を通します。
「おーい、ギルドは託児所じゃないわよー……」
「イチャイチャしてぇ、私だって……私だって……!!」
釘を刺しつつ黙認するベテラン先輩と、相変わらず男を作ってはフラれているツリ目先輩。世界は変われど、ギルドの皆はいつも通りです。女神大戦の影響が大きかろうが桜さんの査定がやばかろうが、新人受付嬢が明日から入ってこようが仕事がないと理不尽なクレームが来ようが、ばっちり全部受け止めて処理していきます。
仕事は基本を忠実に。
それが、受付嬢のテッソクです!!
『受付嬢のテッソクっ!』……これにて、完結。




