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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十四章 受付嬢、永遠なれ!

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Father

 歴王国から1000km近く離れた仮設避難場所に溢れる人々は、一様に絶望に打ちひしがれ、或いは女神に必死に祈りを捧げていた。彼らの視線の先には、大地を砕き、どこまでも天高く肥大化していく女性型の巨人がいた。


 嗤うような、泣くような、希望を捨て去った顔の巨人がこれから何をするのか、人々は知らない。しかし、今の光景を形容する言葉は不思議と統一される。天高く伸ばされた手がやがて月を掴んだ時、それは起きるのだろう。


「終わりだ……この世の終わりだ!!」


 突然始まった巨人たちと巨大な神の船の戦いが収まったと思った矢先の天変地異だ。避難所から更に遠くへ逃げようとする人々もいるが、明らかに逃げるより大地が砕ける方が早かった。どんな種族も、どんな立場の人間も、老いも若いも皆が希望を見出してなかった。


 そんな中に混ざっていた、未だに状況を理解出来ない幼き少女が、祖母に質問する。


「ねぇ、世界、おわっちゃうのかなぁ」

「かもしれないねぇ。残念だよ、お前のウェディングを見ることは出来なさそうだ」

「なんで終わっちゃうのかなぁ。女神様が怒ってるのかなぁ」

「人はたぁくさん間違いを重ねて生きてきたからねぇ。愛想を尽かしちまったのかもしれないねぇ」


 死と滅びを正しく理解しない幼き少女は、どこか他人事のように。

 死と滅びを受け入れた祖母は、天命を受け入れるように。

 ただただ、滅亡のカウントダウンをあるがままに眺めていた。


「……あ、鳥さん」

「おや、鳥さんがいるのかい? すっかり目が悪くなっちまって、私には綺麗な光しか見えないねぇ」

「それ、ぴかぴか光ってる鳥さんだよ。鳥さん、お空をどんどん昇っていく。あのおっきなおっきなおねえさんの顔に向かってるみたい。神様のお使いかなぁ?」

「だとしたら、祈ろうかいねぇ。お前の未来の為に」

「じゃあ私も祈る! いいダンナさんが見つかって、おばあちゃんを結婚式に呼べますよーにっ!!」


 誰も彼もが生死の狭間で騒ぎ立てる中、無垢なる祈りが黄金の翼へと委ねられていく。







 金色の翼を広げて終末の巨人に迫る二つの人造巨人。

 既に終末巨人の質量は大気圏をとうの昔に突破しており、必然的に二機も宇宙に出る。コクピット内の慣性を操って操縦席内部は地上と変わらない重力を感じる四人だが、それゆえに否が応でも自分たちの双肩に世界の存亡がかかっていることを実感させられる。

 ロータ・ロバリー人初の宇宙飛行は、宇宙という広大な世界を感じる余裕なく終わるだろう。


 後部席の碧射手が、受付嬢ズからバックアップを受けつつモニタに次々と浮かび上がる情報を処理していく。


「指向性反応増大!! あちらがこちらを捕捉したってことでいいの、イイコちゃん!?」

『そうです! でも本能的な防御機構だから『桜さんたちが来た』という段階での認識ではないでしょう!!』

「だろうな。今の二人にはもう何も見えてない。アイドルは自暴自棄になり、雪兎は地球を滅ぼした頃に逆戻りして人間を排除しようとしている。でも殺させてやらねぇ!」 

『攻撃来るぞ、しっかり捕まってろ!!』


 巨人の皮膚部分に無数の光が煌めき、アイテールの閃光が矢となって夥しく迫る。ゴールドはそれを右に左に、時にバレルロールしながら次々に躱していく。ゴールドは鳥形に変形した為に不慣れな操作を強いられているが、躱しきれない部分をヘリオンの円環の輪が、次々に出現するアルタシアの蒼弓が、燃え盛るヘファストの炎薪が相殺していく。


 中継通信から銀刀の声が響く。


『その機体には今、足も腰もない。推進力はある。操作は巨人よりシンプルだ。目的地点がでかいから天地の場所は気にするな。子供が空想するように自由に飛べ』

『了解!! もっと速く、もっと自由に!!』


 アルキミアは華奢に見えて重力制御に優れている為、ニヒロは振り落とされることなく、ニヒロの重量に振り回されることもない。次第に動きが機敏になってゆくゴールドの操縦で、巨人の顔まであと5000メートルに迫る。桜には久々に馴染みのある単位だが、碧射手は不機嫌そうだ。


「ああもう、このメートルって単位何よ!! マトレで出しなさい、マトレで!! メガネちゃん、5000メートルってどれくらい!?」

『およそ5100マトレです!! 事ここに至っては誤差レベルなので突撃するしかありません!!』

『メガネも乗ってきたじゃん! こちらギャル、敵の警戒度増大を確認!! こっから更に激しくなるぞぉぉ~~ッ!!」


 受付嬢ズのサポートにも熱が入る。

 その熱に応えるように、アルキミア内部のゴールドが放つオーラが更に輝きを増す。


『限界まで加速するッ!!』


 アルキミアがマッハコーンを置き去りに最終ブーストで戦場を駆けるのと、女神の攻撃が空間攻撃に切り替わるのはほぼ同時だった。光弾の猛攻はそのままに、アルキミアの向かう先や周辺の虚空に何の前触れもなく突如として破壊力を持った球体が出現していく。

 空間センサーによってギリギリでその予兆を確認して回避するが、コンピュータが弾き出す予測はまさに針に糸を通すような狭さだ。全ては避け切れず、アルキミアの纏うエネルギーとオーラが強引に弾いてゆく。


「目標まであと1000メートル!!」

『まだだ、まだ二人に近づけるッ!!』


 ここまで接近すると、終末巨人は光の根を空間に張り巡らせ始める。アトスも大地も神秘も何もかもを取り込み混沌へ還す光の根を掻い潜り、光弾も空間爆撃も躱し、極限に研ぎ澄まされたゴールドの集中力はまるで空を知り尽くしたかのような機動を見せる。

 赤槍士は『ヘファストの炎薪』の出力を極限まで高めてそれをサポートする。

 日常ではどこか自堕落な面の目立っていた赤槍士だが、一言も言葉を発さずゴールドを陰ながらサポートする姿を見ると、彼女は意外と尽くすタイプなのかもしれないと桜は感じた。


 しかし、それも限界。

 予測範囲が増大し、物理的に回避不能な超広範囲の空間歪曲を検知する。


『くぅッ……後は任せたぞッ!! 慣性操作、重力ブレーキ解除!!』

『絶対に、ぜーったいに女神様を連れて帰って来なよっ!!』


 瞬間、アルキミアの発生させた加速とエネルギーが丸ごとニヒロに移譲され、ニヒロの巨体がアルキミア以上の超速度で空を貫く。飛んだというよりも、慣性制御を利用したカタパルト射出に近かった。

 アルキミアは速度を失い、終末巨人の攻撃を浴びながら受けながら離脱していく。邪魔な装甲を次々にパージして追撃を凌いだアルキミアは、ぎりぎりで大破を免れて戦闘空域を離脱した。一番頼りにしてきたかもしれない親友の離脱に、桜は内心で感謝の言葉を告げる。


「う、おぉぉぉぉぉぉおおおおおッ!!」


 桜は気合の雄叫びで自らを鼓舞しながら、更なる警戒を示して出鱈目な空間爆撃を仕掛けてくる終末巨人の顔に愚直に吶喊する。空間そのものを弾けさせるような強烈な波動の嵐によって纏ったエネルギーが剥がれては、神具とABIEシステムの補助で防御を立て直す。

 進めば進むほど、光の根は人造巨人が潜り抜けられる隙間ではなくなっていく。他の攻撃と違い、これだけは触れれば明確に敗北する。予測ルートが完全に通過不能になることを確認した碧射手が叫ぶ。


「桜、これ以上はッ!!」

「分かってるッ!! ここまで来ればぁッ!!」


 ヘリオンの円環を完全スタンドアローンに設定し、空間を無理やり固定化させる。大出力の空間制御だが、光の根は空間ごと侵食するため僅か数秒しか安定しない。されど、その数秒こそが求めて止まない時間だ。


 ニヒロの右手が空に手を伸ばすように掲げられ、そこに一対であった『ヘファストの炎薪』が回転しながら収束。やがて紅蓮の炎を纏った一本へと変貌する。ニヒロのマニピュレータはそれを掴み取り、それを左手に拡張顕現した『アルタシアの蒼弓』の弓へと番える。


「二つの神具を重ね合わせた一発限りの超々特大火力だッ!! 碧射手、照準は任せる!!」

「見てなさい、この世界で一番弓の腕がいいのが誰なのか教えてあげるッ!!」


 マン・マシーン・インターフェイスが桜ではなく碧射手の思考をトレースし、ニヒロが虚空で矢を弓に番える。まるで太陽の如く地上を照らす輝きを放った矢は、碧射手が息を吐き出すと同時にあらゆる物理、空間、神秘の障壁を貫いて終末巨人の顔面を貫いた。


『 あ゛ ア ア ぁ ア゛ あ ――!!』


 巨人が引き裂かれるような悲鳴を上げた。

 余りの威力に命中部分から放射線状に女神の顔面が砕け散り、後方へ吹き飛ばされていく。その瓦礫の中に存在する巨人の中枢、光の根が絡み合ったような場所の中に――胎児のように体を丸めた二人の少女がいることを、ニヒロの外部カメラは認識した。


 このとき――神具三つを同時行使した上に強力過ぎる矢を発射した反動で、ニヒロの躯体はコクピットを中心とした中枢部を除いて殆どが破損。達磨と呼んで差し支えない有様に変貌していた。


 だから、それでも無理やり加速して終末巨人中枢まで近づいたところまでニヒロが動き続けたのは、僥倖だったのだろう。巨人の目から光が消える直前、コクピットブロックのハッチが勢いよく開き、その中から桜と碧射手が飛び出した。


 二人までおおよそ100メートル――今、この世界で最も遠い距離。

 終末巨人の瓦礫が舞い散る中を、それでも二人は諦めずに突き進む。光の根が近く神秘術の効果が弱く、飛行が叶わないために肉体強化と宇宙での生命維持確保が全ての神秘キャパシティを埋め尽くす。瓦礫を踏み台にしながら術で飛び、今も尚辛うじて動き続ける迎撃を掻い潜り、あと10メートルの距離まで迫る。


 彼らにとって最速の接近。

 しかしそれでも、終末巨人の破壊された外壁の修復が始まっている。

 このままでは辿り着く前に、二度と手が届かなくなる。

 それを認識した瞬間、碧射手は先行する桜の背中を渾身の力で蹴り飛ばした。


「男の背中を後押しするのが、いい女の条件ぇぇぇぇんッ!!」

「ガッハァッ!! うッぬぅぅぅああああああああッ!!」


 蹴りの痛みと衝撃さえも飲み込み、桜の身体が更に加速する。

 蹴りの反動で前進する加速が途切れた碧射手は、もう為す術がない。

 桜が二人の意識を現実に引き戻すが先か、根に呑まれるのが先か。


 あと僅かで手が届く。

 されど、あと僅かで道が閉じる。


 桜は万感の想いを込め、両手を二人の頭へと伸ばした。


「帰っておいで、俺の娘たちッ!!」


 桜の両手が二人の少女と接触する、その刹那。


 光が、満ちた。









 ――桜のいない世界なんて、つらいだけ。


 ――桜を守れなかった私には、何も成し遂げられない。




 ――桜を信じきれなくて、取り返しがついた未来が零れ落ちた。


 ――身勝手の所為で。幼稚な所為で。実現できなかったせいで。




 ――もう誰も信じられない。


 ――人に希望を見出したのは、きっと間違いだった。




 ――でも、嗚呼。


 ――それでも、嗚呼。




 ――もしこんな私にワガママが許されるなら。


 ――もしもまだ私に願う権利があるのなら。




 ――もう一度、会いたい。


 ――もう一度、甘えたい。


 ――また、頭を撫でてほしい。


 ――また、褒めてほしい。


 ――その口で。


 ――その声で。




 ――娘と、呼んで。

 
















 気が付いたとき、私たちは、私になっていた。


 暖かな腕に抱かれ、覚えのある匂いに包まれ、耳をなぜる声が――二度と聞けないと思っていた声が、聞こえてくる。


「迎えに来たよ、二人とも。まったく我が娘ながらやんちゃだなぁ。こんなところまで来ちゃって……めっ、だぞ?」

「さくら……おとう、さん」

「ゆーざ……ぅさん……おとうさんっ!」


 二度と覚めないでほしい夢の心地に、二人はしがみついた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 届いた!…が、これ、娘を迎えに来てると同時に後方に継母(といっていいのか微妙だけど)もいるんだけど、と考えるとなんとも複雑な心境…!
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