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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十三章 受付業務休止中!?

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127.カルネアデスの問いかけ

 ヘイムダールの真紅とアルキミアの黄金が衝突し、拮抗する。


 スペック上はアルキミアが優位。

 パイロットの能力も、ゴールドが上。

 その上で、状況は『拮抗』。


 その原因は、バカ息子の内から湧き出る力が、ヘイムダールの限界を超えて溢れ出ていたからだ。その力の名は『オーラ』。神腕やゴールドなど一部の人間が習得に至った、人の根源たる意志の力。


 ヘイムダールは元々赤黒い光を纏う性質のある機体だが、それは光らせているのではなく機能の副次的効果に過ぎない。すなわち、それ以上に放たれるまばゆい光は戦いなど碌に出来ないバカ息子が発生させている。


「これは負けられねぇ、これだけは負けられねぇ、この瞬間だけはッ!! 後の人生なんかどうでもいいから今ここで勝利を寄ぉぉ越ぉぉしぃぃやぁぁがぁぁれぇぇぇぇぇぇッッ!!!」


 それは決して清くも正義でもない感情。

 しかし、それでも決して譲ることの出来ない思いだ。

 命を惜しんで安全な戦いしかしなかったバカ息子が、コクピットという聖域に命を守られたバカ息子が、守られている命さえ差し出してでも勝ちたいと渇望する。その命知らずの渇望こそが、冒険というものだと気づかないままに。


 しかし、冒険者としての勝負に於いて、バカ息子には足りないものがある。


 それは――目の前の死の運命、逆境を捻じ曲げる力。


 ゴールドが咆哮を上げる。


「終わらせる……ものかぁぁぁぁぁぁッッ!!!」


 アルキミアの全ての機能が唸りを上げ、機能以上の力が放出される。ブースターの推力を凌駕した推進力が上乗せされる。黄金の輝きは更に増し、その光は戦場の中心にて輝く意志の光と成る。


 遠く離れた地上の地から空を見上げた避難民たちは、そこに暖かな希望を見た。


 拮抗していた力が、傾いてゆく。

 ヘイムダールの全身が圧されてゆく。

 バカ息子が、怨嗟の血反吐を吐くような唸り声を上げた。


「これでも……届かねぇのかよ……ッ!!」

「超えて見せろ!! それでも俺は君を超えるぞッ!!」

「大人しく潰れとけやぁぁぁぁッ!!」


 圧されても尚、真紅のオーラが全力で抗うように放出される。

 生命を絞り出すような輝きを、しかし上回る程の光が押し込んでいく。闇の帳をこじ開けるような黄金は空を引き裂き、空に聳える巨大なるアトスへ突き進んでいく。


「クソッ!! クソクソクソクソクソォォォッッ!! あと少し、あと少しでぇぇぇぇぇぇぇええええッ!!!」

「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」


 ヘイムダールの推力が完全にアルキミアに敗北すると同時に――アラミスに収束した『トリシューラ』の輝きが、爆ぜた。


 抵抗の暇を許さない不殺の破壊が、大量に枝分かれしながらアルキミアを追うようにアトスに殺到した。


 枝分かれしたトリシューラの光は全て余すことなくアラミスの機動兵器群を絡め取り、絶え間ないダメージを与え続ける。前線のナガト達によって前線が崩壊した部隊は逃げ出す暇もなく、逃げた機体も即座に捕らえられる。


『何だこれは!? 脱出できない……うわぁぁぁ!!』

『落ち着け!! 我等には女神の加護がある!! 耐えるのだ!!』

『しかし、隊長!! いつ……攻撃はいつ終わるのですかッ!?』


 先ほどまでのトリシューラのデータと一致しない攻撃方向にパニックを起こすアトスの人造巨人たちを捕らえて尚も拡大していく光は樹木の如く生い茂り、別れた枝たちがアトスの障壁を四方八方から攻撃する。ゼオム一族が総力を賭けて力と数列を注いだそれは、絶え間なく衝撃を攻撃し続ける。


 総力を挙げた攻撃に追従し、アラミスの人造巨人たちもゴールドのアルキミアに遅れてアトスへと迫っていく。

 イイコの通信がバースト部隊へ入る。


『バースト部隊総員、残弾きちんと残してますかぁ!?』

『モチのロンロン! 最後の花火はみんなで打ち上げないと楽しくないですからね!!』

『『『イエー!!』』』


 いい加減なのか律義なのか不明なバースト部隊はしかし、作戦最終段階をしっかり覚えていた。メガネ、ギャルの通信が続く。


『イーグル部隊の皆さん!!』

『こちら水槍学士、問題なし!! 但し、ベストコンディションは恐らく次の一斉攻撃までです!!』

『他もほぼ同じ状況だ!!』

『デルタ部隊のちびっこ共は保ってるかぁ!?』

『誰がちびっこじゃ不敬な!! こちら軽業師、元気有り余っとるわ!!』

『こちらタレ耳、駆動系の損耗率が増加中。フル稼働限界残存時間90秒』

『きゅう……こちら白雪、想定より関節部の摩耗が激しいけど、一斉攻撃までは保つっきゅー!!』


 イーグル部隊もデルタ部隊もバースト部隊の戦力を守るために無茶な立ち回りをしてきた。機体の冷却を自力で補える軽業師を除き、損耗率は無視できない域に達している。

 しかし、次の一斉攻撃に失敗すればどのみち次など存在しない。

 その想定を以てして計画された作戦だ。


 最後尾から飛来するニヒロ――桜とアイドルは、ニヒロの肩に乗った碧射手に確認を取った。


『最後の一撃だ、碧射手』

『ええ。本気の中の本気、見せてあげる』


 碧射手は既に『アルタシアの蒼弓』最終決戦仕様を解放している。疾風を具現化したような荒々しくも美しいドレスを身に纏った碧射手のウインクに、桜はそれ以上何も言わなかった。


 彼女が今まで何のために、誰の為に己を鍛えあげてここに立ったのか。そこには様々な思いがあったのは間違いないが、その一端を自分が担わせる形になったことくらい桜は分かっている。

 自分も何かしらの答えを示す。

 その為には、隣に足りない人がいる。


『ポイント到着まであと10秒!!』

『火器管制システム、リミット解除!! 出力最大!!』

『座標確認、ロック完了!!』

『アラミスより転送された火器、受け取り。コネクタ接続、状況クリア』


 ナガト達の胴体が変形し、腹部に巨大な発射口が開く。

 動力炉の出力をそのまま発射するナガト九十六式最後の切り札、『崩星ほうじょう』だ。


 トロイメライも変形し、巨大な体が開いて内部から四連装の巨大な砲塔が出現する。四つの砲塔は伸びる砲身で正四角形を形作り、莫大なエネルギーを発する。


 火器の弱いドラグノフとガルディータスはアラミスから転送された携行巨大火器――予備パーツなどを使ってガゾムたちが作り上げた代物だ――を抱え込み、機体の動力をありったけ注ぎ込む。


 最後にニヒロがA.B.I.Eシステムを最大稼働する。

 桜の腕の内で『ヘリオンの円環』が輝きを放つ。使いこなせないもののアイドルに持たされた代物だが、アイドルが遠隔操作でここからもエネルギーを引き摺りだしている。


 全ての準備は整った。

 そして、ヘイムダールを押し切ったアルキミアの必殺兵器『バルムンク・フリューゲル』が、ヘイムダールを挟む形でアトスの障壁に激突した瞬間、カウントはゼロになる。


『一斉砲撃、開始ッ!! 何もかも――何もかもを込めてッ!!』


 巨人たちの魂の叫びが人の心と同化し、目を覆わんばかりの夥しい極光がアトスの障壁に降り注いだ。





 時を全く同じくして、地上に集った魔物達のあらゆる術がシフタロトに殺到。シフタロトは絶叫のような雄叫びを上げ、その術の一片たりとも逃すまいと腹部に収束し、それをアトスの障壁に放出する。


「ぐ、ギャ、あああああああああああああああああああああああああッ!!! もっとだ、もっと撃てぇぇぇええええええええええええッッ!!」


 その場の全ての魔物がシフタロトの身を案じたり攻撃を躊躇うことはなかった。何故なら、自分がシフタロトの立場であればそんなことは欠片も望まないからだ。


 魔物の集結を感知した歴王国の兵士たちが歩兵用の兵器をありったけ抱えて砲撃を浴びせてきても、全ての魔物が己を捨てて攻撃のみに徹する。砲撃の魔力を使い切った魔物たちは、せめて仲間の攻撃を長引かせるためにと兵士たちを襲い、そして地球の兵器の前に霞のように消し飛ばされてゆく。


「撃て撃て、なんとしてでも魔物を全滅させろ!!」

「ははっ、すげえぜ女神さまの武器は!! ゴミみたいに魔物が死んでいく!!」


 耳障りな人間の声など、どうでもいい。

 今更その程度の攻撃では誰も止まれない。

 

 ここに集結した魔物、魔将の中で最もシフタロトと付き合いが長く、そして退魔戦役以降生み出された魔将の中で最も強い力を持つガズラは、人間の砲撃が自分に当たっていることなど気にせず、友に別れの言葉を告げる。


「さよなら、シフタロト。君が居なくなっても、君との思い出は僕の中で永遠だ」

「さよなら、ガズラ! 最期に転送するのが君のブレスであることは、我がほまれとなろう!!」


 瞬間、竜であるガズラのあらゆる鱗の隙間から燐光が噴出し、その口から、『発射態勢に入った時点で周囲を灼熱に包み、味方さえ焼き尽くす獄炎』が発射された。

 灼熱すら生温い業火は一瞬で大地をガラス化させ、余波の熱波でガズラの後方にいた全ての魔物とそれを攻撃していた人間たちの武器を融解させ、隣の魔将たちの全身を焼き、そして発射口と化していたシフタロトの壮絶な笑顔を灰塵に帰した。


 死して尚も発動するシフタロトの転送は、ガズラの一撃を全て受け入れた上で、それをアトスの障壁に余すことなく転送しきり、紅蓮の華が空に咲いた。





「変形完了、空間アンカー固定! 動力炉、直結!!」

「エネルギー充填300%ッ!! 最終安全装置解除ッ!!」

「バレル射線クリアーッ!! ロック固定ッ!! 非戦闘員が退去を拒否!!」

「当たり前だろ君ぃ。ガゾムがこいつを見て間近で観測したい、砲撃の反動で腹の底が揺れる感覚を体感したいと思わない訳がない。何を隠そう私が感じたい。ブリッジで!!」


 対衝撃、閃光防御にゴーグルをかけ、それ以外はラフすぎるくらいラフな恰好で嬉々として発射準備を終えたガゾムたちが、大砲王の声にウンウン頷く。最後の切り札は一撃発射した時点で砲身という名の艦そのものが弾け飛ぶから命が惜しければ逃げるようにと社交辞令的な通達があったものの、艦が弾け飛ぶ程度なら死ななそうという理由でガゾムたちは全く退艦しなかった。


「発射十秒前!! ところで艦長、この大砲なんて名前なんですか?」


 何で今までそれを聞いていないのだと逆に聞き返したくなる今更感満載の質問だが、聞かなかった理由は簡単だ。大砲王は基本的に自分の大砲にはクソ長ネームをつけるので正式名称を喋っているだけで時間を大幅にロスするからである。桜がいたら「リアル寿限無かお前ら」とツッコむこと請け合いだろう。


 この質問に対し、発射5秒前で発射トリガーを押したそうにウズウズしていた大砲王は笑顔で歴史上最大最強の大砲の名を告げた。


「究!


  極!


   無!


    敵!


      銀!


       河!


        最!


         強!


          砲!


 ……ぇぇぇーーーッ!!」


 瞬間、世界最大の砲身と化したソルトクレイジス級万能陸上殲滅母艦『パワー・ドレッド』は、超特大砲撃の代償に、ものの見事に、そしてある種の美しさすら感じさせるほど粉々に砕け散った。


 発射の反動で大地が陥没し、空気が吹き飛んで周囲一帯をソニックブームが襲い、神秘は瞬間的に枯渇し、放射熱が大地を炙り、超高速で飛散した艦の破片が夥しい量のクレーターを形成した。


 発射を見届けた大砲王は、満面の笑みで粉砕されたブリッジから吹き飛んだ結果、のちに頭から地面に突き刺さって足二本だけが地上に生えるという奇天烈極まりない姿で後に発見される。無論、全然死んでいなかった。






 ――雪兎は、アトスの障壁に対して神経質になっていた。


 一度目は突入組に、二度目は槍と化した重戦士に、二度に亘って鉄壁の障壁が破られていることで、雪兎は力の配分を少しずつアトスに集中させていた。雪兎にとって家族となる歴王国民たちは絶対守護対象である為、そこから力を割く訳にはいかなかった雪兎は、戦果を挙げられないものの突破は時間の問題であった人造巨人たちからエネルギーを少し削った。


 ショゴウスや慈母の敗北でハイ・アイテール運用には余剰が生まれる筈が、ショゴウスの内部に取り込んでいたバックアップユニットを奪取されたことで情報処理に能力を割かなければいけなくなり、状況は大きく変えられなかった。


 そして、後顧の憂いを断つために、雪兎は離元炉で敵を迎え撃つために全ての余剰エネルギーを注ぎ込んだ。本来全てのエネルギーを雪兎が自分で行使していれば勝負も成立しないような相手だが、雪兎は『家族』とそれを守る障壁だけは捨てられなかった。


 それでも、結果を見れば勝利は明白。


 女神雪兎の前には、息絶え絶えの侵入者たちが転がっている。

 ある者は深手を負い、ある者はそれを守るために身動きが取れず、ある者はそれでも体を無理に動かして無駄な抵抗を続ける。


 人造巨人たちが圧されているという報告を知った時も、雪兎は眼前の連中を綺麗に掃討すれば後はどうとでもなるという計算をしていた。


 彼女は、家族の存在ゆえに、徹底した勝利ではなく短絡的な手段を選んだ。


 故に、三方向からの想定を遥かに超えた障壁への負荷を観測した際、人命を捨てられない雪兎は咄嗟に、機械的に、短絡的に――自分が戦闘へ注いでいるハイ・アイテールを防御に割くという手段を取った。


「神の腕、見せてやるよ」


 その一瞬の隙を――この中で唯一離元炉を『一撃で破壊出来る可能性』を秘めた神腕は見逃さなかった。

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