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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十三章 受付業務休止中!?

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124.Judgment Day

 八部衆ジ・エイツ――歴王国の『闇』。


 彼らに顔はない。

 彼らに信念はない。

 彼らに成長はない。

 彼らに恐怖はない。

 彼らに慈悲はない。

 彼らに目的はない。

 彼らに過去はない。

 彼らに未来はない。


 彼らは人の心を捨て、ただ『設計思想』に基づいて存在する。

 言われるがままに奪い、踏み躙り、騙し、犯し、殺してきた。

 しかし彼らは退魔戦役に於いてその有用性を示す機会がなく、やがて『合法的な殺し』の誕生を前に完全に活動の機会を失った。設計思想が否定されれば、彼等には何もなくなった。


 彼等は歴史から消えた。歴王国が探しても見つからない程の塵となり、ただ生存しているだけの存在となった。ただ、歴王国が千年王国となり世界を統一するという話を耳にした際、彼等は初めて話し合いと呼べるものを催し、そして一つの決定を胸に歴王国へ戻った。


 王は、止めようとはしなかった。

 女神は最後まで反対したが、何故彼女がそう感じているのか、彼等には理解できなかった。彼らは当然としてそれを選び、そして今、実行している。


 その願いとは、至極単純なもので。 


「……どうだ、銛漁師」


 機械の瓦礫が一面に広がる中、倒れ伏した八部衆ジ・エイツを術で探っていた銛漁師は、聖騎士の問いに首を横に振る。


「無理。この人たちは死ぬわ」


 自律機械を引き連れた八部衆ジ・エイツとの戦いは、数分と経たずに決着が着いた。それもその筈だろう。この結末になることを知っていて、彼等は挑んだのだから。

 倒した張本人である聖騎士が表情を歪める。


「ハイ・アイテールの加護を一切受けず、装備も世界の既存品。おまけに自らの命の時間を神秘術で前借りとは……殉死は正義と同一ではないのだぞ、お前たち」


 その言葉に、嗤いすら出ない。


 八部衆が活動していたのは30年以上前の話だ。前線を退いて肉体は衰え、寿命を前借り同然に酷使した果てに老衰が始まっていた。その上で更に寿命を前借りしたところで、大した時間を戦える筈もない。

 まして、女神の加護もない。

 一撃でも攻撃を受ければ、肉体は呆気なく倒れ伏す。


 銛漁師は、理解出来ないとばかりに首を横に振る。


「何がしたかったのよ、アンタたち」


 その問いに答える意味も理由も義理もない。

 ただ、名前も顔もなにもないその男は、それが最後の仕事であるとばかりに熱の消えていく肉体から最後の力を振り絞った。


「我らは、影……光だけの、世界に、は……存在、しない。しなくて……いい……」


 彼らは生まれたその時から『そう』なるよう育てられた。

 だから可能性とか選択だとか、そんなものは最初からない。

 ただ、永遠の世界が来ると知った時に、彼等はたった一つの人生哲学が自分たちにもあることに気付いた。


「尽きぬ、いのちなど……持、て、余す……、……」


 それを最後に、肉体を操る糸の切れた彼らは永遠の終焉へと旅立った。

 それは、二人の女神の大戦が始まって以降初めての、戦死者だった。




 = =




「――あい分かった。例え外道であったとて、弔われる権利くらいはある」


 八人の戦死者を空の脱出ポットに転送し、合流した遷音速流は神妙に頷いた。


 潜入組も突入組も一挙に集い、敵の増援の気配もない。

 既に聖騎士たちが立ち往生していた隔壁の前には神腕が立っていた。


「ようし、衝撃波で吹っ飛ばされんよう用意しておけ!! ぬぅぅぅぅ……ッ!!」


 神腕の全身から黄金のオーラが立ち上り、力が右拳に収束していく。

 拳を振り翳した神腕は、筋肉の隆起が音になる程の渾身の力を籠め、拳を振り抜いた。


「覇空ゥゥゥ拳ッ!!」


 大気が螺旋を描いて歪み、神の名を冠する拳が防御機構ごとアイテール吸着素材に衝突する。圧倒的で純粋な破壊力は仮にも金属製で何重もの衝撃吸収機構を仕込まれた壁をいとも容易く捩じり、抉り、破壊していく。


 遅れて周囲を突風が吹き荒れる。

 アイテールを吸収する素材が撒き散らされる為にアイテールの障壁を張る訳にもいかなかった一同は白狼女帝が超圧縮密度で形成した氷のかまくらで風をやり過ごした。


 風の晴れた先に見えたのは、破壊され尽くしてスパークをバチバチと撒き散らす壁と、その先から漏れる光にを浴びる神腕の影。


 そして――。


「当然そりゃ阻止しに来るわな……!! 全員、ケツの穴締めて行けぇッ!!」


 先から漏れる光という名の巨大な神秘術の砲撃に向けて拳を引き絞る神腕。意味するのは扉の破壊と同時に行われた待ち伏せ攻撃。拳は辛うじて砲撃を相殺し、直後、その場の全員がかまくらの外に駆け出して隔壁の奥へ突入する。


 果たして、そこには。


『――愚かな』


 場を喰らい尽くす圧倒的な存在感。

 神々しく、或いは禍々しく顕現する超常の存在。


 後光差す上空に降臨し、幻想的な衣に身を纏うそれは、雪のように白い髪と真紅の瞳で女神に仇為す愚者たちを睥睨する。


 確かにそれは絶世の妖艶さを纏い、一見しただけで人倫を絶する別次元の存在であった。しかし、アイドルを見たときに感じた暖かな感情は湧き起こらない。凍てつくのとも違う、奈落の口に足が引き込まれたかのような虚無感。


 ――ああ、これは、桁が違う。


『お前たちは癌だ。無能な働き者だ。社会ソサエティの中で最大多数の最大幸福を無視し、我利我欲の為に都合のいい旗の下に集った有象無象。世界は、貴様らの存在など望んでいない。世界は、幸福の続く未来を求めているのだ』


 女神雪兎は、静かに両腕を広げ、磔にされた聖者のような姿となる。


 その背後に、蠢く巨大な陰。

 真紅の光を灯すそれは女神雪兎の威光を知ろしめすように空間に広がっていき、やがてその正体を晒す。


 それは、巨大な武器を握る機械の手足。雑多に並ぶそれの数は百近くあり、全てが人造巨人のパーツだと一目で理解できる。機体として扱えない全ての人造巨人を掻き集めて構成された、全てが独立兵装だ。


 更にその奥に妖しく蠢くものがいる。

 オペレータを務めるイイコが叫ぶ。


『離元炉の反応アリ!! あと残り一機のヘイムダールの反応もあるけど、これ……!?』


 巨大な、余りにも巨大な装置。

 夥しい量とサイズの機械が時計のように複雑に、楽器のように洗練された形状で融合し奇跡的な一つの造形を生み出したようなそれ――離元炉。中心部には天球儀を思わせる複雑な円の連なる装置が鎮座し、その中心部は光とも闇とも判別のつかない『矛盾した何か』によって満たされている。


 そして、装置から放たれる一条のエネルギーの線が、離元炉の最後の番人として女神雪兎に跪くヘイムダールとリンクしている。


 オオオオオオオオ、と不気味な駆動音をあげるヘイムダールからは、聖騎士たちが交戦したヘイムダールとは比べ物にならない莫大なエネルギーが渦巻いていた。

 オペレーターのイイコが悲鳴染みた声で報告をする。


『うそ……離元炉から直接エネルギーが注がれてるッ!? 気を付けて、そのヘイムダールはほぼ『フルスペック』ですッ!!』


 敵味方に限らず、全ての人造巨人は経年劣化や物資不足や整備の不足により幾つもの機能を切ったまま動かしている。本来然るべき整備を受けていれば、聖騎士たちと戦闘したヘイムダールも、外で暴れるガルディータスやナガトも、更なるスペックを秘めている筈なのだ。


 その性能を、女神雪兎はハイ・アイテールと離元炉の莫大なエネルギーで無理やり発揮させていた。


 女神雪兎の無機質なまでに透き通った目が、侵入者を見据える。


『女神は世界を救済し、永年の安寧で星を包む。これは慈悲であり、享受すべきものである。お前たちの選択は死を恐れ明日を願う万人の希望を手折ることぞ。諦め、折れよ。さもなくば、お前たちを救済できぬ』


 幸せな世界。

 死なない世界。

 それはきっと星の寿命さえ、もしかすれば宇宙の寿命さえ超越した永劫の未来が待っているかもしれない。悲劇はなく、餓えも貧困もなく、誰しもが笑っているかもしれない。


「ほざけクソガキ」


 そんな輝かしい未来を、銀刀は一言で斬って捨てた。 


「この際だからハッキリ言うぞ。お前の理想の世界などくそくらえだ。靴の裏で踏み躙ってそこいらの道端にでも捨ててやる。俺は俺の道を征き、他の奴は他の道を征く。それが自由だ。俺達が選んだ、先の見えない曖昧で蒙昧な未来だ。分かったらおうちに帰ってパパの指でもしゃぶってろ」


 神腕、白狼女帝、重戦士がそれに続くように前に出る。


「俺はお前らがそういうのを考えることまで邪魔する気はねぇが、正直その世界に興味はねぇな。お前さん、ままごとのやり方間違ってるぞ」

「我が国の国益を考えればマイナスではないがな。我が国は氷国連合として世界の覇権を手に入れる。お主の未来には代替わりがないし、向上心と野心、心の熱がない。そんな輩に星の舵切りなどさせられぬよ」

「俺はそういう主義主張は特にないな。ただ、ポニーも桜も、みんなお前の帰りを待ってる。お前がそれを本当に万人の意思だと言うなら、真っ先に彼女たちを誘えばよかった筈だ。それをしない君は、本当は――」

『愚劣』


 遮るように、女神雪兎が語気を強める。

 だが、今度はステュアートが前に出た。

 聖騎士は拳を、銛漁師は鉾を、赤槍士は槍を、狐従者は扇を掲げ、最終決戦仕様の姿を見せつける。


「雪兎……お前の家族、お前の優しさは間違った正義だッ!! その正義、踏み躙られた者の無念……なかったことにはしてやれんッ!!」

「上から目線で力づく。こっちの話も聞いてない。そんなの支配と何が違うの。あたしは嫌よ、見ず知らずのあんたの家族なんて」

「雪兎、本当にそれでいいわけ? あの町のギルドで過ごした日々を捨ててまでそうする方がいいって、本当に心はそう思ってる?」

「貴方が一生懸命なのは伝わってきました。でもエレ……アイドル様も一生懸命なんです。例えそれが誰かの不幸だったとしても、私は既にそれを選んだ」


 締めくくるように、遷音速流が前に出る。


「とまぁ、若人たちが言いたいことは殆ど言ってくれたので年寄りの話は短く済ませよう。仕事とは別に桜君からのオーダーでね、家出した娘を連れ戻し――」

『お前たちと交わす言葉は最早ない。言葉の意味が理解できようが、通じぬのでは口がないのと同じ事。一切有情、へと消えよ』

「……オジサン若者から最後まで話を聞いてもらえなくて哀しいよ銀刀クン」

「喋るな。寄るな。殺したくなる」

『高エネルギー反応ッ!! 来ますッ!!』


 直後、ヘイムダールから、周囲に浮かぶ数多の巨人の手足から、あらゆる生存を否定する破滅の嵐が吹き荒れた。

「ポニー、気付いた?」


 はい、イイコちゃん。

 雪兎ちゃんの美しさは天井知らずです。将来はあんな姿になっちゃうんでしょうか……ああ、小さな雪兎ちゃんも最高に可愛かったですが、あれくらいまで成長した雪兎ちゃんに「お姉ちゃん」とか呼ばれてみたい……。


「そっちじゃねーし! 会話の方よ!」


 ああ、そちらですか……もちろん気付いています。

 露骨に桜さんの話を避けているのは明白です。


『娘よ……父には愛する子供を叱ってやらねばならん時があるのだ……!!』

『ユーザー、それにポニーも。緊張感に欠ける言動は控えてください』


 えっ、いまの私が悪かったんですか!?


「なんで悪くないと思ったのよ!! 後で擽るわよ!!」

「お姉ちゃんからもお仕置きがあるので待っていなさい」


 そんなぁー!!


(どう足掻いてもポニーが絡むと緊張感がなくなりますね……いけない、この感情は斬り捨てなければ――私は星の守護者、星に身を捧げるものなのだから)

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